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「ブレードランナー」のようなサイバーパンクが長年愛されるジャンルとして成立した背景とは?


人間と機械の境目が曖昧になるほど現代よりも進歩した技術と荒廃した近未来社会を描く「サイバーパンク」は1980年代に成立した比較的新しいジャンルのSFで、今なお高い人気があります。映画や文学について語るチャンネル・Just Writeが「サイバーパンクはどうやって生まれたのか」「サイバーパンクがなぜ様式美として成立し、40年近くも愛されているのか」についてをムービーで解説しています。

Blade Runner, Altered Carbon, and the Relevancy of Cyberpunk - YouTube


1982年、リドリー・スコット監督の映画「ブレードランナー」は、進みすぎた技術によって荒廃した近未来を魅力的に描くことで「サイバーパンク」という新しいジャンルをサイエンスフィクション(SF)の世界に確立しました。


上に示した画像のシーンは、実は「ブレードランナー」のものではなく、Netflixで配信されているサイバーパンクドラマ「オルタード・カーボン」のもの。「オルタード・カーボン」のビジュアルは「ブレードランナー」の影響を強く受けていて、まるで続編かと思ってしまうぐらいよく似ています。


サイバーパンクの歴史の中で最も重要な作品とよばれるのが、前述した1982年の「ブレードランナー」と、その2年後に書かれたウィリアム・ギブスンの小説「ニューロマンサー」です。


The Paris Reviewの中でギブスンは、「リドリー・スコットと会った時に『ブレードランナー』と『ニューロマンサー』は同じような要素で構成されているという話をした」と明かしています。


さらに、「『ブレードランナー』や『ニューロマンサー』を構成する要素の多くは1970年代のフランスの大人向け漫画のそこかしこに含まれていた刺激的なSF的イメージから来ている」とも述べています。このことは「ブレードランナー」に描かれるロサンゼルスの町並みや「ニューロマンサー」で不規則に広がるチバ・シティにも現れていると、ムービーでは語られています。


同時に「ブレードランナー」のロサンゼルスも、「ニューロマンサー」のチバ・シティも、日本の都市計画を下敷きにしていて、それ以来サイバーパンクで描かれる町並みは東京の下町の雰囲気を帯びています。


しかし、サイバーパンクが受けた最も重要な影響を理解するためには、探偵物のジャンルの歴史をひもとかなければなりません。


「オルタードカーボン」には、19世紀の小説家であるエドガー・アラン・ポーの姿をした人工知能が登場します。


ポーは1814年に発表した「モルグ街の殺人」という作品で「推理小説」というジャンルを築いたことで知られています。


「モルグ街の殺人」には、オーギュスト・デュパンという名探偵と、小説の語り手を務める探偵の友人や無能な警察が登場します。そして、「モルグ街の殺人」は、「名探偵が華麗に謎を解き明かす」という現代の推理小説では当たり前となる枠組みを初めて作り上げました。


1920年、レイモンド・チャンドラーダシール・ハメットは、「ハードボイルドスタイル」の探偵小説を作りました。


ハードボイルドスタイルに登場するのは、それまでの推理小説で見られるような「紳士的で教養あふれる探偵」ではなく、「粗暴で金のために仕事をするが心の中に正義感と気高さを持つ探偵」です。また、作中の探偵が解き明かすのは「興味深い謎」ではなく、街の中で起こる犯罪や陰謀というのが定番です。


ハードボイルドスタイルの誕生には、禁酒法や不景気といった時代背景が密接に関係しているといわれています。


1940年代から50年代にかけては、「三つ数えろ」や「マルタの鷹」など、ハードボイルドスタイルの映画が大ヒットします。


1940~50年代に作られた白黒のハードボイルド映画に映る街並みはいつも暗く、ミステリアスな雰囲気たっぷりで、荒廃して危険な場所であり、いつだって天気が悪いように描写されていました。この街の描き方は「ブレードランナー」に通じるものがあります。


また、「ブレードランナー」の主人公であるデッカードや「オルタード・カーボン」のタケシも、サム・スペードフィリップ・マーロウのようなハードボイルドな探偵像そのものです。


「ニューロマンサー」に登場する主人公のケイスは、無法者で自分勝手、金を稼ぐために仕事をするという点ではレイモンド・チャンドラーの影響が見られますが、一方で犯罪もいとわないハッカーであり、正義感を持たないという点は、ハードボイルドスタイルの私立探偵とは異なるポイント。「ニューロマンサー」が立ち上げた「機械に対抗する能力を持つ反抗的なハッカー」というキャラクター像は、サイバーパンクではよく見られるものです。


ここで気になるのが、なぜ禁酒法や不況という背景で成立したハードボイルドスタイルが、80年代になってサイバーパンクに取り込まれたのかというところ。


サイバーパンクの舞台となる日本でも、アメリカから少し遅れて80年代から90年代にかけて、「AKIRA」や「攻殻機動隊」など、サイバーパンクの名作が多く生まれていますが、生まれてくるまでの文脈はアメリカと異なります。


アメリカでハードボイルドの血脈を受け継ぐようにサイバーパンクがブームになったのは、とどまるところを知らない資本主義やテクノロジーなど、強大な力が人間の個・体・精神をむしばんでいくという不安があったからだ、とムービーは指摘しています。


超高層ビルに表示される巨大な広告やネオンサインはまさに肥大化する資本主義の象徴といえます。


ただし、この広告やネオンサインが暗い街に魅力的な輝きを与えているのも事実。


また、サイバーパンクが荒廃した社会を舞台にしている点には社会背景がある、とムービーは主張しています。以下のグラフは1950年から2010年代までのアメリカにおける殺人事件発生率をあらわしたもの。1970年代から増え続け、80年代にピークを迎えていることがわかります。1980年代当時のSF作家は、将来世界的に犯罪率が上昇するだろうと考えていました。


現実の世界は気候変動やテロに脅かされていますが、サイバーパンクで描かれる崩壊寸前の文明都市は常に高い犯罪率で描写されます。犯罪にあふれる街の中で活躍するのは、アンチヒーロー的側面を持つハードボイルドスタイルのキャラクターが合っていたというわけです。


サイバーパンクは世界的に愛されているジャンルでありながら、特定の権力構造を批判する道具でもありました。ただし、どの作品内でもその解決法は提示されません。「ニューロマンサー」でも、世界を覆うネットワークシステムそのものに挑むことはありませんでした。


サイバーパンクはアメリカのハードボイルドスタイル、フランスのSF漫画、日本の街並みや文化など、世界中のあらゆる要素から強く影響を受けています。


そして、現代の新しい作家は、サイバーパンクのSF的な設定を構成する要素を一新しようとしているという主張で、ムービーは締めくくられます。

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in 動画,   映画,   マンガ, Posted by log1i_yk

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