取材

賞金300万円の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2017」がまもなく始動、応募予定者への説明会に潜入してきました


2017年6月16日の午前9時から、「宇宙」という素材をビジネスにかえるアイデアコンテスト「S-Booster 2017 (エスブースター2017)」の募集がスタートします。6月15日(木)には応募を検討する人や企業のための説明会が大阪市内で開催されたので、その様子を取材してきました。

S-Booster2017
https://s-booster.jp/

宇宙ビジネスアイディアコンテスト「S-Booster 2017」は、内閣府やJAXA(宇宙航空研究開発機構)、ANAホールディングス、三井物産、大林組、スカパーJSATが実行委員会となって進められるコンテストです。世界的な流れとして宇宙開発の民間化が進む中、このコンテストでは宇宙という「アセット(資産)」をビジネスにかえるアイデアを発掘し、表彰にとどまらず専門家を交えたディスカッションやさまざまなサポートを通じて支援することで、今後の宇宙産業の裾野の拡大を図ろうというイベントです。


大賞に選ばれるとなんと300万円の賞金(資金援助)が行われるほか、各企業からのスポンサー賞として100万円などが贈られます。さらに、優れたアイデアに対しては、実際の事業化に向けた支援が行われることにもなっているとのこと。


まずは「S-Booster 2017って一体なんだ?」ということで、JAXAで実際に人工衛星の開発に10年来携わってきたエンジニア、有川善久氏より説明がありました。


日本の宇宙開発は、内閣府の宇宙開発戦略推進事務局を核として進められており、JAXAは内閣府・総務省・文部科学省・経済産業省が共同して所管する国立研究開発法人です。


2016年12月には、内閣に設置された宇宙開発戦略本部の会合の中で方針が示されており、その中で「民間宇宙ビジネスの創出・拡大」という項目が盛り込まれています。


これまでの宇宙開発は、「国」の下に「既存大手宇宙企業」が連なり、さらにその下に「関連子会社」が何層にも重なるという縦割りの構造だったのですが、今後は大学や企業などを巻き込んだ構造にすることで、「△」だった組織構造を「◯」に変えていくという方針となっています。


そんな中で始まろうとしているのが、S-Booster 2017です。応募テーマは、宇宙を利用したものであればなんでもOKで、現存せず、今後開発が行われる将来技術を含んでいてもOK。6月16日から7月18日まで応募を受け付け、7月末に実行委員会による1次選考を行って15組程度に絞り込まれます。選考に残ったファイナリストに対しては8月から9月にかけてメンタリング(専門家によるアドバイス等)が行われ、10月30日に東京・六本木の「ニコファーレ」にて最終選抜が行われます。


メンターには産・学・官から18の人物・組織が名を連ねており、さまざまな角度から実現性を高めるためのブラッシュアップが行われるとのこと。メンタリングの期間には、ファイナリストを対象とした合宿も行われる予定とのことです。

S-Booster2017


それではいったい、「宇宙技術を使ってどんなことができるのか、できているのか」について、JAXAの松本聡から説明がありました。


ロケットを使った宇宙輸送に関しては、日本では、堀江貴文氏が出資している「インターステラテクノロジズ」や、ANAとHISが出資している「PDエアロスペース」などの企業が開発を進めています。


また、海外ではイーロン・マスク氏の「SpaceX」や、Amazonのジェフ・ベゾスCEOが立ち上げた「Blue Origin」、Microsoftの共同設立者であるポール・アレン氏の「VULCAN Aerospace」、ヴァージングループ総裁のサー・リチャード・ブランソンが名を連ねる「Virgin Galactic」などがしのぎを削っている状況。


また、未知の世界の探査を行うのも宇宙技術の目的の1つ。日本では、「HAKUTO」がロボットをいち速く月に送り届けて与えられたミッションを成功させるコンテスト「Google Lunar X PRIZE」での勝利に向けた取り組みを行っています。


また、風船のように膨らむ膨張式宇宙ステーションモジュールの開発を行う「Bigelow」や……


宇宙から海の様子をモニタリングして水産業に革命を起こす「ウミトロン」などの企業が宇宙を使った技術開発に取り組んでいます。


また、宇宙の微重力空間を活用することで、地上では不可能な構造のたんぱく質の結晶を生みだすことで、創薬に役立てたり……


そしてもちろん、資源開発や「未知との遭遇」も宇宙開発が目指すところの1つです。


さらに、宇宙空間からさまざまなセンサーを使って地球を俯瞰することで、気象や海洋の様子を把握し、人々の生活や科学に役立てることも可能。


海水温をモニタリングすることで、漁に役立つ情報を提供したり……


誰もがおなじみの、台風情報を提供して安全に役立てる、という使われ方がされています。


また、地形データを比較することで火山噴火の兆候を捉えたり……


変わったところでは、ペンギンの「フン」の分布や密度を宇宙から観測することで、ペンギンの生息数をはじき出すという技術も存在しているとのこと。


さらに、古代遺跡を宇宙から観測することで、理論上は存在していたものの未発見だった遺跡の存在を明るみにしたという実績もあるそうです。


もちろん、多くの人が使うGoogleマップの写真データも人工衛星から撮影したものが使われています。


また、GPSや日本版GPS「みちびき」を使ったポジショニングシステムも、現代人の生活には欠かせなくなっています。


そしてなんと、GPSの技術の中から、津波の発生を検知する技術も生まれているとのこと。これは、地震の発生により生じる電離層の乱れをGPS信号を通じて捕捉することで、地震と津波の発生を捉えるというものだそうです。


人工衛星を用いた通信インフラも、現代社会には欠かせない技術の1つ。


これらは全て、宇宙開発の中から生まれてきた技術やサービスというわけです。そして日本は国を挙げて新しい宇宙ビジネスの創出に力を入れていくということになっています。


熱心に耳を傾ける、説明会に参加したみなさんの様子。


最後に、JAXAとのコラボで可能になることについて、JAXAの谷瑞希氏より説明がありました。なお、このコンテストへの応募にあたってはJAXAのコラボレーションが必須というわけではありませんが、実際に可能になることについていくつか紹介されています。


先述のように、S-Booster 2017では多分野にわたる人物がメンターとして参加しており、産学官の視点からアドバイスを受けることが可能。


また、JAXAの施設や、これまでに培ってきたノウハウが技術などを活用することが可能です。


宇宙開発で非常に重要なのが、「打ち上げた人工物が想定どおり、指令どおりに動作しているか」というモニタリングです。JAXAはこれについても技術とノウハウを提供できるとのこと。


また、海外の展示会などに共同で出店することで、存在感を高めることができます。


◆S-Booster 2017へ参加するには
自分のアイデアを応募する場合には、まずS-Booster2017のサイトにアクセス。


そしてサイトから所定の事業提案書フォーマットをダウンロードし、文書を作成して応募フォームより事業提案書をアップロードすればOK。


応募期間は、2017年6月16日(金)午前9時から、7月18日(火)午後5時まで。実行委員会による一次選考は、7月末に非公開で行われます。


一次審査を通過したファイナリストに対しては、メンターによるメンタリングが行われます。8月から10月までの3カ月が予定されており、8月上旬と9月下旬には合宿も開催される予定とのこと。


そして、10月30日(月)に東京・六本木の「ニコファーレ」で開催される最終選抜会において、大賞が決まるというスケジュールになっています。


こんな感じで説明会は終了して名刺交換会に突入。約30名の参加者の中には、スタートアップの設立者などの他、現役の大学生も含まれており、さまざまな思いを秘めて説明に耳を傾けていた模様。一体どのようなアイデアが飛び出すことになるのか、コンテストの行方が気になるところです。


S-Booster 2017の公式サイトでは、応募受付開始日のお昼12時に新しい情報が公開されるとのこと。宇宙ビジネスを取り巻く潮流や、ビジネスチャンスとしての可能性、更に例えば『宇宙×IT』をテーマとした内容について、日本の宇宙開発の第一人者やビジネスの著名人が語るイベントなどが予定されているようなので、関心のある人はこちらも忘れずにチェックするようにしてください。

S-Booster2017
https://s-booster.jp/

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in 取材,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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