インタビュー

原作の持つ良さを2クールの中で最大限生かせるよう制作に挑んだ「サクラダリセット」川面真也監督インタビュー


2017年4月から放送が始まったアニメ「サクラダリセット」は7月から2クール目に突入、不思議な能力を持った人が多く暮らす町「咲良田」を舞台にした物語はじわじわと峠へ向かっていますが、多忙な中で川面真也監督に話をうかがう機会があったので、この作品作りについて、質問をぶつけてきました。

GIGAZINE(以下、G):
まずは、どういう経緯で「サクラダリセット」の監督をすることになったのかというところからお伺いします。

川面真也監督(以下、川):
よくある話なんですが、david productionさんが「ジョジョの奇妙な冒険」をやっていたとき、津田尚克監督と知り合いだったので、コンテをやる機会があったんです。それからdavid productionさんとの付き合いがあったので、「サクラダリセット」をやるとなったときに、david productionさんからオファーをもらったという形です。


G:
いろいろなインタビューを拝見すると「最初は原作のことは知らなかった」とのことですが、オファーを受けてから原作を読んだのですか?それとも、原作を読んでからオファーを受けることを決めた?

川:
読んでからですね。

G:
読んでみて印象はいかがでしたか。

川:
話や作品の雰囲気は好きな方だなと感じました。僕はそれまでにやっていた作品の流れで、同じような系統のオファーをいただくことが多いのですが、この作品だけは少しだけ毛色が違っていました。自分自身、こういった静かで淡々とした作品は好きなので、興味が湧きました。


G:
川面監督は監督として、どういった仕事をなさっていますか?

川:
いざ言葉にするとなると「普通の関わり方」ということになりますね(笑) 僕は基本的なところとして絵描きではないので「絵を描く」「色を塗る」、それに「声を出す」という、実際に作る作業はしていませんが、それ以外についてはすべて関わってチェックを行っています。順番に細かく言っていくと、僕は企画からは関わっていないので、シナリオの打ち合わせから入ります。次に、そのシナリオをコンテにしないといけないのでコンテ打ち合わせをして、コンテが上がってきたら内容をチェックしてOKを出します。今度は演出さんたちと打ち合わせをして、その話数についてはそこからは基本的にはお任せするということになります。

G:
なるほど。

川:
絵の方は演出さんを軸に作っていき、色味チェックやキャラクターチェックなど細かくチェックを行って、絵の原版を作っていきます。同時に音響関係の作業も始まり、編集やアフレコを行って、絵と音の原版ができたらダビング作業。絵と音の原版ができたら合わさってダビング作業があり、最後に絵の細かいリテイクなども詰めていって完成させる……という流れに、基本的には全て関わっています。

G:
ありとあらゆる局面でゴーを出すかどうかチェックしているというわけですね。

川:
そうです。

G:
スタッフの方を選んだりするのも監督の仕事だったのでしょうか。

川:
僕は基本的にスタッフィングはやらず、制作会社さんやプロデューサーさんに任せるタイプなので、相談はしますけれど、「僕も含めて、いいようにパズルをはめてくれればOK」と考えています。

G:
今回、シナリオについては原作者である河野裕さんにチェックしてもらっているという話ですが、チェック内容はどういったものなのでしょうか。

川:
複雑に入り組んだお話なので、こちらの解釈が間違っていないかとか、シーンを組み替えたときにどうしても新しいセリフを足さなければいけないけれど、言葉の使い方がこのキャラクターとして合っているかどうかとか、そういう細かい部分から、エピソードを構成する中で「このエピソードを外します」といった大きな部分の確認とかですね。

G:
なるほど。

川:
原作から変更する部分だとか、原作には描写されていないけれど絵にする時に必要な情報の確認もしていただいています。もちろん、時間的な制約がありますから、チェックいただく回数は1話につき1回で、戻していただいたものを受けて僕らが直していくという感じです。

G:
「まずは4話まで見て欲しい」という話があったので、第1話から見ていたんですが、最初は「これはどういうことになるんだろう」とちょっと不安がありましたが、4話で「なるほど、これはすごい」と感じました。伏線に次ぐ伏線に、さらに伏線という感じですよね。

川:
まずは見ていただかないとわからない中で、まずは4話までというのがありましたが、実際のところは1クール目でいうと10話、2クール目でいうと19話あたりからさらなる盛り上がりがやってきます。

G:
19話となるとかなり後の方ですね。

川:
そうなんです、今の視聴感覚だとすごく後ろだと感じますよね。でも、まさか1話の段階で「10話と19話を待ってください」と言うわけにはいきませんから(笑) たとえば第1話で相麻菫がその時点ではわけのわからないことを延々としゃべりますが、10話を見た人は「ああ!これのことを言っていたのか」と何となく分かるようになっています。そして、19話を見るともう1回「ああ!」という発見があるんです。


G:
なんと、そんな仕掛けに。

川:
河野先生が後書きに書いておられましたが、原作は一度書ききってから手を入れていくという書き方で、構想として全7巻ぐらいまでの内容が全部できた上で、かなり遠くを見据えて書いて、直して、書いて、直して……と作られているんです。1巻ごとに起承転結はしっかりあって、その上で読んでいくうちに情報がたまっていき、最後には全部繋がるというわけです。ところが、アニメの場合は尺の都合もあるし、なんせ19話というのはかなり先の方で、かといって蓄積するものをすっ飛ばして事件だけを追ってしまうと本当の楽しみが失われてしまうし……。


G:
確かに……。

川:
事件だけをやっている間は「何を言っているんだろう?」という感じがあるかもしれません。ただ、アニメも中盤に入ってきて少し仕組みがわかってきて、多少ストレスは解消されてくると思います。でも19話以降に5~6話かけて全部がバーッと分かるので、そこまで見てくれた人は19話以降、すべてが納得というものになると思います。先生は先を見据えて書かれたわけなので、僕らも24本やる以上は、そういう作り方で腹をくくろうと思いました。

G:
原作の河野さんが、時間が限られた中でのアニメ版の構成意図は作品に対して誠実だとツイートされていて、4月だったので「どうなっていくのだろう」と思っていましたが、なるほど、そういうことだったのですね。

川:
どうしようかという話はかなりやりました。僕らも、脚本の高山カツヒコさんも、一発目から分かりやすくしてインパクトを与えないと視聴を継続してもらえないという結論に至っています。しかし、もう1クール分あれば1から丁寧にやるところなのですが、与えられたのは2クールなので、序盤の説明をしっかり入れるか、後半の面白さをしっかりやるために説明を省くか、どっちを取るかということになって、我々は後半を選びました。1クールやってみてから決めようというのではなく、最初から2クールというのは珍しいので、これはもう「最後までやることに価値があるだろう」と考えました。


G:
大きな決断ですね。

川:
序盤がわかりにくくて伝わりづらいかもしれないという点で、大きな賭けでした。でも、作品のことを考えると、後半の面白さをやらなければと。たとえば、ある短編はシナリオの決定稿まで出しましたが、後半、7巻あたりの話数を1つ増やすために、落とすことにしました。それぐらい丁寧にと考えました。最後まで見てもらってからの話にはなりますが、これこそが「サクラダリセット」の良さをこの尺の中で出す方法だろうと。みんなの中で「後半の尺がなくて全然思った通りにいかなかったということだけは避けよう」という気持ちでした。


G:
今までの作品でも原作重視でやっていくということを明言なさっている川面監督が、本作では今おっしゃったように後半のために短編を1本落とすことにしたというお話でした。おそらくこの短編以外にも「ここは切らなければ」という判断を山のようにされたと思いますが、その判断はどのようにしたのでしょうか。

川:
何段階かのステップを踏みました。まず最初に、シリーズ構成の時点で、単行本1冊分を何話かけてやっていくのかということを決めていきます。そして次はシナリオ化したときに、その本のどこからどこまで、そのエピソードを使ってどのエピソードを抜くかを決めていきます。ある程度「これで収まるだろう」という尺でシナリオを上げてコンテを切ってもらうんですが、その段階でどうしても尺が伸びたり縮んだりするので、その上でオーバーしたらさらにここからどこをカットすべきか考えるという、三段階ですね。

原作の単行本1冊分を1話にというのはどうやっても入りませんから、この1冊を抜きにして前後をつなげて作ろうだとか、その分、1本1本ごとの尺をもう少し取ろうだとか、やりようはいくらでもあると思うんですけれど、結局はどこかは抜かなければならない。24話の尺は決まっていて、どう抜くかというだけの話なんですけれど、それでも議論が起きて、結論として「単行本単位で抜くことはもう無理だ」となりました。


G:
単行本単位では抜けない、となると……どうなるんですか?

川:
最終話までやることは絶対目標です。そうなったとき、単行本を1冊抜くと、抜けてしまう伏線の量が尋常ではないし、それをつなげるための複線を作り替えるなんて……。

G:
もう一度作品を作り直すみたいなものですね……。

川:
これは先生じゃないとたぶん無理だろうと。練りに練って作られたものですから、流れはそのままで、なんとか切っていくことでしかやりようがないなと。最初からやる前提でなんとか使えるパーツを決めていく方が破綻は少ないですが、原作を知っている人からすると物足りなさが出てしまいます。かといって、24本の中で何かを丁寧にしていくと、何かを省かなければならない。作品によってはごそっと抜いてしまってもいけるものもあると思いますが、「サクラダリセット」ではそのハードルが高すぎました。

G:
緻密に組まれていたということですね。

川:
そうなんです。だから、短編を抜くので精いっぱいでした。でも、それも迷いに迷ったところで……シナリオまで上げてもらって次に行くぞとなってから「やっぱり尺が足りないな」って。それで「高山さん、すみません。これなくして、最終巻のところでもう1本欲しい」とお願いしました。

G:
聞いているだけでも辛い……。

川:
コンテでオーバーした部分なら編集時に切るものなんです。時々はそういうことがありましたが、「サクラダリセット」では全話に渡って発生して、僕としては尺の勉強をさせてもらいました。これは、セリフに内容によって尺が大きく変わるということなんです。シナリオ段階ではこれなら収まるだろうという分量に高山さんに収めてもらっていたんですが、いざ開いてみると多めになってしまったので、シナリオでの想定よりも切ることになったので、前半では駆け足感があったと思います。でも、最終話までちゃんとやりきると考えると、やるしかありませんでした。

G:
それでああいった構成になっているということですね。すごく納得しました。川面監督は「サクラダリセット」の作品イメージ作りの入口を「『こんな音楽が流れている世界だな』と考えるところから」と答えておられますが、「サクラダリセット」の原作を読んだときには、どういう音楽が流れている世界だと思われたのですか?

川:
僕がもともと好きで、CDを買ったりライブに行ったりしていたRayonsという音楽作家さんがいるのですが、その人の音楽が流れている世界だなと思いました。その人の音楽はわりと映像的というか、絵を想像させる感じがあり、「ネオクラシック」というのか、古いようで新しい感じの作品なんです。僕にとって咲良田は、現実の日本のどこかの町だけれど少し古いものと新しいものが混じっていて、少しファンタジーも入っているから現実とファンタジーの間でもあるという感覚がありました。YouTubeに、その人のリミックス楽曲のPVがあったんですが、本当に「サクラダリセット」にピッタリで……。だから「小説を読んで音楽が流れた」というよりは「僕の好きな音楽とピッタリ合っていた」という感じです。

G:
なるほど。作品の舞台になっている咲良田は架空の町で、いろいろなところへロケハンはしたけれど、そこら中のものを組み合わせたとうかがいました。

川:
今回はほぼ2カ所、倉敷と小樽に絞っています。高山さんが倉敷出身なので倉敷の近くまでいってみたり、小樽の方はたまたまいろんな風景を探していたとき、小樽の雰囲気がやたらとピッタリだったので写真を撮りに行ったり。河野先生がもしイメージをお持ちならそこに行こうと思っていたんですが、具体的な想定はないからお任せしますというお話だったので、一から決めることになりました。美術設定の谷内優穂さんに話をしたら、ヨーロッパの戦前とかの調度品とか工業製品みたいな写真集を持ってきて「こういうのはどうですか」と提案してくれて。だから、学校にたまに変な棚があったりするんです。

G:
そういうことだったんですね。

川:
前に、別の作品でロケハンに行った学校は最新のオシャレ学校だったんですが、机や先生の使う棚などは建て替える前のものを使っていて、古かったんです。それと同じように、咲良田も超能力が生まれる前は普通に高度経済成長後廃れていっているだけの地方都市だったけれど、超能力が生まれてからは人口が増え、なにがしか豊かになっていて、ちょうどイメージに合うかなと。小樽は観光事業でニシンなどを捕っていた古い時代の建物とかを全部残しているんですよね。でも、観光客向けの商店街も混ざっていて、その混ざり具合がイメージにピッタリでした。

G:
TVアニメ『サクラダリセット』川面真也監督インタビュー 原作独特の空気感をそのままに映像化したい」というインタビューの中で、アニメーターさんへ「注意深くお願いしたのは、キャラクターの表情をつけすぎないこと」と語っておられます。本作はキャラクターの感情の起伏がそれほど激しくありませんが、無表情かというとそうではないようなという印象です。調整のさじ加減はどのように行っているのですか?

川:
基本的には役者さんに対する演技指導のようなものですね。演出さんに話をして各話の対応をしてもらいつつ、総作画監督の方々に「こういう風にしたい」ということを伝えて1話2話辺りでやりとりを繰り返し、演出さんや総作監さんに分かってもらえるとフィルムがそちらの方向に行くので、そのあたりの方々に押さえてもらう、という感じです。ラッシュ時に表情がつきすぎていたら演出を一から直すこともあります。でも、思っていたより無表情だと思われたなという印象です。最初に僕が想定していたのはもっと無表情だったんです。

G:
もっと!?

川:
アフレコでケイ役の石川界人さんから「もうちょっと芝居をつけたい」という話が出て実際にやってもらって、少しずつ「それでいいんじゃないでしょうか」ということになりまして、僕としては表情が出ちゃっているなと思っていたんですが、「全然出てない」といわれてしまって(笑) 僕は自分が無表情なせいか、表情作りが分かっていないのかもしれません(笑)


G:
表情作り(笑)

川:
演出デビューした作品のヒロインが無表情キャラだったんですよ。アニメーションというと動きを大きくして表情も出してこそみたいなところがありますが、初めての演出が正反対の作品だったので、あの頃に比べたら表情出てるけれどなぁと思っています。最近、あまり無表情なキャラクターがいないからでしょうか。

G:
いなくはないけれど決して多くはないですね。

川:
そんな中で、春埼美空なんかはだんだん表情が付いていっています。やってくれた人の「付け具合」を生かしているというか……あまり僕がやっちゃうと本当に無表情になりすぎるなと反省して(笑)、わりと「表情付けていいよ」という話はしています。


G:
途中で第11話に「ある日の春埼さん」というエピソードがあって、絵とかは今までと大きく変わったわけではないのに、春埼がひたすらに話し続けるので、これまで見てきた春埼もずっといろんな感情は抱いていたけれど表に現れていないだけだったのだとわかって、すごく面白かったです。あれから後の話だと、春埼が無表情そうなシーンでもきっとそんなことはないんだろうと感じます。

川:
あれは、こちらとしてもあえて不親切なまま進めてきたんです。あの話は短編集になっている4巻に収録されていて、そこで初めて「春埼ってこんなにいろいろ考えていたんだ!」と感じるところなんです。この「後から分かる楽しさ」というのが「サクラダリセット」には多くて、この楽しみを大切にしようとすると、前半はやはり我慢するしかないんです(笑)

G:
あぁー、なるほど!

川:
だからもう一回見ていただくと、浅井ケイのモノローグとか、ケイ主観というのはよくやっているんですけど、「ある日の春埼さん」までは春埼主観をなるべく入れないようにしているんです。

G:
そうやって言われてみると、確かにあまりなかったかも……。

川:
例えば春埼が「自分がこう思っている」ということをモノローグで語っているシーンがあれば、もうちょっと前の時点で春埼がいろいろ考えているということが分かりますが、そこまでにほとんどないので「突然どうした!?」という仕掛けです。


G:
そうなんです、「ある日の春埼さん」では突然どうした!?と驚きました。

川:
それは原作と同じ体験なんです。読んでいると春埼は人形みたいで、全然何を考えているか分からない。そういう意味でも原作をなるべく忠実にやっているんですが、唯一、それを曲げたのが1話と2話なんです。それは、どうしても最初に菫を出すべきだろうと考えたがゆえです。実は、菫は小説だと前半にあまり出なくて、「ケイが心にとどめている謎の死んだ少女」という感じなんです。さすがにそれだと難しく、菫が死ぬというインパクトが何かあった方がいいのではないかと議論を重ねて、最終的にそこだけ順番を入れ替えました。


G:
サブタイトルを追っていくと、第1話が「MEMORY in CHILDREN 1/3」、第2話が「MEMORY in CHILDREN 2/3」なのに、第3話は「3/3」ではなく「CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY 1/2」に飛んでいて、どういう意図が隠されているのだろうかと思っていたのですが、1クール分追いかけると「なるほど、こういうことだったのか」と。これは、最初から視聴し続けたことによる生存者バイアスで面白く感じているだけかとも思いましたが、インタビューに際して改めて視聴し直して、そうではないと実感しました。

川:
分かってやっていることだとはいえ、前半は特に尺を切っているので不親切な作りにはなっています。感情移入のしにくい要素だけ残すのが精いっぱいだった部分は否めないです。

G:
「本当は4クール欲しかった」という発言も目にしましたが、そういうことなのかと。

川:
前半のキャラクター描写などをゴソッと切っているので、そこに対するもったいなさみたいなのは持っていましたが、後半のためにはというのもありました。すごく切ってしまったことでシナリオで想定していたものよりも不親切になってしまったのは、読みが甘かった部分です。

G:
「田中くんはいつもけだるげ」の際のインタビューで、「原作のある作品の監督やシリーズ構成を担当される際、一番意識されることは何ですか?」という質問に対し「当たり前のことですけど、原作の良さを引き出そうとは常に思っています。」「自分一人だけだと偏った印象になってしまうので、なるべく多くの人から色んな意見を聞いて、原作を読んだ時の印象と変わらない印象を持って頂けるよう努力しています。」と答えているのですが、先ほどお話されたことがまさにそのものという感じですよね。

川:
誰か、例えば企画の人や会社がプロジェクトとして発案したものに僕は途中参加しているだけなので、僕も一つのパーツというか要素だと思っているんです。原作という創作物があるのが発端になってお金も人も動いていると思うと、何となく役割的に、その原作で誰かが何かしようとしたことをちゃんとやってあげようというか、やらなきゃと思ってしまうんです。それでも、いざ仕事に取り掛かると、どうしても自分のちょっとした癖だったり、好き嫌いみたいなものはきっと入ってしまうんです。そうであるがゆえに、自分としては場を外れないようにと、そういうことを答えているんです。

G:
ちなみに、川面監督はいつごろからアニメの仕事をしようと思ったのですか?

川:
僕はアニメオタクになったのが高校生ぐらいでした。今アニメーターをやっている弟が先にアニメにハマって、アニメ雑誌とかを買ってくるようになったんです。それまでも映像作品は好きだったので、映画やマンガは普通に見ていましたが、特にどれに思い入れがあるということもなかったです。アニメを見ていて、いいなと思っていた作品の作り手の話が雑誌に載っていて、それで自分もやりたいと思ったのが、たぶんささいなきっかけだったんじゃないかなと思います。

G:
もともと映像作品がお好きだった?

川:
中学ぐらいのとき、めちゃくちゃかっこいいCMに出会って、それを自分も作りたいという衝動に駆られたことをよく覚えています。それで、中学を卒業するときに、CMの映像が作りたいから専門学校に行きたいといったら「高校ぐらいは行け」と言われたので諦めましたが。そのCMは白地にでっかく自動車メーカーの名前が出るというもので、それがすごくオシャレに見えたんです。そうやって考えると今もなんか似たようなことをやっていて、結局僕は白地に何かをやってしまうんだなと(笑)

G:
(笑)

川:
それからもCMやPVが好きでしたが、1回は離れてしまって、そこでアニメに出会ったというわけです。僕は読み物としてもともとファンタジーものが好きで、覚えているのはアニメだと「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」の前あたりからいろいろな映画を見始めたんです。ちょうど梅田に単館系の映画館ができたり、レンタルビデオ屋が増えたりして、マニアックなアニメ映画も見やすくなったころでしたが、ファンタジーものって、アニメでしかできなかったんです。もちろんゼロではなくて、「ネバーエンディング・ストーリー」もありましたけれど、どう見ても「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」の方がファンタジーとして世界トップなんじゃないか、こんなにもファンタジーな映像作品は他にないじゃないかと。まさか、何年も後になって「ロード・オブ・ザ・リング」みたいなものが来るとは思ってもみませんでした。


G:
確かに(笑) 「ネバーエンディング・ストーリー」みたいな特撮をやっていたファンタジーで、あんなとんでもない作品が生まれるとは思わないですよ。

川:
結局、日本で実写のファンタジーはどのみち難しかったかもしれませんけれど。それでアニメにどハマリしていったんです。弟は絵が描けましたが、僕は昔から絵が下手で、デザインの専門学校を出て、大阪でデザインの仕事をしていました。いろいろあって大阪を出ようと思ったとき、「死ぬまでに一度ぐらいはチャレンジしてみよう」と、試しにアニメ会社を受けてみたら拾ってくれるところがありまして。

G:
「死ぬまでに一度チャレンジ」とは、すごい決断ですね。

川:
このまま年を取ったら「僕はアパートで一人で死ぬのかな」と考えたときに、死ぬ瞬間に「あぁ、一回ぐらいアニメを作りたかったな」と思ってアパートで死ぬのと、ちょっとでもやって「一応アニメやったしなぁ」と思って死ぬのとでは大きな違いがあるなと。

G:
なるほど!

川:
そこまでが変な人生でも、最後死ぬときにそう思って死ねたらまだ良いかなと思って……だから記念受験みたいなものでした。

G:
記念受験(笑)

川:
死ぬときの幸せな言い訳のためにやってみようと思って、それで前の職業でデザインをやっていたときにお金をためて1年だけ就活しようと思ってこっちへ来たら拾ってもらえたので、そのままずっと来ている感じです。

G:
「夢を叶えた」という感じですね。

川:
夢……いや、そんな感じでもないな……(笑) そもそも監督という仕事が終着点ではないというか、いろいろやっていく内にいろいろな経験とか機会をもらって、今もやらせてもらっているという感じです。

G:
まさか自分が監督をやるなんて、という感じですか?

川:
そうですね。年を取るとある程度経験を積むから「これをやってみろ」「あれをやってみろ」となるじゃないですか。その一つとしてやらせてもらっているので、もっとうまくやりたいというのはあるんですが、「来たぞ」という感じよりは、コツコツと仕事を積み重ねてきた結果として、今はこういう立場で仕事をやらせてもらっているという感じです。

G:
すごいですね。ものすごい積み上げだと思います。

川:
ただ、僕はプロジェクトの1スタッフであって、自分が軸になって創作しているわけじゃないと思っているんです。僕にはちょっとクリエイターは向いていなさそうだなと(笑) でも、できるかできないかはともかくとして、そういうところを目指さなければなとも思います。

G:
インタビューが掲載されるのは「サクラダリセット」が折り返しを過ぎたところなので、1クールぐらい見終えた人へ向けて伝えておくべきことというのは何かありますか?

川:
19話を見た後にもう一度1話と2話の菫の会話を見ると、10話のときに感じたことよりも、またさらに別の感情が見えてくると思います。本当に意味が分からないセリフというのはほとんど言っていません。ほとんどは何かの意味があります。ある程度進んでから見てもらえば、菫に関してはとても楽しめると思っています。

後半のキーキャラクターの1人、浦地正宗。


G:
かなり期待大な感じになりそうですね(笑) 「10倍ぐらいの伏線があるので、最後まで見た後は読んでください」と書いてありましたが、そういうことになってしまうんですね。

川:
そうなんです。最後までやるということを軸に全部やってきたので、最後まで見てもらいたいです。

G:
本日は長い時間、どうもありがとうございました。


アニメ「サクラダリセット」公式tumblrでは時系列表が公開されていて、これまでの話数のリセットやセーブの関係が整理しやすくなっています。

https://sagradaanime.tumblr.com/post/163404261174/サクラダリセット時系列表公開


2017年7月29日(土)21時からは浅井ケイ役・石川界人さん、中野智樹役・江口拓也さん、岡絵里役・相坂優歌さんによる解説特番がニコニコ生放送で行われるので、ぜひ参考にしてください。

BD発売記念!石川界人&江口拓也&相坂優歌の「サクラダリセット」解説特番 - 2017/07/29 21:00開始 - ニコニコ生放送
http://live.nicovideo.jp/gate/lv303086755

©河野裕・椎名優⁄KADOKAWA⁄アニメ「サクラダリセット」製作委員会

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in インタビュー,   アニメ, Posted by logc_nt

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