サイエンス

ヒーリング効果があるとされる「バイノーラルビート」は実際の脳波にどんな影響を与えているのか?

By myheimu

左右の耳に微妙に周波数の異なる音を聴かせることで生じる音の「うねり」を用いるバイノーラルビートは、うねりによって生じた低周波信号が脳波に作用することでヒーリング効果などがあるとされています。実際に効果をうたった音源などが販売されているので耳にしたことがある人もいると思いますが、そんなバイノーラルビート音源による効果を脳波レベルで検証した結果が公表されました。

Do Binaural Beats Really Affect Brainwaves? — The Autodidacts
http://www.autodidacts.io/binaural-beat-openbci-eeg-experiment/

◆「バイノーラルビート」とは?
バイノーラルビートとは、日本語で言えば「両耳性うなり」という意味になります。例えば、右耳には「440Hz」、左耳には「445Hz」と微妙に高さの異なる音を聞かせると脳の中で音が合成されて差分である「5Hz」が生じ、瞑想状態などにみられる「θ(シータ)波」を誘発するといわれており、リラックス効果やヒーリング効果があるとされています。実際のバイノーラルビート音源は、以下のサイトでサンプルを聞いてみることができるほか、YouTubeなどでもさまざまな音源を見つけることができます。

バイノーラル・ビートの効果 | バイノーラル・ビート・ジャパン

このような理論に基づくバイノーラルビートですが、その効果を疑問視する声が存在しているのも事実です。「独学者」を意味するサイトThe Autodidactsは、賛否両論あるバイノーラルビートの効果を脳波レベルで解明することを目的に実験を行い、その結果をブログで公表しました。

◆脳波を測定する
The Autodidactsの研究チームはEmotive社の脳波センサーヘッドセット「Epoc」を使い、脳の各部で生じる脳波の変化を測定することにしました。Epocは複数の脳波センサーを搭載したヘッドバンド型EEG(脳波)センサーで、一般向けに市販されているので誰でも購入できる製品です。


まずはEpocを使って実験を進めた研究チームですが、残念なことにEpocで得られるデータは限定的なものであり、本当に必要だったデータ記録能力と分析が行えないことがわかります。そこで今度はオープンソースの脳波スキャナーシステムのOpenBCIを使って詳細な検証を実施したところ、狙ったデータを記録することに成功したとのこと。

実験では、以下の図のように複数の電極が頭部に取り付けられ、ヘッドホンでバイノーラルビート音源を再生することで生じる各部の脳波の変化が測定されました。


被験者はソニー製の業務用ヘッドホン「MDR-7506」を装着し、「ザー」という雑音の一種てあるピンクノイズと、ピンクノイズを元に作られた17Hzのバイノーラルビート音源を交互に再生することで、「統制群」と「実験群」の比較を行う「対照実験」が行われています。

実験の手順は以下のようなもので、所要時間は全体で約20分となっています。

・30秒の無音
・統制群1:ピンクノイズ(5分)
・実験群1:17Hzのバイノーラルビート音源(5分)
・統制群2:ピンクノイズ(5分)
・実験群2:17Hzのバイノーラルビート音源(5分)

測定された脳波データはCSV形式のデータで保存され、PythonのNumPymatplotlibを使って解析を行いました。

このようにして測定された脳波の周波数特性をスペクトログラムに変換したものがこちら。縦軸が周波数の高さ、横軸が時間の流れを秒数で示すグラフとなっているのですが、ピンクノイズとバイノーラルビート音源を交互に聞かせているにもかかわらず、脳波には全くといっていいほど影響が現れていないことがわかりました。


上の図では時間の流れを見ましたが、以下のでは周波数の分布を見てみます。横軸が脳波の周波数分布を、縦軸は周波数ごとの強さを示しており、いわば上のスペクトログラムを縦に切った断面図といえるものです。灰色のグラフがピンクノイズを聞いているときの脳波、そしてオレンジ色のグラフがバイノーラルビート音源を聞いているときの脳波を示しているのですが、ここでも両者の間には明確な差が生じていないことが明らかになっています。


これらのグラフは複数測定された脳波のうち、「8チャンネル」のデータをプロットしたものとのこと。実験チームでは他のチャンネルのデータについても同様にグラフ化しましたが、結果は同様に明確な差は認められなかったことが明らかになっています。

◆結論
実験結果をもとに研究チームは、「バイノーラルビート音源は脳波に明確な同調作用(エントレインメント)を及ぼさない」と結論づけています。実験では、17Hzに加えて8Hzのバイノーラルビート音源が同様に実験されていますが、こちらも同様に明確な結果は確認されなかったとのこと。

脳波レベルでのバイノーラルビート音源の有効性が否定されるという実験結果になったわけですが、研究チームは「実験内容にはいくつかの制限がある」として、以下の点についてさらなる検証が求められることにも触れています。

・検証時間
今回は5分ずつに区切った実験が適切と判断したが、実際にはより長い時間をかけた実験が求められる可能性がある。

・周波数
今回は17Hzと8hzのバイノーラルビート音源を用いたが、他の周波数だと異なった結果が出た可能性もある。バイノーラルビートによる効果は、特有の周波数にのみ表れる可能性もある。

・被験者の選び方
今回の実験では2名の被験者が実験に参加したが、おそらくバイノーラルビートによる効果には個人差があるものと考えられる。さらに多くの被験者を用いて効果の有無が検証されるべきである。

今回の実験結果の公表に際し、The Autodidactsは「われわれはEEGのエキスパートというわけではないので」と前置きし、検証方法やデータの中には間違った点もあるかもしれないと注意を呼びかけています。実験で得られた脳波データ(CSVファイル)や分析データが公開されているので、関心のある人は参照してみると面白いかもしれません。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
すやすや快眠を可能にする、オンキヨー共同開発の脳波測定ヘッドフォン「Kokoon」 - GIGAZINE

明晰夢の状態を脳に外部から電気刺激を与えることで作り出せることが判明 - GIGAZINE

ドライバーの脳波を測定して安全性を高める「第六感安全装置」をジャガー・ランドローバーが開発 - GIGAZINE

日中に仮眠を取る効果や最良の仮眠時間帯・仮眠時間など「仮眠」に関するあれこれ - GIGAZINE

寝不足な日の効率性を上げる方法は「よく寝た」と頭の中で思い込むこと - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.