インタビュー

「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」音響監督・吉田知弘さんインタビュー、柏原満さん制作のオリジナルSEを蘇らせた音の守り人


1978年8月公開の映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」、および1978年10月から放送された「宇宙戦艦ヤマト2」のリメイク作品として、全7章構成で制作・劇場上映されている「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」。2018年1月27日(土)からは、ちょうど作品の折り返し地点にあたる第四章「天命篇」が公開となります。

今回は、前作である「宇宙戦艦ヤマト2199」から引き続き音響監督を担当している吉田知弘さんに、そもそもどういった仕事を担当しているのかという基本的なところから、音楽について、効果音について、アフレコについて、などなど、様々なことを伺ってきました。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち
http://yamato2202.net/

Q:
まずは、本作「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」に関わる音響監督として、どういったお仕事をしているのかというところから教えていただけますか?

吉田知弘さん(以下、吉):
言葉で説明するのはちょっと難しいのですが、キャストや音楽・BGM・効果音、スタジオ周りの段取りを含めて、「音」全体のイメージ形成から実際の運用まで携わっていて、監督と相談しつつ、その希望を具体的に音として表現していく過程にすべて立ち会う、という仕事です。

Q:
「BGM」の部分に関しては、どの音楽をどういった場面で使うかということも含めての作業でしょうか?

吉:
そうですね、「この音楽をつけよう」と考えるのも僕らの仕事です。作品によって関わり方は様々で、作曲家を誰にするかというところから参加する場合もありますし、録音に立ち会う作品、立ち会わない作品があったりします。他には、「こういう曲を作って欲しい」という一連のメニュー出しもします。

Q:
音楽は宮川彬良さんが担当されていて素晴らしい曲が揃っていますが、「どういう曲が必要か」という点も、吉田さんが宮川さんとやりとりをするのでしょうか。

吉:
まず、監督の羽原信義さんの意向を聞いた上で、その時点でできあがっているシナリオを読み、どういう音楽や世界観にしていこうかということを考えます。僕自身がヤマトの大ファンなので、シナリオを読んでいると「ああ、羽原さんたちは、昔のこのシーンをイメージして作っているんだな」と感じるところがあります。

「2202」は「宇宙戦艦ヤマト2」「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」がベースになっていますし、これまでやって来た「宇宙戦艦ヤマト2199」のイメージも壊してはいけないので、そこから最終的にどんな全体像を作り上げるか。「2199」の時もそうだったんですけど、昔の音楽を大事にしつつも、新しく作られた設定やストーリーを掘り下げた部分、変更した部分には彬良さんに新しい曲を書いてもらって、全体を埋めていくという作業をしています。


Q:
なるほど。

吉:
「ヤマト2」「さらば」を担当していた西﨑義展プロデューサーは、音楽となると「使うか使わないかわからないけれど、とにかくいっぱい録る」という方でしたから、当時録られた曲がなんと200曲+パイプオルガンという膨大な数でして。「宇宙戦艦ヤマト 完結編」に至っては、2時間の映画のために、新曲だけで10時間分も録りましたから、「そりゃ、いい曲もいっぱいあるよ」と(笑)

(一同笑)


でも、今そんな作り方はできないので、スケジュールや彬良さんの体力のことも考えて、200曲の候補をどう現実的な数字に落とし込んでいくかを考えました。そして、シナリオを読み、僕の中で昔の曲が聞こえてきたシーンをざーっと洗い出して、ひとまず60曲まで絞り込みました。しかし、昔の曲を録り直すことや、新曲が加わることを考えると、これでも無理だろうということで、さらに泣く泣く絞って、「ヤマト2」「さらば」のBGM部分で録り直すのは40曲+パイプオルガンにまで絞り込みました。

Q:
宮川さんが「2199の曲を作るにあたっては、旧作のスコアがなくて書き起こした」と仰っていて、今回もそういう作業から入ったというお話があったのですが、それは吉田さんが絞り込んだ40曲に対してということでしょうか。

吉:
そうですね。「2199」の時はほぼ完全なコピーに近いぐらいに元と同じものを作ろうとイメージしていたんですけど、今回は彬良さんが聞いて「ちょっと物足りないな」と思ったら柔軟に足したりアレンジしたり変えてもらってOKです、ということで、彬良さんなりの手を加えた曲になっています。

Q:
吉田さんから見て、宮川彬良さんの音楽の魅力は?

吉:
彬良さんは、やっぱりお父さん・宮川泰さん譲りというか、とっても美しいロマンティックなメロディを書く人です。そして、アレンジのうまさは天下一品で、アレンジで魅せるということに長けている方ですね。今回も新曲はあるんですけども、アレンジ違いだけで非常にバリエーションがたくさんあり、「アレンジの妙」が本当に素晴らしい作家だと思います。


Q:
アニメのBGMをつける時に、つけやすいというか、「合わせやすい」と感じることはありますか?

吉:
ヤマトは合わせにくいです(笑)

(一同笑)

吉:
音楽としての良さ、流れや展開と、ドラマとしての映像の流れの良さをどうシンクロさせるかっていうのが「ヤマト」の肝です。普通のテレビシリーズであれば「戦闘シーンがここからここまでだから、音楽的にはちょっと無理があるけれど、尺に合わせて編集しよう」という部分が出てくるんですが、ヤマトではそういうことは極力なくして、音楽的に無理をしないようにどこまでできるか、ということを追求しています。

Q:
宮川さんが2199に向けて新たに作った曲の1つ「ヤマト渦中へ」について、「曲を作ったときに自分ではちょっと恥ずかしいと思ったけれども、吉田さんに聞いてもらって『これは最高だ』ということだったので採用した」というお話がありました。吉田さんとしては、「ヤマト渦中へ」の第一印象はいかがでしたか?

吉:
60人単位のオーケストラが彬良さんの「いっせーのせ」で振った瞬間に「うおおおおお、来たああ!」みたいな(笑)、そのぐらいの気持ちでした。ヤマトには「ヤマトのテーマ」のアレンジがいくつかあって、その後「ヤマトよ永遠に」のときには「未知なる空間を進むヤマト」っていうアレンジ曲も生まれたんですが、彬良さんには「これらを超える物を」っていうオーダーをしたんです。過去にあれだけ散々アレンジされてきた曲なのですが、それを見事に超えてくれて、やはりアレンジの妙だなと思います。

Q:
「超える物を」という無茶振りに見事に応えた曲だったんですね(笑)。羽原監督からは、音楽面に関して強い要望や、方向性の指示というものはありましたか?

吉:
最初に羽原さんと音楽に関する打ち合わせをしたときに言われたのは、「パイプオルガンはBGMではなく、サーベラーが実際に弾いている」という話と、「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」の時にはガトランティスに「蛮族感」があったけれど本作ではちょっと薄まるという話があって、あとは「昔をオマージュしているシーンは、音楽も昔のオマージュでOKです」ということでした。

Q:
「蛮族感」に代わる、ガトランティスの新しいイメージについて、何か具体的な指示はありましたか?

吉:
「さらば」や「ヤマト2」のイメージに近いです、というお話でした。

Q:
新規曲のメニューを作ってオーダーする、というお話でしたが、新規曲の傾向に「2199」と「2202」で違いはありましたか?

吉:
基本的な考え方としては、旧作では描いていない新しいものだったり、新たに掘り下げたりした部分に新曲をつけるという意味合いでは一緒なんですけども。「2199」の時は、昔はデスラーはフィーチャーされてたけど、ガミラスという国家自体はあんまりフィーチャーされていなくて、「では、ガミラスという国家を描くものを作ろう」というコンセプトがありました。「2202」はその逆で、ガトランティスは民族としては描かれていたけれど、ズォーダー個人の掘り下げはなかったので、ではズォーダーの曲を作っていこうということでした。「埋めていく」という基本コンセプトは同じですね。

Q:
「2202」のために彬良先生が書き下ろした新曲として、旧作からの引き継ぎでは足りないので補おうとした面、例に挙げると「2199」では艦内の安らぎの音楽、日常描写の音楽がかなり足されていましたが、今作で新曲が補おうとした部分というのは何でしょうか。

吉:
そういう意味では、あまりないかなと思います。

Q:
旧作の楽曲が200曲もあると、わりと全体をカバーできたという感じでしょうか。

吉:
そうですね。今回はその時に新しい要素を補えればOKという感じでした。

Q:
「2199」「2202」と、実際にご自身で音を選んでつけられる立場になった時、「あの曲は入れたい」という思い入れのある曲はありますか?

吉:
そんな曲だらけです(笑)

Q:
なるほど(笑)。その状況からだと、「さらば」「ヤマト2」の曲を40曲にまで絞らなければいけなかったのは大変なのではないですか?メニューのことを考えると、どうしても入らない曲もあったのでは……。

吉:
もう、泣く泣くカットした曲がいっぱいあります。

Q:
先ほど、吉田さん自身もヤマトの大ファンだというお話がありましたが、ヤマトを好きになるきっかけはなんでしたか?

吉:
小学生の時に「侍ジャイアンツ」を見ていて、日曜のあの時間は日本テレビを見るという習慣がついていたんです。それで、「侍ジャイアンツ」が終わった翌週、次の番組をそのまま見ていたら「あれ、主人公の声が一緒だ」というところから入っていきました。なので、ちょっと変な子どもだったかもしれませんが(笑)、そのままヤマトに自然と入り、どっぷりとドはまりしてしまいました。

Q:
大ファンになるに至った、気に入った部分はどういった部分ですか?

吉:
ヤマトのデザインも、色使いもすごく好きでした。全体的な総合芸術感、いろんな才能がひとつに結集しているという感じに、すごく共感できました。

Q:
このお仕事をするきっかけというのは何でしたか?

吉:
うちは両親に加えて祖父も銀行員という「銀行員一家」で、わりと真面目に「ちゃんと働いて、稼いだお金で趣味をしなさい」という教育をずっと受けてきたのですが、どこかで「ちょっと違うな」と思う時期がありました。そのタイミングで、僕の中学・高校の大先輩に「ヤマトよ永遠に」などで音楽ディレクターをずっとやってた人と一緒に仕事をする機会があり、いろいろやっていたら、いつの間にか推薦されてOVAの「YAMATO2520」とか、1995年ごろにヤマトのCDがまとめて出たことがあるのですが、あのあたりの仕事をやらせてもらうことになりました。本当に人の縁というのは不思議なもので、気がつくとヤマトに吸い寄せられていました。

Q:
ヤマトシリーズの音響監督としては「宇宙戦艦ヤマト 復活篇」から参加されていますが、ファンとして参加することになったときの思いはいかがでしたか?

吉:
もちろん嬉しかったですし感慨深かったですが、プレッシャーと、「本当にいいの?」という思いもありました。音響監督の道に入ったのも、最初は音楽ディレクターとして雇われてウエストケープコーポレーションに入り、CDの仕事や、音楽の録音・発注、BGM選曲、制作の過程や現場の流れなどを学ばせてもらう中で、高校時代に演劇部にいたということが知れ渡ったことで「じゃあ、音響監督を目指せるよね」みたいな空気になったからでした。それで紹介されたのが、アーツプロの本田保則さんでした。実は、今まで自分の意思では仕事を選んでいないんです(笑)。全部、人から言われていて「あっちの水が甘いよ」と言われたらそちらへ行くというような人生で、気がつくとヤマトにいた、という流れなんです。

Q:
音楽ディレクターとしてヤマトに吸い寄せられ、音響監督としてもヤマトに吸い寄せられたんですね。「復活篇」のあと、「2199」「2202」でも音響監督を担当されたのもまた必然だった。

吉:
「復活篇」をやっている時点で「2199」も動いていて、西﨑義展さんから「じゃあ『2199』も一緒にやろうね」と言われていました。


Q:
仕事については、もともとご自身で「音楽や音響の方向で仕事をしたいな」と思っていたのでしょうか?

吉:
趣味としてはがっつり「音楽」でした。高校の時は演劇部にいましたし、大学でも放送系のサークルに入っていましたが、あくまで趣味は趣味と切り分けていて、仕事は真面目にと考えていました。

Q:
それが、ご自身でもおっしゃっていたように、ズルズルと引き寄せられていったと。

吉:
こういう運命、星の下に生まれたんだろうなと思います。

Q:
音響監督には、演劇部にいたという経験を話したら推されていたというお話でしたが、「乗るしかないな」という気持ちでしたか?

吉:
「ヤマト」となったら、断る理由が何もなかったですね(笑)

Q:
それまでは音楽ディレクターを担当されていたとのことですが、音響監督をやってみようと考えたことはありませんでしたか?

吉:
うすうすは、というぐらいです(笑)。ただ、音楽ディレクターとしてもやることはたくさんありましたし、それだけで完結する職業ではあるので、その先をどうするかまで考えていなかったのは事実です。

Q:
ちなみに、音響監督自体をやるようになったのはいつごろからですか?

吉:
アーツプロで、本田さんのもとで下積みをしたり、本田さんの代わりをやったりしたあと、独り立ちした作品は「プリンセスナイン~如月女子高野球部~」ですね。NHKで放送された、女の子が甲子園を目指すアニメで、テレビシリーズとしてゼロから立ち上げた作品でした。

Q:
吉田さんは、「復活篇 ディレクターズカット」では効果音、SEも担当されているとのことですが、「ヤマト」には柏原満さんの作った特徴的な音が多くあります。「2199」「2202」で使用されたSEは、オリジナルの音をそのまま使っていた部分もあるのでしょうか?

吉:
効果音の話はすごく長くなりますよ(笑)。最初に柏原さんと一緒にお仕事をしたのは1996年で、効果音と音楽だけでヤマトの世界を再現する「サウンド・ファンタジア・シリーズ 宇宙戦艦ヤマト」というCDが日本コロムビアから出たときです。

そのあと「復活篇」のとき、柏原さんにオファーしたのですが「5.1chはちょっとできないよ」ということだったので、部分的にデータだけ使わせて欲しいとお願いしました。その後、「宇宙戦艦ヤマト 復活篇 ディレクターズカット」をやるときに羽原さんと一緒に「昔の音を使おう」という話になり、改めて柏原さんに相談に行ったんですが、やはり「5.1chはできない」と言われてしまって。「音源を他の人に貸す形で」とお願いしたら「貸せない」と断られてしまいました。困ったなと、とにかく柏原さんのところへ日参して、最終的に「では、僕がつける形ならどうですか」と提案しました。これは、自分の首を絞める選択になりましたが(笑)

(一同笑)

吉:
僕の熱意に折れたのか、柏原さんはOKを出してくれました。それからは、ひたすらオープンリールテープで400本ぐらいある素材をコピーする日々が続き、「復活篇 ディレクターズカット」は、最終的な仕上げは専門の方にやってもらいましたが、昔の効果音でやるべきところは全部埋めることができました。「2199」のときも、出渕さんとお話をしたところ昔の音をベースにしたいということだったので、フィズサウンドクリエイションの西村睦弘さんに「このあたりをメインに使っていこう」と僕がコピーした音も渡しました。低音を補強したり、音を広げたりという部分の処理は西村さんが頑張ってくれて、今の音として成立するように作ってくれました。

Q:
ということは、吉田さんがいなかったら、あのオリジナルの音を聞けなかったということですね。

吉:
そうかもしれません。

Q:
400本のライブラリのコピーはかなり大変な作業だったのではないかと思いますが、吉田さんとしてはどうでしたか?

吉:
聞いている時は至福の時です(笑)。ただ、劣化してしまっているので、テープを乾燥させたり、全部クリーニングしたり、つなぎ目のテープを全部貼り直したりするのにものすごく手間がかかって、全部処理するのには2年ぐらいかかりました。中には幻の音があったりして「ラッキー」と思いながら作業していました。

Q:
この作業をくぐり抜けたからこそデジタル化されて、後世に残ることになったということですね。

吉:
そうですね。おかげで、今は「あの時の音ってありますか?」とメールが来たら、30分後ぐらいにはデータを返せるようになりました。

Q:
新たに付け加える必要のあったSEはありましたか?

吉:
当時の音をそのまま使うということはほとんどなくて、ほぼ全ての音には何らかの手が加わっています。柏原さんの音作りも、Minimoog(ミニモーグ)というシンセサイザーの音に、実際に収録した生の音を加えて、エフェクトをかけたり、ピッチを下げて半分のスピードで再生したりと、いろいろ混ぜて1つの音が生まれているんです。新しいSEをつけるにしても、このファンタジーを感じさせるシンセの音とか、根底のところは大事にしていこうという話はしていました。

Q:
今では再現が難しい音もあるのでしょうか。

吉:
「この音どうやって作ったんですか?」って柏原さんに聞いても「覚えてないなあ」って言われてしまうんですけれど(笑)、本当に信じられない音作りです。機材も含め、あの当時だからこそ作れた音といえます。「今のマイクではきれいすぎてこんな音は録れません」というものもありますし、当時のエフェクターならではの音だったりもします。

Q:
「元はこの音だったのか」という意外性のある音はありますか?

吉:
結構いろいろとありますけれど、たとえば、ヤマトのベースはジャンボジェットなんです。

Q:
ジェットエンジンを噴射する時の音ですか?

吉:
飛行音です。それを半分のスピードで再生し、さらにいろんなシンセを足したり、加工したりしています。

Q:
気になるのは波動砲の発射音なのですが、どういう風に作られたのかわかりますか?

吉:
素材が何かというのはわかりませんが、ある程度できあがった状態のデータはありました。波動エンジンの音なら、テープを日付順で聞いていくと、作られていく過程がすごくよくわかりました。とんでもない発想ですよ。柏原さんの音は、多分最初に「こういう音を作るんだ」というイメージがちゃんと本人の中にあって「じゃあそれをどう作っていこうか」というプロセスで生まれているんだと思います。「いろいろいじっていたらいい音ができちゃった」ではないので、どうしていくのかというプロセスがよく見えるんですが、最初にその音を思いつく所がすごいんです。柏原さんは小説をたくさん読んでいるので、自分の頭の中で音をイメージする訓練をして育ってきたんだろうなと思います。

Q:
音ができあがっていく過程は、ぜひ聞いてみたいですね。

吉:
時間があれば、そういうのも整理して聞いてもらう機会があるといいなと思います。


Q:
先ほど、テープを整理していたときに「幻の音があった」という話がありましたが、元のテープが400本もあると、「幻の音」も結構な数なのでしょうか。

吉:
泣く泣くオミットしたんだろうなという音が結構ありました。

Q:
それを吉田さんがどこかで復活させることはあったのでしょうか?

吉:
「復活篇」のときに「もったいないから使っちゃおう」みたいなことはありました(笑)

Q:
音響監督としての仕事の1つとして、アフレコ現場での声優さんへの指導があると思います。「第三章 純愛編」は感情のあふれ出す濃密な演技が詰まった章だったので、アフレコ現場は大変だったのではと想像したのですが、実際はどうだったのでしょうか。

吉:
基本的にあれだけの大ベテランをそろえているので、昨今のアニメとは違い、そんなに多くを語らなくても勝手にやってくれます(笑)

(一同笑)

Q:
いわゆる演技指導は、羽原監督がつきっきりで見て、逐次足されるような形なのでしょうか。

吉:
アフレコには常に羽原さんと福井さんがついてくれていて、思いは同じでも表現を抑えたり、強弱を変えたパターンを試してみたりして「やっぱり、さっきの方がよかったね(笑)」なんてやりとりもある中で進めています。

Q:
豪華な声優陣ですが、実際アフレコの雰囲気を見ていて感じることはありますか?

吉:
「昔のアフレコに近い」というイメージはあります。最近のアニメだと、リハ用のVTRと台本が用意されるので、自分で役を作ってくることができるんです。その代わり、いざテストで合わせると、それぞれが自分1人で作ってきているのでちぐはぐになっているというケースもあります(笑)。そうなったときに、自分で作ってきたものを崩すのもまた大変だったりします。昔は、ひどいときは台本もその場で渡されて、映像も初めて見る状態で、現場でみんなで生み出していくということがありました。今の40代以上の声優さんはそういう経験をして育ってきた人がほとんどで、生の掛け合いによって生まれてくる良さというのもあるなと、強く感じます。

Q:
キャスティングに関して音響監督が判断する面というのはありますか?

吉:
本作でいうと、ほとんどが「方舟」からの引き継ぎですが、それ以外のキャラクターに関しては、羽原さんからイメージを伝えてもらっていて、スケジュールが合えばなるべく希望に添ったキャスティングに決めました。合わない場合、そのイメージを踏まえた上で、僕から「この人はどうでしょう」と提案して、そこから選んでもらいました。完全にお任せというキャラクターもありました。

Q:
掛け合いといえば、「第二章 発進篇」に出てきたヤマトとアンドロメダがニアミスするシーンで、「衝撃に備え!」というセリフは吉田さんが「同時に録ったほうがいい」と、普通は別録りの所を、同時収録にするよう采配したという話をうかがいました。

吉:
はい。アフレコ時に映像が完成しているわけではないので、後処理のことを考えると、重なっているセリフは分けて録った方が楽ではあるんです。でも、どうしてもライブ感が失われてしまうことになり、それはやはり避けたいので、可能な限り別録りは少なくしています。

たとえば、通信で会話をするシーンだと、片方は通信音声なのであとでスピーカー加工することになります。なので、別録りの方が楽なのですが、声を重ねないように、ちょっとお芝居でタイミングをずらしてもらったり、どうしても重なってしまうという場面でも、会話として成立する範囲でちょっとずらしてもらったりして同時収録しています。自己満足なのかもしれませんが、そういう「空気感」はあると思います。

Q:
そういった技は、多くを語らなくてもやってくれるベテランの多いキャストならでは、ですか?

吉:
はい、他の作品でも何度もご一緒している方たちばかりなので、お互いの信頼関係で生み出していくという感じです。

Q:
キャストで、この役者さんがいて助かったという方はおられますか?

吉:
これは「みんな」ですね(笑)。小野大輔くんにしても、桑島法子さんにしてもすごく頑張ってるし、石塚運昇さんもやっぱり艦長として、うま~くまとめてくれているし、プロフェッショナルたちが1つのものを生み出していくんだという思いを、アフレコ時には毎回感じています。

Q:
現場が「昔のアフレコに近い」というのは、録り方として、ヤマトでやっているようなスタイルがあまりないからなのでしょうか?それとも、こういったキャストの揃う作品があまりないからでしょうか?

吉:
最近は若いキャストが中心の作品が多いから、というのはありますね。僕も「ストライクウィッチーズ」などの作品をやっていて、若いキャストには若いキャストなりの良さがあり、未熟さゆえの面白さや新鮮さがあることはわかっています。一方で、経験豊富なベテランが見せてくれる空気感というのは、やはりあの人たちにしか出せないもので、それがヤマトの魅力の1つでもあります。

Q:
「2202」絡みでは宮川彬良さんにもお話を伺ったのですが、その時に「(作曲面で)もがいている姿こそが、イコール『ヤマト』だったということにも今回は気がつきました。『ヤマト』とは『もがき』『あがき』なんだよ」という言葉がありました。吉田さんは、本作で「これはもがいているな」と感じた部分はありますか?

吉:
もう……全部が「もがき」です(笑)

Q:
全部ですか(笑)

吉:
やっぱり、作る側としての視点と、ファンとして見てきた視点が自分の中にあるんです。それは必ずしも一致するわけではないので、その狭間で揺れ動くものがあります。曲1つつけるにしても「昔からのファンはこうしたほうが喜ぶだろうな……でも」とか、そういう所で「本当にそれでいいんだろうか」と、いつも悩んでいます。


Q:
先ほど、西﨑プロデューサーについて、「完結編」の時に「放映時間2時間に対して、10時間分の楽曲を録ってすごい事になっていた」という話がありましたが、どんな方でしたか?

吉:
とにかく「情熱の塊」で、作品に対しての愛情と情熱が人一倍強い方でした。はじめて西﨑さんと仕事をしたとき、僕は20代でしたが、こちらの体力が追いつかないぐらいの情熱を注いで仕事をされていました。「自分がこの年齢になったとき、これだけの情熱を注いでものを作れるだろうか?」と頭が下がる思いで、見習わなければいけないと思いました。

Q:
2018年1月27日(土)から上映となる「第四章 天命篇」の、音響としての「聴き所」はどういったところですか?

吉:
たくさんありますよ!(笑)。「2202」という作品自体、これまでは「2199」の流れをどう「ヤマト2」「さらば」と融合させていくかという点がメインでした。音楽も昔の音楽と「2199」の音楽がベースなので、彬良さんの曲を待っていた人からすると「なぜ流れないんだ」という思いもあったかもしれません。それが、第三章の途中からだんだんとオリジナル展開になってきていましたが、第四章では前面に出てきて、彬良さんの新曲がこれでもかといっぱいかかりますから、新曲を待ち望んでいた人にはたまらない章になるのではないかと思います。お話としても、ズォーダーとサーベラーの関係、デスラーやテレサ、さらにゴーランドやザバイバル、ミルと、異星人オンパレードなので(笑)、みんなの活躍を見て欲しいです。

Q:
「2202」は「さらば」と「ヤマト2」を合わせた作品ですが、先ほど吉田さんが仰ったようにオリジナル要素も出てきていて、この先どうなるのかがまったく読めません。吉田さんとして、この先に期待することなどはありますか?

吉:
曲的な「仕掛け」はまだちょっと言えませんが、今回のエンディングに対して、「さらば」から40年の、僕なりの答えとして用意しています。そこもまた、楽しみにしていただければと思います。

Q:
なるほど。本日はありがとうございました。


第四章「天命篇」公開に先駆けて、これを見れば第三章まで一気に追いつけるというダイジェスト映像と、第四章の冒頭10分がYouTubeで公開されているので、ぜひこの映像も参考にしてみてください。

「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第四章 天命篇」冒頭10分&第一章~第三章ダイジェスト映像解禁 - GIGAZINE

©西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト2202 製作委員会

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