今敏監督の未完の遺作「夢みる機械」を丸山プロデューサーと平沢進が語ったインタビュー公開中

2010年に他界したアニメ監督・今敏さんが亡くなる直前まで準備を行っていた「夢みる機械」について、制作会社マッドハウスの元取締役で今敏監督作品のプロデュースを手がけた丸山正雄さんや、「夢みる機械」の音楽担当だったアーティスト・平沢進さんへのインタビューが、イギリスのファッション・文化を扱うメディア「Dazed」で公開されています。
Exploring anime legend Satoshi Kon’s unfinished final film | Dazed
http://www.dazeddigital.com/film-tv/article/39222/1/exploring-anime-legend-satoshi-kons-last-unfinished-film
今敏監督は「PERFECT BLUE」「東京ゴッドファーザーズ」「千年女優」などで知られるアニメ監督で、漫画家としても精力的に活動していましたが、すい臓ガンのため、2010年に亡くなりました。今敏監督が亡くなる直前まで制作を進めていた映画が「夢みる機械」で、それまでの今監督の劇場アニメ全てにプロデューサー・企画で関わった丸山正雄さんがプロデューサーを務めることとなっていました。
丸山さんが今監督と直接関わったのは1998年公開の「PERFECT BLUE」とのことですが、丸山さんは「それ以前から今監督が漫画を描いていることは知っていました。彼の漫画の中にはすでに『今敏』のビジョンを構成する要素が散在していて、少しずつアニメ作品に織り込んでいたことに私はすぐに気づきました」と語っています。「PERFECT BLUE」は世界的にも評価が高く、Dazedによれば「ブラックスワン」のダーレン・アロノフスキー監督や「インセプション」「ダンケルク」のクリストファー・ノーラン監督も影響を受けているとのこと。なお、実現はしませんでしたが、アロノフスキー監督は「PERFECT BLUE」の実写映画を撮影するつもりで実写化権も購入していたことが今監督のブログで明らかになっています。
パーフェクトブルー 予告 / Perfect Blue Trailer - YouTube
丸山さんは「『PERFECT BLUE』はヒッチコックやデ・パルマの手法で日本のポップカルチャーを描いた作品で、『千年女優』は映画の中で生きた女優の人生について哀愁的に思いを巡らせる作品でした。『東京ゴッドファーザーズ』は家族やホームレスの問題に触れるコメディで、今敏風の『ストレイト・ストーリー』でした。そして『パプリカ』は今監督の最も意欲的な作品で、人間の集合的無意識が持つ闇を解放するインターネットのポテンシャルを描いた、野心的なSF作品です」と語っています。
千年女優 特報 - YouTube
「夢みる機械」は「パプリカ」制作以前に企画された作品。今監督の作品はいずれも比較的大人向けでしたが、丸山さんによればこの「夢みる機械」は3台のロボットの冒険を描く子ども向け映画だったそうです。丸山さんは最初の企画の段階で「どんな話でも気にしないけれど、赤いロボット・青いロボット・黄色いロボットは登場させよう」と今監督に伝えていたそうです。
実際に公開されていたイメージビジュアルはこんな感じ。丸山さんの言葉通り、3つの色のロボットが描かれています。

by Scott Rubin
しかし、今敏監督は制作開始直後の2010年5月に、末期のすい臓ガンで余命半年と診断されました。丸山さんに作品について相談した今監督は、丸山さんから「大丈夫。なんとでもするから心配ない」と言葉をもらい号泣したと、最期に残したブログの記事につづられています。
「ようやく今監督の作品が理解されはじめているのだと思います。彼がやろうとしていたことや彼の才能は時代の先を行っていたのでしょう。20年前はアニメーションはエンターテインメントや芸術として見られませんでしたが、現代は違います。今監督の作品は他の作品と比べても断トツですばらしいアニメでした」と丸山さんは語っています。
Paprika - Trailer - YouTube
「夢みる機械」を完成させるために、丸山さんは今監督亡き後もプロジェクトを進めていましたが、2011年に金銭的な理由でプロジェクトは中断してしまったそうです。それでも既に映画の1500カットのうち600カットはアニメとして完成しているとのこと。丸山さんは2012年時点では「2017年までに映画を完成させるための資金を集めるつもりだ」と語っていましたが、その後は資金の問題よりも「誰が今敏の才能を引き継ぐことができるか」という問題に直面。「今監督は『夢みる機械』の絵コンテを残していました。私は5年の間考え続けましたが、今監督がやりのこしたものを誰か他の人が引き継いで指揮をとってしまうと、それはもう今監督の映画ではないのだとようやく気付きました」と語っています。
実際に、今監督は最期のブログ記事で「何せ今 敏が原作、脚本、キャラクターと世界観設定、絵コンテ、音楽イメージ…ありとあらゆるイメージソースを抱え込んでいるのだ。もちろん、作画監督、美術監督はじめ、多くのスタッフと共有していることもたくさんあるが、基本的には今 敏でなければ分からない、作れないことばかりの内容だ」と苦悩を書き綴っていました。
今監督が「夢みる機械」の物語に隠した「より深いメッセージ」について、丸山さんは原子力に関するテーマが描かれているのではないかと推測しています。一方で、今監督の「千年女優」「パプリカ」などでテーマ曲や劇伴の作曲を担当した平沢進さんは、「夢みる機械」の深いテーマが何であるかははっきりと分かっていないと述べ、「『夢みる機械』が何を示すのかについて、多くの人は映画に登場するロボットを示していると考えるでしょう。しかしその考えが正しいのか間違っているのか、私たちは確かめる術を失ってしまったのです」と語ります。
そもそも、映画のタイトルである「夢みる機械」は、今監督が大ファンだった平沢さんの同名曲からつけられています。
平沢進(Hirasawa Susumu) - 夢みる機械(Dreaming Machine) 1990 Live - YouTube
平沢さんは今監督からの依頼で「夢みる機械」でも音楽を担当する予定でした。例えば、平沢さんが2003年に発表したアルバム「BLUE LIMBO」収録の「帆船108」は、ロボットが何もしゃべらずにただ踊るシーンで用いられる予定だったとのこと。
Sailing ship 108 LIVE - Susumu Hirasawa - YouTube
今監督は音楽を担当する平沢進さんに主題歌や音楽を依頼する際、「自分の作品にはどういうメッセージがあるか」をほとんど明かさなかったとのこと。「今監督は私に対して、彼が映画の背景に設定した深いテーマを一切明らかにしませんでした。彼は私を信頼して、映画のアイデアを聞いた途端に私がすぐに映画の根っこの部分まで理解できると考えていたのでしょう」と平沢さんは語っています。
なお、記事作成時点で「夢みる機械」のプロジェクトがどうなっているのかは不明ですが、それとは別に今敏監督の漫画作品「OPUS」のアニメ化プロジェクトが進んでいるとのことで、テーマ曲・音楽は平沢進さんが担当する旨がTwitterで公表されています。
私は今敏の作品「OPUS」のテーマ曲を依頼され、制作に取り掛かった、と叫ぶから、止めるなら今だ。
— Susumu Hirasawa (@hirasawa)
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