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Dropboxが採用する「ハイブリッド型商品開発」など新アイデアを生んで製品に昇華させる開発哲学とは

By download.net.pl

新しい製品やサービスを開発する際には新しいアイデアやリソースに加え、それまでにはなかったマネジメントの考え方や方法が必要とされるものです。オンラインストレージサービスの代表的存在の一つであるDropboxでは1つのアカウントを複数のユーザーで共有する機能をサポートしているのですが、この機能を導入する際の開発の舞台裏が明かされており、同社で取り入れられているアイデアを生んで育てる考え方が語られています。

How Dropbox Sources, Scales and Ships Its Best Product Ideas - First Round Review
http://firstround.com/review/how-dropbox-sources-scales-and-ships-its-best-product-ideas/

Dropboxでは同じコンピュータ上で2つのDropboxアカウントを使用できる「マルチアカウント機能」をビジネス向けDropboxで提供しています。この機能の開発には25名にも上る経験豊かな開発チームをフル投入するほど多くのリソースが投入されてきたのですが、それに伴い多くのコストが発生し、他の開発にリソースを割けなくなるなど多くの犠牲も伴ったとのこと。

ここには新しいサービスとそれにかかるコストのトレードオフ関係が存在していますが、プロジェクトを率いてきたエンジニアリング・リーダーのティド・カリエロ氏は、「開発されるべき商品・サービス」が何であるかを認識すると同時に、商品を世に送り出すためにさまざまな開発アプローチを取る必要があることの重要性を理解していました。

◆「ボトムアップ」と「トップダウン」を組み合わせる「ハイブリッド・プロダクト・デベロップメント」の重要性
アイデアを実際の商品・サービスとして実現させるために、Dropboxでは「ハイブリッド・プロダクト・デベロップメント(ハイブリッド型商品開発)」と呼ばれる開発アプローチ手法を採っていました。この手法はボトムアップ型とトップダウン型の両方をバランス良く両立させるという考え方に基づくもので、エンジニア陣による自発的な新規アイデアの開発(ボトムアップ)と、開発リーダーが新しい商品やその開発ロードマップを提示する(トップダウン)という2つの力をうまくミックスさせるというものです。

By Johannes Lundberg

・企業の初期段階は「ボトムアップ型」から始める
立ち上がったばかりのスタートアップは数名のスタッフで構成されている場合がほとんどなので、多くの場合は起業者やコアとなるエンジニアによる技術をもとに商品を作り上げることが多くなります。カリエロ氏はDropbpxの黎明期の様子について「スタートアップはどこでも同じです。Dropboxのサーバーエンジニアはアラシュ・フェルドーシ、クライアントエンジニアはドリュー・ヒューストンでしたが、両者はDropboxを立ち上げた2名の創業者でもあります」と語っています。

後に、成長を遂げた後のDropboxで開発を担当したカリエロ氏ですが、産まれたばかりの同社の雰囲気についても理解が深いようで、「このような形態は企業の初期段階においてうまく作用します。自由に行動する精神があり、急速に成長するビジネスに対応するために必要な投資やリソース配置を迅速に行える直感のようなものが存在しています」と語っています。

・大きな変革のために「トップダウン型」へとシフト
このようにして始まった組織ですが、ある一定の段階で「ボトムアップ」から「トップダウン」へとシフトする必要があるとカリエロ氏は語ります。Dropboxでの様子についてカリエロ氏は「私がチームに加わってすぐのころ、進行中だったプロジェクトについて気づいたのですが、当時のグループでは大きな仕事にチャレンジすることが難しくなってきていたことがわかりました。やりたいことが多様化するに従って、全員が共同で作業するという考えが希薄になってきていたのです」と振り返ります。

その時にカリエロ氏が率いるチームが取り組んでいたのが「マルチアカウント機能」の開発だったのですが、これを契機にDropboxでは企画に対する考え方を「トップダウン型」へとシフトさせて行くことになりました。当時すでにDropboxはデスクトップ版、iOS・Android版、ウェブクライアント版など複数のプラットフォームで運用されていたこともあり、このプロジェクトは非常に複雑で、多くの困難に直面するとこにもなるのです。

◆「ハイブリッド・プロダクト・デベロップメント」の導入へ
企業が成熟するにつれ、ボトムアップ型とトップダウン型を組み合わせたハイブリッド型を取り入れることが最適の選択となってきます。2つの異なる手法のバランスが取れるポイントを見いだすことで、意欲にあふれるスタッフを総動員できるようなプロジェクトと、各個人から生まれる新しいアイデアを育てて行く風土を作り上げることができるようになり、成功しているスタートアップは、この考え方を早い段階に取り入れているといいます。

カリエロ氏はうまくバランスの取れた状態について「トップダウン型アプローチを取り入れることで、チームは大きなプロジェクトに携わることが可能になります。しかし、チームを率いる際にはエンジニアを10名程度にとどめておくのが良いでしょう。さもないと、チームの中で生まれるユニークで画期的なアイデアを見逃すことになってしまいます」と語ります。

By David

このマルチアカウントプロジェクト以降、Dropboxではハイブリッド型アプローチを商品開発計画に取り入れることになりました。しかしそれでもボトムアップによって新しいアイデアが生まれる環境を大事にする風土が残されているとのこと。カリエロ氏はこのバランスの取り方について「最終的には、私たちも企画やロードマップ作成についてはトップダウン型アプローチを採っています。トップダウン型アプローチのおかげで私たちが求める高さのレベルへ到達することが可能になり、さもなくばプロジェクト全体の焦点が分散してしまうことになります。しかしそれでも、Dropboxでは会社全体からボトムアップのアイデアが生まれるような取り組みを行っています。このようにして、Dropboxでは新しいアイデアに対してオープンな環境を作り上げているのです」と語っています。

◆バランスを保つために「二重性」を受け入れる
このようなハイブリッド型アプローチを取り入れるにあたり、大事なことは「どちらかを優先しないこと」であるとのこと。カリエロ氏はいま、以下の3つのフレームワークに沿ってリソースやエンジニアの配置を決めているそうです。

・「軽量型」と「重量型」の製品レビュー(Lightweight and heavyweight product reviews)
・「シーズ(種)」と「サプリング(苗)」(Seeds and saplings)
・管理と共鳴(Governance and resonance)


その内容は、以下のようなものとなっています。

・「軽量型」と「重量型」の製品レビュー(Lightweight and heavyweight product reviews)
Dropboxではかつて、製品レビューを行う際には開発の進んだ完成品だけを対象にしていました。完成品だけをレビューするということは、評価前の段階であらゆる詳細な部分を完全に煮詰め、問題を全て解消しておくことが求められ、開発リーダーは詳細なタイムラインを作成することが必要になります。これは、商品開発の状態を測るには重要なことですが、同時にアイデアを生みだしたり評価することについて非常に高いレベルが求められるようになってしまいます。

その結果、Dropboxでは新規アイデアの提案が非常に少ない状態に陥ってしまったとのこと。これを受け、Dropboxでは非常に軽い評価軸「フェイズ0(ゼロ)」を取り入れることにしたそうです。カリエロ氏によると、フェイズ0により「プロセス全体が改善しました。アイデアを提案する際には『問題は何か』『なぜ解決しなければいけないのか』を示す簡単なテンプレートに記入するだけで済みます。Dropboxのプロダクトマネージャーと従業員は誰でも1~2時間で済む『フェイズ0』のレビューを実施し、社内メールにアイデアを投げてプレゼンの予定を告知することができます」とその効果を語っています。

By Scott Beale

この手法を取り入れたことで、Dropboxでは多くのアイデアが生まれることになったとのこと。誰でもアイデアを簡単に提案できる軽量型の評価システムが取り入れられたことで、社内には次々とアイデアが生まれ、それをリーダー格の人物が評価する仕組みが生まれました。

アイデアが認められると、次にはエンジニアリングチームや設計部門を巻き込んだ「フェイズ1」と呼ばれる評価が行われます。この段階をクリアしたアイデアはさらに開発が進められ、「フェイズ2」の評価が行われ、実際の商品開発に沿って開発の方針や効率的な開発に向けた詳細な計画が立てられるようになるとのこと。このような風通しの良い仕組みで評価を行うことで、次々と新しいアイデアが生まれる土壌が作られているようです。

・「シーズ(種)」と「サプリング(苗)」(Seeds and saplings)
このような評価を経てきたアイデアをもとに、カリエロ氏は新しいアイデアを一つの投資対象としてカテゴライズします。その様子はまるで投資会社(ベンチャーキャピタル)が投資先企業を分類する時にも似ているとのことで、カリエロ氏は「マジック・フォレスト(魔法の森)」と呼ぶフレームワークでコンセプトを表現しています。

カリエロ氏はこのマジック・フォレストについて「これは植物の種(シーズ)と苗(サプリング)のようなものです。初期状態のアイデアは可能性を秘めた『シーズ(種)』であり、われわれはその可能性をテストします。そしてその種が市場に合致するものであると認められたら、種は次に『サプリング(苗)』の段階へと進みます。われわれは苗になったプロジェクトを育てるよう努力します。やがて苗は木に育ち、幹を伸ばして根をはります。木に成長したプロジェクトは会社を支える幹や仕組みをサポートする根となるのです」とそのコンセプトを語ります。

By Richard Elzey

一方でここには、時間やリソースに沿った制限が設定されており、実際の成果や新たな発見を行うための仕組みも取り入れられています。このような制限を設けることでリソースや時間の浪費を防ぎ、さらにはプロジェクト全体が失敗であることをいち早く検知するようになっているとのこと。カリエロ氏は「自分の『シーズとサプリング』に固執して失敗を認めないのは簡単ですが、それは新しいプロジェクトに投資を行う際の危険な側面です。早い段階でプロジェクトに限界点を設定しておくことで、さらに育てるべきか、それとも終わらせてしまうかの判断を行えるようになります」とその狙いを語っています。

・管理と共鳴(Governance and resonance)
プロジェクトを立ち上げて商品の開発を進めるケースでは、そのごく初期段階から全体を監視する顧問役を持つべきだとカリエロ氏は語ります。Dropboxでは、全てのプロジェクトチームに顧問役が設定され、一定の基準を示すリーダーを持つようにされていたとのこと。開発を行うチームは定期的に数値による報告書を提出し、顧問役からの指示を請うように定められており、小さなプロジェクトを社内で成長させるうえでは大きな役割を果たしているとのことです。

By The Natural Step Canada

このような仕組みを取り入れてきたカリエロ氏ですが、どうしても誤解が起こったり、当初の狙いから逸脱するプロジェクトが出てくることは避けられなかったとのこと。しかし「シーズとサプリング」のような誰にも共感できる簡単なフレームワークを持っておくことで、プロジェクトが従業員個人のものではなく、企業の将来のためのキーとなるものであることを理解させることができると語っています。

◆ハッカソンの実施
これらのフレームワークに加え、カリエロ氏はエンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーを対象にしたハッカソンを定期的に実施して、イノベーティブなアイデアや商品を生みだす取り組みを行っているとのこと。こういった取り組みからも多くのアイデアが生まれており、実際にビジネス向けDropboxで利用できる「Dropbox バッジ」もこのハッカソンから生まれたアイデアだとのこと。バッジ機能はMicrosoft Officeドキュメントの共同編集を可能にするもので、複数の人が同時に変更を加えても複数バージョンのファイルが作成されることを防ぐ機能です。

Dropbox バッジについて (Dropbox ヘルプセンター)


このように、「ハイブリッド・プロダクト・デベロップメント」と「ハッカソン」の導入によりさまざまなアイデアが生みだされるDropboxですが、カリエロ氏によるとその全てが異なったルートをたどって実際の製品として生みだされるとのこと。「フェイズ0」で生まれたアイデアやハッカソンから生まれたアイデアは、ボトムアップ型・トップダウン型のいずれかのマネジメントを経て成長するわけですが、そこで大事なのが「バランス感覚」と、高い意識で明確な判断を下すリーダーの存在とカリエロ氏は語ります。

カリエロ氏は「アイデアや仮説、プロトタイプ、製品とさまざまな段階がありますが、全ての段階で明確な軸に沿って評価を行うことが必要です。目標を設定することで、どの『投資』が『資金』を得ることができるのか、そしてその理由を知ることができます。新しいプロジェクトに資金を投下するたびに、誰もが正しく目標を理解すること、そして次への正しい投資の選択を行うことができるようになるので、難しい取り組みですが実施する価値があります」と語っています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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