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アクションRPGの傑作「ディアブロ」の拡張パックはどうやって制作されたのか?


1997年にブリザード・エンターテイメントから発売されたアクションMORPGの名作「ディアブロ」唯一の公認拡張パックが「ディアブロ:ヘルファイア」です。この拡張パックがどのように開発されたのかが、ゲーム系メディアのPolygonで紹介されています。

How a Diablo expansion led to behind the scenes trouble - Polygon
https://www.polygon.com/features/2018/6/29/17517376/diablo-hellfire-expansion-behind-the-scenes-trouble


「ディアブロ」はランダムに生成される地下迷宮をクリアして、人間界を脅かす悪魔ディアブロの討伐を目指すアクションRPGで、オンラインでのマルチプレイも可能という「MORPGの先駆け」ともいえる作品です。この「ディアブロ」の企画書では、カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」を参考に、追加コンテンツを収録した拡張パックを販売するというビジネスモデルが考えられていました。しかし、ブリザード・エンターテイメントの社長だったアレン・アドハムが拡張パックに断固反対し、次作の「ディアブロII」の開発を優先させたため、同社で初代「ディアブロ」の拡張パックが開発されることはありませんでした。


ただし、初代「ディアブロ」で拡張パックが全く出ていなかったわけではありません。個人によるModが多く流通していた他、ブリザード・エンターテイメントから唯一の認可を受けた拡張パック「ディアブロ:ヘルファイア」がシエラ・オンラインから発売されていました。

シエラ・オンラインは、1979年に世界初のグラフィックアドベンチャーゲーム「Mystery House」を発表して話題となりました。その後、数々のアドベンチャーゲームを発売していましたが、1996年にComp-U-Card International(CUC)に買収され、元公認会計士でソフトウェア開発の経験がほとんどなかったスコット・リンチ氏がCEOに就任していました。


リンチCEOは、当時大ヒットしていた「ディアブロ」に目をつけました。1からゲームを作るよりも、存在しているゲームのコードからアイテムやダンジョンのデータを抽出してまとめるだけの拡張パックを作るほうが生産コストが削減できると考えたというわけです。リンチCEOは、1996年に買収したSynergistic Softwareというゲーム開発企業のメンバーに「ディアブロ」の拡張パックである「ヘルファイア」をわずか6週間で開発するよう命令します。

Synergistic Softwareの共同創設者だったロバート・クラーディー氏は当時を思い返して「私たちは皆『ディアブロ』を愛していましたし、開発者も尊敬していたので拡張パックの制作に関われることになって喜んでいました。しかし、私たちはCUCの傘下で、プロジェクトの責任者はスコット・リンチでした。リンチは会議に1度も参加しなかったし、現場のことは全く把握していませんでした」と語っています。

しかし、ブリザード・エンターテイメントは、他社による拡張パックの制作をあまり快く思っておらず、CUCの申し出に対して渋い反応を見せました。これは過去にWarCraft IIの拡張パックの開発を他社に依頼したところ、予想よりもクオリティが低く販売を断念したという経験があったためです。そして、ブリザード・エンターテイメントの子会社であり「ディアブロ」開発スタジオのブリザード・ノースとブリザード・エンターテイメントが「ディアブロ」の所有権で揉めていたという点もありました。


一方で、拡張パックの制作について比較的乗り気だったブリザード・ノースは、「ディアブロ」のプロデューサーであるマット・ハウスホルダー氏をシエラ・オンラインへ出向させ、「ヘルファイア」の品質管理を徹底させることにしました。ブリザード・ノースの協力を得たCUCは、当初の予定だった6週間から4ヶ月まで開発期間を延ばし、Synergisticは予定通り「ヘルファイア」を完成させました。

「ヘルファイア」では移動速度の調整や新しいダンジョン、新しいストーリーなどが盛り込まれましたが、開発期間の不足もあって、Synergisticはあらかじめ計画していた仕様の全てを実装できませんでした。また、当初予定していた追加クラスはモンク・バード・バーバリアンの3種類だったのですが、厳しい品質チェックの結果、既存のクラスの焼き直しに近いバードとバーバリアンの2つを削除するよう指示を受けます。さらに、用意していたクエストも削除され、イースターエッグはすべてなくすように要求されました。しかし、Synergisticはそれらをデータから完全には削除はせず、巧妙にゲーム内に残しました。

さらに、ブリザード・ノースは、「ヘルファイア」の開発にあたり、拡張パックによってゲームバランスが崩壊しないように、マルチプレイには対応させずにシングルプレイヤーのみに提供することを条件としていました。しかし「ディアブロ」の大ファンだったプログラマーが「マルチプレイがこのゲームの肝なのにシングルプレイヤーのみとはもったいない」と考え、ブリザードの用意していたサーバー「Battle.net」を使わない方法でマルチプレイができるモードを「ヘルファイア」にこっそり仕込んでいました。

「ディアブロ」初の拡張パックである「ディアブロ:ヘルファイア」は1997年11月、「ディアブロ」の登場から10カ月後に発売されました。「ディアブロ」の熱心なプレイヤーはすぐに「ヘルファイア」に隠された没クエストや没クラスの存在を見つけ出しました。さらにしばらくしてシングルプレイヤーのみとされていた「ヘルファイア」をオンラインで遊ぶことができる方法も確立されました。それもあって、「ヘルファイア」は十分な売り上げを見せます。


しかし、ブリザード・エンターテイメントは、ゲームを語るオンラインフォーラムをチェックして、「ヘルファイア」に削除を要請したはずの内容が残されていた上に、禁止したはずのマルチプレイが可能になっていることを知って大激怒。しかもマルチプレイを許可するために、ブリザード・エンターテイメントが「ディアブロ」の中で最も重要視していたDLLファイルを勝手に改ざんしていたことも判明します。Synergisticの開発チームリーダーだったクラーディー氏は、ブリザード・エンターテイメントとブリザード・ノースの重役に呼び出され、こっぴどく叱られてしまったとのこと。マルチプレイヤーへ対応する隠し機能はアップデートファイルによって削除されてしまいました。

「ヘルファイア」は成功を収めたものの、開発側のシエラ・オンラインとSynergistic、ブリザード・エンターテイメント、ブリザード・ノースの関係は致命的に悪化してしまいます。その余波を受けてか、後にシエラ・オンラインがブリザード・エンターテイメントに吸収されたとき、Synergisticのメンバーは再雇用されなかったそうです。

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in ゲーム, Posted by log1i_yk

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