メモ

世界初の「高頻度取引」はどのようにして始まったのか?

By Francisco Gonzalez

株や外国為替の取引はすでにインターネットを使った電子取引が中心になっており、その中にはもはや人間が太刀打ちできない技法が存在しています。中でも話題になっているのは、ミリ秒(1000分の1秒)以下という高速で売買を行って小さな利ザヤを得る高頻度取引と呼ばれるもので、いわば「後出しジャンケン」と同じ勝利が約束された方法で巨額の利益を上げることが問題視されるようになっています。そんな高頻度取引が始まったのはネット取引が活発化した2000年代ではなく、実はコンピューターの要素が全く存在していない古い時代だったことがMediumで報じられています。

The First High-Frequency Trader — Medium
https://medium.com/@SparkFin/what-high-frequency-trading-looked-like-in-the-1970-s-ed1674e704cd

◆「高頻度取引」とは
コンピューターが持つ高速な処理能力を活かし、人間の認知能力をはるかに上回るスピードで行われる取引は高頻度取引または超高速取引と呼ばれます。この取引の特徴は単に取引スパンが極端に短いということだけでなく、相場取引の世界ではあり得ないとされた「勝率100%」を確実なものにするという、魔法のような手法を含んでいるところにあります。

その仕組みの概要は次のようなもの。ある投資家が株を購入しようとしてオンラインで注文を入れます。投資家が入れた注文はシステムで処理されますが、ここには一定のタイムラグが存在し、注文から実際の決済までにはごく短い空白期間が生じます。


このタイムラグに目を着けたのが高頻度取引を行う取引業者でした。この業者は一般の投資家よりも高速な取引システムを証券会社との間に構築しており、投資家の注文が入ったことを察知するとそれに先回りするように同じ銘柄に注文を入れ、取引を成立(約定)させてしまいます。このようにして、高頻度取引業者は一般の投資家の注文が処理されている間に、タッチの差で同じ銘柄を先に手に入れます。

そして今度は、そのようにして手に入れた銘柄に小さな利ザヤをのせて売りに出すことで、利益を確実に手にします。この手法はスカルピングと呼ばれる行為の一種であり、高頻度取引を行うことでいわゆる「後出しジャンケン」を目にもとまらぬ速さで行っているものと言えます。その様子は、相手の手を高速度カメラで判定して自分の手を決めるという勝率100%の「じゃんけんロボット」と同じと表現されることもあります

By Craig Sunter

この高頻度取引の登場は、コンピューターを使ったアルゴリズム取引が盛んなアメリカでも大きな衝撃となっています。合法ではあるものの、限りなく黒に近いグレーともいえ、さらに証券取引所と「グル」ともいえる関わりも指摘される高頻度取引は、もはや証券取引が人間の判断力を越えたところで行われていることを痛感させてくれる現象といえます。その様子は、マイケル・ルイス氏の書籍「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」に詳しく記されています。

Amazon.co.jp: フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち: マイケル ルイス, Michael Lewis, 渡会 圭子, 東江 一紀: 本


◆高頻度取引の始まり
このような高頻度取引ですが、実はその起源はコンピューターによるオンライン取引が始まるはるか以前に存在していました。

証券取引のオンライン化が進んだことで現代の取引所は集中化が進んでいますが、かつては地方ごと、都市ごとに取引所が存在することが一般的でした。現代のアメリカではニューヨークのウォール街が金融の中心として多くの取引が行われていますが、過去には、アメリカではニューヨークをはじめ、シカゴ・ボストン・フィラデルフィア・サンフランシスコといった大都市はもちろん、ハートフォードスポケーンといった都市、そして以下の写真のようにアメリカ本土から遠く離れたハワイの州都・ホノルルでも取引が活発に行われていました。


各地を電子的に結ぶオンラインシステムが整備される以前の時代ということで、各地で取引される証券の価格にはわずかな「ズレ」が存在することが一般的でした。そこに目を着けたのが、元刑務所の看守で心理学の学位を持ち、証券取引会社「Commodity Research and Trading(CRT)」を立ち上げたジョー・リッチー氏でした。リッチー氏は資金に行き詰まることもある人物でしたが、遠く離れた場所とリアルタイムで情報交換ができる「電話」が持つ力に気づいていました。

CRTはニューヨークとシカゴの取引所で銀の取引を扱っていました。同社は後に取引で巨額の利益を上げることになるのですが、それを可能にしていたのが、当時は誰も目を着けていなかった電話を活用するという方法でした。CRTは、取引所内に電話を持ち込んだ唯一の業者だったとのことです。

この電話を通し、リッチー氏はニューヨークとシカゴの相場をお互いに逐一伝え合い、「ズレ」が生じた瞬間に安いほうの市場で注文を入れ、高いほうの市場で売りの決済を入れるという売買を繰り返しました。目の前にある現実の価格差を利用して利ザヤを設けるという、いわば完全リスクフリーな手法で同社は巨額の利益を上げることになります。次第に彼の周囲のトレーダーもその手法の本当の力を認識しはじめ、こぞって電話線を引き入れるようになったとのこと。各社が同じ手法を取り入れたことでCRT社の優位性は失われることとなりましたが、それまでの短期間でリッチー氏は巨額の富を築き上げることに成功したといいます。このようにしてリッチー氏はオプション取引に革命を起こしたのと同時に、高頻度取引の生みの親としても認知されるようになったとのことです。


電話から始まった高頻度取引は、コンピューターアルゴリズム技術とネットワーク技術の発達により、もはや人間の能力が及ばないレベルに達しているといえます。日本でも高頻度取引は広がりを見せており、その様子や仕組みは日本銀行が2013年に発表している資料でも垣間見ることができます。

株式市場における高速・高頻度取引の影響 - rev13j02.pdf

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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