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インターネットは知力の向上に影響せずに多くの人は「そう思っているだけ」ということが判明

By Paul Downey

世界中の知と情報があふれる「知の宝庫」ともいえるインターネットですが、実際に使っている人々の知力の向上にはほとんど影響を及ぼしていないことが研究の結果明らかになりました。研究から、インターネットの検索エンジンを使った人は、自分の知的能力を過剰に見積もる傾向があることがわかっています。

PsycNET - DOI Landing page
http://psycnet.apa.org/?&fa=main.doiLanding&doi=10.1037/xge0000070

The Internet doesn’t make you smarter; you only think it does | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2015/04/the-internet-doesnt-make-you-smarter-you-only-think-it-does/

実際にインターネットから多くの知識や情報を得ている人が聞くと卒倒しそうな研究結果ですが、これはアメリカ・イェール大学の研究チームが発表してJournal of Experimental Psychology誌に掲載されたもの。研究では、被験者グループを「検索エンジンを使うグループ」と「検索エンジンを使わないグループ」に分けて、それぞれが自分の知識に対して持つ「自信」の度合いを測定することで、ネットによって与えられる影響力を調査しました。

◆「集合知」と「Transactive memory system」
インターネットのもたらす知識の力は集団的知性または「集合知」として認識されており、1人の人間だけでは持ち得ない膨大な知識の量を持つことで、あたかもインターネットを介する集団に1つの知性や精神が存在しているかのように感じさせる力を宿しています。

その中でも例えば、「営業部のAさんは取引契約の結び方については第一人者だ」「物流に関しては倉庫部のBさんに尋ねればいい」「社内の冠婚葬祭マナーは総務部のCさんが詳しい」などのように、「誰が何をよく知っている」のかを認識することは「Transactive Memory System(TMS)」と呼ばれ、必要な情報に効率よいアクセスを可能にすることでパフォーマンスを向上させる重要な要素とされています。

By Chris Potter

そして、インターネットの世界におけるTMSに大きな役目を果たすのがGoogleやBingなどの検索エンジンです。検索エンジンは、キーワードを入れるだけで世界のどこに必要とする知識があるのかを教えてくれ、すぐに手に入れることを可能にしてくれるため、まさに集合知やTMSの究極の形と言っても過言ではないといえます。

◆検索エンジンが人々の知力に与える影響力とは
それでは果たして、検索エンジンを使うと人々の知力にどのような影響があるのか、それを実際に調査したのがイェール大学の研究チームです。研究チームは、実験に参加した被験者に対し、あまり多くの知識を持たない話題について説明することを求める実験を行ったのですが、その際に被験者を「検索エンジンを使わせるグループ」と「検索エンジンを使わせないグループ」に分け、それぞれのメンバーが自分の説明に対してどれほどの自信を持つことができるのかを検証しました。被験者は、Amazonが運営するクラウドソーシングマーケットプレイスのAmazon Mechanical Turkを用いて集められています。

131名の被験者に対して行われた最初の実験では、まずは実験の第一段階「導入フェーズ」として、「なぜ地球には時差があるのか?」などの質問を与えて説明を求めました。一方のグループには検索エンジンを使わせ、回答終了後に自分の説明にどれだけ自信があるのかを採点させました。一方のグループには検索エンジンの使用を禁止して、同じ設問に対して回答させ、同じように自分の回答に対する自信度を採点させます。その結果、予想どおりに検索エンジンを使ったグループのほうが、より自信が高いという結果が出ました。

By Jasmine Everett

次に、第2段階「自己評価フェーズ」では別の新たな質問を実施。この段階では両グループに対して検索エンジンの使用を禁止し、回答後に同じように自信度を採点させたのですが、結果は第一段階で検索エンジンを使っていたグループのほうが、自分の回答に対して明らかに高い自信度を示していたことが判明しました。この第2段階では条件を同じくしたにもかかわらず、明確に異なる採点結果が出るという興味深い現象が生じています。

研究チームはこの傾向を検証すべく、さらなる実験を行いました。280名が参加した次の実験では、前回と同様に2つのグループに対して「回答」と「自信度の自己採点」を行わせたのですが、今回は実験を行う前に「自分の説明力がどの程度あるのか」をあらかじめ採点させておくことで、検索エンジンを使う実験の前後でどのように自信度が変化したのかを測定。すると、実験前はどちらのグループも変わらない自信度を示していたにもかかわらず、実験後にはやはり検索エンジンを使ったグループの自信度が顕著に向上するという結果が現れました。

さらに研究グループは、検索エンジンを「使う」グループに対して、検索で引っかかった中のある特定のサイトから情報を得るように指示し、「使わない」グループに対しても同じサイトを教えて情報を抜き出すように指示した場合でも、検索を行ったグループのほうが高い自信度を示す傾向を示したことが判明。つまり、「検索する」という行為そのものに自信度を高くする効果があるということが浮き彫りになったというわけです。

By s0ulsurfing

しかし一方で、研究チームはここで「検索エンジンを使うことによって生まれるこの傾向は、検索エンジンで引っかかる情報に関してだけでなく、その人が持つ認知力に対する自信度そのものを上げてしまうのではないか」という疑問を提起。もしこれが本当であるとすれば、ネットから得られる情報以外の設問に対しても、同様に高い自信度を示すことになります。そこで研究チームは、次なる実験を行ってこれを検証しました。

今回の設問を「あなたが高校1年生の時に選択した授業と、現在の職業の関係は?」といったネットではほとんど得ることができない内容にしたところ、結果は検索エンジンを「使う」グループと「使えない」グループでほぼ変わらない数値を示したことが明らかになりました。ここからは、インターネットにアクセスすることによって人々は、全体的な自信そのものではなく、ネットから得られる情報に限られたものに対する自信を得るという事実が判明しています。


最後に、研究チームは検索結果そのものに制限をかけることで生まれる変化を検証。検索結果にほとんど役に立たない情報のみを表示させた状態で両者の違いを検証したところ、それでも検索を行ったグループは「自己評価フェーズ」において高い自信を示すという同じ傾向を示すことが明らかになりました。

研究チームはこれらの結果を総合して、人々はインターネットで検索するとき、検索内容のいかんに関わらず、検索する行為そのものによって知識を広げたという一種の幻想を持つ傾向にあることが明らかにされた、と結論づけています。

By Frederik Hermann

さらに、今回発見された傾向はインターネットに限らず、図書館のような多くの情報が集まる状況において同様にみられるものですが、特に情報量の多さ、アクセス性の高いインターネットにおいて顕著に表れるものだと研究チームは述べています。

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in Posted by darkhorse_log

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