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ヤケド患者への適切な輸液量を算出するアプリ「Mersey Burns」の開発秘話とは?


体の広範囲にヤケドを負った患者は細胞内の水分が体外に流出してしまい、体内の水分や血圧が低下してしまいます。そのため、重度のヤケドに対しては輸液などの処置がとられますが、一体どれほどの量の輸液を行うのがベストなのかを判断するのは、熟練した医者でも難しいものです。そんなヤケド患者に対する輸液量を、必要な情報を入力するだけで判断してくれるアプリ「Mersey Burns」の開発者が、アプリ開発にまつわる裏話を記しています。

Mersey Burns
https://chrisseaton.com/merseyburns/

ヤケドによって重傷を負った患者に対しての輸液処置は、量が少なすぎても効果が薄く、量が多すぎても有害になってしまう可能性があります。適切な輸液量を求めるためには、「患者の体表のうち、どれくらいの範囲がヤケドしているのか」「患者の年齢」「患者の体重」「患者はどれほどの時間炎に焼かれていたのか」といった情報にもとづき、計算を行う必要があります。

ところが、輸液が必要なほど重度なヤケド患者はそうそう頻繁に搬送されてくるものではなく、経験の浅い医師は輸液量算出のプロセスで間違いを犯してしまうことがあるとのこと。誤った輸液量を患者に投与してしまうと、患者を不必要な危険にさらしてしまうかもしれません。


Mersey Burnsはアプリの画面上に表示された人体にヤケドの範囲を描き、年齢・体重・焼かれていた時間といった項目を入力することで、簡単に適切な輸液量を算出してくれるアプリです。アプリはiOS向けAndroid向けがリリースされていますが、アプリが使用できるのはイギリス国内のみで、その他の国で使用できるのはオンライン版だけだとのこと。

イギリスの国民保険サービス(NHS)もMersey Burnsの使用を推奨しており、医療現場での使用に耐えうる精度を持ったアプリであるというお墨付きを得ています。


Mersey Burnsの開発者であるクリス・シートン氏は、もともと王立陸軍医療軍団という軍人やその家族に医療サービスを提供する、軍隊所属の医療部隊に所属していたとのこと。シートン氏は2010年頃に軍隊を離れ、ソフトウェア開発者としてのキャリアをスタートさせようとしていましたが、大学を卒業してからコードを書いたことはありませんでした。

ちょうどそのころ、王立陸軍医療軍団でシートン氏の婚約者と共に働いていた形成外科医のローワン・ジョーンズ氏と、同僚のポール・マッカーサー氏は、医療系のサイドプロジェクトを始めようとしていました。2人に「一緒に人の役に立つ医療用アプリを開発しないか」と持ちかけられ、シートン氏は申し出を受けました。

ヤケド患者に対する輸液量を算出するアプリを作ることに決まった後、まずシートン氏はデスクトップで動作するMersey Burnsのプロトタイプを製作し、ユーザーが人の輪郭に色づけして、ヤケドした表面積を求める方法を考案しました。人体は平面的ではなく、個人による体格差も大きいため、シートン氏はこの部分にたくさんの工夫を凝らしたとのこと。


シートン氏は、アプリの開発段階から医療に熟練した人物が深く関わっていたため、プロトタイプの段階から医学的に正しいアプリを作ることができたと語っています。開発作業の大部分は直感的な操作が可能なユーザーインターフェースの構築にあてられていたそうです。

iOS版やAndroid版のアプリを開発した後、シートン氏はNHSや大学の医学部などとMersey Burnsについての話し合いを行いました。シートン氏らが開発したアプリは関係者らの興味を引いたため、まずは地元のNHS当局にMersey Burnsの知的財産権を1ポンド(約140円)で売却し、NHSにおいてMersey Burnsを使用できるようにしたとのこと。

続いて、Mersey Burnsを用いた輸液量算出方法が、従来の方法よりも優れていることを査読済み論文として医学誌に発表し、ヤケドの表面積推定および輸液量計算においての分散が少ないことを証明しました。以上の活動により、Mersey BurnsはNHSのお墨付きを得ることができ、イギリス形成学会(BAPRAS)にも認められるアプリとなりました。


シートン氏は、「医療用アプリを開発する時には初期のプロトタイプを少人数で完成させ、動作可能な最小限の機能を備えたアプリを見せれば、Mersey Burnsのように多くの人々を動かすことができるかもしれません」と述べ、医療用アプリの開発は非常に困難ではあるものの、やりがいのある仕事だと語りました。

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in モバイル,   ソフトウェア,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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