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天才なのかマッドサイエンティストなのか?数百億円を集めて5つのスタートアップを起業した男


スタートアップとして起業するのは大変ですが、事業を成長させ続けるのはさらに大変です。数々のスタートアップが生まれては消えていく中で、5つの会社を起業し、投資家から数百億円を集めたのがMike Cheikyさんですが、バイオ燃料の開発を目的に創設されたスタートアップは「革新的」と称賛される一方で一部からは「インチキだ」とウワサが飛び交う事態になっています。果たして「Cheikyさんは天才なのか?マッドサイエンティストなのか?インチキなのか?」ということで、The VergeがCheikyさんがどのような人物なのかを明かしています。

The inventor of everything | The Verge
http://www.theverge.com/2014/4/14/5561250/cool-planet

植物を燃料に変えるために立ち上げられたスタートアップ「Cool Planet」の創業者であるMike Cheikyさんはこの人。


Mike Cheikyさんが創業した「Cool Planet」は、植物を分解することで安価な燃料を作り、さらに分解の過程で肥料として優れた環境に優しいバイオ炭素を生み出すことが可能です。

Cool Planet | Biochar CoolTerra™ and Green Renewable Fuels
http://www.coolplanet.com/



Cheikyさんは1975年にOhio ScientificというPC会社を立ち上げた人物で、その後もPCに留まることなく、バイオ燃料やタッチスクリーン、音声認識技術、バッテリーなど、さまざまな分野で多くの発明を行ってきました。

Cheikyさんが作った5番目の会社Cool PlanetはGoogle Venturesを始めとする多くの会社から1億ドル(約100億円)の投資を得ており、Cheikyさんが創業したCool Planet、Zpower、Transonicという3つの会社を併せると少なくとも3億ドル(約300億円)の投資を得ることに成功しているとのこと。


Cool Planetの行っていることはあまりにも現実離れした夢物語のようであるため、厳しい意見を告げる人もいます。ケミカルエンジニアのRobert Rapierさんは「Cool Planetの主張は『十分な温度と圧力を与えることで水がワインに変化する』という意見に近い」と語り、また元従業員はCheikyさんのことについて「世界でも有数の天才か気が狂っているかのどちらかだ」と表現しました。

しかし確かなのは、Cheikyさんが投資者からお金を集めることにたけているということです。

The VergeのAlex DrysdaleさんがCheikyさんのプライベートラボに訪れたところ、建物の中は高級車の数々や、Ohio Scientific Challenger IIというコンピューターや、タイルのようなアイコンが表示されたタッチスクリーン、1993年に開発されたSiriのように音声で動作するインターフェースのデバイスなど、Cheikyさんの発明品であふれていたとのこと。CheikyさんによればAppleのSteve Wozniak氏はApple IIを作るためにOhio Scientificの技術を利用しているそうで、これらについてCheikyさんは喜々として語りました。


シリコンバレーでは「創立者のジレンマ」という例えがよく使われます。これは「会社を興すのが得意な人が事業を成熟させることにたけているわけではない」という意味。この、「会社を興す人」、つまり「一見不可能に見えるアイデアを追い掛け、人々を励起することにたけている人」を探しだして投資するのがベンチャーキャピタリストの仕事です。

Cheikyさんは典型的なこのタイプで、Cheikyさんの右腕であるMike Rockeさんは「彼は何かに取りかかって、徐々にスピードを落としていき、それが商業的な段階に入ると退屈して別の何かを始めるのです」と語っています。

2002年、Rockeさんがインテルのためのベンチャーキャピタリストとして働いていた時にCheikyさんに出会いました。彼はCheikyさんが3番目に立ち上げたバッテリーをメインとした企業Zpowerをインテルに紹介し、その後すぐに2人はTransonicという新しい企業を立ち上げて一緒に働き出します。Cheikyさんが作った会社5つのうち最後の2つはRockeさんとタッグを組んで興したものになるわけですが、この間はCheikyさんが発明を行い、Rockeさんが投資家からお金を集めていたそうです。


Cheikyさんについて語るRockeさんは、Cheikyさんをトーマス・エジソンに例え、「彼の能力の1つは発明がどれほどのものかを測ること。そしてバラバラのパーツを1つにして次のステージに持っていくことです。彼のように異なったアイデアを1つする、ということは誰もできません」と説明するなど非常に雄弁だった様子。

しかし起業家としての輝かしい実績や才能は必ずしも目に映る通りのものではなく、Transonicの元従業員は「彼がすばらしいということに疑問を挟む余地はない。IQは150ぐらいあるんじゃないかな。問題は彼が自分の知能を邪悪なことに使うことだ」と語っています。

Cheikyさんは、自分自身を「純粋な調査が生きがいで、会社を作るのを楽しみ、しかしすぐに疲れて次に移ってしまう落ち着きのない発明家」だと考えていますが、一方でDrysdaleさんが元従業員や現在の従業員らと話したところ、別の側面が見えてきたのです。

つまり、Cheikyさんは自分の選択で会社をやめたのではなく、投資家と創業メンバーが彼の研究内容が商業的に実行不可能であると気づいて止めさせた、ということ。また空気亜鉛電池を作っていたZpowerでプロトタイプに取りかかっていたエンジニアの1人はある午後、Cheikyさんが自身のラボで作ったという新しいプロトタイプを見せられます。しかしテストに関する公式なデータは存在せず、エンジニアの表現を借りれば会社は「インチキの集まり」だったそうです。「彼は存在しない『革新的な新技術』を売っていたのです」とエンジニア。

「Solve for X」でプレゼンテーションを行うCheikyさんの様子は以下から。

Solve for X: Mike Cheiky on negative carbon liquid fuels - YouTube


この他にも、実験中に危険と知りながらも結果が欲しいために不適切な操作をしたり、「やっていることを全く理解していないとしか思えない」と従業員に思われたりと、従業員からは、Cheikyさんおよび会社のかなりグレーな側面を聞き出すことができました。

だからといってCheikyさんが無能だったかと言えばそうではなく、「才能ある人間を採用する能力と、マーケットのチャンスを見つけ、テクノロジーをデザインして『革命的な発明』をタイムリーに示唆する」のがうまかった、という意見もあります。エンジニアたちはCool PlanetやTransonicのアイデアを称賛しましたが、いざ事態がうまくいかなくなると、Cheikyさんはその事実を否定するとのこと。

Cool Planetでは、植物を燃料へと変えようとしていますが、その前提は「植物は液体燃料と水・バイオ炭・農産物にいい土を作ることができる木炭の副産物に分解できる」ということです。「バイオ炭は地面に炭素を加えて水分の持ちをよくし、さらにCO2を空気中に放出しないため地球温暖化に役立ち、農産物にもいい影響を与え、かつ安価という魔法のような燃料となります。Cool Planetはこれまで行ってきた中で最も重要な仕事です」とCheikyさん。


インタビューを続ける中で、Drysdaleさんはある元従業員に「投資家たちが商業化が不可能だと踏んでCheikyさんをやめさせた」という話をしたところ、元従業員は腕を組みながらこう話しました。「誰かが社長になるために会社に入った場合、乗っ取りを考えるでしょうね。人は所有したがるものですし、そういう人は中に入ってきてこれまで行ってきたことには意味がなかった、と言うでしょう」とのことで、これはつまり、Cheikyさんや彼の立ち上げたスタートアップ企業の従業員や元従業員たちの批判も、所詮は1つの意見にすぎない、ということです。

取材を終えたDrysdaleさんが量子力学やゼオライト触媒の研究者を含めた3人の専門家にコメントを求めたところ、Cheikyさんの発明には少し無理があり、誇張して物事を伝えていると言われたとのこと。しかしケミカル・エンジニアのWilliam Banholzer教授からは「私はCool Planetを『常識を無視したけしからぬ主張』の例として教育で使っていますよ」という答えが返ってきました。彼は文字通りSolve for Xで行ったCheikyさんのプレゼンテーションを使ってPowerPointの資料を作成し、Cool Planetの主張するほどエネルギーを取り出せる植物は存在しないことや、植物を由来にバイオ炭を作ってもうまくいかないことなどをまとめました。


これがその資料。


Banholzer教授はThe Dow Chemical CompanyのCTOを勤める傍らでベンチャーキャピタルの右腕として助言を行っており、スタートアップのインチキを見破ることができるというユニークな技術を持っています。何百というベンチャー企業が驚くべき技術を主張しているのを見て事実とフィクションを見分けることができるようになったため、現在は学生たちにその技術を教えているというわけです。

また、Zpower、Transonic、Cool Planetの3社の役員はみんな「Cheikyさんが去ってから自分が会社の核である技術をいい方向に変えてきた」と言い、さらにTransonicとCool Planetの役員はCheikyさんの「発明」には今や頼っていないと主張しています。Banholzer氏の主張について尋ねられた時、Cool PlanetのCEOであるHoward Janzenさんは「そのような主張は会社のごくごく初期にもありましたが、私がここに来てからは非常に慎重に、正確に文書を出すようにしています」と説明しています。

TransonicやCool Planetの建物がCheikyさんの小さな「王国」であるプライベートラボの「隣に」建てられているのは役員らはCheikyさんと距離を置いているからではないか?とDrysdaleさん。しかし「Cool PlanetはCheikyさんのテクノロジーから離れていっている」とは言っても、いまだに会社ウェブサイト上の主張やスライド、特許などはCheikyさんによるのものです。


Cheikyさんの右腕であり、彼の才能をたたえていたRockeさんでさえ、取材後に電話で会話した際に「率直に言うと、私がMikeに関して称賛し、尊敬しているのは初期のアイデアとイノベーションについてなんです」と認めています。「これまで商業化しなかったり、商業化と戦ってきた会社をたくさん見てきました。私は機械技師なので、彼の作るものに問題があるのは分かっています。しかし、彼が生み出す最初のアイデア……科学そのもので、「どうやって問題を解決しよう」と思えるアイデアは、好きなのです。時々うまくいきませんが。時に失敗したり、時に科学ではなかったり、時に実行不可能な科学だったりはするのですが」と。つまり、生存し続けることができる会社というのは、それくらい難しいのです。

後にDrysdaleさんが「悪い科学」を引用してCheikyさんにメールを送ると、彼はそれを褒め言葉として受け取り、「そうなんです」と内容を認める旨の返信が来たとのこと。「私はこれを『悪い科学』であるとは考えていません。単純に、限られた資源を使ってハイスピードで会社を前進させるための、ものすごくねじ曲がったマネージメント方法なんです」

では、本当に彼が少なくとも2つの会社をやめさせられたとして、新しい会社を興す時に投資者たちは誰も警鐘を鳴らさなかったのでしょうか?

その答えの1つが、ベンチャーキャピタルが「印象的なバックグラウンドを持った頭のいい自信家」を投資のターゲットにしがちだということ。一見不可能で、話ができすぎていても、そして何十年ももとが取れていなくても、ベンチャーキャピタルは「賭けに出る」という土壌の上に建っているので、問題にならないのです。そしてCheikyさんと右腕のRockeさんは12年間もそれを続けているのです。

もしCheikyさんが目的を果たせなかった場合、ベンチャーキャピタルは数百億円を無駄にすることとなります。Cheikyさんの業績について投資家たちはThe Vergeに何も語りませんでしたが、いくつかの投資家は、「連続して起業する多くの人と異なり、Cheikyさんの場合、同じ投資家がお金を出すことがない」と、彼のネガティブな印象について語りました。


プライベートラボでの取材で、CheikyさんとRockeさんは投資額の話になると自慢げに「君、100億円がどれくらいすごいか彼に言ったかい?」「100億円という金額は小さな会社の多くが株式公開する以上の金額なんです」と話していた様子。「会社の創業者として得た株のおかげで成功しているのでしょうね」と言うと、「なくなってしまったよ」とおどけて答えましたが、「これまで作った会社から利益を得たくないのですか?」という質問には「私は研究者だから、お金は二の次だね」と返答。「彼はあまりお金に執着しないから」とRockeさんが付け加えました。

DrysdaleさんがCheikyさんと2時間過ごしたところ、Cheikyさんは「お金に関心がなく偉大なる科学にだけ興味がある研究者」という役割を楽しんでいるようでしたが、一方で車やヨット、プライベートジェットやマンションについて楽しそうに話していたのも事実。9万2000ドル(約920万円)のメルセデスE63Sをプライベートラボに駐めるスペースがないと説明しながらも、財産について詳細を尋ねると、研究への純粋な情熱へとテーマを移し、「私は誰もやりとげていないことに挑戦しているのです。人類のために最善を尽くしています」と抑揚をつけて語りました。


Cheikyさんの次なるプロジェクトは「V-Grid」と呼ばれるエネルギー問題を解決することを目的としたもの。以下のムービーから詳細が確認できます。

Vgrid - Powering The Cloud - MikeCheiky SVIS13 - YouTube


Cheikyさんは「V-Gridを立ち上げるためにCool Planetを担保に入れたので、Cool Planetの投資者たちは本質的にはV-Gridの投資者と同じです」と説明しましたが、Drysdaleさんが投資家たちに事実を確かめたところ、投資家の全員が断固として否定しました。しかし既にCheikyさんはCool Planetを使って新しい夢を描き、投資家たちに売り始めています。


さまざまなウワサが飛び交うCheikyさんですが、「Cheikyさんは純粋な科学者で、ただ周囲の人間が彼の科学についてこれなくなっただけだ」というのが一連の出来事の真実という見方ももちろんできます。アメリカには詳細をいろいろ検討すると問題が出てくることを「悪魔は細部に宿る」と表現しますが、彼の革新的なアイデアに話が及んだ時、「悪魔は細部に宿るからね」と語ったとのことです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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