サイエンス

何光年も離れた遠い星系に人間を送りこむ場合、最低どれくらいの人員が必要となるのか?


地球から何光年も離れた遠い宇宙のかなたには、地球と同じように生命が存在するのに適した環境を持つ惑星が存在します。そういった惑星に向けて人間を送りこむ場合、人間の寿命が尽きる前に惑星に到達することは不可能であるため、多世代にわたった星間航行を行う必要性が出てきます。この多世代星間航行で何光年も離れた場所へ移動する場合、最低どれくらいの人員を宇宙船に乗せる必要があるのかを、Universe Todayが論じています。

What's the Minimum Number of People you Should Send in a Generational Ship to Proxima Centauri? - Universe Today
https://www.universetoday.com/139456/whats-the-minimum-number-of-people-you-should-send-in-a-generational-ship-to-proxima-centauri/

人類は実際に宇宙飛行が現実のものとなるはるか前から、人間を他の惑星に送ることを夢見てきました。そして近年、生命が誕生するのに適した環境と考えられるハビタブルゾーンに位置する複数の惑星の存在が確認されています。そんな中、NASAはこれらの惑星と同じくハビタブルゾーンに存在し、地球と同様に生命が存在する可能性が示唆されている惑星「プロキシマ・ケンタウリb」へ探査機を送る計画を打ち立てています。

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プロキシマ・ケンタウリbのような地球から遠く離れた宇宙に存在する惑星に向けて人間を送る場合、果たして宇宙船には何人ほどの乗組員が搭乗する必要があるのでしょうか。そんな疑問にメスを入れた、プロキシマ・ケンタウリbへの探査の旅に出るために必要最低限の乗組員の数を試算した論文が存在しています。

「プロキシマ・ケンタウリbへ向けた多世代宇宙旅行の為の最小限の乗組員を計算」と題された論文は、世界で最も古い宇宙支援組織である英国惑星間協会で発表されたもので、ストラスブール天文台で働く天体物理学者のフレデリック・マリン博士と、粒子物理学者のカミーユ・ベルフィ博士により執筆されたものです。

マリン博士とベルフィ博士は星間航行のために提案されているさまざまな概念を検討しています。具体的には従来型のアプローチである「核パルス推進」や「核融合ロケット」から、「ブレークスルー・スターショット」や「ソーラー・プローブ・プラス」のような近未来的な推進システムまで考慮して数字が試算されています。


マリン博士は「何人ほどの乗組員が搭乗する必要があるのか?」について、「星間航行を行う際に利用可能な技術に完全に依存することになる」と述べています。記事作成時点の2018年に宇宙船を作ろうとすれば、その飛行速度は最高でも秒速約200km程度にしかならないそうで、「そうなると宇宙を旅する時間は6300年にも及びます。もちろん、技術は時間と共に改善されており、実際の星間飛行プロジェクトが実現するまでに航行時間は630年ほどまでに短縮することが可能であると期待されています。ただし、これはまだ発明されていない技術に期待する投機的な見解です」とマリン博士は語っています。

これらの要素から、マリン博士とベルフィ博士はプロキシマ・ケンタウリbへ向けた星間航行時の飛行速度を秒速200km、移動にかかる時間を6300年に設定し、そのために必要な乗組員の最低人数をモンテカルロ法を用いた数値ソフトウェアで試算しています。

マリン博士らが作成した数値ソフトウェアは「HERITAGE」と命名されており、確率的なモンテカルロ法で生死に関するあらゆるランダム化シナリオをテストしています。シミュレーションでは多世代にわたって星間航行を行うことになる乗組員が実際の宇宙旅行ではじき出すであろう統計値を考慮。生物学的要因としては女性対男性の数、年齢、平均余命、出生率および乗組員の生殖期間が含まれており、他にも事故・災害・致命的な出来事および、それらによって影響を受けやすい乗組員の数といった極端な可能性についても考慮されています。

調査ではこういった要素を考慮した星間航行のシミュレーションが100回程度行われ、シミュレーションをもとに平均値をはじき出しています。保守的な条件の下で潜在的に外惑星への多世代星間航海を成功させるためには、最低でも乗組員が「98人」必要であると試算されています。

by Warren Wong

この人数以下では多世代星間航行の成功率はかなり低下するとのこと。例えば、最初のシミュレーションでは乗組員の数が「32人」とされており、その場合の多世代星間航行の成功率はまさかの0%だったそうです。その理由はこれだけ小さなコミュニティだと近親交配が避けられなくなってしまい、プロキシマ・ケンタウリbへたどり着けたとしても遺伝子的に健全な乗組員はゼロという状況になってしまうためだそうです。

マリン博士はベルフィ博士と行っている「プロキシマ・ケンタウリbへ向けた多世代宇宙旅行の為の最小限の乗組員を計算」について、「これまで検出された3757個の(生命が存在する可能性のある)太陽系外惑星のうち、地球に最も近い惑星は地球から40兆km離れた位置に存在します。最先端の宇宙船で到達可能な最高速度は光速のわずか1%であり、そのような技術で作られた宇宙船で太陽系外の惑星に向かえば、到達するのに最低でも422年かかることとなります。これは星間航行は人間の寿命の中では達成できないことを示す数字といえます。長期間にわたる宇宙ミッションでは、クルーが何百年もの間にわたって宇宙空間で生き残るための解決策を見つけ出す必要があります。よって、我々のプロジェクトではハードウェアと人口の両面で最小サイズを確立することを目標としており、そうすることで、我々は多世代にわたる星間航行のための要件を科学的に正確に見積もりできるようになるのです」と語っています。

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in 乗り物,   サイエンス, Posted by logu_ii

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