パン種「サワードウ」の発酵具合をRaspberry Piでモニタリング&映像分析してわかったこととは?


小麦粉・水・塩・イーストをそれぞれ単体でむしゃむしゃ食べるのはつらいものがありますが、材料を混ぜてしばらく時間をおくと「発酵」というプロセスによってパンのテクスチャやフレーバーが生まれます。パン職人の腕の見せ所である「発酵」というプロセスをテクノロジーの力でコントロール可能にできるか?ということで、パン作りの発酵プロセスをモニタリング&分析するという試みが行われました。

Monitoring the Fermentation of Sourdough Starter with Computer Vision
http://justinmklam.com/posts/2018/06/sourdough-starter-monitor/

パン作りのカギは時間と発酵作用の2つであり、時間をかけてゆっくりと十分に発酵させれば、ふんわりとしたテクスチャの風味よいパンが作れます。しかし、スーパーマーケットなどに出回っているパンは時間をかけている余裕がなく、インスタントドライイーストを使って短時間で発酵作業を終わらせます。このようなパンは、見た目は「パン」であるものの、生きている酵母を作ったパンとは全く質感が異なるとのこと。


パンの質感はを小麦粉と水と混ぜて作る発酵種に左右されるということで、メカトロニクスのエンジニアであるJustin Lamさんは、「サワードウ」の発酵の様子を5分間隔で写真撮影し、タイムラプス映像を作成。映像を分析することで、発酵具合の変化を可視化しています。これらにより、「発酵種の発酵ピークのタイミングの特定」「発酵はどのような割合で進むのか」「発酵が失敗した時のリカバリーの方法」を特定したとのこと。

◆1:タイムラプスの設定
自動タイムラプス撮影のコントロールにはRaspberry Piを使用。Lamさんは子ども向け・教育用のRaspbianをダウンロードして、Etcherを使いSDカードにOSイメージを焼くという方法をとりました。そして、静止画をキャプチャするraspistillコマンドを利用し、「何秒ごとに撮影する」というスクリプトを書いたそうです。タイムラプスモードを用いれば定期的な撮影が簡単に行えるようになりますが、Lamさんは自分でスクリプトを書くという方法に挑戦しています

◆2:タイムラプス撮影
コンピューターやカメラはこんな感じでメジャーにテープで固定されました。


夜でも撮影が可能になるようにライトも設置。なお、写真では発酵種の前方にライトが置かれましたが、後に後ろから照らした方がコントラストがはっきりして発酵具合がよくわかったとのこと。


コンピューターはJuiceSSHを使ってリモートでの操作が行われました。


◆3:解析
静止画分析には2値化しきい値を適用するための「Thresholding」と画像における境界線の位置を特定する「Measure region properties」を使用。Thresholdingはグレースケールの画像について、画素の値がしきい値よりも大きければ白を割り当て、小さければ黒を割り当てるというもの。これによって透明なガラスと不透明な発酵種を境界線で分離できます。

実際にThresholdingのコードを走らせてみると、以下のような感じに。さまざまなモードがありますが、「Otsu」が最も発酵種の様子を把握できると感じて、LamさんはOtsuを採用しました。


左がオリジナルの画像で、右がOtsuを使用した画像。発酵の様子をハッキリと捉えていることがわかります。


また、Measure region propertiesを使うと白黒でわけられた領域を簡単に数量化可能とのこと。画像に複数の領域があった場合は最小領域要件を設定し、一定の領域以上のものは無視するよう設定が行われました。スクリプトについてはここで確認できます。

◆4:結果
この結果、以下のようなタイムラプス映像の作成&画像分析が行われました。画像をクリックすると発酵の様子がムービーで見ることができます。

まずは29日に行われた発酵作業のうち、少し量が多めの左の瓶の変化。発酵開始から5時間ほどでピークに達し、初めの1.7倍ほどにまで成長しています。


以下は29日に行われた発酵作業のうち、右の瓶の変化。左の瓶に比べると少し成長率が低いようにも見えますが、ほぼ同じペースで1.6倍以上に成長しています。


続いて5月31日に行われた発酵作業。発酵開始から約5~6時間の時点で1.8倍にまで成長しています。


5月31日には、さらに水・小麦粉を追加する「フィーディング」が行われ、2度目の発酵作業も実施されました。ピークは開始から約5時間の時点で、1.7倍以上に成長しています。


6月10日は、冷蔵庫の外で発酵作業。瓶のふたのところまでみっちりと発酵している様子がわかります。


そして、10日に行われた発酵後にしばらく放置し、23日に再びフィーディングして発酵作業が行われました。すると、それまでに行われた発酵に比べて種の膨らみは小さめになっています。


上記の発酵の後にもう一度、フィーディング&発酵が繰り返された結果が以下のもの。スタート時点の1.8倍にまで種が膨らんでおり、発酵具合が復活しているのが見て取れます。


複数回の発酵が繰り返された結果は以下の通り。青色が「5月29日、左の瓶」、オレンジが「5月29日、右の瓶」、緑が「5月31日、最初のフィーディング」、赤が「5月31日、2回目のフィーディング」、紫が「6月10日、冷蔵庫の外」、茶色が「6月23日、最初のフィーディング」、ピンクが「6月23日、再フィーディング」となっています。ほとんどのグラフが示す発酵のピークは小麦粉と水を混ぜてから5~6時間後で、発酵種の最大の大きさは最初の1.6~1.8倍となっていますが、しばらく発酵種を放置した直後の「6月23日、再フィーディング」はピークが小さいことがわかります。


また5月29日、5月31日、6月10日でわけてみると、発酵プロセスを繰り返すごとに酵母種の成長が大きくなっていることがわかります。日付をあけて23日に再発酵させた時はあまり膨らまなかったことからも、「定期的に発酵させると発酵具合がよくなる」ことが言えるとのこと。なお、ピークのズレはフィーディングに対する発酵種の割合の違いのものとみられ、最初に使う発酵種の量は少ない方が微生物の活動が長く続いたそうです。


一度不活性状態になった発酵種でも、小麦粉と水を追加することで再び発酵が始まる様子は以下のグラフが示すとおり。濃い緑色のグラフ1度目のフィーディング、薄緑のグラフが2度目のフィーディングです。


◆5:結論
発酵種をモニタリングしてわかったことは以下の通り。

・発酵種の成長率は基本的には一貫している
・定期的にフィーディングを行っている発酵種はフィーディングからだいたい5~6時間で膨らみ具合が最大化する
・しばらく触っていない発酵種はピークが1時間ほど早い
・しばらく触っていない発酵種でも再び定期フィーディングを行うことで発酵を行うようになる

パン種の発酵は温度や湿度も関わってくるところですが、モニタリングを行うことで、自分が見ていない間に発酵がどのくらい進んだのかがわかるとLam氏は述べており、おいしいパン作りに役立ちそうです。

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in Posted by darkhorse_log

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