ドローンビジネスに参入するソニーモバイルとZMPの新会社「エアロセンス」が何を目指しているのか設立発表会で見てきました
2015年7月、ソニーモバイルコミュニケーションズ(以下 ソニーモバイル)と、ロボット技術を開発するスタートアップ「ZMP」が共同で自律型無人航空機(ドローン・UAV)技術を用いたサービスの開発・提供を行う企業「エアロセンス株式会社」を設立すると発表していました。その翌月の8月24日(月)には都内で同社の設立発表記者会見が開かれたので、いったいどのような事業を想定しているのか、そして使用されるのはどんな機体になっているのか見にいってきました。
自律型無人航空機とクラウドサービスを組み合わせた 産業用ソリューションを提供する合弁会社「エアロセンス」始動 — Aerosense
http://www.aerosense.co.jp/pressitems/2015/8/25
会場となった「ベルサール六本木」に到着。
会見会場に入ると、多くのカメラや取材陣が詰めかけていました。
当日は2機の試作機が公開されました。4枚の羽根を持つクアッドコプタータイプのUAV「AS-MC01-P」は、4つのローターの中心にほぼボール型の胴体があり、胴体の底の部分には下向きにカメラが取り付けられています。本体上部にはGPS用のアンテナが取り付けられていました。プロペラの下から地面に伸びているロッドは展示用ではなく、実際に着陸時に使用するもの。
そして、今後開発が進められることになっているのが飛行機タイプのUAV「AS-DT01-E」。マルチコプター型とは異なる固定翼を持った機体ですが、機体中心にあって主な推力を生んでいるプロペラが真下を向くことで滑走路なしにその場で離陸し、プロペラの角度を徐々に横向きにして通常の飛行機を同じ飛行を可能にするVTOL機(垂直離着陸機)となっています。
これらのUAVを使うことで、新たなソリューションの開発を目指しているのが、十時(ととき)裕樹社長(左)が率いるソニーモバイルコミュニケーションズと、谷口恒社長(右)によるスタートアップ、ZMPが共同で立ち上げた「エアロセンス」です。同社では、ソニーモバイルが持っているカメラ・センシング技術と通信ネットワーク、AIBOなどのロボット開発で培ってきたロボット分野の技術を、そしてZMPが持つ自動運転の技術、ロボット技術、産業分へビジネス経験を活かすことで、建設・物流・農林水産業などの基幹産業分野へのソリューション提供を開始することになっています。エアロセンスの新社長には谷口氏が就任し、CTO(最高技術責任者)にはソニーでソニーでAIBOやQRIOの開発を手がけた経歴を持ち、ロボット開発に携わってきた佐部浩太郎氏が就任しています。
そのソリューションとは、空から撮影した画像をクラウド管理して解析に役立てることで、従来は実施が難しかった詳細な建設現場の管理や物流の管理、農作物の状態確認を自動で高精度に行うことができるというもの。UAVは自動で定められたルートを飛び、必要な写真を自動で撮影します。そして地上に戻ってきたUAVから取り出したデータを管理用PCに近づけると、これまた自動でデータを吸い出して自動でクラウドへアップロード。そのデータを毎日のように蓄積し、クラウドで解析することで各産業にとって利用価値の非常に高いデータを得ることができるようになっています。
主な利用分野は、建築や点検、土木・鉱業、監視・警備、農業、物流・運搬など。
土木分野では高精細な地形データをもとに3Dモデルを作成し、山全体の土砂量を算出することにも使えるとのこと。
建設現場では日々のデータを比較することで工事現場の状況把握や資材管理に役立てられるとのこと。
資材置き場に置かれた足場材の様子などもバッチリ映っています。
そして農業分野では、低空飛行で作物の状況を撮影することで、生育状況の把握や収穫時期の判断に役立てられるとのこと。これは、特に大規模農業が取り入れられている北海道などでは利用価値の高い機能といえそうです。
実際にフライトパスの設定からフライト、画像データの取り込みから活用までを表したイメージムービーを見ると、その概要がよく理解できます。
「エアロセンス」のUAV(ドローン)が提供するソリューションのイメージムービー - YouTube
◆エアロセンスのUAV
先述のように、丸い胴体から伸びた4本のアームにローターが取り付けられたUAVのAS-MC01-P。本体サイズは515×515×400mmで、本体重量は約2kg、バッテリー・カメラ込みで約3kgになるとのこと。
本体は軽量化のためにカーボンファイバー製のパーツが取り入れられており、プロペラにもカーボン模様が見えます。なお、モーターなどの一部ハードウェアは既存品が使われていますが、機体制御のシステムはZMP社が独自に開発したものが使われているとのこと。さらに、この機体は地上で操縦するパイロットを全く必要とせず、自動で決められた飛行ルート(フライトパス)を自律的に飛行することができるように開発が行われてきたそうです。
下向きに取り付けられているのは、ソニーが2014年10月に発売したレンズスタイルカメラの「DSC-QX30」でした。レンズ部分には3Dプリンターで作成されたレンズフードらしきものが取り付けられています。
GPSアンテナのアップ。アメリカが主となって運用しているGPSに加え、ロシアのGRONASSも併用することで位置補足の精度を高めているそうです。
カメラ部分に近寄ってみました。現段階では静止画の撮影をメインに考えているために本体に直接マウントしても問題はないそうですが、今後、動画を撮影するニーズが高まるようであれば、安定した映像を可能にするジンバルの搭載も考える予定とのこと。
よく見てみると、機体前方にも小型のカメラが前を向けてマウントされています。
さらには、機体底面にもメインとは別に小型のカメラがあるのがわかります。この2つのカメラは実際の撮影に使われるのではなく、機体の動きや位置を把握するために搭載されているカメラだそうです。小型のため画素数はあまり多くはないのですが、撮影するスピード(フレーム数)を高くすることで、細かな動きを漏れなく捕捉できるようにセッティングされているそうです。
実際にAS-MC01-Pがテスト飛行するムービーもYouTubeで公開されています。
Quadcopter Flight by Aerosense Inc. - YouTube
一方のVTOL型試作機・AS-DT01-Eは産業用に開発が進められる機体ですが、その姿はどことなく優雅さを感じさせます。機体デザインに携わった東京藝術大学美術学部デザイン科の長濱雅彦教授によると、このデザインはイルカなどの生命を感じさせるデザインになるように注力したもので、「UAV=軍事用」といった堅いイメージを払しょくするための狙いが込められているとのことです。機体サイズは2200×1600×600mmで、機体重量は5kg、バッテリーを含めた重量は7kgとなっています。
機体中心部にレイアウトされた2枚のプロペラ。それぞれが逆方向に回転する二重反転プロペラとなっており、プロペラが回転することで生まれる「ねじれ(カウンタートルク)」を相殺する構造となっています。
後部から見ると、さらに生き物らしさを感じさせるデザイン。なお、羽根の可動部を見ればわかるように、この試作機は実際には飛行しないモックアップです。
機体構造部には軽量・高剛性のカーボンファイバーが用いられていますが、プロペラの大きな推力を受ける部分は別にフレームが組まれて力を受け止めるように設計されています。
両翼と機首部分には小さなローターが埋め込まれています。これは、主プロペラとは別に機体の姿勢を制御するために使われるローターです。
AS-DT01-Eの開発には、神戸大学が参加して共同で開発が進められました。実際に飛ぶシーンが以下のムービーに収められています。
VTOL Flight 20150715 - YouTube
ムービーの中で実際にフライトした機体も展示されていました。モックアップに比べて手作り感あふれる外観からは、試作機ならではの迫力や気合が伝わってきます。
二重反転プロペラ部のアップ。機体の外殻は発泡スチロールのような素材で成型されていました。
◆エアロセンスの今後
これらの機体を含めたシステムの特徴は、「フライトパスの生成」→「離陸」→「飛行」→「撮影」→「着陸」という一連の流れを全て自動化するところと、それを包括的にパッケージングしたソリューションの提供が可能であること。従来だとフライトパス作成には専用のソフトウェアが必要だったり、使用するドローンが市販の汎用品だったり、撮影した画像を専門のスタッフが管理してデータを作成しなければならなかったりして大変でしたが、この流れを一元化することで利便性を高めているのが大きな特徴とのことでした。
また、飛行を自動化させることで期待される意外ともいえるメリットが「安全性の高さ」とのこと。Googleなどが開発するセルフドライビングカーの開発の中でも交通事故の多くはヒューマンエラーがもとで発生している事が多いとされ、もはや自動運転車の方が安全ではないかと思わされる事故が発生したという事例もあるほど。これはドローンやUAVの世界でも同様で、特に事故時の被害が大きくなる可能性のある航空機だからこそ、高い安全性を与えることは当然の成り行きと言うこともできそうです。
これらの機体を使った総合ソリューションの提供を目指しているエアロセンスでは、そのビジョンを「私たちは自律型無人航空機(UAV)とクラウドサービスを組み合わせた産業用ソリューションの提供を通じて、より効率的な観察、測量、管理、物流等を実現し、環境に配慮した安心して暮らせる社会の実現に貢献していきます」と表現しています。従来だとメーカー・ソフトベンダー・オペレーターが別々だった環境をに対してワンストップサービスのソリューションを提供することが同社の目指すところとなっています。
エアロセンスはソニーモバイルとZMPが出会ったことで生まれた企業。両社は資本金1億円と資本準備金としての1億円、合計2億円の資金をもとに今後の展開を進めていく予定となっており、両社の出資比率はソニーモバイルが50.005%、ZMPが49.995%とほぼ同等といえるバランスとなっています。ソニーの技術とZMPの技術、そして「ZMPのベンチャースピリッツ」(十時CEO)を持って、2020年には100億円を超えるビジネスにすることを目標にビジネスを展開することになるようです。
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