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「天体観測を始めるにはどんな望遠鏡がいいのか?」と悩んでいる人への初心者向け「望遠鏡ガイド」

By Ryan Wick

夜空を彩る星の世界の魅力に取りつかれてしまうと、一刻も早く1本目の天体望遠鏡を手に入れて星に向けたくなるものですが、お店やネットでは多くの商品が並んでいてどれを買ったらいいか迷ってしまうことも少なくありません。はたしてどんな考え方で天体望遠鏡を選べばよいのか、数多くの天体望遠鏡のレビューを行ってきたEd Tingさんが初心者向けのアドバイスをサイトで公開しています。

Advice for New Astronomers
http://www.scopereviews.com/begin.html

Ed Tingさんは自身のサイトで100本以上の天体望遠鏡のレビューを行っている人物で、その経験をもとに「最初の1本」を選ぶときの心得を記しています。


◆天体望遠鏡を買ってしまう前に
初心者が天体観測を始めるにあたり、Tingさんはいきなり天体望遠鏡を買いに行くのではなく、まずは星についてよく知識を付けることSky & TelescopeAstronomyのような専門雑誌を継続購読して読むこと、そして実際に観測を行っている天文クラブなどに加入して色んな人がどんな機材を使って観測しているのかを知ることが重要であると語っています。Tingさんは海外在住のため、おすすめしている専門誌も現地のものですが、日本だと天文ガイド星ナビといった月刊誌になるのかも。

そして次に、意外とも感じられるのですがTingさんは天体望遠鏡の前に可能であれば「双眼鏡」を手に入れることを勧めています。家に天体望遠鏡がなくても、何らかの双眼鏡がある人はけっこういるはずなのと、実際に天体望遠鏡を使っている人でも双眼鏡を併用する人も多いというのがその理由。双眼鏡のサイズは最低でも7×35、できれば7×50ぐらいの口径を持つものが望ましいとのことです。実際に天体ファンの間では、10×50程度のモデルが使われることも多いようです。

◆そして天体望遠鏡の選び方
ある程度の知識と経験を身に付けたら、そろそろ天体望遠鏡の導入を検討します。その際に陥りやすい間違いとして注意しないといけないのは、初心者向け望遠鏡の説明文に書かれていることが多い倍率表示にとらわれないこととTingさんは強調します。その理由は、天体望遠鏡の役目は像を拡大することではなく、より多くの光を取り込むことであるため、これを実現するためには可能な限り口径が大きい望遠鏡を選ぶのがベストとのこと。これを見誤って「驚異の倍率○○倍!」などといった宣伝文句につられて選んでしまうと、実際に星を見ると光量が不足したがためにボンヤリと暗い像しか見ることができなかった、という事態に陥ってしまうので注意が必要だとのことです。

実際に望遠鏡を選ぶにあたって、初心者の選択肢に入る天体望遠鏡には大きく分けて3つのタイプがあることを知っておく必要があります。

その1:屈折望遠鏡 (屈折式)


屈折望遠鏡は細長い筒体の形状を持つタイプの望遠鏡で、「天体望遠鏡」と聞いてまずこの種類を思い浮かべる人も多いはず。屈折式望遠鏡は、複数の光学レンズを直線上に組み合わせて像を拡大する望遠鏡で、調整の手間がほとんどかからない点が初心者向けともされるところです。

ただし、星から届く光が複数のレンズを通過するため、原理的に色収差の発生が避けられず、色ズレが発生してしまうというデメリットを持っています。

その2:ニュートン式望遠鏡(反射式)


2つめに挙げられている「ニュートン式望遠鏡」は凹面鏡で光を反射させて像を結ぶ構造になっているため、原理的に色収差が生じないというメリットを備えているのが大きな特徴。その名の通り、物理学者のアイザック・ニュートンが考案した望遠鏡としても知られます。

By ArtMechanic

ニュートン式望遠鏡は比較的低コストで作成することができるというのもメリットのひとつ。ただし、鏡筒の中に副鏡を配置しなければいけないため、像のコントラストに若干の影響が避けられないのがデメリット。また、光学系の調整をこまめに行わう必要があるのも、初心者にとっては少しハードルが高いといえそうです。

その3:シュミットカセグレン式望遠鏡(反射屈折式)


通称「シュミカセ」と呼ばれることもあるシュミットカセグレン式望遠鏡と、その仲間といえるマクストフカセグレン式シュミットニュートン式の望遠鏡が3つめの選択肢。これは、前述の屈折式と反射式の特徴を併せ持ったタイプの望遠鏡で、小型化しやすいのがメリットのひとつといえます。

この望遠鏡は、ニュートン式(反射式)のように鏡筒の底にある凹面鏡の主鏡で光を反射させ、鏡筒全部にある複鏡でもう一度反射させて観察するという方式を持っています。

By ArtMechanic

シュミカセの優れたところは、光を反射させる構造のために小型化が容易なことと、屈折式よりも安く作れるという点、そして多岐にわたるアフターパーツが充実しており、コンピューターと連携した観察にも容易に対応できる点とのこと。デメリットとしては、構造上の理由でほかの2種類に対して画質が落ちる可能性が潜在的に存在しているところが挙げられています。

◆この3つだとどれを選べば良いか
それではこの3種類の望遠鏡のうち、実際に選べばよいのでしょうか。Tingさんは「その本人や用途による」とまずは答えています。それぞれの望遠鏡には一長一短があり、予算を考慮しなければならないのも大切な要因の一つ。かく言うTingさんも、屈折式からニュートン式を経て、シュミカセへと変化していったという遍歴を持っており、クライテリオンやミード、セレストロンといった有名メーカーの製品をいろいろ使ってきたそうです。

そんなTingさんが挙げる重要なポイントは以下のとおり。


・光学的に優れている屈折式や、価格がより安い反射式があるにもかかわらず、シュミカセを最初の1本に選ぶ人が多い。その理由はおそらく、例えば8インチ(約20cm)という大口径タイプでも比較的安く手に入れることができ、取扱いも楽だから。これが同じ8インチでも、反射鏡タイプ、しかも赤道儀式架台に載っているものだと扱いが難しくなり、屈折式に至っては観測用に別の建物を建てた方がいいほど巨大なスペースが必要になってくる。

・4.5インチから6インチ程度の反射望遠鏡が初心者にはおすすめである。数万円レベルの出費である程度の画質が確保でき、取扱い・持ち運びも便利。

・入門用として売られている、屈折式で倍率を売りにしている製品は避けるべき。特に「60mmで675倍」というタイプのものは使い物にならない。一般的に、1インチあたり50倍から60倍ぐらいが品質が保証されているラインと言われているため、60mmタイプであれば120倍から144倍ぐらいが妥当な倍率といえる。とにかく望遠鏡を買うときは倍率に気を取られず、しかもデパートやホームセンター、ネット通販で安く売られているものには気をつけること。

・反射望遠鏡の優れている点は、この3タイプの中で最も観測がしやすいというところにある。この観点でいうと、アイピースが鏡筒の底にある屈折式は、場合によっては観測に苦労することも。

・趣旨から外れてしまうかもしれないが、天文観測家は次第に「自分にとってベスト」な1本を絞り込むことが無理であると気づき、2本目、3本目の望遠鏡に手を出してしまうものである。しかしこれを頭の片隅に置いておけば、「1本目は80mmの屈折式を買っておいて、数年後には口径10インチ(約25cm)のドブソニアン望遠鏡を手に入れてバランスを取る」というような考え方を組み立てることができる。

天体写真を撮影することは、とりあえず考慮に入れないこと。写真を撮るためにはさらに多くのノウハウや機材が必要になってくるため。それが原因で天体ファンを辞める人も出るぐらいである。

機材オタクには陥らないほうがベター。1日何時間もカタログを眺めている人はすでにその傾向あり。まずは1本手に入れること。そうすれば気分も楽になる。

◆で、結局のところ何を手に入れればいい?
概念論をひととおり並べたところで、Tingさんは再びここでまとめに入ります。多くの経験をもとにTingさんが初心者にお勧めする1本は、口径8インチ(約20cm)の反射望遠鏡で、ドブソニアン架台に乗せられたOrion SkyQuest XT8と呼ばれるモデルだとのこと。

このモデルは、大口径の鏡筒で光量を確保しつつ、大口径の望遠鏡でも初心者が扱いやすいドブソニアン架台に乗せられているのが特徴で、しかも比較的安価であることもポイントとのこと。記事作成時点におけるネットショップの価格は389.99ドル(約4万3000円)となっています。ただし、鏡筒の長さは約1メートル、重量はフルセットで約19kgにも及ぶところは要注意かも。愛好家の中には、ホームセンターなどでロック機構つきの車輪を買ってきて、DIYで移動式に改造する人もいるようです。

Orion SkyQuest XT8 Classic Dobsonian Telescope | Orion Telescopes


この「持ち運びの容易さ」が実はけっこう重要なポイントで、せっかくの観測日よりでもセットアップの面倒くささに負けてしまうと望遠鏡を買った意味がなくなってしまいます。上記のように移動用の車輪を取り付けるなど工夫を凝らして、煩わしい準備に悩まされないような対策を施しておくことも重要だとか。

また、どんなアイピース(接眼レンズ)を選ぶのかも重要になってくるのですが、Tingさんによると最初はサイズ別に3種類か4種類のアイピースに、手軽に拡大が可能な「バローレンズ」、そして可能であればフィルターを数種類用意しておくのがおすすめとのこと。とかくアイピースも初心者・ベテラン問わずにマニアックに陥りやすいところなので、慣れるまではあまり多くを考えない方がベターなようです。

◆実際にどんな光景を見ることができるのか
このようにして手に入れた天体望遠鏡で実際にどのように星を見ることができるのか、そこが気になる大きなポイントです。誰もが壮大な天体の姿を想像して期待に胸を膨らませるわけですが、しかしそこは「現実的な期待」を抱くことが重要であるとTingさんは語ります。例えば、初心者の多くが以下のようにリングがハッキリ見える土星の姿を期待したりするわけですが……


実際に多くの場合見ることができるのは、こんな感じの土星の姿。これは口径6インチ・倍率100倍の望遠鏡が捉えた像をシミュレートしたものだそうです。


プロが撮影したアンドロメダ銀河はこんな感じになりますが……


アマチュア天文家の環境だと実際の様子はこんな感じ。


ヘルクレス座にある球状星団「M13」をプロが撮影するとこんな感じになりますが……


初心者レベルだとこのぐらい。もちろん機材を充実させることでプロに近い光景を手に入れることもできるようになりますが、そこまでたどり着くには多くの経験と費用が必要になることはいうまでもありません。


◆まとめ
Tingさんは最後に、初心者が最初の天体望遠鏡を選ぶ際のアドバイスを以下のようにまとめています。

1:安いものであっても、双眼鏡は望遠鏡の代わりとなり得るうえに、望遠鏡観測のよいお供にすらなる。

2:デパートや玩具店、科学グッズを取り扱う非専門ショップで望遠鏡を探すことは避けること。とにかく、デパートやホームセンターで売っているような安物は絶対に買わないこと

3:望遠鏡の最も重要な役目は、光を集めることである。そのため、常に同じことがいえるが初心者も可能な限り大口径のタイプを選ぶこと。口径6インチのドブソニアン反射望遠鏡が初心者にはピッタリである。

4:しかし、あまりに機材が大きすぎると徐々に使わなくなってしまうものである。取扱いのことを考えて、現実的な目線を忘れないように。

5:アイピースは、よく吟味して選んだ最初の3~4本以外はとりあえず必要ない。最低でもケルナー式やその派生方式を選ぶこと。手っ取り早く倍率を上げるためには、バローレンズを使うのも手段の一つである。

6:どうしても1本を挙げるとすれば、口径6インチか8インチのドブソニアン反射望遠鏡をおすすめする

7:日中に陸地の観察を行うのであれば、望遠鏡ではなくスポッティングスコープ(またはフィールドスコープ)を使うのがベター。

8:天文写真のことは考えないようにすること。

このように、Tingさんは豊富な経験に基づいたアドバイスを初心者に向けて送っていました。Tingさんのレビューのページでは、膨大な量の望遠鏡レビューが掲載されているほか、実際に撮影された天文写真なども掲載されているので、特に天文ファンは目を通してみる価値ありです。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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