東京~ハワイを30分で結ぶことも可能なスペースXの新型巨大ロケット「BFR」とは?


2017年9月27日から29日にわたってオーストラリアで開催された宇宙関連カンファレンスで登壇したイーロン・マスク氏が、SpaceX(スペースX)が開発を進めている火星移住計画に用いられる予定の超巨大ロケット、コードネーム「BFR」を発表しました。NASAのサターンVロケットに匹敵する全長106メートルという巨大なロケットは、宇宙空間で燃料補給を行って火星に向かうことが可能なほか、旅客機のように地球上で用いることで世界中のどこへでも1時間以内に到達できる乗りものになる可能性を秘めています。

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BFRは、打ち上げ時に用いるブースターと乗員や貨物を搭載する上段ロケットからなる2段式のロケット。スペースXが開発を進めている次世代ロケットエンジン「ラプター」を31基搭載し、機体と燃料、貨物を含めて4400トンもの質量を打ち上げる性能を持つ超巨大ロケットです。


BFRの全長は106メートルで、これまでのファルコン9やファルコンヘビーをはるかに上回る規模の機体となっています。全高もさることながら、直径9メートルという太い胴体も注目すべきポイントです。


実際に貨物や乗員が乗る上段部だけでも長さは48メートルもあり、これはかつてのスペースシャトルを超える長さ。直径は9メートル、乾燥重量は85トンで、最大打ち上げ可能積載量は150トン。また、この機体は同社の「ファルコン9」ロケットのようにミッション完了後に地上に戻って着陸することが可能で、その際に持ち帰ることが可能な貨物量は50トンとなっています。以下の画像に描かれている機体の側には人の大きさが示されており、いかに大きな機体なのかがよくわかります。


機体の底部には合計6基のロケットエンジンを搭載。中央部分には燃料となるメタンと液体酸素を収めるタンクを持ち、先端部分には乗員や貨物を搭載する貨物室/居住空間「ペイロード区画」が設けられています。


ペイロード区画は空気で満たされ、地球上と同等の気圧に加圧されるので、乗員は宇宙服なしで活動することが可能。加圧区画の容積は、超巨大ジャンボ機「A380」の加圧区画よりも大きいものとなっています。また、この区画には40の荷室と広い共用部が設けられており、中央保管庫やギャレー、そして太陽風から身を守るシェルターなどが用意される模様。


タンク部は大きく2つに区切られ、燃料となるメタンを240トン、そして液体酸素を860トン搭載可能。さらに、着陸時に使うための燃料を保管しておくためのサブタンク(ヘッダータンク)が別途用意されています。


底部には、4基のラプターエンジンと2基の地上用ロケットエンジンを搭載。ラプターエンジンは宇宙空間で用いられるエンジンで、推力を20%から100%の間で調節することが可能。ロケットの能力を表す比推力は375秒で、4基あわせて1900キロニュートンの推進力を誇ります。また、地上用ロケットエンジンは地上へと戻って着陸する際に用いられるエンジンで、2基搭載することでトラブルにも対応できる冗長性を持たせているとのこと。いずれのエンジンも、ノズルの向きを変えることができる「ジンバル」を介してロケットに搭載されているので、ロケットが進む方向(ベクトル)を調整することが可能です。


また、このロケットは宇宙空間で燃料を補給することが可能という特徴を備えています。補給の際には、2機のBFRがお尻同士を合わせるようにドッキングし、燃料を搭載してきた「タンカー」から燃料を送り込むようになっています。


世界の主なロケットとの性能を比較するとこんな感じ。最も右に並べられているBFRでは、地球を周回する低軌道へ打ち上げ可能な質量は150トンで、これは史上最大のロケット「サターンVロケット」の135トンを上回る性能。日本のH-IIBロケットは19トン、ファルコン9ロケットで22.8トンなどとなっており、いかにBFRが多くのペイロードを打ち上げ可能かがわかります。


一方、打ち上げにかかる費用順に並べるとこんな感じ。BFRは最も左へと移動しているのですが、これは1回の打ち上げにかかる費用が最も低いことを意味しています。というより、左から4番目までが全てスペースXのロケットで占められているというのも面白いところ。


このような性能を備えるBFRは、人工衛星の打ち上げや国際宇宙ステーション(ISS)への物資供給、月への到達、そして火星探査などのミッションに用いることが可能と語るマスク氏。ちなみに、「BFR」はコードネームであって正式な名称ではありませんが、マスク氏はBFRが意味するところを「Big Fucking Rocket」と驚きの内容を語っていました。


人工衛星を打ち上げる際には、ペイロード能力の高さをいかして重量級の人工衛星を打ち上げられるほか、直径9メートルという大きさをいかして大きな人工衛星を打ち上げることも可能になります。これは、例えばハッブル宇宙望遠鏡のような人工衛星に必要とされる巨大な鏡を、これまでのように分割することなく、1個の完成品としてそのまま宇宙に届けることを可能にします。


ISSにドッキングするとこんな感じ。ISSに比べて非常に巨大なBFRが目をひくほどで、一度に多くの荷物を運んでもISS側が対応しきれないレベルになるかも。


月に再び人類を送るミッションにもBFRは活用可能。特に、地球を周回するだ円軌道上に燃料補給船を用意しておき、後から打ち上げた月着陸船のタンクをいっぱいにして、月へと向かうことを可能にするという特徴を備えます。そして、月でのミッション完了後は、そのまま再び離陸して地球に戻り、再着陸してミッションを完了させることが可能。


大きなペイロードをいかし、多くの物資を送り込むことで月面に宇宙ステーションを建設できるようになるかもしれません。地球よりも引力の弱い月面に基地を作ってしまえば、そこから先の宇宙探査がやりやすくなるメリットも期待できそうです。


火星を目指す時にも、燃料補給が可能な性能が発揮されます。あらかじめ燃料を積んだタンカーを打ち上げておき、後から乗員や貨物を積んだ探査船を打ち上げます。そして宇宙空間で燃料を補給して、そのまま火星へと向かいます。


こんなことを書きながら、実は「打ち上げ直後なら燃料補給は必要ないのでは?」という考えが頭をよぎりました。ある程度火星まで飛んだ段階で燃料を補給するのであればその必要性も理解できるのですが、地球からスタートした直後であれば、燃料もそれほど減っていないはず。

そんな疑問とともにこの仕組みを考えた結果、たどり着いた答えが「打ち上げ時には燃料をゼロもしくは非常に少なくするかわりに、火星までの道中に必要な物資を打ち上げられるだけ満載しておく。そして、宇宙に達した時に、タンカーから燃料を補給することで、貨物も燃料も満載した準備万端の状態で火星に向けて出発する」というもの。つまり、物資と燃料を別々に打ち上げておき、宇宙空間で合体させることで、地球から打ち上げる際の限界を超える搭載量を可能にする、という狙いがあるのかもしれません。

閑話休題。火星への航路についたBFRは、トビウオのような太陽光パネルを広げて船内活動に必要なエネルギーを作り出します。そして、4カ月ともいわれる長期間フライトを経て、ついに火星にたどり着いたBFRは、なんと希薄といわれる火星の大気を利用して減速し、最終的には2基の着陸用ロケットエンジンを使って軟着陸を果たします。そして火星での活動を行う間、BFRは水素と二酸化炭素、そして現地の資源を使う「現地資源利用」(ISRU)と呼ばれる技術を用いて、帰路の際に使う燃料・メタンと酸素を生成します。その際には、金属のニッケルを触媒として水素と二酸化炭素からメタンと水を生成するサバティエ反応の仕組みを利用するとのこと。


そのようにして燃料を補給したBFRは火星からの離陸を実施して地球への帰路につき、大気圏に再突入して逆噴射からの軟着陸を行って帰還することになっています。


この構想についてマスク氏は、2022年までに少なくとも2機の貨物型BFRを火星へと送り込み、水資源の確認や危険因子の調査、そしてその後の月面探査に必要な基礎を構築することを計画。その後、2024年に2機の貨物船と、乗員を乗せたBFRを2機打ち上げて、初の人類の火星着陸を果たすことを計画しています。


初期の段階では、まずロケット打ち上げ施設と簡単な居住空間および付帯施設が建設され……


その後、複数の打ち上げ施設、そして中規模の居住空間などが建設されます。


さらに物資を送り込むことで「街」は拡大し……


徐々に規模を拡大していきます。この段階になると、太陽光パネルや食物生産施設なども作られている模様。


まるで、ゲーム「シムシティ」のように、人工的な設備が次々と作られることになるようで、夢がふくらみます。


近い将来、火星にもこのような「都市」が姿を見せるようになるのかもしれません。


都市拡大をアニメーションにするとこんな感じ。

First opportunity to land BFR with cargo on Mars is 2022, followed by BFR crew and cargo missions to Mars in 2024—supporting the creation of a permanent, self-sustaining human presence on Mars.

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そしてプレゼンの最後、マスク氏は「火星に行けるロケットを作るのなら、それを地球にも応用できるのではないか」ということで、驚きのロケット交通網の構想を明らかにしました。


「Earth to Earth」(地球から地球へ)と題された以下のムービーでは、その構想の内容を見ることができます。

BFR | Earth to Earth - YouTube


朝6時30分のニューヨーク。まだ朝日が昇ろうとしている時に……


何人もの人が海のはしけをわたり、船に乗り込んでいきます。


はしけには「搭乗中」のサインが。行き先は上海で、7時ちょうどに出発予定。


移動距離は1万1897km。それなのに、所要時間はなんと「39分」という、にわかには理解しがたい内容が表示されています。


乗客を載せた船が向かう先には……


巨大な「はしけ船」と、その上でスタンバイするBFR。


搭乗ブリッジからBFRに乗客が吸い込まれていきます。


乗客を載せたBFRが離陸。飛行機のように滑走路を使わず、垂直に打ち上げられる様子は完全に「ロケット」そのもの。


ものすごい勢いで加速し、音速を超えてなおも加速するBFR。最終的には、時速2万7000kmにまで加速するという構想です。完全に宇宙空間に到達したBFRは打ち上げに使われた第1段ブースターを切り離し。その後、ブースターは自力でもとの打ち上げ場所へと戻り、逆噴射を行って着陸して次の打ち上げに備えます。


時速2万7000kmという、国際宇宙ステーションと同じスピードで航行したBFRは一瞬のうちに太平洋を横断して……


上海の海上に浮かぶ「はしけ船」に着陸。所要時間は39分で、上海の時間は夜の7時39分。もはや、どのようにして時差の計算をすれば良いのか、経験したことのない概念に頭が混乱してきます。


このようにしてBFRは、たとえば香港とシンガポールなら22分で結び……


ロサンゼルスとトロントなら24分。


東京からホノルルだとなんと30分。「ちょっと隣町まで行ってくる」ぐらいの感覚で、ハワイ旅行が可能になってしまうという恐るべき構想です。


どうやら、BFRによる交通網は距離が長いほど時間が短縮される傾向にあります。ほとんどの長距離移動を30分以内に収め……


地球のどんな場所にでも、1時間以内で移動することを可能にする夢を秘めているというわけです。


いろいろな報道では「東京からハワイが30分」という内容のみが伝えられていますが、今回明らかにされた構想の主旨はあくまで新しい火星探査計画に用いられるBFRの内容で、地球を移動するための交通手段という役割はあくまでサブ扱いだったというのが、リアルタイムでプレゼンを見た後の印象でした。

実際にこのような「乗りもの」を実現するためにはさまざまな課題をクリアしなければならないとも考えられます。例えば、ひとくちに「時速2万7000kmにまで加速」といっても、その際に乗客にかかる力は相当なものになると予想されます。たとえば、初速ゼロから時速2万7000キロにまで10分で加速するとすると、その10分間にわたって乗客にはおよそ1.3Gの加速度がかかります。一般的な旅客機の加速Gが1G前後といわれていますが、その力が10分間も続くとなると、人によっては気分や体調を悪くしてしまう人が出てくるかも。もちろん、離着陸時や宇宙空間に達した時の安全性が確保されなければならないことはいうまでもありません。

とはいえ、このような課題はクリアされるためにあるとも考えられ、これまでにさまざまな奇想天外な計画を実現してきたスペースX、そしてハイパーループなど「夢の乗りもの」を実現しようとしているマスク氏なら本当に形にしてしまうのでは、という根拠のない期待をしてしまうのも一方では事実。マスク氏は地上版BFRの運賃について「旅客機のエコノミークラス程度に抑える」と語っており、ゆくゆくは空の交通に革命をもたらしてしまうのかもしれません。

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in 乗り物,  動画, Posted by logx_tm