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サッカー界で巻き起こる「脱税問題」とその根本となる腐敗とは?

by Jannes Glas

近年、何十億円という途方もない金額を稼ぐサッカーのスター選手たちが脱税容疑などで注目を浴びることが少なくありません。一体なぜそのような事態に陥っているのかを、海外メディアのThe New Republicがまとめています。

Elite Soccer’s Culture of Graft | The New Republic
https://newrepublic.com/article/152954/elite-soccers-culture-graft

イタリアのセリエAに所属する強豪・ユヴェントスのクリスティアーノ・ロナウド選手は、スペインのレアル・マドリードに所属していた2011年から2014年の間に4回の脱税行為で合計1470万ユーロ(約18億円)の税金を支払っていなかったという容疑で、スペイン国税局から告発されました。この脱税疑惑は最終的にロナウド選手が容疑を認め、1880万ユーロ(約23億円)の罰金を支払う形で収束することとなりました。罰金と同時に23カ月の懲役刑も科されることとなっていたのですが、スペインでは初犯で2年以内の懲役であれば収監を免れることができるため、ロナウド選手が刑務所に入ることはありません。

なお、4億5000万ドル(約490億円)もの価値があるといわれるロナウド選手のユヴェントスでの年俸は税込みで6000万ユーロ(約75億円)で、脱税容疑で支払った罰金はその4分の1未満にすぎません。


2018年夏に9シーズン過ごしたレアル・マドリードからユヴェントスへ移籍したロナウド選手は、国際サッカー連盟(FIFA)主催でFIFA加盟各国の代表チームの監督と主将による投票で決定されるFIFA最優秀選手賞を歴代最多タイの5度受賞し、かれこれ10年以上にわたってサッカー界のトップを走り続けています。スポーツウェアや香水、ジム、ホテル、下着などさまざまなビジネスも手がけており、時計・シャンプー・オンラインギャンブル・製鉄所とさまざまな分野の企業がスポンサーについています。SNS上での人気もすさまじく、Instagramに1度投稿するだけで75万ドル(8000万円)を稼ぐことができるとも報じられているほどです。

ロナウド選手のように、サッカー界には大金を稼ぐスター選手が大勢います。そして、そのようなスター選手たちの間では少しでも税金で差し引かれる金額を低くするための税務戦略が普及しているそうです。同じくスペインの国税局から脱税容疑で告発されていた元スペイン代表のシャビ・アロンソ氏は、200万ユーロ(約2億5000万円)の脱税容疑をかけられていますが、同氏は容疑を認めていません。

スペイン国内ではこういったスター選手による脱税事件の行方ではなく、スペインで独自に発展した租税文化の行く末に関心がスイッチしているとのこと。スペイン独自の租税文化について語る上でなくてはならない存在が、同国最大のサッカークラブであり、第1次フロレンティーノ・ペレス会長時代には多額の移籍金を支払い有名選手を集め、「銀河系軍団」の名で親しまれたレアル・マドリードです。2003年夏、元イングランド代表のデビッド・ベッカム氏がレアル・マドリードへと移籍したのですが、この移籍は2004年に誕生したスペイン独自の租税法から恩恵を受ける最初の事例となったことで、「ベッカム法」と呼ばれるようになりました。この法律は外国人の高額所得者に対して、スペイン人に適用されている所得税の最高税率である43%ではなく、その半分の24%を適用するという特別優遇措置です。

しかし、2008年のリーマンショックなどの煽りを受け、ベッカム法は2010年に廃止されることとなります。それ以降、スペインの国税局はベッカム法で守られてきた海外出身のスター選手が脱税行為を行っていないか注意深く監視しており、スペインで活躍するスペイン国外からやってきたスター選手の数々が脱税容疑をかけられています。例えば、クロアチア代表のルカ・モドリッチ選手やコロンビア代表のラダメル・ファルカオ選手、ブラジル代表のマルセロ選手、アルゼンチン代表のアンヘル・ディ・マリア選手、元同国代表のハビエル・マスチェラーノ選手なども容疑をかけられており、他にもロナウド選手と同じくFIFA最優秀選手賞を歴代最多タイの5度受賞しているリオネル・メッシ選手や、ブラジル代表のスターであるネイマール選手も脱税問題で罰金を支払うこととなっています。

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2016年にイギリス・ロンドンを本拠地とするサッカークラブのチェルシーが新しく獲得したエンゴロ・カンテ選手は、給与の10%をタックスヘイブンを介して受け取ることや、自身の肖像権のオフショア支払いを拒否していたことが判明しました。タックスヘイブンの利用を拒否したことをイギリスメディアは称賛しましたが、カンテ選手のような事例はほとんど例外のようなものです。

実際、カンテ選手が提案されたタックスヘイブンを用いた給与の支払いをイングランドのプロサッカーリーグであるプレミアリーグに所属する130人ものサッカー選手が利用しており、2018年4月に明らかになった際には合計3億2600万ドル(約360億円)もの追徴課税の支払いが命じられています。さらに、半年後の2018年10月にはイギリスの税務当局が約200人のサッカー選手に対し、4億3000万ドル(約470億円)の追徴課税を課したことが明らかになっています。

なお、カンテ選手はタックスヘイブンの利用を拒否したことで、イギリスではスターバックスやAmazonよりも多くの税金を支払うこととなった模様。


租税回避はスポーツ選手だけに限らず、世界中の大手企業が行っている行為です。しかし、サッカー選手の間で横行する租税回避は、ヨーロッパの大手企業によるそれをはるかに超える規模で行われるようになっています。これだけ多くの租税回避が行われているのはサッカー界特有であり、その根幹にはサッカーの国際連盟であるFIFAの2015年FIFA汚職事件が関係しているとのこと。同事件が発覚して以来、サッカー界ではハッカーや内部告発者、ジャーナリストなどから何百件もの詐欺事例が報告されており、サッカー関連の極秘内部資料をまとめるフットボール・リークスなども登場し、多くのサッカー界に古くから根付く不正行為の数々が明らかになるようになりました。なお、フットボール・リークスはこれまでに1860万件もの内部資料をリークしており、サッカー界で起きる不正の数々を明るみに出してきました。

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また、サッカーでは選手以外の取り巻きの数が過剰になりつつあり、選手から10%の手数料を取る代理人たちは、大抵の場合はだまされやすい若い選手を利用して大金を稼ごうとしています。このようなサッカー界で巻き起こる汚いお金のやり取りは、偽のスカウトや才能あるエージェントに狙われがちなアフリカ出身の若い選手たちにとっては特に危険な話題となりつつありますが、肝心のFIFAや他の統治機関の中で、サッカー界にはびこるこの種の腐敗と闘おうとしている事例はほとんどないそうです。

フットボール・リークスがリークしなければサッカーに関する悪しき慣習や不正行為の多くは秘密に包まれたままだったはずですが、そのフットボール・リークスを運営していると目されるポルトガル人のルイ・ピント氏が、2019年1月16日にハンガリーのブダペスト警察に逮捕されています。ピント氏の弁護士を務めるウィリアム・ブルドン氏は、以前にエドワード・スノーデン氏の弁護を務めたこともある人物で、ピント氏はハンガリーの内部告発法の下で保護されなければいけないと主張しています。

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in メモ, Posted by logu_ii

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