宙に浮いたアルミが溶けてしまう不思議な現象、その原理を実験してみた
何の変哲もないアルミの塊が宙に浮き、徐々に真っ赤に溶け始めて最後には地面に落ちてしまうというムービーがYouTubeなどの動画サイトで話題になっています。なぜアルミの塊は溶けてしまったのか、そしてなぜ空中にフワフワと浮くことができたのか、その原理がだいたいわかったので、実験で確かめてみることにしました。
HQ Melting Aluminuim w/ ElectroMagnetic Cylinder HQ - YouTube
カメラの正面には、銅でできたと思われるコイルが映っています。その向こうにあるアルミの塊をピンセットで拾い上げて……
コイルの中心に持ってくると……
その位置のまま、ふわふわと宙に浮き始めました。ゆらゆらと揺れながらも、コイルの中心あたりで位置をキープしています。
周りのコイルには強い電流が流されているようです。途中で電流を強くしたのでしょうか、それまで揺れ続けていたアルミ塊の動きがぴたっと止まり、直立するように角度を変えました。
そしてさらに、次第に真っ赤に溶け始めていきます。円筒状だった形状も、溶けてアメのようにやわらかくなったために角が取れ、上下に引き伸ばされています。
電流のスイッチを切ると、一瞬で「ボタッ」と地面に落ちて固まってしまい……
数秒もすると、カチカチのアルミ板に戻ってしまいました。
◆アルミ塊が溶けたワケ
炎であぶったわけでもないのにアルミの塊が溶けてしまったのは、「誘導加熱」と呼ばれる現象によるものです。コイルを流れる高周波の電流が生じさせた磁場がアルミの塊を貫くことで、直接には接していないアルミの中に「渦(うず)電流」と呼ばれる電流が発生します。この渦電流が流れ続けることでアルミ自体が発熱して最後には高熱で溶けてしまう、というわけです。
By Wikipedia
「誘導加熱」は英語で「Induction Heating」と呼ばれ、その頭文字である「IH」が示すように、フライパンやヤカンを熱くして調理する「IH調理器」にもこの現象が利用されています。
By Wikipedia
◆アルミ塊を宙に浮かせた力とは?
それでは、アルミの塊が宙に浮いていたのはどのような理由によるものでしょうか?宙に浮くものでよく知られているものといえば、超伝導による強力な磁力で車体を浮かせ、時速500キロで走行するリニアモーターカーがありますが、ムービーに登場したアルミの塊も原理としてはリニアモーターカーと同じ仕組みで空中に浮いています。
しかし、アルミは通常では磁性をほとんど帯びない物質のはず。そんなアルミに磁力を持たせ、自らを浮かべるほどの力を与えているのも、電磁誘導によって発生した渦電流が発生させた交流電磁場による力で、この現象は磁気浮上と呼ばれています。
磁気浮上の現象は、IH調理器さえあれば家庭でも簡単に再現することが可能。まずは市販のアルミホイルと、紙などの電気を通さない素材でできた筒状のものを用意します。写真に写っているのは、キッチンペーパーの芯。なお、実験時の状況によっては、アルミホイルから火花が出るなどの可能性があります。実験する際には十分に注意し、もし火が出た場合にもすぐに消火できるようにコップなどに水を入れておくなどの準備をしてください。
アルミホイルを20センチ四方のサイズに切り、折り紙の要領で二つ折りにします。
さらに四つ折りに。
そして4つが重なっている角の部分をハサミで切り取り、アルミホイルの中心に穴を開けます。
扇形に切り取ったアルミを広げると………
アルミホイルに穴が開きました。
次に、紙の筒をIH調理器の真ん中にセットし、上からアルミホイルを通します。
そしてIH調理器の電源をONにすると、何も触れていないはずのアルミホイルがひょこひょこと上下を繰り返し始めました。
交流電磁場が発生して浮き上がるアルミホイル - YouTube
アルミホイルが浮上する力は、IH調理器が発生させている磁場のエネルギーです。磁場を受けたアルミホイルの中には電磁誘導によって誘導電流が流れることで交流電磁場が発生。そのおかげでIH調理器とアルミホイルの間には磁力による反発が生じるので、アルミホイルが浮かび上がった、ということになります。
アルミホイルが数秒おきに浮上を繰り返す主な原因は、浮上して距離が離れたことで、IH調理器に内蔵された空焚き防止センサーが作動したためと思われます。手前に置いてあるのは、小さく切ったティッシュペーパー。風の力で浮いているのであれば一緒に飛んでしまうはずですが、ティッシュは微動だにしていない様子が見て取れます。
つまり、最初のムービーでアルミ塊が浮上したまま溶けた現象は、コイルを流れる高周波の交流電流によってコイルの周りに磁場が発生し、アルミ塊に飛び込んだ磁場が内部に電磁誘導による渦電流を発生させ、渦電流自体が電流変化によって磁場を生じ、これらの磁力により両者が反発しあうことで磁気浮上が起こっているというわけ。そして、内部に発生した渦電流はアルミ本体が持つ電気抵抗により発熱する誘導加熱を起こし、自らが発した熱でアルミ塊は溶けることになったのでした。
目には見えない電気、電磁力のエネルギーですが、実はいろいろなところで役に立っているということがよくわかりますね。
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