ストレスや不安で腹痛や胃腸の不快感を感じるのはなぜなのか？

by Yarden

試験や大事な発表の前に肉体的な問題があるわけではないのに腹痛を経験した人もいるはず。なぜストレスや不安を感じるとおなかの調子が悪くなるのか、西シドニー大学の消化器学者であるVincent Ho氏が学術系メディアのThe Conversationで記しています。

Nervous tummy: why you might get the runs before a first date
https://theconversation.com/nervous-tummy-why-you-might-get-the-runs-before-a-first-date-106925

リラックスしている時、人の体は多くのエネルギーを消化に費やせますが、ストレスを感じていると胃や小腸の動きがスローダウンする一方で大腸の動きが増加。この結果、人は消化不良や腹痛を感じます。

このような胃腸とストレスの関係の理解は、19世紀にまでさかのぼります。1822年、19歳のAlexis St Martin氏は胃に銃弾が当たり、一命を取り留めたものの治療を拒んだために穴がその後残ることになりました。この穴は胃だけではなく腹部の外側にまで広がっていたため、軍医のWilliam Beaumont氏はMartin氏の胃の中でどのように消化が行われているのかを観察することができました。この結果、「Martin氏が怒ると消化が悪くなる」といった、消化が感情に左右される様子がみられたとのこと。

また1894年には当時9歳だったTom Littleさんが異物を飲み込んだ結果、食道に深刻な傷を負いました。食べ物を飲み込めなくなったLittleさんは、胃に穴を開けて直接食べ物を摂取することになり、その際に Stewart Wolf医師は「一定期間のストレスのもとで胃がどのように機能するか」を観察できたといいます。Littleさんが恐怖を感じると、胃は白みを帯び、うつを経験している時はほとんど消化が行われていないことが発見されたそうです。

20世紀に入り、科学者のWalter Cannon氏が動物実験の結果、「戦うか逃げるか反応」という言葉を作り出しました。大きなストレスを感じた猫は胃や小腸といった消化管上部の動きが著しく減少していたのです。

この現象には交感神経系と副交感神経系が関係しています。交感神経はストレスを感じ臨戦態勢になる時に優位になり、一方で副交感神経は交感神経にブレーキをかけます。副交感神経はストレスの原因が消え去った後に休息と消化を促し、エネルギーの保存を手助けします。

脳がストレスを感じると、感情を制御する視床下部は交感神経のカギとなる副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を放出。CRHは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)というコルチゾールを分泌する別のホルモンを放出させます。コルチゾールは差し迫る危機から「逃げる」あるいは「戦う」といった行為の準備を行い、同時に胃腸の動きをスローダウンさせます。これは、血流を胃腸ではなく筋肉や肺に送り出すことで防御に備えるための進化によるメカニズムだと考えられてます。

by Kayla Harris

しかし、ストレスや不安を抱えている最中に大腸の動きが活発になるのは、交感神経の作用ではなく、交感神経が「休息して消化せよ」という信号を大腸に送っているためだとみられています。通常、ストレス下において便意は感じないものですが、特定の状況では骨盤神経が活性化され、直腸の神経を直接刺激することがあるそうです。これが「緊張でトイレに行きたくなる」仕組みです。

また、胃腸と脳、ストレスの関係は神経画像技術でも明らかにされています。過去の研究で、健康な人の胃の感度を測定するために胃の中で風船を膨らませて圧迫したところ、扁桃体や島皮質といった感情の処理に関係する部分が非常に活発になることが判明しています。肉体的な問題が何もないにも関わらず上腹部に痛みや不快感を感じる胃機能性胃腸症の患者は、扁桃体や島皮質をうまく非活性化できないこと、そして悲観的な感情記憶を脳の活性化に影響させることが示されています。

Abigail Keenan

胃機能性胃腸症は腹部を内視鏡で調査して初めて診断される病気です。ストレスや不安によって起こる腹痛に悩まされている場合は、一度医師にかかり、さらなる検査を受けるか治療を行うかを検討する必要があるとのこと。薬を使った治療法だけではなく、負の感情をコントロールする認知行動療法も有益であるとHo氏は述べています。