取材

危険なイメージしかないメキシコを旅して気付いた大きな誤解


「地獄」「リアル北斗の拳」「世紀末」……これらはネット上でメキシコを形容するときに用いられる言葉です。麻薬組織同士の抗争、もしくは警察と麻薬組織の衝突などによって惨殺された人間の写真の数々はたしかに「この世の終わり」といった雰囲気すら漂います。僕もメキシコを旅すると言うと、いろいろな人に散々脅されたものです。「気は確かか?」と。そんなメキシコを1カ月かけて旅しました。

というわけで、あけましておめでとうございます。世界新聞社の松崎敦史です。今年は昨年以上に足を使って、泥臭く、時に鮮やかにネタを拾っていきたいと思っています。今年もよろしくお願いします。


世界一周中のわたくし、現在、グァテマラ第二の都市・ケツァルテナンゴにいます。メキシコの旅を終え、お隣・グァテマラに抜けてきました。正月はここで少しゆっくりしようかなと思っています。

ピンクが現在地、青が経由地

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さて、今回はいろいろ物騒な噂が絶えないメキシコの総集編をお届けします。1カ月かけてのバス縦断の旅。メキシコの旅を終えた今、思うこと。それは、自分は「ひどい誤解をしていた」ということです。

メキシコ旅のルート

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アメリカとの国境の街・シウダ―フアレスからメキシコの旅が始まりました。シウダ―フアレスは麻薬抗争の最前線に位置し、「戦争地域以外では最も危険な街」と言われています。

メキシコの治安については外務省海外安全HPから

【シウダ―フアレスの治安状況】(外務省海外安全HPより抜粋)
特にチワワ州フアレス市の治安悪化は顕著で、2010年に同市だけで2,738人もの組織犯罪関連の殺人被害が発生し、2011年2月には、出張中の邦人が銃撃された事件も発生しました。また、組織間の抗争や治安当局への襲撃には、自動車爆弾が使用されたり、手榴弾が投げ込まれるなど、その手口も凶悪化・無差別化しています。一方で一般治安も悪化し、誘拐、強盗、窃盗等も多発しています。ついては、これら市とその周辺地域への渡航、滞在はその是非を含め自らの安全につき真剣に検討を行い、十分な安全対策を講じることをお勧めします。

アメリカ側の国境ゲート。この先にメキシコとの国境をまたぐ橋がある


橋を渡ればそこはメキシコ・シウダ―フアレス


公園


人々の憩いの場


のんびーり


たくさんこどもたちが遊んでいました


市場は活気に溢れています


かなり拍子抜けしました。国境ゲート付近の大通りを昼に少し歩いた限りでは、不穏な空気は全く感じませんでした。それどころか、「のんびりした街だなぁ」と。アメリカに比べるとかなり素朴な感じがするメキシコの地方都市がそこにありました。ただし、マシンガンを構えた警官が街かどに立っていたり、パトカーがサイレンを鳴らして猛スピードで過ぎていったり、10人くらい兵士を載せたトラックが巡回していたり、という光景も目の当たりにしました。国境近辺だからでしょうか「ココでは自由にやらせない」という当局のメンツを感じた瞬間でした。

「なんか意外とメキシコ大丈夫そう」。そんな僕を、後日訪れたシウダ―フアレスのバスターミナルでの出来事が現実に引き戻しました。

シウダ―フアレスのバスターミナル


ターミナルの柱に紙がいっぱい貼ってあります。何だと思います?


これは全て行方不明者なんです


構内で知り合ったおじさん(メキシコ人)いわく「おそらく麻薬がらみでどうにかされた人」だということです。背筋が凍りつきました


おじさんは貼り紙を見つめ、「麻薬が全て悪いんだよ。麻薬が金を運び、金が悪い人間を運んでくる」と苦い表情で語りました。

ロスに10年住んでいたという、おじさんの嫁も負けてはいません。「フアレスは世界で一番危険かもしれない。いい!?あなたはメキシコで誰も信用しちゃだめ。あなたがメキシコのどこにいてもよ。カメラも見えるところに出してちゃダメだし、ネックレスもダメ。昔はこんなじゃなかったんだけどね……。みんな政府が悪いのよ。メキシコは観光資源もあるし、本当は豊かな国なの。でも、政府が全部持っていっちゃう。だいたい……」。最後は愚痴みたくなってましたが。

そして出発直前、仲良くなったアメリカ人が僕にぽつりと言いました。

「お前、メキシコ1人旅とかクレイジーだな。怖くないのかよ。俺は怖いよ」

そんなこと言われても、何も返せません……。

こうしてかなりビビらされた状態で、僕のメキシコの旅が始まりました。最初の目的地は第二の都市グアダラハラ。バスで24時間、一気に南下します。

メキシコで有名なバス会社のバス


車内はこんな感じ。席も広く、きれい。


なんと、椅子がこんなに倒れる!


軽食がついてくる場合もあります


モニターもついてる。夜中までずっと映画が流れていました。


トイレまで!


ターミナルで、さらに物騒なイメージを植えつけられた直後だったので、メキシコのバスのクオリティーの高さには感動しました。北部は「バス強盗が頻発している」なんて噂もありましたが、全く何も起こらず、いたって快適な時間が過ぎ、グアダラハラに着きました。

グアダラハラの街並み。中心部にはスペイン植民地時代のコロニアル風の建物が残る。


グアダラハラに来て一番の衝撃はタコスでした。本場のタコスの旨いこと!

メキシコのタコススタンドには、たいてい、日本のケバブ屋にあるような吊るし肉がぶら下がっている


それをカットして鉄板で焼いて……


温めたトルティーヤで挟んで、パクチ―と玉ねぎをまぶして出来あがり。お好みでサルサをかけるもよし。


タンのタコス


チーズ入りタコス


チョリソーのタコス


だいたいひとつ30円くらい。メキシコにはタコスタンドが街中いたるところにあります。


次の街はグァナファト。

街全体が世界遺産に登録されていて、そのカラフルなおもちゃのような街並みは歩いているだけで、楽しい気分になります


夜、街に明かりが灯り始めます。こんな美しい夜景は見たことがありません。


18世紀、グアナファトは世界的な銀の産地でした。銀がもたらした富がこの美しい街を作り上げたのです。こんな美しい街がメキシコにあること自体驚きでした。

そしていよいよ首都・メキシコシティへ。

中心部のオフィス街。高層ビルが林立する。


高級デパート。一階に化粧品売り場があるなど、日本のそれとかなり似た雰囲気。


メトロ。人々は列を作らず、ホームに広がって電車を待つ。車内は急発進・停車が目立つもおおむね快適です。


地下鉄の通路にプラネタリウムがありました


ブランドショップが集まる地区。ヴィトン、エルメス、ブルガリなどの有名ブランドショップが軒を連ね、高級車が行きかう。洗練された雰囲気を放っていました。


メキシコシティから近いティオティワカン遺跡にて出会った女子高生たち。東洋人が珍しいのか「写真撮らせて!」と囲まれて幸せな気分。


メキシコでは東洋水産の「まるちゃん」が即席めんの9割近いシェアを占め、「国民食」と言われています


メキシコシティの夜景


広場でみんな思い思いに過ごしています


広場の近くに移動遊園地が来ていました


ある夜、宿の管理人にいろいろぶつけてみました。「日本にはメキシコの危ないイメージが溢れている」と僕が言うと、彼はヤレヤレといった感じで言いました。「みんなそう言うの。最初は。『メキシコは治安大丈夫ですか?』って。でも、歩いてみてわかったでしょ。危ないところにいかなきゃ大丈夫。メキシコにも危ない場所はあるけど、それはどこの国も一緒だよね」

「今までメキシコに住んできて、危ない目にあったことないよ。一度だけチンピラみたいなのにお金をとられたくらい」。僕自身もここまで不穏な空気すら感じていなかったし、旅をするにつれて「あれっ?」っていう不思議な感覚を感じ始めていました。旅人の間でもメキシコで危ない目にあったと言う話は聞いたことがありません。

では報道についてはどうでしょう。メキシコでは、新聞に毎日のように過激な写真が踊るのを目にします。「新聞でやってる凶悪事件とか全然意識してないよ。遠い世界のことのように感じる」。そして彼はこう続けました。「メキシコのメディアが過激な情報を載せるのは、新聞を売りたいから」。その情報をこれまた、売りたい日本のメディアが報道しているということでしょうか。

街中のキオスクにあった新聞


最後は南部の街・オアハカ。ここのソカロ(中央広場)の雰囲気は最高でした。

クリスマスのイルミネーションに照らされた、幸せそうな人々の表情が忘れられません。


例えば、日本で凶悪犯罪が起きたときに僕らはどのように感じるだろう。大半の人は「自分とは違う世界のこと」と思うのではないでしょうか。その点ではメキシコも日本と何ら変わりはない。当たり前だけど、家族で公園に行くし、街かどでタコスをほうばるし、クリスマスを盛大に祝うのです。


メキシコで麻薬がらみの凶悪事件が多発しているのは事実です。でも、人々はそこから遠いところで「日常」を生きているのです。

(文・写真:世界新聞社/松崎敦史
http://sekaishinbun.blog89.fc2.com/

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in 取材, Posted by darkhorse

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