Instagramの創設者2人が突然辞任した背景には何があったのか?
by TheDigitalArtist
InstagramのCEOであるケビン・シストロム氏とCTOのマイク・クリーガー氏が2018年9月24日で退任を発表しました。突然明らかにされた2人の共同設立者の辞任に「(親会社である)Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOとの間に緊張関係があった」と多くのメディアが報じています。長年Instagramの動向について分析してきたアナリストのベン・トンプソン氏が、2人の辞職の背景について考えを述べています。
Instagram’s CEO – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2018/instagrams-ceo/
Instagramの共同創設者であるケビン・シストロム氏とマイク・クリーガー氏の辞任は、2018年9月24日にニューヨーク・タイムズが報じる形で明らかになりました。
Instagram’s Co-Founders to Step Down From Company - The New York Times
https://www.nytimes.com/2018/09/24/technology/instagram-cofounders-resign.html
そしてその後、Instagramのブログでシストロム氏が辞任について認め、「クリエイティビティと好奇心の探求を再び行うためにInstagramを離れる予定です」とつづっています。
Instagramの共同創設者が辞任--「好奇心と創造力を再び探求する」 - CNET Japan
https://japan.cnet.com/article/35126094/
Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは2人の辞任について「ケビンとマイクは卓越したプロダクトリーダーで、Instagramは彼らのクリエイティブな才能を反映しています。これまでの6年間、私は彼らと働くことで多くのことを学び、楽しみました。彼らの成功を願い、次に彼らが作るものを楽しみにしています」と短いコメントを発表。正式な発表前にニューヨーク・タイムズが報じたことや、具体的な退職理由などが明かされていないことも合わさって、FacebookとInstagramの創設者側でいさかいが生じていたのでは?とウワサされています。
statement from mark Zuckerberg on Systrom/Krieger departureshttps://t.co/IlJrGx9LFt pic.twitter.com/gA6rR91sii
— rat king (@MikeIsaac) 2018年9月25日
Instagramはもともと「Burbn」というプロジェクトからスタートしました。Burbnは現在地と写真の共有が可能なソーシャルチェックインアプリでしたが、シストロム氏とクリーガー氏はユーザーがチェックインではなく「写真の共有」機能を多用していることに気づいたため、写真の共有に特化したアプリを作り上げました。これが「Instagram」です。
Instagramは開始時点で「無料のフィルター」「Instagramフィードに写真が共有される」「『好き』やコメントを付けられる」「Twitter・Facebook・Flickrなど他のSNSと簡単に共有できる」という現在のプロダクトの根幹部分を既に持っており、カメラロールを経由することなく瞬時に共有できるという優れたユーザーエクスペリエンスを提供していたこともポイントでした。また、多くの写真編集アプリとは異なり、それ自体がソーシャルネットワークを形成しているという点も、その後の成長に大きく影響したといわれています。
Instagramは瞬く間に成長し、2010年10月にApp Storeに登場してから1年で1000万人のユーザーを獲得、その6カ月後にはユーザー数は3000万人まで膨れあがりました。2012年にはAndroidに対応し、同年4月にFacebookに10億ドル(約810億円)で買収されることとなります。
by geralt
Instagramのビジネスモデルはベンチャーキャピタルからの資金調達という方法であり、まず「プロダクト」が先に存在したため、その後、ユーザーベースの拡大を続けるためにインフラを拡張し、広告というビジネスモデルを導入し、セールスチームを構築していくことには大きな困難がありました。
一方で、ザッカーバーグCEOは、2004年2月にFacebookを創設して2カ月後には最初の広告を販売しています。ザッカーバーグCEOにとってもちろんプロダクトは重要なものでしたが、「会社を作る」ということも同じく重視されました。
大学生だったザッカーバーグCEOの名刺に「I'm CEO, Bitch.(俺がCEOだ、ビッチ)」と書かれていたのは有名な話。CEOは優れたプロダクトを作るだけでなく、会社をコントロールしてビジネスモデルを作り出していくことが重要になると考えると、ザッカーバーグCEOが文字通り「CEO」だったのに対し、シストロム氏とクリーガー氏は「卓越したプロダクトリーダー」だった点が違いだともいえます。
シストロム氏とザッカーバーグCEOが作り出した最高傑作は「インスタグラム・ストーリー」です。インスタグラム・ストーリーの基本的なコンセプトがSnapchatからきていることは、シストロム氏も認めるところ。24時間後に投稿が消えてしまうというインスタグラム・ストーリーの仕組みはSnapchatに類似しているものであり、これにより「Snapchatを使おう」と考える何百万というユーザーをInstagramに留めておくことを可能にしました。
Instagramの月間アクティブユーザー数をグラフにしたものを見てみると、前年比成長率(赤いグラフ)がストーリーの提供開始直後に跳ね上がっていることがわかります。このことからも、ストーリーがSnapchatの成長に歯止めを掛けただけでなく、Instagram自身の成長を加速させたことが見てとれます。
一方で、Facebookは数年にわたってニュースフィードの広告に力を入れてきました。この「広告」とは、単純にターゲティング技術を開発し「見せる」広告を作り出すことではなく、POSシステムやFacebook以外のデータソースを含めた広告主のためのバックエンドの仕組み作りのことを指します。Instagramにもこの仕組みが取り入れられることで、Instagramの初期のプロダクトチームはユーザーエクスペリエンスに集中しているにも関わらず、Instagramはマネタイズ面でかつてないほどに急成長しました。そしてFacebook上の広告キャンペーンやターゲティングの範囲をInstagramにまで拡張することで、Facebook自身の収益も増加したとのこと。
しかし、InstagramとFacebookが密に関わり合えばあうほど、Instagramの問題は最終的にFacebookの問題となり、Facebook側が解決策を提供するようになります。ストーリーがプロダクトとして優れていても、Instagramが持つネットワークの大きさや、Facebookと共有する広告のバックエンドというアドバンテージなしで語ることはできません。つまり、Snapchatや他の競合プロダクトとInstagramを比較した時に、その優位性はシストロム氏たちが専門とする機能面以外の部分に帰着してしまうのです。
これが、シストロム氏とクリーガー氏の辞職を引き起こしたあらゆる争いの背景にあるとトンプソン氏は述べています。2人は自分の会社をコントロールしていないのに加え、自分たちのプロダクトが直面する問題を解決するために不可欠な存在ではありません。インスタグラム・ストーリーの収益化も最終的にはFacebookの問題となるためです。
Facebookに買収されることでシストロム氏とクリーガー氏はお金とプロダクトに集中する自由を手に入れましたが、この選択がザッカーバーグ氏をInstagramの真のCEOにしてしまったとトンプソン氏は述べています。
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