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映像見放題・音楽聴き放題サービスをネット接続なしで利用しているキューバの実態に迫る


キューバでは長年に渡り情報統制が行われてきましたが、2015年7月にアメリカと国交を回復し、カストロ政権がGoogleやTwitterとの接触も行うなど、徐々にインターネットに対して積極的な姿勢を見せてきています。しかし、いまだにインターネットの使用は許可制で、国内のインターネット普及率は5%ほど。通信速度は信じられないほど遅く、さらに政府が提供するインターネットセンターの1時間あたりの使用料は一般的なキューバ人の給料1週間分に匹敵するものとなっています。そんなキューバで人々が各種コンテンツを閲覧するために編み出したのが「人力インターネット」とも呼べる方法です。

This is Cuba's Netflix, Hulu, and Spotify – all without the internet - Vox
http://www.vox.com/2015/9/21/9352095/netflix-cuba-paquete-internet

人力インターネットの仕組みや流通の様子は以下のムービーを見るとよく分かります。

This is Cuba's Netflix, Hulu, and Spotify – all without the internet - YouTube


「インターネットで映画が見たい」という時、私たちは検索エンジンに動画配信サービスの名前を打ち込めば、簡単に映画を見ることができます。


映画を探し出してから見るまでの間に大きな苦労もなく、目的を達成するのは至って簡単です。


しかし、世界の中にはインターネットが普及しておらず、ネット経由でコンテンツを視聴するのが難しい場所もあります。


例えば、キューバのテレビは国営放送しか行っておらず、テレビを通じて外国の映画を見るということができません。


現在のキューバにおけるメディアの仕組みについて「理由は知りません。そうなっているんです」と語るアーティストのジュニアさん。


そこで、キューバの人々は独自の方法で映画などのコンテンツを入手する方法を編み出しました。


キューバの首都ハバナとアメリカに拠点を置くデータ商人が作ったのが、「人力インターネット」とも呼べるシステム。


ジュニアさんによると、テレビ番組、映画、動画、音楽などのデータ収集それぞれに担当がいて、まずは情報量が1テラバイトになるまで各コンテンツが集められます。


コンテンツは1つのハードドライブへと集約され、1テラバイトに達したところでハバナに拠点を置くディーラーが流通の準備を行います。集められたメディアはEl Paquete Semanal、つまり「The Weekly Package(今週のパッケージ)」と呼ばれるとのこと。


集められたデータはUSBなどに移され、それが人の手から手に渡ることで、キューバ中にデータが回っていきます。なお、USBを入手する際の価格は2ドル(約240円)ほど。


誰が関わっているのかは不明ですが、データの配布はビジネスの1形態であり、巨額のお金が動いているものとジュニアさんは推測しています。


システムは首都ハバナからキューバ全体に及んでおり、マーケットの巨大さが見て取れます。


ディスプレイに表示されているのが、実際に配布されたUSBに入っていた映画の数々。


映画は1920×1080のフルHD。


内容はさまざまで、金曜日にアメリカで劇場公開された映画なら翌週の月曜日に配布されるUSBに含まれているとのこと。


さらに、インターネット上で公開された記事や……


Androidアプリなどもデータに含まれており、まさにEl Paquete Semanalは「ホームメイドのインターネット」になっているわけです。


では、これらの映画や音楽は一体誰がどのように配布しているのか?ということで、今度はコンテンツを配布する側に焦点を当てていきます。


以下の画像に写っている青年たちが、データの入ったUSBを配っているとのこと。青年たちはライセンス無しでタクシー運転手として働いたり、外国人観光客相手のツアーガイドをするように、時々データの入ったUSBを配る役割を担うそうです。


街を歩き……


青年たちについていきます。


マンションのような建物。


青年たちに促され、建物にどんどん入っていきます。USBの配布を行う拠点は通常、携帯電話の修理センターやDVDショップの近くにあるそうです。


建物の中はこんな感じ。


建物の一室がデータの流通センターとして機能しています。


スクリーンにはさまざまなファイルが並んでいます。センターで働く青年によると、アメリカのテレビ番組は特に需要が大きいそうです。


センターには毎週、空のUSBを持った人が現れるので、iPhoneのアプリからインドのドキュメンタリー映画まで、PCに保存されたさまざまなデータをまるごとUSBに移して持ち主に手渡します。それが人から人の手に渡って、どんどん広まっていく仕組みです。


しかし、流通センターにいる人々が直接データを収集するわけではありません。El Paquete Semanalの核心に触れるべく取材を続けていたジョニー・ハリス氏は、ついにシステムの中心人物に接触することに成功しました。


カラフルなマンションの通路を抜けて……


ピンクとオレンジ色に塗られた壁の応接室に通されます。


現れたのは違法コンテンツを牛耳る裏社会の人物にはとうてい見えない、上半身裸の26歳の青年「ダニー」


カメラに映るということで、着替えた様子。


これが仕事場。


2台の巨大なコンピューターがあり……


机の至るところにデバイスが置かれています。


大きなスクリーンの端には「Grabando(録画中)」という文字と共に、アメリカのスペイン語テレビ局「テレムンド」の映像が流れていました。


なぜ、大規模なデータ収集が可能なのか?ということについて、ハリス氏は「屋根に置かれた貯水タンクの中に衛星アンテナが隠されているに違いない」と推測しています。


「今日の夜に放送される番組は、朝には入手できます」と語るダニーさん。


「それぞれのセクションに責任者がいて、彼らが送ってくれるコンテンツをまとめ、キューバの国中にデータを配布していく」という仕組みを説明します。


もちろんデータの収集・配布を行っているのはダニーさんだけではなく、ハバナには競業者もいるのですが、「競争する相手がいないと私たちは進歩しません。全てのビジネスには競業者が必要です。競業者がいるからこそ私は毎週よい仕事ができます」と語っています。


El Paquete Semanalがどのくらいの普及率なのかは定かではありませんが、実際にハリス氏が現地で話した数百人のうち、「El Paquete Semanalを聞いたことがない」という人はわずか2人だったとのこと。


キューバで分かったのは、「人々が情報を求めた時、彼らは何らかの手段を見つける」ということ。長年の間、情報統制が行われていたキューバですが、インターネットは独自の方法でゆっくりとの浸透しているようです。

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in 動画, Posted by darkhorse_log

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