サイエンス

「恐竜を絶滅させた小惑星の衝突時期」の論文にデータ偽造の疑い


「恐竜を絶滅させた小惑星」に関する論文を発表した古生物学者が、実は元同僚の結論をそのまま論文に用いていたという疑惑が持ち上がっています。元同僚は、古生物学者の論文は結論こそ同じながら用いられたデータセットが異なり、そのデータが偽造であると指摘しています。

Nederlandse paleontoloog beschuldigt Amerikaanse dino-onderzoeker van fraude - NRC
https://www.nrc.nl/nieuws/2022/12/07/nederlandse-paleontoloog-beschuldigt-amerikaanse-dino-onderzoeker-van-fraude-a4150713


Paleontologist accused of faking data in dino-killing asteroid paper | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/paleontologist-accused-faking-data-dino-killing-asteroid-paper

PubPeer - Seasonal calibration of the end-cretaceous Chicxulub impact...
https://pubpeer.com/publications/9B9D041BD4D3633C2D4F99D002DF87

データ偽造の疑いをかけているのはオランダの古生物学者メラニー・デュアリング氏。

Updated my colour again, daylight is sadly already gone, but I'm trying to compensate. #diyhairdye #pinkhair pic.twitter.com/XkBbcdGCXd

— ????????Melanie During, MSc. ⛏???????????? (@MelanieDuring)


デュアリング氏の論文は、恐竜の絶滅を引き起こした小惑星の衝突時期を、チョウザメ類の化石調査から得られた情報をもとに春だったと結論づけるもので、2021年6月に学術誌Natureに投稿され、レビューを経て2022年2月に掲載されました。

小惑星が恐竜を滅ぼしたのは「春」が原因だったと判明、哺乳類が隕石衝突の中で生き延びた理由か - GIGAZINE


しかし、デュアリング氏の論文がレビュー中の2021年12月に、同じ結論に到達する論文が学術誌Scientific Reportsに掲載されました。この論文を執筆したのは、かつてデュアリング氏が研究結果を共有し、一時は論文の第二著者にも名前を入れていたロバート・デパルマ氏でした。

デュアリング氏は2017年、アムステルダム自由大学の修士課程の学生として、ノースダコタ州タニスでの発掘調査に参加しました。発掘現場は私有地で、現地の責任者だったのがカンザス大学ローレンス校の大学院生だったロバート・デパルマ氏でした。


タニスの発掘現場をデュアリング氏は「これまでかなりの数の発掘現場に行きましたが、過去に行った発掘現場の中でも最も驚異的な場所で、どこを向いても化石がありました」と表現しており、10日間の発掘調査で複数のチョウザメの化石を発掘しました。

デュアリング氏はアムステルダムに戻ったあと、デパルマ氏から化石を送ってもらいました。その後、デパルマ氏が発掘した化石も送られてきたそうです。これらの化石を、デュアリング氏はフランス・グルノーブルにある欧州シンクロトロン放射光施設で調べ、「小球体」と呼ばれる、恐竜絶滅を引き起こした小惑星が地球に衝突したあと、世界中に降り注いだと考えられる溶岩のシャワーの残骸である小さなガラス片を発見しました。


小球体がチョウザメのエラの部分から見つかったことから、チョウザメは小惑星が衝突したあと数分から数時間で死亡したと考えられます。また、ひれの骨細胞の質量分析から、炭素13のレベル上昇が確認され、衝突の時期が春であることが推定されました。

2018年にデュアリング氏はこの研究を修士論文として執筆。2019年2月にデパルマ氏と共有しました。その後、論文がオランダで賞を取ったため学術誌へ投稿することを決めて準備を開始し、デパルマ氏に共著者になるよう呼びかけましたが、デパルマ氏は応じませんでした。結局、デュアリング氏はデパルマ氏を第二著者とした論文を2021年6月にNatureに投稿しました。

デュアリング氏の論文が2022年2月にNatureに掲載される前に世に出たデパルマ氏の論文は、結論こそ同じですが、用いているデータが異なっていました。デパルマ氏の論文を読んだデュアリング氏は、生データが公開されていない点を懸念してScientific Reportsに連絡。また、自身の論文の著者からデパルマ氏を外しました。

デパルマ氏はScientific Reportsの編集者に対して、通常はグラフ作成ソフトウェアで作られるべきグラフが手作業で作られたものだったことを認めた上で、元データの分析を行ったマイアミ・デイド・カレッジの考古学者カーティス・マッキニー氏が2017年に亡くなり、その共同研究者からデジタルではないデータとして提供を受けたものだと説明したとのこと。

しかし、マイアミ・デイド・カレッジにはそもそも運用可能な質量分析計がなく、もし同位体分析を行ったのであればマッキニー氏は他の研究施設を頼る必要があったと考えられますが、マッキニー氏は長らく病気だったためその可能性は低いことが指摘されています。デパルマ氏は、マッキニー氏が同位体分析を行った施設がどこなのかという質問に回答しませんでした。

デパルマ氏の論文のレビューを担当した2人の科学者は、データの信頼性に満足していて不信感を抱く理由はないと述べたとのことですが、データの疑惑について相談を受けた複数の科学者はいずれも疑わしい不規則性があることに同意し、タイプミスや未解決の校正者のメモ、基本的な表記ミスの残された論文が公開されたことに驚いたそうです。

Scientific Reportsの主任編集者であるRafal Marszalek氏は、デパルマ氏の論文に関する懸念は認識しており、調査中であることを認めましたが、詳細の共有は拒否しました。

今回の研究とは無関係な、レジャイナ大学の高エネルギー物理学者のマウリシオ・バルビ氏は、「生データが出せるのであればクズ論文、生データが出せないのであればペテンの可能性が出てきます」と厳しいコメントをしています。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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