プロパイロットの脳波で素人の操縦が上達したことが判明、学習・リハビリへの応用に期待が広がる
何かを練習してうまくなりたいときには「上手な人の爪の垢を煎じて飲め」ということがありますが、将来は「上手な人から脳波をもらって脳に入れろ」ということになるかもしれません。ある研究チームが実施した研究実験では、飛行機の操縦に長けたプロパイロットの操縦中の脳波で初心者の脳を刺激したところ、30%の確率で上達のレベルが上がったことが明らかにされました。
Now you can learn to fly a plane from expert-pilot brainwave patterns | KurzweilAI
http://www.kurzweilai.net/now-you-can-learn-to-fly-a-plane-from-expert-pilot-brainwave-patterns
この研究を実施したのは、カリフォルニア・マリブにあるHRLラボラトリーズの研究チーム。同ラボはかつて航空機メーカーのヒューズ・エアクラフトの研究組織で、現在はGMとボーイングによって所有されている研究所です。
新しいことを学習して体得するには一定の時間にわたって訓練を積むことが欠かせないというのが常識とされていますが、同チームでは「tDCS(Transcranial direct-current stimulation:経頭蓋直流刺激)と呼ばれる手法を用いることで脳の神経機能を操作すると、飛行機のシミュレーターを使って行う着陸手順のスキルトレーニングと実際のパフォーマンスが向上する」という仮説を立て、実際のパイロットで検証を行いました。
その実験の様子や結果が以下のムービーにまとめられています。
Enhanced Training Through Neurostimulation - YouTube
HRLラボが開発したのは「脳刺激システム」とも呼べるもの。その名称や、以下のようなヘッドギアを装着する様子を見ると「エセ科学では?」と疑ってしまう人もいそうですが、実際には過去の膨大な科学的な根拠をもとに開発が進められています。
研究チームは、認知力と運動力の両方が求められる飛行機の操縦というタスクに集中して研究を行っています。
何か新しいことを学習するとき、脳の中では神経細胞が新しくつながることで脳機能が強化され、上達が進みます。
そしてその機能は、それぞれ脳の特有の場所で処理されていることがわかっています。「この小指の先ほどの小さいエリアに、それぞれいろいろな機能が備わっています」と語るのは、研究チームの一員であるMatthew Phillips博士。
研究チームでは、その脳の部位で起こる変化を調査することで脳の働きを解析する研究を進めてきました。
博士によると、脳を刺激して効果を得ることは何千年も前から行われてきたとのこと。古代エジプトでは頭痛を取るために電気を発する魚を頭に載せていたり、アメリカの科学者、ベンジャミン・フランクリンも脳に電気刺激を与える研究を行っていました。
HRLラボのシステムは、このような脳への刺激を特定のエリアに狙い撃ちして、最も効率的な効果を得られるシステムになっているとのこと。
研究を進めるにあたり、ラボはプロのパイロットに協力を依頼して脳波を測定。
フライトシミュレーターを用いて、操縦時の脳波をはじめとする脳の機能が測定されました。
操縦中の脳波、脳内の血流の状態などをモニタリングし、そのパターンが得られました。
そしてその脳波パターンを、実験に参加した初心者パイロットに与えることで、どのような変化が生じるかを検証しています。
実験の結果、左の「脳波刺激装置は装着したが、実際には刺激しなかった」といういわゆるプラシーボ効果の組と、右側の本当に刺激を与えた組との間では、4日目のスキルに違いが生じていたことがわかりました。操縦操作のバラつきや着陸の一貫性が33%向上したことが明らかになっています。
この結果は、以下のような汎用の脳刺激用品では実現が難しく……
以下のような、特定の部位に刺激を与えられる装置があって初めて可能になったものとのこと。
研究チームではこの結果から、将来はスキルの向上だけでなく、外傷などで脳に障害を負った人のリハビリにもこの手法を活用できる可能性を語っています。
HRLラボが発表した論文は、以下のリンクから詳細に読むことができます。
Frontiers | Transcranial Direct Current Stimulation Modulates Neuronal Activity and Learning in Pilot Training | Frontiers in Human Neuroscience
http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fnhum.2016.00034/full
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