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良心のため960億円の報酬を捨てたWhatsApp創業者ブライアン・アクトン、Facebookとの決別を語る


10億人以上のユーザーを抱えるメッセンジャーアプリ「WhatsApp」を育て、2兆円以上でFacebookに売却した後に、8億5000万ドル(約960億円)の報酬受取権を放棄してFacebookを退社したWhatsApp共同創業者のブライアン・アクトン氏が、Forbesの独占インタビューに応じ、WhatsAppをFacebookに売却した経緯や、その後のマーク・ザッカーバーグCEOとの軋轢、なぜFacebookを去ったのか、そして、決して譲ることのできない自身のポリシーなどについて打ち明けています。

Exclusive: WhatsApp Cofounder Brian Acton Gives The Inside Story On #DeleteFacebook And Why He Left $850 Million Behind
https://www.forbes.com/sites/parmyolson/2018/09/26/exclusive-whatsapp-cofounder-brian-acton-gives-the-inside-story-on-deletefacebook-and-why-he-left-850-million-behind/

アクトン氏はスタンフォード大学でコンピューターサイエンスの博士号を取得後、1996年にYahooの初期メンバーとして活躍し、2007年にYahooを退社するまで主に広告部門の管理職として働いていました。しかし、Yahooのポータルサイトに広告バナーを設置する仕事はYahooに大きな収益をもたらす重要な役目でしたが、収益アップと引き換えにユーザーのウェブ体験を犠牲にするものでもあり、アクトン氏いわく「苦い経験だった」とのこと。

Yahooを離れたアクトン氏は、なんとFacebookに職を求めたこともあったそうですが、残念なことにFacebookへの加入はかなわず。その後、学生時代から仲が良く、在学中にYahooで働いていた友人のヤン・クーム氏が開発するメッセンジャーサービスの開発に参加しました。このサービスこそが「WhatsApp」です。


WhatsAppの開発資金を得るためアクトン氏はYahooでの元同僚の一人にシードラウンドで出資に参加するよう説得して資金をゲットしたとのこと。こうしてアクトン氏はWhatsAppの共同創業者としてWhatsApp株の20%を手に入れました。

2009年にローンチに成功したWhatsAppのモットーは「広告なし、操作なし、仕掛けなし」だったとのこと。これは、ユーザーデータを切り売りすることなくプライバシーを強力に保護するという方針です。WhatsAppは他のメッセンジャーサービスとは異なり通信データを外部サーバーに置くことはせず、ローカル(ユーザーの端末)にのみ保存する仕組みを採用。さらにデータに強力な暗号化処理を施すことで、第三者はもちろんWhatsAppすらデータを解読できない状態にすることで、誰にも盗み見されない個人間メッセージの交換を実現しました。


アクトン氏とクーム氏は、インフラの健全性を保つことに注力し、身の丈に合ったビジネス運営を行っていました。WhatsAppは広告収入に頼ることなく、基本的に無料でサービスを提供しつつ、一定量以上の利用を有料にするという方針でサービスを提供しており、アクトン氏によると「時間をかけて正しいものを作る」というビジネスモデルだったとのこと。これは、収益の98%を広告から得て「素早く動いて物事を破壊せよ」というモットーを持つFacebookとは真逆のスタイルだったといえます。

2012年にザッカーバーグCEOがクーム氏に連絡を取り、二人はロスアルトスでランチを共にすることになったとのこと。この時クーム氏はメールでアクトン氏も誘ったため、アクトン氏はザッカーバーグCEOと会うことになりました。当時、アクトン氏もクーム氏もWhatsAppを売却する計画はなく、出口戦略を思い描くことさえなかったそうです。

しかし、2014年初頭になるとザッカーバーグCEOは並々ならない意欲でWhatsAppの買収交渉に乗り出すことになりました。若者の人気を集めていたメッセンジャーアプリ「Snapchat」に30億ドル(約3000億円)でもちかけた買収提案をあっさりと断られたザッカーバーグCEOは、より大きな規模のWhatsAppを手に入れることに方針転換しました。当時、GoogleもWhatsAppの買収に関心を持っているという情報が伝わったことで、ザッカーバーグCEOの競争心に火がついたともいわれています。


WhatsAppが顧問契約する法律事務所で行われた買収交渉で提示された買収金額は160億ドル(約1兆6000億円)という空前のスケールで、制限株を含めると、最終的には220億ドル(約2兆2000億円)という巨額に及びました。

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とてつもない巨額での買収交渉ですが、アクトン氏たちは金銭支払いに関する条項を詳しく調べる時間はなかったとのこと。ただし、「WhatsAppに広告を載せたくはない」という方針だけはアクトン氏・クーム氏がともに要求しました。この申し出に対して、ザッカーバーグCEOは、「長期的な視点でサービスを考えており、今後5年間はWhatsAppの収益化を強く求めない」と回答したと、買収協議に参加した人は証言しています。

しかし、ザッカーバーグCEOの言葉とは裏腹に、Facebookの動きはアクトン氏の予想をはるかに上回る速いものだったとのこと。


2014年11月、FacebookによるWhatsAppの買収がヨーロッパの独占禁止法に違反するという疑いがかかり、EUの規制当局への対応をアクトン氏が任されました。Facebookからは、「WhatsAppが施すエンドツーエンドの暗号化は強力であるため、Facebookサービスとのデータのやり取りや混同は技術的に難しい」と説明するように指導されたとアクトン氏は語っています。そして、FacebookとWhatsAppとのユーザーのデータ交換を望んでいないという、自らの本心を付け加えて説明した結果、買収が認められました。

しかし、その後、Facebookは両サービス間のデータを組み合わせる計画と技術を準備していることをアクトン氏は知りました。具体的には電話帳の番号からFacebookアカウントとWhatsAppアカウントを紐づけるという方法がその一つだったそうです。そして、2016年にWhatsAppのサービス利用規約が改訂され、Facebookとの紐づけが実行されることになりました。アクトン氏は、「私には誰もが賭けをしているようでした。『十分な時間が経ったから、EUは忘れているかもしれない』と彼らは考えていたのです」と述べています。

そんな都合の良い"幸運"はなく、買収にあたって虚偽の情報を提供したとして、2017年5月に欧州委員会はFacebookに対して1億1000万ユーロ(約140億円)の罰金を科しました。18カ月足らずでアクトン氏は「うそつき」として見られることになったそうです。


WhatsAppとFacebookの双方のアカウントをリンクさせることは、WhatsAppの収益化にとって重要な第一歩でした。WhatsAppの収益化を要求するFacebook経営陣に対して、アクトン氏とクーム氏は、「広告は載せない」という聖域を確保するため、アカウントのリンクについては妥協しました。つまり、広告収益の場はあくまでFacebookであり、そこへWhatsAppはユーザーを送り込むという立場で、「WhatsAppが入力、Facebookが出力」という関係が生まれることになりました。

買収から3年経って、ザッカーバーグCEOの辛抱もすっかり薄れ、WhatsAppスタッフが全員参加する会議で「不満」を表明するようになったとのこと。ちょうどその頃、Facebookは5年以内に100億ドル(約1兆1000億円)の利益を目指していましたが、アクトン氏にとってその数字はあまりにも大きく、広告に頼るしか方法はないと考えていたそうです。

アクトン氏は、無料ユーザーが一定量のメッセージを超えると従量課金することでのWhatsAppの収益アップを提案しましたが、Facebookのシェリル・サンドバーグCOOに却下されたとのこと。アクトン氏はそのときに、「彼ら(Facebook経営陣)は優れたビジネスパーソンであり、ビジネスの慣習、原則、倫理、政策を表現しているだけ」ということを理解したそうです。そして、それらはアクトン氏たちWhatsAppが必ずしも同意できないものだと理解したそうです。

アクトン氏は、ユーザー体験を犠牲にしてでも収益を上げようとするYahooでの経験で「歯の間に嫌な味」を感じました。そして、それはFacebookにも感じたとのこと。「もしも金になるなら、それはやるべき」という姿勢こそが、Yahooについて嫌っていたことでもあり、Facebookについて嫌っていることだったとアクトン氏は述べています。

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2017年9月にザッカバーグCEOはアクトン氏を自身のオフィスに呼び寄せました。アクトン氏がザッカーバーグCEOのオフィスに到着すると、そこにはFacebookの法律家が同席していたとのこと。アクトン氏はFacebookの望む広告を通した収益化案に対する明確な反対を示し、ユーザー数を増やすことで利益を高める長期的なプランを提案しましたが、Facebookの法律チームは同意しなかったとのこと。ザッカーバーグCEOは、「もしかすると、君が私と話すのはこれが最後になるかもしれない」と話したそうです。アクトン氏は闘わないことを選び、「この日の終わりに、私はWhatsAppを『売った』のです。裏切り者になったのです。それがわかりました」と述べています。

2017年9月に、アクトン氏はFacebookによるWhatsAppのマネタイズへの懸念を表明した上で、Facebookを去ることを決めました。これは、買収時にアクトン氏が与えられたFacebookの制限株に伴う報酬として8億5000万ドル(約960億円)を得る権利も同時に失うことを意味するものでした。アクトン氏は、「おそらく歴史上最も高くついた道徳的な振る舞いだったでしょう」と述べています。アクトン氏が今なお従う道徳的規範は、960億円以上に尊いもののようです。

アクトン氏は、現在、モキシー・マーリンスパイク氏が開発した小規模なメッセージアプリ「Signal」に対して5000万ドル(約55億円)を出資しています。Signalの開発元であるOpen Whisper Systemsのオープンソースの暗号化プロトコル「Signal Protocol」は、WhatsAppやSkype、Facebook Messengerなどにも使用されていることで知られています。


アクトン氏によると、Signalには数百万人のユーザーはいなくとも、「プライベートなコミュニケーションをアクセス可能でユビキタスなものにする」というゴールを持っているそうです。「無料でチャットや通話ができ、エンドツーエンドの暗号化が施され、広告を載せる義務を負わないプラットフォーム」という「純粋で理想的なWhatsApp」の再構築に、アクトン氏は取り組んでいます。

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in メモ,   ネットサービス,   ウェブアプリ, Posted by darkhorse_log

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