Appleのマウスをデザインした世界有数のデザインファーム「IDEO」のティム・ブラウンが「デザインのやり方」を語る
デザインコンサルティング会社の「IDEO」は、世界でも最も有名なデザイナー集団の一つです。Appleの最初のマウスをデザインしたことで知られるIDEOを率いるティム・ブラウンCEOが、「問題をデザインで解決するやり方」を語っています。
How to solve problems like a designer - YouTube
Appleが生み出した最初の「マウス」
1万ドル(当時のレートで約240万円)で販売されたコンピューター「Lisa」で採用されました。
このマウスをデザインしたのはデザインファームIDEO。
AppleからIDEOが受けた任務はわかりやすいものでした。400ドル相当の装置だったマウスを……
「35ドルで作る」というもの。しかも大量に生産でき、高い信頼性を持たせ、さらには「シンプルなもの」という条件付きで。
こうしてPCになくてはならない存在になったマウスは生み出されました。
それから30年以上経った今では、IDEOは製品をデザインすることはありません。ロサンゼルス市の投票システムやドナー検索システムのデザインなど、IDEOは「ネットワーク」や「体験」をデザインする方向にシフトしました。
マウスのデザインから小学校のプログラムデザインにIDEOの仕事を変化させた要因はたくさんあります。
IDEOのティム・ブラウン氏。
「世の中はすばらしく、美しいプロダクトであふれています」
「家具から電化製品に至るまで、すばらしい製品ですよね?」
「それらをさらに良くするチャンスがあり、やるべきことが多いのは確かです」
「しかし、私が興味を持っているのは『うまく機能しないもの』……」
「それでいて、『社会に大きなインパクトを与えられるもの』です。それらはたいてい『より複雑なもの』でもあります」
1971年にデザイナーのヴィクター・パパネック氏が「Design For The Real World」という著書を出版しました。
その前提はシンプルでした。それは、「クリエイターは工業製品から公害や人口過多などの社会問題に至るまで、同じデザイン戦略を採るべき」というもの。
2001年までIDEOは、その通りにデザインしてきました。プロダクトから現実世界の体験までを同じ戦略でデザインしてきたのです。
そのデザインのステップは4段階あるとブラウン氏は語ります。
第1段階は、「観察」。世界をじっくり観察して、さまざまな角度から観察すること。「『人間工学』について考える場合、人の過ごし方や問いかけ方について、私たちは話し合います。どうしてこんな風にするのか?どうしてこうはしないのか?」
「例えば誰かがジャムの瓶を開けようとして苦労しているとしましょう」
「私たちは、ジャムのフタを再デザインすべきでしょうか?」
「それとも、新しいツールを作り出すべきでしょうか?」
「なぜこんなことが起こるのか?最初のステップは、世の中をじっくりと見ること。そうすることで良い疑問が生まれてきます」
マウスを作るためには、人々がコンピューターを使う様子を観察し、何を望んでいて何を望んでいないのかを知る必要がありました。
そして、それらの答えは時代を経て変化していきます。
当然、その変化に合わせる様にデザインも変わっていきます。
IDEOのチームは学校をデザインするために、ペルーで1カ月過ごしたとのこと。
生徒や親、教師、投資家、政府関係者、ビジネスリーダーに会い……
学習プラン、教室デザイン、技術へのアクセス性、無理なく支払える授業料を決めていく、というプロセスを経ます。
第2段階は、「アイデアを出すこと」。「何ができるか、より良くするものは何か、違ったやり方は何か?私たちは、このアイデアを出す過程を『Ideation』や『Ideamaking』と呼んでいます」
その後に楽しい過程がやってきます。第3段階は「プロトタイプ(試作品)の制作」
「始まりは単純な段ボールモデルを作ったり……」
「ラフなスケッチを描いたり……」
「コンピューターソフトを使ってモデリングしたり。そして、出来上がったものを他人に見せるのです」
プロトタイプは荒けずりなものであることも多いとのこと。例えば、マウスの最初のプロトタイプは「香水の棒」と「バターの皿」から作られたものだったそうです。
第4段階は「試行」
「テストしてみて動かないこともありますが、それはOKです。アイデアを練り直したり、やり直したりする必要があるだけ。そして、その繰り返しです。プロトタイプから学ぶことで、何が機能しないかを理解できるのです。ときにはアイデアを捨てて一からやり直し、新しいアイデアを探し直す場合もあるでしょう」
「このような4段階のループを何度も回るのです。そして、問いかけ続けて、誰かが本当に必要としている何かを手に入れるのです」
「最後の仕上げとなるものは、反復の中から生まれます」
「それは、『ストーリー』です」
「あなたは常に人々に自分のアイデアがどうして面白いのかを説明しようとするのですから」
「デザインという複雑なシステムにおいて必要とされるのは『1つの脳』ではなく、『たくさんの脳』だと私は考えます」
「たくさんの脳によって、さまざまな視点、異なる創造的な貢献、共同作業を得ることで、文字通り豊かで洗練された成果が生み出されるのです」
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