強迫性障害(OCD)の症状をわずか4日間で劇的に改善するプログラムが注目を浴びる
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人口の約2.3%は、人生のある時点で、不合理な行動や思考を自分の意に反して反復してしまう強迫性障害(OCD)を経験するといわれています。OCDになると、体の汚れが気になり1日に何度もシャワーや風呂に入るなどの行為を繰り返すために、日常生活がままならなくケースも。一般的に何か月もかけて治療が行われるOCDですが、わずか4日間の治療で劇的な効果を上げるとするプログラムが注目されています。
4 Days of Intensive Therapy Can Reverse OCD for Years - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/4-days-of-intensive-therapy-can-reverse-ocd-for-years/
ノルウェーの臨床精神科医であるBjarne Hansen氏とGerd Kvale氏はTIMEのヘルスケアにおいて世界で最も影響力のある50人に選ばれた2人。2人はノルウェーのベルゲンにあるハウケラン大学病院でOCDのための行動療法を実施しており、4日間集中で行われるプログラムにはこれまでに1200人以上が参加しています。
OCD患者である41歳のKathrine Mydland-aasさんは「4日で何ができるのだろう?」と懐疑的になりつつも医師のすすめでプログラムに参加した1人です。Mydland-aasさんは細菌や汚染を恐れて掃除や洗濯、手洗いなどを無限に繰り返してしまい、子どもたちの夕食さえ満足に作れずに悩んでいました。しかし、Kvale氏らのプログラムに参加することで「人生が変わった」とのこと。
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OCDの治療は通常、「1日1時間程度のセッションを毎週、数カ月にわたって行う」というものです。短期間の集中治療もありますが、この場合の1週間あたりのセッション時間は3時間ほどから。対して、ハウケラン大学病院で行われている治療法はわずか4日間で10~12時間のセッションを行います。ニューヨークのワイル・コーネル・メディカル・カレッジでOCD治療にあたるAvital Falk氏は「このような短時間で治療を完了させるというのは、驚くべきことです」と述べています。
Kvale氏は1990年代から恐怖症や慢性疲労の短期治療を行ってきた人物。Kvale氏はノルウェーにおいてOCDの治療が十分に行われていないことに気づいたことから研究を開始。2010年にはハウケラン大学病院の上司たちを説得してOCDの治療法開発のためのクリニックを開設し、その後すぐに、「LEan into The anxiety(LET)」という治療を実践するHansen氏を雇い入れました。2人はLETを中心とする治療方法のプロトコルを2011年秋までに作り上げ、2012年の6月には実際に人間を対象とする最初のテストを実施。治療法の効果は非常に高く、テストは「予想通りの結果になった」とのことです。
4日間のプログラムのうち最初の1日は、セラピストが患者に対してOCDの情報を与えて、次の2日で行うタスクに関して患者に準備を促すというものになります。2日目と3日目は、患者が自分の「恐怖」と向き合うターン。例えば汚染に対して恐怖を持つ患者であれば、その恐怖のトリガーとなる物や物の表面に触るようセラピストに指示されます。患者は不快や不安を取り戻すための行動を取る「衝動」を感じる瞬間に集中するよういわれ、行動様式の変更を行うとのこと。そして4日目は、2日目・3日目で行った「行動の変更」を、クリニックを出て日常に戻ってからどのように保っていくのかを考える時間になります。
2日目・3日目がプログラムの中心となるわけですが、Kvale氏とHansen氏は、この2日が単一かつ長いセッションになっていることがポイントだと述べています。またプログラムはLETのテクニックをセッションや治療のフォーマットに取り込んでおり、3~6人のセラピストと同人数の患者とがグループになって治療を行うことも治療の効果を高めるのに役立っているといいます。この方法の場合、グループ内の患者が他の患者の変化を観察できるとともに、一人一人の患者に合わせた治療ができるのだそうです。
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2018年8月に発表されたレポートによると、Kvale氏らのプログラムに参加した患者のうち、77人中56人が治療から4年たっても症状の緩和を報告しており、かつ56人中41人は「完全に回復した」と述べているとのこと。この結果は、過去に患者が受けた治療や選択的セロトニン再取り込み阻害薬の服用の有無とは関係がなく、他の治療法よりも高い効果があると研究者らは述べています。
一方で、研究はコントロールグループを用いない形で行われており、ハウケラン大学病院で行われている治療法が他の行動治療よりも優れていると結論を出すにはまだ早い、という指摘も存在します。
Kvale氏とHansen氏はアメリカ、テキサス州のヒューストンでも2020年から実験を行う予定であり、異なる文化背景を持つ場所での実験を開始する前に、さらなる臨床試験を実施するとしています。
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