貯水池からの蒸発を防ぐための「シェードボール」は逆に大量の水を消費しているという指摘
by Scott L
貯水池の水が蒸発することを防ぐために使用される小さなプラスチック製の球体が「シェードボール」です。節水のために用いられているシェードボールですが、実際には蒸発を防げる水の量よりも多くの水を消費してしまう可能性が指摘されています。
The water footprint of water conservation using shade balls in California | Nature Sustainability
https://www.nature.com/articles/s41893-018-0092-2
Using ‘shade balls’ in reservoirs may use up more water than they save | Imperial News | Imperial College London
https://www.imperial.ac.uk/news/187247/using-shade-balls-reservoirs-more-water/
人為的に作られる貯水池は、干ばつなどが起きても水を安定供給することが可能になるため、地域によっては非常に重宝されるものです。しかし、水面からかなりの量の水が蒸発してしまうため、貯水池では蒸発を防ぐための「シェードボール」が浮かべられることがしばしばあります。
2011年から2017年にかけてカリフォルニアで起きていた干ばつに備え、貯水池ではなんと9600万個ものシェードボールが浮かべられていました。以下の写真の黒色のプラスチック製ボールがシェードボールで、水面から水が蒸発することを防ぐため、水面を覆うように使用されます。
カリフォルニアで5年にわたって続いた干ばつでは、終了する1年半前から貯水池にシェードボールが配備されています。しかし、Nature Sustainabilityに掲載された最新の研究によると、シェードボールの設置により節約できる水の量は、製造時に必要とする水の量よりも少ないと指摘されています。
研究論文の共同執筆者であるKaveh Madani博士は、インペリアル・カレッジ・ロンドンの環境政策センターで働く人物です。Madani博士は「何かしらの問題に対するソリューションにおいて、長期的および副次的影響を見過ごすことはよくあります。どこかで問題を解決し、別のどこかで新たな問題を作り出しているのです」と語り、貯水池で使われてきたシェードボールが地球環境全体でみれば水の節約にはなっていなかったことを、エンジニアリングにおいてはしばしば起きることであるとしています。
シェードボールは石油・天然ガス・電気を用いて製造されるプラスチック製のボールで、製造には大量の水を必要とします。標準サイズとなる5mm厚のシェードボールを9600万個製造するには、推定で29億リットルもの水が必要となりますが、研究チームの計算ではシェードボールの配置により貯水池から蒸発を防ぐことができた水量は17億リットルで、明らかにシェードボールの製造の方が多くの水を要したことがわかります。なお、研究チームはシェードボールの配備で節水できる水の量がシェードボールの製造で使用する水の量を上回るには、貯水池に2年半以上にわたってボールを浮かばせておく必要があると計算しています。
ただし、これはシェードボールが干ばつ時以外でも同じレベルで貯水池の水の蒸発を防げる場合の数字です。実際には干ばつが起きていない場合、シェードボールによる蒸発を防ぐ効率は悪くなると予想されます。よって、はじき出された数字よりも長期間ボールを浮かばせていないと、節水量が製造時の水の使用量を上回ることはないと考えられます。
しかし、シェードボールを浮かばせていると、細菌の増殖によって水質に悪影響が及びます。加えて、シェードボールの製造が水質汚染や炭素排出にも影響を及ぼす可能性があるとも指摘されています。
世界的な気候変動により、今後猛暑や干ばつなどが頻繁に起きるようになることが予測されるため、水の管理はこれまで以上に重要な課題となります。Madani博士は「我々はシェードボールが悪いと言っているわけではなく、その環境コストと利点を考慮しなければいけないという事実を強調しているのです」と語っています。
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