インタビュー

3DCGアニメ映画の匠「スターシップ・トゥルーパーズ」荒牧伸志監督・松本勝監督&「劇場版Infini-T Force」松本淳監督鼎談


2018年2月10日(土)から映画「スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット」、そして2月24日(土)から「劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」と、続けざまに3DCGアニメ映画が劇場公開されます。

この2つの作品を手がけた3人の監督に集まってもらい、お互いの作品について、そして3DCGのことについて、お話をうかがう機会を得られたので、いったい最前線にいる監督たちはどのように作品を作り上げているのか、質問をぶつけてみました。

Q:
お三方は、それぞれお互いの作品はご覧になったとのことですが、いかがでしたか?

「スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット」松本勝監督(以下、勝):
僕が受けた印象は、思った以上にSF色が強いということでした。ヒーローものというと、その部分はちょっとふわっとしそうなところですが、ちゃんと描かれているなと思いました。


「スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット」荒牧伸志監督(以下、荒牧):
僕はテレビシリーズを拝見して、ちょっと直近でインフルエンザにかかってしまったのですが、治ってから劇場版も拝見しました。テレビシリーズと劇場版は、並行しての作業だったんですか?

「劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」松本淳監督(以下、淳):
テレビシリーズの映像作業と劇場版の脚本作業が重なるぐらいのスケジュールで、テレビシリーズを監督した鈴木清崇さんが劇場版もやるのは厳しいということで、僕が担当することになりました。

荒牧:
そういうことだったんですね。Infini-T Forceを見て思ったのは「ルックがおもしろい」ということです。テレビシリーズを含めて、CGアニメというとトゥーンレンダリングが多数派です。僕らがやっているリアルな方向は日本では少数派で、Infini-T Forceはそのどちらでもない方向を目指しておられてすごいなと思いました。試写で最初に見た時には「これは成立するんだろうか」と思いました(笑)

淳:
パイロット版を見た段階では僕もそう思っていました(笑)。劇場版の脚本ができた時点ではまだファイナルのルックがなくて、コンテ作業をしているうちに完パケ映像が上がってきて「なるほど」と。見ているうちにだんだんと違和感がなくなってきて、むしろ、トゥーンシェーダーより味があるなと思うようになりました。

荒牧:
CGらしさを隠さないというか、とても前向きだなと僕は思いました。

勝:
背景も、テレビシリーズだと手描き風のところが残っていたんですが、劇場版だとそうではないという印象があります。

淳:
そこはスタッフもどうするか「綱引き」だった部分で、プロデューサーも「トゥーンシェーダーの方がいいんじゃないか」と考えたりしたそうです。僕としては、テレビシリーズで作ったアセットやワークフローをもとに劇場版を1つ作らせてもらったという感じで、話こそそのまま繋がっているわけではありませんが、テレビシリーズと劇場版でワンパッケージになっているというイメージを持っています。

荒牧:
劇場版では冒頭部分にテレビシリーズのおさらいのようなパートが入っていますよね。あれがあって、みんなが一緒にいるんだという。

淳:
テレビシリーズで登場した「ケース」という魔法のような道具が劇場版にもちょっと繋がってくるというところです。

荒牧:
それを受けて劇場版を担当するというのは大変ではありませんでしたか?

淳:
プロデューサーの中でも悩んだところらしくて、最初はエミを出さないでいこうかという意見もあったようです。


荒牧:
それではあまりにも華がないですね(笑)

淳:
華の問題もありますし、テレビシリーズの最終回があのように終わっているので続きになっていた方がいいだろうということで、この形に落ちつきました。先ほど松本さんから「SFっぽい」とコメントを頂きましたが、これは僕の希望によるものです。僕らの世代は、あの時代のタツノコヒーローはSFという印象があるので、そういった印象を持っている人が喜ぶようなものを入れたいと。

荒牧:
テレビシリーズもSFじゃなかったわけではありませんが、「社会派の話をSF的に描く」というものだったのが、劇場版で王道のSFに振ってきたなという印象です。

淳:
オーソドックスなSFのスタイルで、ある程度「ウソのテクノロジー」を使いつつ、そのテクノロジーに縛られて物語が進んでいきます。テレビシリーズで、いろんな物事が思い通りに進んだりするのはエミの心の中の世界だからではないかと僕は捉えたんです。


荒牧:
なるほど。

淳:
それで……実は僕は「スターシップ・トゥルーパーズ」にはとても思い入れがありまして。


荒牧:
「スターシップ・トゥルーパーズ」には思い入れがある人ばっかりですよね(笑)

(一同笑)

淳:
映画の第1作目はすごく誤解されていると思うんです。僕の弟も「スターシップ・トゥルーパーズ」が好きなんですが、話をしてみると、あの「オチ」に気がついていなくて、「あれはこうなんだよ」と説明すると「ふーん」と。バーホーベンは「トータル・リコール」に比べればわかりやすく撮っているんですが、自分で気がつかないと訴求力がないという部分があると思います。それで、シリーズが作られてきていますが、ハインラインの原作モチーフを作る人が毎回どうひねってくるかというのが見せ場なので、「荒牧さんはどうやるのだろう」と興味を持って拝見しました。

荒牧:
ありがとうございます。……今回はあまりひねってないかもしれない。

勝:
そうですね。むしろ、これまで「続編としてみんなが見たかった」というものとは違う方向に行っていたので、今回は原点回帰して、3人の活躍を描きました。


荒牧:
確かに、これまでずっとひねり続けてきた作品だから、ぐるっと一周回った感はありますね(笑)

勝:
そして、パワードスーツをハインラインの原作に近い形で、と。

荒牧:
原作に近いというか、スタジオぬえが挿絵用にデザインしたものですね。あれが僕らにとってのパワードスーツで、こだわりですから。


淳:
「スターシップ・トゥルーパーズ3」には「マローダー」というパワードスーツが出てきましたが、ちょっと残念な感じでしたよね。

荒牧:
そうですね。現場でスタッフがパワードスーツのことを「マローダー」と呼んでいたので、「マローダー言うな!」と(笑)

淳:
あの3作目の映画で「やっと出るんだ」という期待からの「ああ……そうか……」だったので、今回「そうなんだよ、この感じだよ」とすごく溜飲が下がり、楽しかったです。わかりやすく、権力者がコミカルなところもこのシリーズだなと思いました。

荒牧:
そのあたりは、エド・ニューマイヤーが脚本で入ってくれて「ここまでやってもいいのかな?」と思いながらやっていました。エドは1作目、2作目で脚本を担当して、3作目では監督を務めましたが、3作目のことは忘れてくれと言っていました。

(一同笑)

淳:
エド・ニューマイヤーは、どのようにしてこの作品に関わられることになったのですか?

荒牧:
前作の「スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン」のときにエグゼクティブプロデューサーとして入ってくれて、僕らが面白い映画を作ったと思ってくれたのか、コミコンか何かで会ったときに「次、またやろうよ」と言ってくれたんです。そのときは「きっと社交辞令だろう」と思っていましたが、2年後ぐらいに本当に連絡が来ました。「今回はエドが脚本をやりたがっています」という話で「本当に?」と(笑) 前作でアクションシーンとか色々と頑張って作ったので、あの人、CGだったら何でもできると思っているんです。

(一同笑)

荒牧:
「理屈ではできるけれど、予算が……」ということを説明するのが大変でした。今回、そういうことにならないように、松本さんを中心としてプロットを作ってもらってエドに渡したんですが、半年後にものすごく膨らんだシナリオが帰って来て「できないと言ったでしょ!」(笑)

勝:
「ハイスクール時代を描きたい!」と(笑)

荒牧:
僕からすれば「それはもう実写でやりましたよね。もう1度?」

淳:
そこまでこだわるのは、スクールカーストの絡みがあるのでしょうか。1作目で、どれぐらいバーホーベン監督の意向が入っているか分かりませんが、明らかにスクールカースト上位層に対して悪意がありますよね。学校でスターだったのに、軍隊に入るとムチャクチャにされてしまう。

荒牧:
ありますね。1作目はオランダ出身のバーホーベン監督が、戦争の時に勘違いしたまま戦争を賛美していたヒトラーユーゲントの若者たちの不幸を描こうとしたのだとエドが言っていて、なるほどと思いました。でも、僕らはそこまでの体験や重いものがなくて、表層だけなぞっても深みは出てきませんから、その世界観を現代的な視点で見るとどうなるかということを考えました。今、アメリカのトップはトランプ大統領ですが、当時はそうなるとは思っていなかったので、当時は「まさか」と笑っていたことが意外とリアルに、ということもありました。若い女性がトップに立ってグイグイ行くのはエドのアイデアで、「そんなに若いと説得力を持たせるのが難しいな……でも、見た目が面白いからいいか」。


勝:
支持率だけ気にするというのはリアルですよね。

淳:
支持率が下がってめまいがするという。

荒牧:
「あっ、本気だったのか」って、笑っちゃいますよね。作っていて「こんなにもギャグでいいのだろうか」と思うこともありました。

勝:
我々はこういう方針でいこうと考えを共有しているから大丈夫ですが、現場のスタッフはコンテの指示通りに作業していて「これ、ギャグになりますけれど、コントですけれどいいですか?」って、不安になって聞いてきましたから(笑)

淳:
「スターシップ・トゥルーパーズ」は1作目の映画からそういうところがありましたね。

荒牧:
ギャグシーンかと思ったら血まみれのまま死んでいくとか。

淳:
腕の入れ墨も、わざわざカメラに見せつけるようにプロパガンダ的に撮っていて、伏線は張ってあるんだけれど、最後を見るまで忘れちゃうんですよね。「レッドプラネット」は見ていて、子どものころ、アシモフやハインライン、クラークを読んでいたころのことを思い出して、懐かしい気持ちになりました。


荒牧:
僕のSFはそのあたりで止まっていますね……。

淳:
僕も最近のはあまり読んでいないです。誰かが言っていましたが、SFは読み手側に「未来」があるうちは面白いけれど、読み手側で未来が乗らなくなるとSFではなく時代小説になってしまうと。考えてみれば、あのころのSFはもはや時代小説なんですよね。でも、「ブレードランナー」の続きの「ブレードランナー 2049」や、クラーク的なSF映画が作られているのを見ると、また時代が帰ってきているのかな、オッサンの出番かなとちらっと思いました。僕にとってタツノコヒーローはSFであることが魅力なのですが、劇場版Infini-T Forceで脚本を担当してくれた熊谷純さんは若い方なので、イメージしているものの差があるなと感じました。


荒牧:
僕らの考える「SFっぽさ」と、世代の違う方々の考える「SFっぽさ」自体が違うのかも知れませんね。昔はSF小説、ミステリー小説、ホラー小説と普通の小説とは大きく分かれていましたが、今は溶け合っていますし。

淳:
昔はSFは設定が、ミステリーは手法が独自の魅力だったけれど、一般小説でやるようになると、そういうやり方がやりづらくなった、というのもあるかもしれません。

荒牧:
昔はSF小説というと何も知らない世界のことを知りたいから読むことが多かったですが、今はあまりにも誰も知らないことをやるとついてこられなくなってしまうんですよね。「レッドプラネット」でも、当初はどことも知れない遠くの世界でバグと戦う話だったのですが、火星になったのは松本君のアイデアです。地球でもよかったんですが、それだとコストがかかりすぎるので、火星なら距離もそう遠くないから大丈夫だろうと。

勝:
リアリティを持たせたかったので、若干身近になりつつある存在の火星を選びました。

Q:
CG表現はいかがでしたか?

淳:
ちょっと離れたところからの話になりますが、僕は日本のアニメも、「トムとジェリー」やディズニーのような海外のアニメも同じぐらい好きなんです。一時期、ちょっと有名な方がディズニー批判をしたことで僕よりちょっと下の世代のスタッフがディズニーを見ずにだめだと言っていたころがあり、「リトル・マーメイド」や「アラジン」が出て再評価されるという流れがありましたが、僕は子どものころから見ていたから、ディズニーの明暗表現・ライティング表現は素晴らしいので日本でもあれができればとずっと考えていました。自分が担当する仕事でもやろうと思うのですが、スタッフもやり慣れていないことですし、影を移動させるとキャラクターが崩れて見えてしまうということで、頻繁にはできませんでした。

荒牧:
今あるワークフローにはまらないというのはありますね。

淳:
ところが、CGだとどっちみちライトを当てなければいけないから、いろんなライティングができます。僕はアニメと同じぐらい実写も好きなので、それができてとても嬉しかったです。カメラに関しては難しいなと思いました。手描きアニメもですが、カメラを動かすとフリッカーが起きてしまうので、今回、カメラの動かす速度を落とした部分もありましたし、「実写でもフリッカーは起きているからいいか」と納得した部分もあります。

荒牧:
ありますね、リアルなんだからそれでいいじゃないかと(笑)

淳:
「七人の侍」を4Kデジタルリマスターすると、映像がクリアになりすぎて、劇場で上映するとフリッカーだらけになってしまうらしいです。そういう話を聞くと、劇場でも24フレームではなく30や60にすればフリッカーは起きず、もっと自由にカメラを動かせるなと思いますね。

荒牧:
「ホビット」ではHFR(ハイフレームレート)上映があったので見に行きましたが、大群衆が戦っている中をカメラが動いていっても、みんなが何をしているかがわかります。通常ならブラーで見えなくなってしまう、ロングショットの小さなキャラクターが「転んでやられそうになったけれど助けられた」というところまで見えますから、「これは怖いな」と思います。

勝:
むしろ、ブラーでごまかす部分もありますからね……。

Q:
絵作りが実写映画のようだったり、日本のアニメのようだったり、ミックスされたものを感じました。

淳:
僕はよく、コンテが実写っぽいと言われることがあります。

荒牧:
極端なアップショットは少なめで、結構、引きで見せることが多いなと思いました。

淳:
それは、モーションを手付けするよりも、アクターの人の動きをそのまま活かした方がスケジュール短縮に繋がるだろうという実利的な考えもなかったわけではありませんが(笑)、普段、机にかじりついている仕事ですから、目の前で俳優さんが動いているのを見て、その迫力をできるだけ活かしたいという思いからですね。


淳:
ちなみに、「レッドプラネット」はモーションキャプチャーはどこでやられたんですか?

荒牧:
スクウェアエニックスで、脚本は英語なのでアメリカの役者さんをオーディションで選んで、2週間ぐらい来てもらいました。。

淳:
アクションコーディネーターの方は日本の方ですか?

荒牧:
いくつかアクションコーディネーターの方に入ってもらったシーンは日本のスタントチームがやりました。銃を撃ったりする姿は役者さんがやっています。

淳:
喋っているシーンなどを見ていて、これは日本の役者さんではなさそうだなと思っていました。

荒牧:
リアルなキャラクターを日本人がやるのとアメリカ人がやるのでは大きな違いがあると僕は感じています。ある程度、アニメっぽいキャラクターになるとその差は小さくなると思いますが。

淳:
Infini-T Forceではキャラクターごとにモーションアクターを分けましたが、レッドプラネットではどうでした?

荒牧:
基本的には同じように「この役は必ずあなたが担当して下さい」という割り振りはありましたが、役者の絶対数が少ないので、シーンがかぶらないように配役し、兼役してもらっています。今回、実際にモーションキャプチャーにも立ち会われたんですか?

淳:
テレビシリーズでは別の場所で動きを固めた上でのモーションキャプチャーだったのですが、劇場版では役者さんたちが慣れたということもあって、動きの確認を終えたらすぐに本番という形で進めていきました。僕は仕事があまり早い方ではなく、レイアウトで5mmずらすか1cmずらすかを1日考えたりすることもあるのですが、モーションキャプチャーは目の前で役者さんが演じて、その場でいろいろな判断をしていかなければいけないので、初めての体験でもありましたし、実写の演出をする人は大変だなぁと思いました。

荒牧:
モーションキャプチャーだとカメラとか決めなくてもいいので僕は大好きで、いくらでもやっていたいぐらいです(笑)

淳:
俳優さんのアドリブというか、コンテや脚本の指示にない演技で救われたシーンもありました。

Q:
先ほど、モーションキャプチャーが初めての体験でというお話がありましたが、他になにか、今回初めて挑んで大変だったことなどはありましたか?

淳:
「戦闘妖精雪風」の立ち上げの時期に手伝いをしたり、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」をやったことがあるので、3DCGが初というわけではなかったのですが、背景まで3DCGというのが初だったので、ライトやカメラワークでいろいろなことができるし、もっと計算してやらなければいけないなと感じました。

Q:
計算というと、どういった部分でしょうか。

淳:
予想以上に見えたり、予想以上に見えなかったり、ですね(笑) たとえば、キャラクターの周辺を360度回り込むようにカメラが動くところで、途中でちらっと見えるべきものが、フリッカーが起きて見えなかったりするんです。

荒牧:
印象づけるために見せたいものだったりしますよね。

淳:
アニマティクスの時には見えていたのに、本レンダリングすると見えなくなっちゃったとか、ありますね。

Q:
そういった経験は荒牧監督もありますか?

勝:
実際、よくありますよね。

荒牧:
背景がつくと全然思っていたものと違うということになることがあるので、そうならないように、「アタリを取るためにこういう背景にしておくように」と徹底しています。そのあたりは過去にいくつも辛い経験をしてきましたから……(笑)

勝:
昔はキーライトをどちらにするかという発想もなくて、レンダリングの時に「キーライトはどっちだろう?前のカットがこっちだから、こっちかな?」と言っていたりしたぐらいですから。

荒牧:
そうなると、アニマティクスでは見えていたものがまったくの影になって見えなくなってしまったりするんです(笑) キャラクターと背景とエフェクトをバラバラにチェックしていて、「じゃあまとめてみて」と、まとめたものを見てみると「なんだこれ」なんてこともあります。「あんなにも一生懸命背景を作ったのに、人の影になって見えないじゃないか」というのはあるあるですね。最初のころはプロセスが分かっていなかったので……。

Q:
今回、挑戦して難しかった、なかなか苦労させられたというのはどういった部分でしょうか?

勝:
もうちょっと挑戦したかったなというのは「キャラクター崩れ」ですね。

荒牧:
表情だね。

勝:
カールが捕まって電気ショックを受けて「うわぁぁぁぁぁ!!」というシーンがあるんですが、CGはていねいに作りがちなんです。

荒牧:
イケメンはイケメンのままに、美人は美人のまま崩れないようにと気にしますから、スタッフがブレーキをかけてしまう部分はあります。降下するシーンなんかは、その中でもかなり頑張っていろいろやっています。

淳:
そうですね……これはCGに限らず手描きでもあることですが、ルーティンワークのようによくやっていることであれば伝わりやすいんですが、普段やっていないようなことを伝えるのは難しいなと思います。なので、他の作品を参考として見てもらったり、実際に僕が描いたりして伝えています。

Q:
荒牧監督もそういった点で苦労することはありますか?

荒牧:
僕の場合は、アニメの修正原画と同じように、ムービーをもらって1コマずつバラして、それほどきっちりではありませんが修正を入れたりすることがあります。映像を参考にしてもらうこともありますが、あくまで参考で、僕が思い描いていたものとは違うものになることもありますから。直接的に結果を見せるのはスタッフのためにならないとわかっているんですが、作品作りにおいてはスケジュールも関わってきますから。

淳:
今回、僕も簡単なソフトでちょっと映像を作って渡したりしました。

勝:
これを言葉で伝えようとすると、もっと膨大な分量になる上に、ちゃんと伝わらないんですよね。

荒牧:
同じ言葉から連想するものが別だったりするから、それを埋めるにはモノを作るしかない。だから、僕は言葉で伝えると共に直接描くことで、うまくフォローになっていけばと思います。

淳:
手描きでも描き直しが発生することがありますが、すごくしんどいですし、僕が描けるものしか上がらないんです。

荒牧:
一緒にやるんだから、プラスアルファが出てこないといけませんよね。

Q:
今回、松本監督が自分でやるよりもいいものができたというところはどういった部分でしたか?

淳:
先ほどちょっと申し上げたような、俳優さんのアドリブでよくなった部分があります。それと、バリアーですね。僕はあそこまでディテールを入れる予定はなくて、「何かあるんだろうな」ぐらいになればいいかなと考えていたんですが、専門でやっている方たちだから、もっと手の込んだものをと作り出してくれました。

Q:
レッドプラネットではいかがですか?

荒牧:
苦労したシーンとも共通しますが、今回は松本さんと一緒に「バグが地平線まで埋め尽くすようなものをやろう」ということを目標に、そのためのソフトや人材を揃えて、シーンも予定してきましたが、理屈上はすべてがバグになるということはわかっていても、なかなかバグにはならないんです。ずっと、「この四角い塊がバグになりますから」と説明を受けてきて「それで、いつバグになるの」と(笑) ようやくできあがってみたら、バグの手足がみっちりと絡み合うぐらいにバグがいて、「これは……嬉しいけれど、ちょっといすぎだろう」と心配になっちゃって


(一同笑)

荒牧:
それでちょっと間引いて、完成したものを見てみたら「……あのとき、間引きすぎたかな」と(笑)

Q:
なるほど(笑) これはちょっと技術的な興味もあってお伺いするのですが、CG World Vol.234掲載の「映画『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』」特集内のインタビューで、松本監督は「近年はウェブ上やスマートフォンでの閲覧が多いので、圧縮がかかってもきちんと見えることを意識して詰めています」と語っておられます。これはどういったことですか?

荒牧:
「圧縮しやすいようにする」(笑)

勝:
フィルムにはノイズが乗っているので、いろんな媒体に持っていっても、ノイズがいい感じに役立って、拡大しても圧縮してもそれほど劣化せず、グラデーションがきれいに見えるんです。ところが、デジタルだとマッハバンド(明度差が大きいときに見えてしまう境界線)が出てしまんです。そこで「銀残し」的なことをデジタルで再現してみる、というようなことです。

淳:
それはカラコレの段階ではなく、コンポジットの段階でやるんですか?

勝:
どこでやるかというのも、いつも綱引きです(笑)

荒牧:
本当は最後の最後まで情報は生のまま鮮度を保った方がいいんですが、早めにちゃんと手を入れないといけないんです。

勝:
カットを作る時にやるとレンダリングコストがかかるし、編集の時にやっても「1週間下さい」となってしまったりするしで、綱引きなんです。

Q:
同じインタビュー内で、ドルビーのスタジオでグレーディングを行った際のことで「映像スタッフから『この作品はきちんと作られていて、よく起こりがちな破綻が少ない』と好評で、さすが松本さんだと思いました」と書かれている部分があります。よく起こりがちな破綻というのはどういったものなのですか?

荒牧:
これはHDR作業で、色域をばっと広げる作業をしたときの話で、乱暴な絵作りをしていると、階調が増えると変なノイズやマッハバンドが出てしまうものなんです。それはよく出るものだと聞いていたから気をつけて作業したので、暗部の階調もちゃんと出たという話ですね。

Q:
なるほど、腑に落ちました。いろいろと細かい所のお話まで、ありがとうございました。

映画「スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット」は2018年2月10日(土)から2週間限定上映中。

スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット 本予告 - YouTube



2018年2月24日(土)からは「劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」が公開となります。

「劇場版 Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」本予告 - YouTube


非常に高いクオリティのフル3DCG映画を連続で見られるチャンスなので、ぜひ興味のある方は劇場へ足を運んで下さい。「Infini-T Force」は座席指定のできる前売券・ムビチケカードも販売中。


購入特典クリアファイルは、エミと健たちがケーキを作ろうとしている姿を描いた描き下ろしイラストを使用しています。


◆スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット
・キャスト
ジョニー・リコ:小山力也
ディジー:上坂すみれ
カール:小野賢章
カルメン:喜多村英梨
エイミー:内田彩
ババ:寺島惇太
=LOVE、ほか

・スタッフ
監督:荒牧伸志、松本勝
脚本:エド・ニューマイヤー
プロデュース:ジョセフ・チョウ
エグゼクティブ・プロデューサー:キャスパー・ヴァン・ディーン、エド・ニューマイヤー、鎌形英一
プロデューサー:西雅太郎、橋本トミサブロウ
音楽:高橋哲也
制作:SOLA DIGITAL ARTS
企画・製作:Lucent Pictures Entertainment、Sony Pictures Worldwide Acquisitions
配給:KADOKAWA
絶賛公開中
© 2017 Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc., All Rights Reserved.

◆劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ
・キャスト
ガッチャマン/鷲尾健:関智一
テッカマン/南城二:櫻井孝宏
ポリマー/鎧武士:鈴村健一
キャシャーン/東鉄也:斉藤壮馬
界堂笑(エミ):茅野愛衣
南部博士:船越英一郎
コンドルのジョー/ジョージ浅倉:鈴木一真
佐々岡:遠藤綾

・スタッフ
監督:松本淳
シリーズ構成:熊谷純
音楽:やまだ豊
キャラクターデザイン原案:大暮維人
ヒーローデザイン原案:さとうけいいち
スーツ・メカニックデザイン:中北晃二
配給:松竹
2018年2月24日(土)全国ロードショー
© タツノコプロ/Infini-T Force製作委員会

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