科学者はいつでも「自身のベストの論文」を書き上げる可能性を秘めている
By simpleinsomnia
科学者は自分が執筆中の論文が優れたものになることを望むかもしれませんが、「次に執筆する論文が科学者にとってそれまでで最高の出来に仕上がる機会はそれまでと同等に存在する」という研究結果をボストンのマサチューセッツにあるノースイースタン大学の研究者であるアルバート・バラバシ氏が公表しました。
Scientists can publish their best work at any age : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/scientists-can-publish-their-best-work-at-any-age-1.20926
「次に執筆する論文が科学者にとってそれまでで最高の出来に仕上がる機会は、それまでと同等に存在する」という研究結果を発表したのは、アルバート=ラズロ・バラバシ氏が指導を担当した、マサチューセッツ州ボストンにあるノースイースタン大学の研究チーム。
バラバシ氏が何千もの研究論文を分析したところ、もっとも多く引用される論文は、科学者としてのキャリアの初期に公開されたものと中期に公開されたものと後期に公開されたもののそれぞれに等しく存在することが明らかになりました。バラバシ氏の研究結果は「十分に立証された調査結果」や「偉大な発見」、「高い影響力を持つ研究結果」などが科学者としてのキャリアの初期に発表される傾向にある、という事実と矛盾しているように思えます。しかし、バラバシ氏いわくこれらに矛盾はないそうです。その理由は年間の論文公開数を調べるとキャリアを積むにつれて公開数は減少していくことが多いためだそうです。つまり、キャリアの後期になると影響力のある論文を公開することができなくなるのは、単に論文を公開する回数そのものが減少しているからであるというわけです。
何千という論文を著者ごとに分類し、横軸を科学者としてのキャリア、高さを引用された回数としてグラフにすると以下のようになります。赤色の点は何度も引用された論文、つまりは「優れた論文」を示しています。
この赤色の点だけを並べると以下のようになり、科学者としてのキャリアのどのタイミングにも等しく「優れた論文」が公表されているらしい、ということがわかります。キャリア後期に公表される論文の数が少なく見えますが、これはそもそもキャリア後期になると論文の執筆数が減少していくためです。
この研究結果に対してバラバシ氏は「我々はいつでも公開した論文がこれまでで最も大きな成功を収める可能性を持っているわけです」とコメントしています。
物理学者のリチャード・P・ファインマンが公表した論文を時系列で並べるとこんな感じ。確かにキャリアの初期・中期・後期に優れた論文を公表しており、キャリアの後半になるにつれ公表される論文の数が減っていく様子がわかります。
本当にいつ執筆された論文にも平等に成功の可能性が秘められているのかを確かめるべく、バラバシ氏は単純な数学モデルを考案しました。これは、「論文のインパクト」は、「運」と「一定の質」という2つの要素のみに依存している、というものです。
個々の科学者の能力が論文のヒットに影響するのかを測るため、バラバシ氏は2887人の物理学者が公表した論文を分析しました。その結果、どの科学者に対しても「運」の要素は均等に働いていることがわかりました。さらに、論文の質を調べるために「論文が引用された回数」を調べたところ、これは論文に取り組んだ時間の対数に比例したそうです。
バラバシ氏は当初、論文の質は科学者としてのキャリアを重ねるほどに増していく、と予想していました。しかし、驚いたことに論文の質はキャリアのどの時期に書かれたものでもほとんど一定であったわけです。科学者が自身の研究結果として書き上げる論文の質が、最初に書き上げたものからほとんど変わらない、というのはショッキングな事実であり、バラバシ氏本人も「論文の質が生まれつきのもの、と言うのはとても嫌な気分です」と語ります。
ノーベル賞やその他の権威ある賞を受賞したことのある科学者の論文の質は高い水準にありますが、必ずしも高名な科学者が「優れた論文」を発表しているというわけではなく、「優れた論文」になるためには運も必要……ということだそうです。
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