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Netflixのオリジナル作品での成功は「アグリゲーター」としてのNetflixをさらに強大なものにしていく


Netflixは2018年12月にオリジナル映画「バード・ボックス」をリリースしました。アメリカでは様々な分野に波及する話題性を持つほどバード・ボックスはヒットしていますが、魅力的なオリジナル作品を持ち、他のムービーサプライヤーをも巻き込むNetflixは求心力を高めてさらに強大な存在になりつつあると、新進気鋭のアナリストが解説しています。

Netflix Flexes – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2019/netflix-flexes/

NetflixのオリジナルのSFホラー映画「バード・ボックス」は、外の世界を目にすればたちまち謎の死に追いやられてしまうというスリリングな展開でアメリカで大きな反響を得て、Netflix作品における公開後1週間の視聴記録を更新しました。

NETFLIX オリジナル映画『BIRD BOX/バード・ボックス』5分特別映像! - YouTube


NBAではバード・ボックスのパロディ・イベントがブームになるほど。



オリジナル映画をヒットさせたNetflixのビジネスについて、ITビジネスに関して鋭い分析に定評があるアナリストのベン・トンプソン氏が、「アグリゲーター」としてのNetflixは盤石の体制を築きつつあると評価しています。


まずトンプソン氏は、バード・ボックスには以下の3種類のユーザーへのアプローチでNetflixビジネスに貢献していると述べています。

・1:既存ユーザー
すでにNetflixでサブスクリプション契約し月額利用料を払っている既存ユーザーにとって、2時間のエンターテインメントを提供するという価値を、バード・ボックスはもっています。視聴し放題のNetflixでは視聴ごとに料金を負担する必要がないため、魅力的な作品を提供するという価値を既存ユーザーに与えています。

・2:見込み客
Netflixをまだ利用していない人や「30日間の無料視聴」を使ってNetflixのサービスを利用するか検討している「見込み客」に対して、バード・ボックスのような話題性を持つヒット作品は、定額料金のNetflixをより魅力的なものにしています。これは、別の視点で見ると、Netflixの顧客獲得にかかるコストを引き下げるマーケティング費用としての価値を持っているとのこと。

・3:境界顧客
Netflixの既存顧客ではあるものの月額利用を辞めようか検討していたり、30日の無料期間終了を間もなく迎えサブスクリプション契約するかどうかの判断を迫られる「境界線」にいるユーザー「marginal customer」に対して、バード・ボックスのようなNetflixオリジナルの作品はプラットフォームにとどまる積極的な理由を生み出します。つまり、顧客維持のためのコストを削減する運営費としての意味があるとのこと。

上記3つの顧客へ提供する価値の中でも、2・3の価値をトンプソン氏は重視しており、これこそ「アグリゲーター」としてのNetflixの強さを支えるものだと考えています。

ここで「アグリゲーター」とは、顧客にサービスを提供する「場」を持ち、他のサプライヤーにも顧客へアクセスを許すようなプラットフォーム・サービサーを指しています。場を提供するだけでなく自らもコンテンツ提供者としてふるまう点では、AmazonなどもNetflixと同様にアグリゲーターに位置づけられそうです。

トンプソン氏によると、アグリゲーターは一定のエンドユーザー数を獲得すると、コモディティ化やモジュール化を効果的に行うことができるとのこと。さらに他のサプライヤーが加わることでアグリゲーターのサービスはユーザーにとって魅力を増し、増えるユーザーを求めてさらにサプライヤーが加わるという好循環が生まれます。

そのため、アグリゲーターにとって顧客獲得コストは時間とともに減少するという特徴があります。ユーザー数増によって利益が拡大しコンテンツが充実すると限界ユーザーの離脱も防がれることになり、最終的に巨大化したアグリゲーターは、ライバルの新規参入を許すことなく利益を確保できるとのこと。アグリゲーター以外のビジネスではユーザー基盤の拡大に伴って顧客獲得コストが増加するのとは対照的だとトンプソン氏は述べています。

アグリゲーターとしてのNetflixに他のサプライヤー(ムービー製作者)が参加するインセンティブは、Netflixが最も高い値段で作品を買ってくれるから。コンテンツを世界中で配信するNetflixの顧客基盤は他のコンテンツ購入者よりも大きく、購買力は高いそうです。そして、Netflixは各コンテンツを全体的なサブスクリプションサービスの一部として収益化するため、ユーザーが支払う生涯価値が映画チケットの価格よりも大きくなるとのこと。

アメリカではテレビ放送やインターネット回線を提供するケーブルテレビ(CATV)企業が放送番組をインターネットでも視聴可能にする「TV Everywhere」と呼ばれるサービスが導入されました。しかし、ユーザーはネットワークごとに異なるアプリをダウンロードする必要があり利便性はたかくはなかったとのこと。つまり、TV Everywhereは既存のCATVサービスをベースに考えられたサービスに過ぎなかったわけです。


これに対してNetflixはストリーミングサービスに適合させて作り上げたバリューチェーンだとのこと。コンテンツの生産と流通を統合したことは、需要と供給の両面で柔軟性をもちアプローチ可能な市場を生み出しました。Netflixのビジネスでは、需要面では世界中のユーザーだけでなく将来のユーザーへもアプローチできるようになり、供給面では、あらゆる種類のコンテンツを売ることができるという柔軟性がもたらされました。


オリジナル作品だけでなくあらゆるコンテンツを取り込んで「最高のコンテンツを作る」というNetflixの目標は、ストリーミング配信でライバルとなるであろうディズニーとは対照的です。ディズニーはあくまで自社IPに注力するはずで、規模の拡大を目指すNetflixとは方針が異なります。

Netflixは投資家への業績報告において、「Netflixのライバルは(テレビネットワークの)HBOではなく、(ゲームの)フォートナイトだ」と述べました。これは、テレビのような大画面とスマートフォンのようなモバイルの小画面の両方でコンテンツを提供するNetflixとしては、ユーザーが消費する時間を奪い合う相手として既存の放送ネットワークは眼中になく、ゲームの方が手ごわい敵だということ。そして、Netflixは現時点でユーザーの奪い合い競争でフォートナイトに負けていることを認めています。

ディスプレイに向き合うユーザーの時間を奪い合うために、アグリゲーターとしてのNetflixはさらなる拡大路線を目指し、「有料会員の体験をいかにして改善するのか?」だけに注力し続けていく方針を明らかにしています。

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in ネットサービス,   動画,   映画, Posted by darkhorse_log

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