サイエンス

なぜ男性用ピルなどの効果的な男性用避妊手法の開発は進まないのか?

By zen Sutherland

望まない妊娠を予防するために経口避妊薬(ピル)が使われていますが、ピルはたいてい女性が服用する薬であり、男性用ピルはほとんど開発されていません。男性用の避妊手法といえば、コンドームが主役ですが、コンドームの避妊効果はそれほど高くないことが判明しており新しい効果的な避妊手法の登場が望まれています。それにもかかわらず男性用の避妊薬が開発されない理由について現役の医師が考察しています。

Why is there still no male contraceptive pill? – Jalees Rehman – Aeon
http://aeon.co/magazine/being-human/why-is-there-still-no-pill-for-men/

Male Contraception Information Project » RISUG
http://www.newmalecontraception.org/risug/

現役の医師でイリノイ大学で准教授を務めるジェリーズ・レーマン氏は、喫煙習慣がなく血圧・コレステロール値に特に問題がないにも関わらず心臓に不調を訴えた女性患者の検査をしたところ、冠状動脈が痙攣して心臓発作を引き起こしかねない危険な状態であることをみつけました。なぜ若くて健康な女性が心臓発作の危険性を抱えているのかについて熟考したレーマン医師は、「ある特定のピルが血栓を作り出す」という報告が多数寄せられていることを思い出し、女性患者に尋ねたところ、そのピルを使用していることが分かったそうです。

By @Doug88888

この診断の経験から、「なぜピルは女性用に限られており男性用のものがないのか?」「なぜ避妊に伴う副作用を女性だけが負担しなければならないのか?」という素朴な疑問を感じたレーマン医師は、男性用ピルの開発がなかなか進展しない原因を調べました。

女性用のピルが実用レベルに達して普及し始めたのは1960年代で、その後、錠剤・注射・パッチタイプなどいろいろな種類のピルが開発されました。一方でコンドームが女性用ピルよりも早い18世紀から既に普及していたこともあって、男性用ピルの開発は、女性用ピルに比べると必要性が低いという事情から進んでいませんでした。しかし、コンドームは感染症予防には非常に効果的ではあるものの、避妊に対する信頼性はそれほど高くなく、避妊目的でコンドームを使用している夫婦の最大18%は意図していない妊娠が発生しているとのこと。

By Jason Vance

コンドームの存在のせいで開発の遅れた男性用ピルですが、近年、男性ホルモンとして知られるテストステロンを錠剤・パッチ・注射などによって投与するという臨床試験が行われ出しています。テストステロンは陰嚢(睾丸)に含まれる男性ホルモンであることから、投与することは避妊にとって逆効果にも思えますが、テストステロン値が高くなりすぎると、脳はテストステロンを活性化させる卵胞刺激ホルモン(FSH)黄体形成ホルモンの排出を抑制するため、睾丸内のテストステロンレベルは最終的には受精可能なしきい値以下に抑えられ避妊効果が生じるというメカニズムです。なお、受精不能なテストステロンレベルといえども性欲や男性機能の不全までは引き起こさないとのこと。

このテストステロン供給タイプの男性用ピルの臨床試験は世界保健機構(WHO)の主導の下、2008年から2010年までにのべ200以上のカップルを被験者としてテストが行われましたが、うつ病や気分の浮き沈みが激しくなること、性欲が増すことが確認され、2011年4月に試験が中止されました。なお、この研究成果の詳細な内容は、近い将来、発表される予定です。

By Bart

また、副作用があること以外に、テストステロン供給タイプの男性用ピルの臨床試験の大きな障壁となっているのは、偽薬効果を念頭に置いた対照実験ができないことです。避妊の臨床試験に参加する人は通常、試験によって着床率が下がる可能性があるということに同意したとしても、まったく避妊効果が認められない偽薬が投与されたため仮に妊娠した場合、避妊の有効性を信じたのに裏切られたということになりかねず、人道上の観点から偽薬効果を想定した対照実験が困難というわけです。

このようなテストステロン供給タイプの男性用ピルの開発には障害があることから、ホルモン性避妊薬に代わって、大きな期待が寄せられているのがインドのスージョイ・グハ博士が開発した、精子の供給を絶つという方法で避妊効果を生み出そうとする手法「RISUG」です。

これまでにもコンドーム以外の男性用の避妊対策として、両側精管結紮切除術(いわゆる「パイプカット」)という方法がありましたが、手術が必要であることや、術後に受精能力を回復できない危険性などもあることからそれほど普及してはいませんでした。

これに対して、RISUGは輸精管に注入した帯電ポリマーによって精子の軸糸の運動機能を喪失させ受精能力を奪うことで避妊効果を出すという手法で、ポリマーを注入する手術自体が必要なのはパイプカットと同様ながら、ポリマーを溶かすことで止めたいときに避妊効果をなくすことができるとのこと。なお、RISUGで使われる帯電ポリマーは人体に無害で、1回の施術によって10年以上の間、輸精管にとどまることで効果を維持し続け、帯電ポリマー自体も非常に安価に製造でき、すでに臨床試験はフェーズIIIに突入しており実用は間近とみられています。


もっとも、副作用がなく、極めて安価で、いつでも避妊効果をなくすことができるため非常に有望視されているRISUGですが、普及するかどうかは先行き不透明であるとレーマン医師は述べています。その理由は、RISUGは非常に高い効果を極めて安いランニングコストで実現できるため、大きなもうけを見込めない製薬会社が開発に積極的にならないからだとのこと。レーマン医師は、RISUGが普及するためには営利を目的にしていないNGOなどの非営利組織が開発を主導する必要があるだろうと考えています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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