歩行者に優しい道はなぜ経済的生産性が高いのか?
by David Marcu
都市開発にはさまざまな形があり、シンガポールでは地下空間の開発、中国では全体が植物で覆われた街の開発が計画されています。一方で、車道を拡充し大型のショッピングセンターを設置するような都市開発も見られるところ、未来の都市開発を支援するNPO「Strong Towns」の創業者であるRachel Quednauさんは「歩道を充実させた方が低コストで街を経済的に成長させることができる」という主張を行っています。
Why Walkable Streets are More Economically Productive — Strong Towns
https://www.strongtowns.org/journal/2018/1/16/why-walkable-streets-are-more-economically-productive
「歩きやすい街」の経済が発展するというのは、これまでに複数の研究が示してきたところ。2011年に行われた(PDFファイル)オーストラリア全国心臓基金の調査では「歩行スペースの拡張はそのエリアの価値を増加させ、新しいビジネスや土地の賃貸との関連性を持ちます。加えて、歩行やサイクリングの環境を向上させると私有財産の価値が上がるという証拠もあります」と述べられており、2009年にエコノミストのJoe Cortright氏が出した(PDFファイル)報告でも、その土地がどれくらい歩行者フレンドリーであるかを示す「Walk Score」が1ポイント増えると家の価値は500~3000ドル(約5万5000円~33万円)増加すると記されました。
また、サンフランシスコ州交通局は「車で移動する旅行者よりも公共交通機関を使ったり歩いて移動する歩行者の方が1カ月あたりに支出する金額が多い」というレポートを公開しており、これは旅行者が歩き回っている場所が商業的に活性化している現実を見ても明らかです。
コミュニティデザインや土地の価値などに特化したコンサルティング会社・Urban3がアメリカ全土の都市を訪れ、1エーカーごとの課税価格について比較したところ、自動車に親和性がある場所よりもコンパクトで歩きやすい場所の方が1エーカーあたりの課税価格が高いことがわかりました。これは大都市についても小さな町についても言えるとのこと。
アイオワ州デモイン、ルイジアナ州ラファイエット、カリフォルニア州レッドランズ、ミシガン州トラバースシティについて、1エーカーあたりの課税価格の高低を立体的に示したのが以下の図。いずれについても歩行者に親和性のある場所の方が1エーカーあたりの課税価格が格段に高くなっています。
実際に各都市の「歩行者に親和性がある」とされた場所は以下のような感じ。
これらの場所に共通しているのは以下の5点。
・道幅が狭く2レーン以上の車道が存在しない。また駐車場が道のどちらかの脇に存在するので、車が低速にならざるを得ない。
・歩道、そして横断歩道や信号など人が道を渡りやすくなるものが存在する。
・歩行者に涼しさを提供する木陰がある。(カリフォルニア州など気温が高い場所においては特に重要なポイント)
・歩道に面する形でお店があり、通りすがりに入ることが可能。また、歩行者と同じぐらいゆっくりな速度で走る車の運転手の注目も引ける。
・建物の2階以上には住人がいたりオフィスが構えられたりしているので、建物あたりの課税価格はより高くなる。
一方で、自動車に親和性が高い場所の様子は以下のとおり。
これらに共通するのは以下の7点。
・複数のレーンがある広い道路が存在する。道の脇に駐車場がないので車が高速で走れる。
・よく見ると歩道があるが、車が歩道のすぐ横を走っているため、歩行者を招いているようには見えない。
・横断歩道の間隔が広いか、まったく見当たらないため、道を渡りたい人は遠くにある信号まで歩かなければならない。また、交通量のある複数のレーンをまたぐ必要がある。
・歩行者に影を提供する木々がなく、無意味な芝生があるのみ。
・高速の車の中からも判別できるよう大きな信号になっている。
・商業施設の前には巨大な駐車場がある。このスペースを使えば経済的に生産的な施設をもっと建てることが可能。
・建物は1階建て。つまり、課税価格のもととなる収入は1つのビジネスに依存しており、かつ1箇所に集中していない。
上記から見てもわかるように、歩行者に親和的な道路は課税価格やセールスの観点から見て経済を活性化させますが、公共投資が少なくて済むという点も経済的だとQuednauさんは述べています。大きな信号の設置や交通巡査への支払いが必要になる車道の敷設よりも、木々やベンチを設置する歩道の敷設の方が低コストであり、また長期的な維持費も少なくなるためです。
つまり、その後10年、あるいは100年にわたって使える歩道を作れば、少ない費用で地方のビジネスを活性化させることができますが、車道の充実にはコストがかかるだけでなく、支援できるビジネスの数が少なくなりがちです。以下にある左側の写真は100年以上続く建物が並んでおり、多くは1階にお店、2階以上にはアパートとオフィスがあるという構造になっています。一方で右側の写真の建物は車に親和性がある道路脇に作られ、「レストラン」という1つの目的しか持ちません。
Quednauさんは「自動車に親和的な道は一時的に場所を埋めますが10年後には消えている可能性があり、町からお金を逃してしまう」として歩行者に親和的な道路の敷設を呼びかけています。
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