睡眠中にビクっとしてしまう行動はどうして起こるのか
by Hope For Gorilla
机にうつ伏せて寝ているときや、電車で立ちながらウトウトしているときに、急に体が動いてビックリした経験がある人も多いハズ。この動きは「ジャーキング」と呼ばれるのですが、イギリス・シェフィールド大学で心理学と認知科学の講師をつとめるトム・スタッフォード氏は、なぜ睡眠中にジャーキングがおこるのか、その疑問に答えています。
BBC - Future - Why your body jerks before you fall asleep
http://www.bbc.com/future/story/20120522-suffer-from-sleep-shudders
眠っている状態の人は、体が「まひ」した状態になっています。たとえ非常にハッキリした夢を見ている時でも筋肉は緩んだままとなっており、脳内でおこっている興奮状態が体の動きに現れることはほとんどありません。寝ている間の人は多くの場合、外の世界の出来事をシャットアウトする状態となっているので、仮に眠っている人のまぶたをこじ開けて光を当てたとしても、夢の内容に影響を与えることはほとんどありません。
by Paul Jacobson
とはいえ、夢を見ている人と外の世界との間は完全に閉ざされているわけではありません。睡眠中に生じる「急速眼球運動(REM)」と「ジャーキング」は、寝ている人の働きを外から見ることができる体の動きとなっています。
眠っているときの最も一般的な動きは、レム睡眠と関係がある急速眼球運動(Rapid Eye Movement:REM)です。REMは夢を見ているときに夢で見ているものに応じて目が動くもので、例えば夢でテニスゲームを観戦していると、テニスのボレーを追うように右に左に目が動きます。夢の世界で反応した目の動きは、睡眠中のまひを逃れ、現実の動きに現れます。寝ている人の目の動きは、夢を見ている分かりやすいサインです。
これに対し、ジャーキングは別のメカニズムを持つものとなっています。REMとは異なり、ジャーキングは夢の内容を反映したものではないので、たとえ、夢の中で自転車に乗っていたとしても、実際に自分の足がペダルをこぐように動くことはありません。ジャーキングは、睡眠時に脳が体の動きをまひさせる働きを超え、身体の動きをつかさどる運動系が体を直接動かす作用によるものとなっています。
人間の脳には睡眠をつかさどる「ON/OFFスイッチ」のようなものは存在せず、覚醒状態と睡眠状態をコントロールする2つの相反するシステムがバランスを取る仕組みが備わっています。覚醒状態をコントロールするシステムは、大脳皮質の下に存在する「網様体賦活系」と呼ばれる神経細胞ネットワークで、これが活発に活動しているときに人間は目覚めている状態になります。
by Reigh LeBlanc
一方の、睡眠をコントロールするシステムは「腹外側視索前核」またはVLPOと呼ばれています。VLPOは視神経近くに位置していることから、太陽の光を感知することで昼間の時間の始まりと終わりの情報を集め、睡眠サイクルに影響を与えているものと考えられています。
人間が眠りにつく時、脳の中では覚醒状態を維持しようとする「網様体賦活系」と眠気をコントロールする「VLPO」が戦い始め、VLPOが優勢になると、睡眠時のまひが始まります。これに続く働きはまだ明らかにされていない部分があるのですが、運動系のコントロールが完全に停止していない状態の時に、ジャーキングがおこると考えられています。言い換えると、ジャーキングとは睡眠状態に入る前におこる、日中活動の「最後のあがき」と考えることができるのです。
なお、ジャーキングについては、夢の中で落下しているかつまずいてることが原因と報告している人もいます。これは「dream incorporation(夢組み込み)」と呼ばれる現象の実例で、たとえば目覚まし時計のようなものが夢に組み込まれるものです。これがおこる時に、脳は状況に沿った妥当性のある夢を生み出そうと驚くべき能力を示します。脳の予想する部分と計画する部分が抑制され、まるでジャズミュージシャンが共演者の演奏に応じて掛け合いを行うように、夢の進行に応じて心が柔軟な反応を見せることがわかっています。
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