メモ

世界を騒然とさせた「電池を8倍長持ちさせる魔法のケース」は眉唾なのか?


先日、電池切れを起こした電池に取り付けるだけで8倍長く使えるようになるという魔法のようなバッテリーケース「Batteriser」が発表され、世界中のメディアがこぞって画期的なハードウェアだと驚きをもって取り上げました。しかし、Batteriserが本当に8倍もバッテリー寿命を延ばすことができるのかについて、その性能を疑問視する見解がさっそく現れています。

The Batteriser Explained | EEVblog - The Electronics Engineering Video Blog
http://www.eevblog.com/2015/06/07/the-batteriser-explained/

そもそも多くの人に衝撃を与えた「Batteriser」がどんなツールなのかは以下のムービーを見れば一発で理解できます。

Meet Batteriser - vimeo


これがBatteriser。電池に取り付けるタイプのハードウェアで、バッテリーの持ちを800%もアップさせるという驚異的な性能をウリにしています。サンノゼ州立大学のキウマース・パルビン教授が開発したコンパクトなDCDCコンバータで、昇圧することでバッテリー寿命を大きく延ばすことができるとのこと。


Batteriserを開発するBatterooによると、ほとんどの電池は使っているうちに電圧が下がってしまい1.3V程度で機械が使用不能になってしまうとのこと。そのためわずか約20%のエネルギーしか使うことができておらず、大半のエネルギーは使われることなく廃棄されるとBatterooは述べています。これに対してBatteriserを電池に取り付けると、常に電圧を高めてくれるので最後までエネルギーを使い切ることができ、最大8倍長い時間使えるようになるというわけです。


Batteriserは非常にコンパクトなので電池に取り付けた状態で各種機器で使うことができます。


DCDCコンバータ自体はありふれた装置ですが、電池に装着してもほとんど大きさが変わらないコンパクトな形状にできた点にBatteriserの特長があり、コンパクトにできた昇圧回路設計について特許を取得しているとのことです。

しかし、科学的な「常識」に照らせば「800%アップ」「8倍長持ち」をアピールするBatteriserはおかしいのではないか、という指摘が出現しています。電子機器デザインエンジニアのデイビッド・ジョーンズ氏はブログEEVBlogで早速、「Batteriserは変だ」と科学的なデータを根拠に挙げつつ批評しています。

これは大手電池メーカーのDuracellが公開しているアルカリ乾電池の放電時の電圧特性を示す放電曲線。青い曲線が放電とともに降下していくアルカリ電池の電圧を示しており、青い曲線より下の部分の面積が、総放電量すなわちバッテリーが放出したエネルギーを表します。


この一般的なアルカリ電池の特性に照らせば、緑の補助線の通り、Batterooが多くの機器が使用不能になると主張する1.3Vに電圧が降下するまでに残されたエネルギーは約45%であり、Batteriserの言う「使い切れていないエネルギーは80%もある」というのは大げさだとのこと。

さらに、「乾電池で動くほとんどの機器は1.3Vまで電圧が下がるとまともに動作しなくなる」という主張自体が事実ではないとジョーンズ氏は述べています。ジョーンズ氏が乾電池を使う典型的な機器で正常に動作しなくなる最低電圧値を調べたところ、サーモメーターが1.2V、DATレコーダーが1.1V、オシロスコープが0.95V、電卓に至っては0.8Vに降下するまで使用可能で、調べた13種類の機器の最低電圧の平均値は1.1Vだったそうです。


また、ジョーンズ氏は多くの機器が1.1Vを最低電圧値に想定して設計・開発されているのは電子機器の工業デザインに携わる人にとっては半ば常識であると述べています。

下のグラフは充電可能な二次電池で広く利用されるニッケル水素電池の放電曲線。ニッケル水素電池はアルカリ電池に比べると初期電圧が低い特性がありますが、放電に伴う電圧降下のペースがアルカリ電池に比べると圧倒的に小さいという特長を持っています。そのニッケル水素電池の電圧が急激に降下するのがおよそ1.1Vで、1.1V以上電圧がある状態で機器が正常に動作するように設計しておけば、ニッケル水素電池の能力を最大限に引き出し長いバッテリー駆動時間が実現できるため、製品開発に当たっては1.1Vで動作するように設計するというわけです。


なお、放電時の電圧降下の特徴は電池の温度に依存せずほぼ同一とのこと。


ブログの考察記事内でジョーンズ氏は、一般的な電池の特性に照らして「800%アップ」「8倍長持ち」というBatteriserの売り文句が前提とする使用条件が現実離れしているという主張の他にも、「使っていない80%を使いきるならば、400%アップにすぎないのではないか?」と素朴な疑問を呈しています。800%アップをうたいたければ、「バッテリーのわずか11.1%しか使っていません」としなければならないはず、というわけです。さらに、「800%アップならば『8倍長持ち』ではない。それは『9倍長持ち』のはずだ」と的確なツッコミも入れています。

Batterooは電池寿命「800%アップ」を果たす想定条件について一切説明していないので詳細については分からないと前置きした上で、ジョーンズ氏はDCDCコンバータの効率はせいぜい90%、一般的には80%以下であることが多いことから、800%アップを実現するのは不可能だろうと見ています。しかし、仮にDCDCコンバータを活用することで電池寿命を50%アップさせられるだけでもBatteriserが優れた製品であることに変わりはないし、製品化された場合にはきっと買ってみて試すことだろうとBatteriserのコンパクト化技術に一定の評価を与えています。

なお、PCWorldによると、Batteriserは2015年6月中にクラウドファンディングサイトIndiegogoで先行予約を受付け、2015年9月に一般販売が始まり、4個セット10ドル(約1200円)で発売される予定です。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
わずか60秒でフル充電できる「アルミニウムバッテリー」の開発に成功 - GIGAZINE

スマホや電気自動車のバッテリー容量を4倍にする「真のリチウムバッテリー」が登場 - GIGAZINE

スマホ・ノートPCなどのリチウムバッテリーの寿命を延ばす方法 - GIGAZINE

切手サイズのバッテリーをたった12分でフル充電可能になる新構造が登場 - GIGAZINE

現行リチウムバッテリー比2倍のエネルギー密度の全固体電池が数年以内に実用化の見込み - GIGAZINE

in メモ,   ハードウェア,   動画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.