SteamのVR弓ゲー「QuiVr」がアーリーアクセスからスタートして3万5000本の売り上げに成功した理由とは?
弓を使って拠点に攻めてくる敵を撃退するVRゲーム「QuiVr」は2016年12月にSteamでアーリーアクセス版(開発途中バージョン)として登場してから、約1年6カ月で3万5000本を販売することに成功し、その売上は約70万ドル(約7800万円)に上っています。無名のタイトルだった作品がどのようにして大きな売上を達成することができたのか、QuiVrの開発者であるジョナサン・シェンカー氏と同氏をビジネスパートナーとして支えてきたアーロン・スタントン氏がUploadVRで語っています。
How QuiVr Sold 35,000 Copies In Early Access
https://uploadvr.com/quivr-early-access-35000/
◆シェンカー氏とスタントン氏の出会い
シェンカー氏は大学卒業後にウェブ開発の仕事に就き、フルタイムワーカーとして日々の生活を過ごしてきました。また、同氏はゲームエンジンのUnityを使った開発経験があったため、空いた時間にQuiVrの開発も並行して行っていました。当時のシェンカー氏はRedditなどでQuiVrをプレイした人の感想を見るだけで満足しており、特に大きな目標は持たずに趣味で開発を進めていたそうです。このときのQuiVrのムービーはYouTubeで公開されており、当時は弓で的を狙うという内容のゲームが作られていたことがわかります。
HTC Vive Archery: Week 1 DevLog - YouTube
そんな生活を続けていたシェンカー氏は、ある日スタントン氏と出会うことになりました。スタントン氏は本の内容をビッグデータ解析するBookLampという名前のスタートアップを設立し、Appleに売却した経験を持っていました。QuiVrに可能性を感じていたスタントン氏は自身の会社を大手企業に売り込んだ経験から、QuiVrを魅力的にするためのシェンカー氏にアドバイスを行うようになります。スタントン氏の行ったアドバイスの1つは「もっとデザインを良くするためにグラフィックを外注しよう」というものでした。
◆市場分析
そして、シェンカー氏はスタントン氏と出会って約1カ月後に一緒にプロジェクトを行うようになります。最初に両氏が共同で行った作業は「市場分析」です。彼らは他のゲームの販売価格や売上状況などを分析し、QuiVrに設定すべき適切な価格を調査。最終的に決定した価格は19.99ドル(約2200円)とし、2000本~6000本の売上げは固いと予想していました。
◆投資
スタントン氏は売上予想額から3万ドル(約330万円)追加で投資すれば、現在のUnityのアセットストアにあるゲーム用の素材ではなく、ゲーム独自のグラフィックスを発注できるようになると考えました。そこで、シェンカー氏とスタントン氏はともに1万5000ドル(約165万円)ずつ出資。なお、この出資額と売上予想額はかなり余裕のある数字で見積もっていたとのことで、本当の売上本数の予想はもっと高い数字だったそうです。
◆リリースタイミングの判断
QuiVrの開発の鍵といえるものは2016年10月に公開された「18ページの設計書」です。この時点で既にQuiVrの無料デモ版をリリースしていましたが、どの程度のユーザーがアーリーアクセス版リリース時に購入するかわかりませんでした。そこで、QuiVrの設計書を公開することで、設計書のアクセス数から何名ほどの購入者が現れるかを調査するようにしたとのこと。スタントン氏は「プロジェクトの規模は期待する収益と見合うことが重要です」と語っており、実際に利益として得られる額が予想を下回ってしまうとプロジェクトの進行に影響が出てしまうとしています。また同氏によると「投資額が1万5000ドル以下であり、少しでもユーザーの認知度があれば、即座にアーリーアクセス版をリリースして、利益を得ながら開発をすることも可能」と述べています。
◆アーリーアクセス版の販売
QuiVrのアーリーアクセス版は2016年12月に販売が開始され、初日に818本、以降は1日あたり100本~150本の売上となり、1年半後には1日あたり15本~20本の売上に落ち着いたとのこと。スタントン氏は「サマーセールのようなタイミングで非常に大きな収益を上げることができ、大半の収益をこのタイミングで得ることができます」と語り、事前に大きなプロモーションなどを行ってユーザーの興味を引いておけば、セールのタイミングでリリースして大きな収益を上げられる可能性が高いとしています。しかし、QuiVrは早期にアーリーアクセス版をリリースしてしまったため、タイミングを逃してしまったとのこと。
◆マルチプレイ
QuiVrの特徴として、マルチプレイ対応が挙げられます。マルチプレイの特徴としては「同じタイミングで複数のユーザーが同じゲームをプレイしている」ということが条件になるのですが、VRゲームの場合はVRヘッドセットがそこまで普及していないために同時に同じゲームをプレイしているユーザーの数が少なくなりやすく、参加しているメンバーのスキル差異が大きくなったり、マルチプレイできるほどプレイヤーがいなかったりする問題がありました。
そこで、QuiVrはマルチプレイを推奨するものの、協力プレイをするユーザーのプレイスキルが、もう一方のユーザーに影響しないように設計されています。また、同タイミングでログインしているプレイヤーがいなくとも、自動でNPC(ノンプレイヤーキャラクター)がマルチプレイに参加するようになっているため、マルチプレイができないという問題も排除しているそうです。
◆コミュニケーション
最後にシェンカー氏は「ビジネスを成功させるにはコミュニケーションが最も大事」だと述べています。同氏は「私はスタントン氏や家族、あるいはどのような人からであっても、自分に向けられた意見を無視せず、意見交換することを心掛けてきました。そして、自分自身の長所と短所をしっかりと理解しておくことで、相手の意見を尊重するか、自分の意見を選択するかをしっかりと見極めることができるようになります」と語り、UploadVRの記事を締めくくっていました。
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