Wikipedia創始者が中国によるWikipediaへのアクセス封鎖についてコメント
By Niccolò Caranti
中国ではインターネット上の一部サービスに対してアクセス制限を設けており、中国国内からはGoogleやTwitterなどが使用できなかったりします。そんな中国でどのサイトがブロックされているのかが一発でわかるサービスが「GreatFire.org」です。中国における検閲状況を監視し、どのサイトがいつからどのくらいの制限を受けているのかを公開しているGreatFireが、Wikipediaが中国から利用できなくなっている現状について、ウィキメディア財団のトップであるジミー・ウェールズ氏に直接質問を投げかけています。
GreatFire Q&A with Jimmy Wales on China Censorship | GreatFire.org
https://en.greatfire.org/blog/2015/sep/greatfire-qa-jimmy-wales-china-censorship
2015年6月、Wikipediaなどを運営するウィキメディア財団が、同財団が運営するすべてのサイトにデフォルトでHTTPSを採用することを発表しました。暗号化を用いてHTTP通信をセキュアにするためのスキームが「HTTPS」なわけですが、これを導入したことで中国政府はWikipediaのコンテンツを検閲できなくなってしまい、その結果中国語版のWikipediaにアクセスは封鎖されました。
このことについて、GreatFireはTwitterでウィキメディア財団の名誉理事長であるジミー・ウェールズ氏の過去の発言を引用して「Wikipediaへのアクセスを制限することは、公平な事実に基づく情報が中国の脅威となることを認めることに他ならない」とツイートしました。
.@jimmy_wales "Censoring Wikipedia is an admission that unbiased factual information frightens you." http://t.co/k62ptmLDm2
— GreatFire.org (@GreatFireChina) 2015, 6月 22
これに対してウェールズ氏は「(GreatFireの創立者である)チャーリーにメールするにはどうしたら良い?」と返信していました。
@GreatFireChina what is the best way to email Charlie? You can DM me...
— Jimmy Wales (@jimmy_wales) 2015, 6月 22
このやり取りの後、ウィキメディア財団のウェールズ氏とGreatFireは直接連絡を取り合ったようで、その中でGreatFireがウェールズ氏にぶつけた質問が公開されています。
GreatFire:(以下、Q)
Wikipediaは中国やその他の地域で検閲に対してどのように戦っていますか?
ジミー・ウェールズ:(以下、A)
Wikipediaは検閲に対して反対の立場をとっています。我々は確固たる方針を持っており、いかなる場合でこの方針を曲げることはありません。また、世界中のどこの地域の政府機関とも検閲に関して協力関係を持つことはありません。私の考えでは、知識へのアクセス、特にWikipediaのような真実が書き記された百科全書的な知識へのアクセスは、基本的人権の「言論の自由」に含まれる権利であると考えています。
私は世界中のいくつかの政府機関に対して個人的にロビー活動を続けており、(Wikipediaを検閲するような)政策を変更するように訴え続けてきました。また、Wikipediaでは著作権保護法案のSOPAによる法案(インターネットの検閲につながる法案)に反対するために一時的にサービスを停止したこともあります。
By David Holmes
Q:
2012年、あなたはイギリス版WikipediaをデフォルトでHTTPS対応にすることで、イギリス政府によるスパイ行為に釘を刺しました。HTTP通信を暗号化することで、イギリス当局の「国民のウェブや携帯電話内での行動」に対するスパイ行為に対抗したわけです。あなたはこの種の活動をイランや中国でも起こすと示唆していましたが、なぜ同じことを中国で行わなかったのですか?
A:
イギリスの際は、我々は決して政府を脅したわけではありません。また、現在ではWikipediaの通信は全てHTTPSに切り替わっています。我々は100%自団体の主義に付き従っており、技術を使用してインターネットユーザーをスパイする行為に対しては一貫として反対の立場を示しています。しかし、多くの人々と同じように、我々はエドワード・スノーデン氏がNSAの大規模スパイ行為をリークするまで通信の重要性を認識しておらず、Wikipediaでも長年暗号化を行わないままのクリアテキストでの通信を行っていました。そんなわけで、全ての通信をHTTPSに移行するという大きなチャレンジに挑戦したわけです。例え、いくつかの国でWikipediaが完全にブロックされることになると分かっていても、です。
Q:
我々はあなたが自発的に検閲に賛同することはないだろうと考えています。しかし、中国の政府当局が個々のコンテンツを検閲できるようにする、というのはいくつかの報道機関の戦略で見られることでもあります。つまり、フルバージョンのサイトと「クリーン(政府に都合の悪い情報が載っていないクリーンなサイト)」なサイトの2つを用意しておけば、検閲でフルバージョンのサイトがブロックされたとしても、クリーンな方はアクセス可能なまま残しておけるというわけです。しかし、この方法では最終的に中国の検閲基準に従うバージョンを設けるしかないようにも思えますがどうでしょうか?また、こういった方法が中国におけるWikipediaの戦略の中にはありましたか?
A:
我々が中国の政府当局による個々のコンテンツの検閲を許可することはありません。したがって、この質問はとてもばかげたもので、議論の余地すらありません。また、中国で「言論の自由」を促進していくための最良の戦略は、中国国内にいるWikipediaコミュニティ内のメンバーの意見を尊重することだと考えています。
By Joi Ito
Q:
Wikipediaが中国政府の手により完全にブロックされてしまうことを危惧して、中国のコミュニティメンバーがHTTPSへの完全対応に反対する、といったことはありましたか?また、サイトが完全にブロックされてしまった現在のコミュニティの反応はどのようなものですか?
A:
複数のコミュニティ内での議論を聞けば、さまざまな意見があることが分かるでしょう。ただし、Wikipediaへのアクセスが長期的にブロックされる結果となった今も、多くのコミュニティが我々のHTTPS対応への動きを支持しています。
Q:
中国におけるインターネット検閲の未来はどのようなものになると思いますか?規制がゆるむでしょうか?それともより悪くなっていくでしょうか?
A:
これは世界各国の反応によるでしょう。もしも西側諸国が中国の検閲に対する見て見ぬふりを辞め、中国の政府当局に圧力をかけ続ければ、検閲は良い方向に変化していくことでしょう。我々は皆、変化のために声を出し続けなければならないのです。
Q:
もしもあなたが中国のインターネット関連を取り仕切る暴君であるルー・ウェイの隣に座ったとしたら、彼になんと言いますか?
A:
彼の前任者や世界中の同じような立場に立つ人々に言ったように、「あなたは歴史の間違った側に立っています」と言います。実際、中国の検閲の理由は「調和の取れた社会を形成することを促進するため」というものです。しかし、私はよく議論の中で「検閲プログラムがいかに調和を乱すのか」について話をします。私は彼らが自身の主張をゼロから再考するように後押ししたいのです。
By Giulia Forsythe
Q:
もしもルー・ウェイがあなたに「Wikipedia内の『コンテンツ検閲』あるいは『デフォルトでの暗号化』のいずれかを解除しない限り、Wikipediaへのアクセス制限は解除しない」と言ってきた場合、どのように反応しますか?
A:
私たちは妥協しません。我々は彼らよりもはるかに忍耐強いですよ。
Q:
ユーザー作成コンテンツを提供する外国のインターネット関連企業が中国市場に参入しようとしているとして、あなたならどのようなアドバイスを送りますか?
A:
それが非常に困難であることを伝える以外に特別なアドバイスはできません。
Q:
あなたの見解ではどこの国の企業が中国の中で上手く立ち回れると思いますか?
A:
その詳細について私がコメントするのは適切ではないかもしれません。私が個人的に知っているケースの中には、いくつかの企業が中国政府の検閲を無効化するための施策をとっています。しかし、具体的な部分について話せばそれらの企業の努力を無駄にしてしまうことになるので話せません。しかし、私は人名を名指しでつるし上げて侮辱することで「言論の自由」を取り戻そうとする活動家は、ここから手を引くべきだと思っています。
Q:
時間を戻すことができるなら、Wikipediaの中国に対するアプローチのどこを変えたいと思いますか?
A:
私はWikipediaのアプローチは他のどこよりも適したものだったと思います。私が言えるのは、私が「X」と「Y」を違ったやり方で実行したいと願っても、他のアプローチが上手くいく保証は全くないということです。私は常に100%妥協せずに進んできたことを誇りに思えるし、他の主要なウェブサイトよりもこの問題に上手く対処してきた自信があります。
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