エアバスの旅客機「A350 XWB」はどのようにして作られているのか?
多くの人を乗せて世界中を飛び回る飛行機は、何年もの時間をかけて開発され、何十万というパーツを組み合わせて作り上げられます。実際にエアバス「A350 XWB」型機が作られている様子をサクッとまとめたムービーが公開されています。
How Airplanes Are Made - YouTube
A350 XWB型機は、欧州最大の航空機メーカーであるエアバスが開発した最新鋭の中型機で、2015年1月に初めて路線に就航したモデルです。主翼など、機体の主要な構造部に炭素素材(カーボンファイバー)を多く取り入れた機体で、高い効率と信頼性を備えた機体として世界の空を飛んでいます。
飛行機は多くの人を乗せ、A地点からB地点までほかのどんな手段よりも速くたどり着くために使われる乗り物です。そんな飛行機が作られる様子が、ムービーでは紹介されています。
YouTubeチャンネル「MinutesScience」のクリエーターであるヘンリー・ライヒさんは2015年秋、エアバスの工場を訪ねてA350が製造されている現場を撮影しました。
A350の開発には4000人を超えるスタッフが投入され……
7年以上にわたる開発期間が費やされてきました。
その開発は、機体の設計はもちろん、いかにして製造されるかという面についても多くの労力が費やされています。
飛行機の設計にはさまざまな要素が考慮されます。乗客の収容数や……
航続距離や、実際に飛ぶスピードなども注意深く検討されます。
そして、機内の快適性や……
実際に空港でどのような取り回しが行われるかも検討材料の一つ。
操縦系統の設計や……
エンジンの燃費効率……
そしてエアバスの場合、ヨーロッパ全土に広がる生産拠点をどのように結ぶのかも大きな課題となってきます。
機体の設計にはコンピューターによるシミュレーションや、模型を使った検証が繰り返されます。この画面は、飛行中の空力特性をシミュレートし、風洞で実験を行っているところ。
ジェットエンジンのミニチュアを使った検証も行われます。
全てのシステムがテストされ、性能が評価されます。実際に搭載されるジェットエンジンもそのひとつ。
エンジンに関しても多くのテストが行われますが、その中では鳥の死骸を動作中のエンジンに吸い込ませて「想定どおりに壊れる」ことを確認するテストも。これは、空港周辺で鳥と衝突する「バードストライク」と呼ばれる危険な事故を想定したもの。
設計が完了すると、試作機の建造が始まります。機体を構成するパーツは250万種類にも及ぶため、倉庫の規模も相当なもの。
製造はいくつもの拠点で行われます。エアバス社内で作られるものもあれば……
ジェットエンジンなど、外部のサプライヤーで製造されるものもあります。
A350の場合、特徴的なのが翼の製造工程。
A350の翼は、上面と下面がカーボンファイバーでできています。その製造風景は、巨大な機械でカーボンファイバーの生地をテープのように貼り付けていくようなもの。
カーボンのテープを貼り付けた後は、翼が丸ごと入る巨大なオーブン「オートクレーブ」の中で圧力と熱を加えて仕上げられます。
カーボンファイバーが仕上がったら、金属でできた骨組みと組み合わせて翼の主構造ができあがり。
次に、油圧や燃料系統、電気系統の配線が人の手によって行われます。
塗装が施され……
ピカピカの翼が完成。
機体にそびえ立つ「垂直尾翼」は、このように寝かした状態で製造され……
最後に立ち上げて完成となります。
平行して、機体胴体の製造も進められます。
機体後部に取り付けられる「圧力隔壁」もカーボンファイバー製。機体の快適性と安全性のためにはなくてはならない主要な構造のひとつです。
床を貼り、側壁に断熱材を貼り付けると少しずつ旅客機っぽい雰囲気に。
次に胴体は、最終組み立てが行われる工場に向けて輸送されます。
その輸送に使われるのが、旅客機の部品を運ぶためだけに使われる専用の輸送機。「ベルーガ」と呼ばれる機体は、機体上部が大きく膨らんでおり、巨大な胴体をそのまま積み込めるようになっています。
組立工場に到着したら、再び胴体を降ろし……
各地で製造されたパーツをくみ上げてひとつの飛行機が作られます。
着陸装置の取り付けもこの段階。かなり飛行機らしくなってきました。
尾翼の付け根には、APU(補助動力装置)が取り付けられます。
垂直尾翼も運び込まれて機体に接合され……
左右が一体化された水平尾翼は、横向きのまま差し込んで接合。まるでプラモデルのような取り付け方法。
そして、機体の中で最も重く、最も高価なエンジンは機体組み立ての最終段階で取り付けが行われます。
ここまでくれば機体はほぼ完成。この次に行われるのが……
実機による飛行試験です。飛行試験には複数の機体が投入され、同時進行でさまざまな検査が進められます。
試験機の内部には、おびただしい量のケーブルや……
さまざまなモニタリング用の機器が搭載されています。
試験機は世界中を飛び回りありとあらゆる環境での性能を検査します。真冬の極寒の地で飛ばしてみたり……
逆に、灼熱の砂漠でもきちんと動作するかを確かめたり。
空気の薄い高地での性能評価も重要な試験項目のひとつ。
時には、滑走路に人工的に水をまき、エンジンが水を吸い込んでも問題がないかなどの試験を行うこともあります。
離陸時に機体尾部が滑走路に接触する「テールストライク」の試験も実施。
翼の強度を検査するために、実際に翼を大きな力で引っ張る検査も行われます。
試験機での性能評価に加え、実際に製造された機体も全てテスト飛行を行ってから出荷されます。
全ての項目が正常に作動していることが確認されて初めて顧客への引き渡しが行われるというわけです。
A350の生産が本格的に開始すると、一月あたり10機が組み立てられることになっています。
これはつまり、2日ごとに新しいA350がラインから生みだされるということになります。
実際にエアバスを見学したライヒさんは、さまざまな分野のスペシャリストがA350の開発や製造に携わっていることを垣間見たとのこと。機体そのもののエンジニアリングに加え、管制専門のエンジニアや……
生産設備のスペシャリストなども。
そして、風洞実験を専門に担当するエンジニアや……
カーボンファイバーのリサイクルを専門にするスペシャリストもいたとのこと。
このような人たちの仕事が実を結び、世界中のあらゆる場所を結ぶ飛行機が作られているというわけでした。
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