ウィンストン・チャーチルが書いた「地球外生命体が存在する可能性」についての文書
by Regina DiSpade
第二次世界大戦時にイギリス首相を務めて国を勝利に導いたウィンストン・チャーチルが宇宙や地球外生命体について書き、これまで一度も世に出ることのなかった文書が存在します。長年存在が忘れられていたこの文書が国立チャーチル博物館の館長によって発見されたことから、その内容がどんなものなのかがわかりました。
Winston Churchill’s essay on alien life found : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/winston-churchill-s-essay-on-alien-life-found-1.21467
Winston Churchill's views on aliens revealed in lost essay - BBC News
http://www.bbc.com/news/science-environment-38985425
第二次世界大戦中にイギリス首相となったチャーチルはノーベル文学賞を受賞した作家でもありましたが、科学にも大きな興味を寄せており、定期的に科学者らと面会するだけでなく、イギリスで初めて科学顧問を雇用した首相としても知られています。
1938年にラジオ番組のマーキュリー放送劇場が「火星人が侵略してきた」というストーリーを放送して世の中をパニックに陥れた翌年である1939年に、チャーチルはポピュラーサイエンスのエッセイを書きました。原稿の草稿は11ページにもわたり、新聞記事として発行される意図で書かれていましたが、第二次世界大戦が勃発したことで記事が発行されることはありませんでした。その後、1950年にも原稿は改稿されましたが、やはり実際に世の中に出ることはないまま、長らく存在が忘れ去られました。
by Canada Science and Technology Museum
そして2016年、アメリカ・ミズーリ州にある国立チャーチル博物館で、新しく館長になったTimothy Riley氏によってチャーチルの書いた原稿が再発見されました。そしてRiley氏が天体物理学者のMario Livio氏に「Are We Alone in the Universe?(私たちは宇宙で1人ぼっちなのだろうか?)」というタイトルの原稿を見せたことから、Livio氏がNatureでチャーチルのエッセイについての記事を書くという流れになったわけです。
チャーチルの考えには2017年現在において宇宙生物学で議論されている事柄を多くが含まれており、「地球上に存在する人間はユニークなものではなく、地球外生命体は存在する」というコペルニクス原理に基づく考えを抱いていたようです。なお、チャーチルは生命体の定義として、「繁殖し増殖する」ものであり、生きる上で「水を必要とする」ものとしています。
エッセイの中では、宇宙の中で生命が誕生するのに適した環境と考えら得ている「ゴルディロックスゾーン」についても定義されており、気温は生命の存在に不可欠である水が「沸点と霜点の間で存在する温度」と記されています。また、気温が高くなると分子の動きが速くなり、結果として分子が星から逃げていってしまうので、長期間にわたってガスを星にとどめるためには強い重力が必要であるとチャーチルは考えていました。これらのことから、太陽系で生命が存在しうるのは地球・火星・金星であり、水星や月に生物はいないだろという仮説を導きだしています。
また、太陽系外惑星が発見される50年以上前に、チャーチルは複数の惑星を持つ太陽以外の星がある可能性を考えていました。そして、これらの世界の星で生命が存在するとすれば、「惑星は水面と大気の層を保つために適度な大きさを保ち」「適当な気温を維持するために中心となる星から適度な距離を置いているだろう」と結論づけています。
さらに、「いつか、遠くない未来に、私たちは月や金星、火星に旅行することができるかもしれない」と予言。一方で、最も近い恒星でも5光年は離れていることから、恒星間旅行は本質的に難しいということも指摘しています。
エッセイは「それぞれが何百という『太陽』を持つ何十万もの星雲があるのに、生命が存在しえない惑星の数が膨大だというのはおかしなことです」という言葉と、「私個人としては、我々がここで作り上げてきた文明にさほど感銘を受けていません。私たちは、『生きて考える』生命体を持つ広大な宇宙の一点にすぎず、私たちは膨大な時間と空間の中に現れた高い精神と発達した生き物なのだから」という言葉で締めくくられています。
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