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「ヴォイニッチ手稿」を解読する試み、「世界一ミステリアスな本」には本当のところ何が書かれているのか?


ヴォイニッチ手稿」は作者不明で未解読の言語で書かれており、多数の奇妙なイラストが描かれていることから「世界一ミステリアスな本」と呼ばれています。しかし、歴史学者であり画家でもあるNicholas Gibbs氏は、独自の視点で調査を進めることにより、ヴォイニッチ手稿がどのような本なのかを分析しています。

The solution to the Voynich manuscript | Nicholas Gibbs
https://www.the-tls.co.uk/articles/public/voynich-manuscript-solution/

ヴォイニッチ手稿がなぜ「世界一ミステリアスな本」とされているのかというと、本に書かれている言語が「実際に存在する言語と似たような特徴を持っているものの、誰も見たことがない」ものだったため。これまで暗号学者や言語学者たちがヴォイニッチ手稿の解読に挑んでいますが、まだ完全に解読されるまでに至っていません。そのため、「内容を隠すために意図的に暗号化されているのではないか?」「詐欺師が価値をあげるためにでたらめな言語をでっちあげたのではないか?」「書き言葉として残されていない未知の言語によって書かれているのではないか?」など、数多くの仮説が立てられています。また、著作者が誰なのかも、2017年現在ではっきりしていません。

ヴォイニッチ手稿はどのようにして「世界一ミステリアスな本」になったのか? - GIGAZINE


歴史学者であり壁画家・戦争画家としてイラストの役割について理解しているNicholas Gibbs氏は、2002年にヴォイニッチ手稿と出会ってから、調査を進めている人物。歴史学者でありながら、画家として書物におけるイラストの役割を理解しているという点がGibbs氏のアドバンテージであり、独自の目線でヴォイニッチ手稿がどのようなものなのかを分析しています。

2014年までにヴォイニッチ手稿は放射性炭素年代測定されており、15世紀初頭に書かれたものだと推定されていました。しかし、Gibbs氏によれば、放射性炭素年代測定を行わなくとも手稿に描かれたイラストや、過去に発表された医学書の流れから、時期を特定することは可能とのこと。


Gibbs氏によると、ヴォイニッチ手稿はガレノスヒポクラテスソラノスなど古代ギリシアの医師らの知見と、植物標本集、黄道十二宮、公衆浴場の説明書、プレイアデスの影響についての図解などを統合したものとなっており、中世における健康や治療の参考書と同じ特徴を持っているとのこと。その内容には入浴・衛生学・食・放血・下剤・燻蒸・化粧品などが含まれますが、これらは当時医学として捉えられていました。

特に入浴は古くはギリシア・ローマ時代から治療法の1つとして扱われており、入浴のイラストなどから、ヴォイニッチ手稿の主要なテーマは「医学」にあるとGibbs氏は語っています。また、ヴォイニッチ手稿には裸の女性を調合薬につけているイラストがありますが、これは中世において婦人科医学がそのほかの分野と区別されていたことを反映しているとのこと。

by Jennifer Burk

例えば、11世紀に存在したサレルノ医学校の女性医師でるトロトゥーラは、女性の疾病・疾患を専門としており、幅広い病気の治療法として入浴を勧めていました。トロトゥーラはガレノスやヒポクラテスの医学・健康観を継承しています。彼女の著書である「女性の病気」は15世紀まで教科書として広く用いられることになりますが、そのテーマは婦人科医学・放血・入浴が中心であり、驚くほどヴォイニッチ手稿の内容と似ています。このことから、Gibbs氏はトロトゥーラがヴォイニッチ手稿で描かれている女性のモデルではないかと考えているとのこと。

また、トロトゥーラの影響を受けた本としては、入浴の効果について書かれた「De balneis puteolanis」が挙げられますが、この本では特に「鉱泉につかること」そして「ミネラルウォーターを飲む」ということの利益が記されています。De balneis puteolanisにはイラストも多く存在し、それらはガレノスやヒポクラテスの書物で記されていた睡眠・運動・下剤・放血などを思い出させるものだったとGibbs氏。そしてこれらの描写のいつくかは、ヴォイニッチ手稿でも模倣されています。

一方で、古代ギリシアの医師であるペダニウス・ディオスコリデスの著作である「De Materia Medica(医薬の材料について)」も、広く読まれたが故に模倣されることが多かった書物。5~6世紀に活躍したPseudo-Apuleiusは「Herbarium Apuleius Platonicus」という本の中でDe Materia Medicaの内容を使用しており、植物のイラスト付で「どの病気にはどの植物がいいのか」ということを記しています。

by Ashley Van Dyke

さらに、7世紀ごろに存在した医師Paul of Aeginaは、独自のバージョンの植物標本集を出版します。この本ではHerbarium Apuleius Platonicusのように1つの病につき1つの植物の名前が簡潔に記されており、病気の症状についての文章もつけられていましたが、文章は単語レベルでガレノスの本から盗用したものでした。しかし、この本もまた有名な医学書として広く使われ、トロトゥーラを経て、ヴォイニッチ手稿のイラストへと受け継がれていきます。

そしてヴォイニッチ手稿の中で描かれている占星術もまた、中世では医学として捉えられていたもの。当時の医師は現代の医師と異なり、プレアデス星団といった星の動きや厄日の影響などを信じていました。占星術が、入浴を含めた治療の結果を左右すると見られていたのです。

放射性炭素年代測定により、ヴォイニッチ手稿に使われている羊皮紙は1404年~1438年頃に作られたことが判明していますが、1528年には、さまざまな治療法について書かれた書物が出版されています。「Claudii Galeni Pergameni: Liber De Plenitude Polybus De Victus Ratione Privatorum」というタイトルの本はテキストのみ版のHerbarium Apuleius Platonicusとも言え、同じハーブのリストが記述されていました。

ただし、特徴的なのは、12のハーブのリストをZodiac Manと共に表記していたとのこと。Zodiac Manは中世における十二宮一覧図の特徴の1つであり、人間の体と星座とを結びつけた図解になっています。


ヴォイニッチ手稿においては、Zodiac Manはバスタブあるいはアルバレロと呼ばれる薬の容器に記されており、運動中や入浴中の女性の体にZodiac Manが記されていることもあったとのこと。これらのイラストから、ヴォイニッチ手稿の内容が当時の医学・ハーブ・占星術などを統合した内容になっていることが見て取れます。

さらに、ヴォイニッチ手稿には9つの球体が描かれた図を記す折り込みのページがあるのですが、この図はペルシアの文化の影響を受けながらも地中海のスタイルで描かれているとGibbs氏は見ています。9つの球体は三目並べのように配置されており、それぞれの球体は道でつながっていて、噴水・要塞・風向などが記されています。このようなイラストはDe Balneis Puteolanis、そしてアラブ人が記した医学書「健康全書」でも見られるとのこと。健康全書はヒポクラテスやガレノス、プリニウスの健康観を継承しています。


また、ヴォイニッチ手稿は複数の人物によって記されたのではないかと考えられていますが、これはイラストについても同じ。手稿の中のイラストは卓越したものから素朴なものまで多岐にわたっており、植物のデッサンをした人は深度を理解していますが、一方で植物の導管などを描いたアーティストは深度の感覚がないように見られるとのこと。さまざまな技術を持った複数の職人がイラストを担当していたようです。

これまでのところ分かっているのは、ヴォイニッチ手稿は中世における標準的な治療法や、健康マニュアル、女性における幸福についてなどを1つにまとめた書籍だということ。解読が困難な言語で描かれていますが、一方でGibbs氏はヴォイニッチ手稿の中に「Eius」と「Etiam」という2つのラテン語が含まれていることに気づきました。そして調査を進めていったところ、ヴォイニッチ手稿に書かれているのはラテン語の略字であると推測。ヴォイニッチ手稿の中にある植物標本の略語は、Herbarium Apuleius Platonicusで使われていた略語に相当し、aqはaqua(水)、dqはdecoque(煎じる)、conはconfundo(混ぜる)などを意味しています。

一方で、ヴォイニッチ手稿には植物の名前や疾患の名前が単体として存在せず、参考書としては必須の目次やページ番号が存在しないことが謎を深めているようです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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