インタビュー

オリジナルアニメ「桜の温度」作画監督・清水慶太さんにインタビュー


某月某日に行われた「桜の温度」ラッシュチェックの現場にお伺いしてきました。このラッシュチェックには平尾隆之監督、近藤光プロデューサー、キャラクターデザイン・作画監督の清水慶太さんのほか、色彩設計や仕上げなど合計8名のスタッフが集合。約1時間かけて合計30シーン強のチェックを行いました。

ラッシュチェックは1シーンが約5秒、長くても10秒ぐらいずつ繰り返し流され、問題なければOK、引っかかる部分があるようであればそのポイントを指摘するという形で進行。


画面の中で散る桜の花びらの軌道や光の具合など細かい点についても目を光らせる監督(中央・白いシャツ)と清水さん(監督の右隣)。カットによっては監督が思っていたよりもできあがりが良かったのか「おお、いいですね」とのコメントも漏れました。炎が出るシーンではちらつきについて、かつて平尾監督自身が演出助手をやった「妄想代理人」第7話の冒頭でいい炎のちらつきがある、と具体的なアドバイスも。


このラッシュチェックに引き続く形で、清水慶太さんへインタビューを行いました。かつて掲載した監督への徹底インタビューを読んで「個人的な話が文章になるとすごく恥ずかしかった」との感想を漏らした平尾監督も同席。平尾監督によるテンポ良いツッコミにより、清水さんの意外(?)な表情を引き出すことができました。

GIGAZINE(以下、G):
清水さんが絵を描くようになったきっかけは何でしたか?

清水慶太さん(以下、清水):
両親の趣味が絵を描くことだったりしたので、幼少の頃、父に連れられて川へ絵の具を持ってその辺描いたりしてました。その頃絵が好きとかどうとかではなく、何か描いている、というぐらいです。

平尾隆之監督(以下、平尾):
両親とも絵を描くの?

清水:
はい。父親の方は大学とかで油絵などを描いていたみたいです。母親は母親で、わりと絵を描くことも趣味にしていたりして。

平尾:
何を描いたりしてたの?花とか?

清水:
花とかですね。「定番だなぁ」と思ってました。数年前ぐらいに、母親が趣味でその辺の葉っぱの絵を描いていたりしてましたし。

平尾:
それを見た影響で描くようになったと。いつ頃から?

清水:
幼稚園ぐらいのときからじゃないですかね……。でも、その頃は普通にみんなと楽しく描いているというくらいで、技量は園児相応という感じで。

G:
なるほど。

清水:
「何か描こうかな」と思ったのは高校時代です。変な高校だったので、1年生のときに美術の授業がなくて、絵は描きたいのに授業がなくてつまらないなと。2年になると美術がようやく加わって、そこからは「描くの楽しいな」って思いまして。それで専門学校に行って、という流れです。この流れがなかったら、何もしないままで、この業界に入ることもなかったんですけれど。

平尾:
美大とか、行かなかったの?

清水:
行きたかったんですけれど、その……数値的に残念だったので(笑)

平尾:
俺と一緒だ(笑)

清水:
親に迷惑をかけながらも「専門に行かせてくれ」と。そういう感じで進んで、出たところに来たという感じですね。

平尾:
パース(遠近法)の概念はどの辺りで覚えたの?

清水:
パースの概念なんて知らないままですよ、今も良く知りませんけど(笑)

平尾:
本当に!?

清水:
パース定規というのがありますけど、「あれがないとダメなのかな?」と思うくらいで…あまり考えないようにしてましたし。

平尾:
学生の頃はパースとか気にせず描いていたということ?

清水:
その頃、パースという単語すら知らなかったかも。原画になってからも良く分かっていなかったですからね。教えて頂いた方に「どうやって描くんですか」と聞いてみたら「何となくでいいんじゃないの」みたいな事言われたので、「そうか」と。何だか開き直った感じになって、そこからは感覚やら、写真を見たりとか。

平尾:
普通、絵を描けない人はまずパースを覚えようとするじゃないですか。ということはキャラの方ばかり描いていたということ?

清水:
キャラです。そこから入ってくると、背景とかあまり考えて無いのでいざ描いてみるとキャラが地面に立っていないとか(笑)

平尾:
おかしいな(笑)

清水:
だから「背景を描かねば」とはよく思ってはいたんですが、そういうこと言っている内は絶対実行しませんから。

G:
それでは、パースとかをいろいろ勉強したのは業界に入ってからですか?

清水:
業界に入って、動画のころはよく分からなかったですね。原画になってからも1年間ぐらいはそういう状態でした。「ぱにぽにだっしゅ!」というアニメをやったころに、教えてくれる方々が周りに入ったので「どうなんですか?」と。きっかけでしかないので、そこから本格的に……というのは自分で磨くしかなかった感じです。

平尾:
キン肉マンのフィギュアとかたくさんもっているよね。

清水:
超造形魂とか、カッコイイじゃないですか。キン肉マンだけが特殊ですね、通常は立体化されているだけですが、キン肉マンは元々がデフォルメされているものを、実際に立体として存在したらこうなるのかというところにロマンを感じたので。自分の中の熱がぐっと上がったというか。

G:
作品の好みとしては、昔はキン肉マンとかをよく見ていたのでしょうか?

清水:
アニメに関しては普通の人が見るようなものしか見ていないですね。

G:
漫画のキン肉マンからですか?

清水:
漫画はコロコロコミックから入った感じですね。

平尾:
コロコロが雑誌初体験だよね(笑)

清水:
そうですね。中二までコロコロでした。

平尾:
中二までコロコロって、長いね。

清水:
止め時が分からなくて(笑) 続いている作品があるから、ここで読むのを止めたら気になるなと。みんな、小学生の後半になるとジャンプとかへ行ったんですけれど。

平尾:
中二とかになったらもうヤングマガジンですよ(笑)

清水:
早いですね。

平尾:
いやいや、AKIRAが載っていたから(笑) 「読まねば!」みたいな。

清水:
AKIRAか……僕は、普通でしたからね。

G:
コロコロではどんな作品を読んでいましたか?

清水:
コロコロを読み始めたころは「かっとばせ!キヨハラくん」とか、あと「がんばれ!クワタくん」の方とか。

平尾:
あまいぞ!男吾」とかもやってたころ?

清水:
あとは「リトルコップ」とか。それで中間になってくると「怪奇警察サイポリス」とかやってきて。「おぼっちゃまくん」とか「つるピカハゲ丸」とかやってるころですよね。

平尾:
「おぼっちゃまくん」はコロコロだったかな?ボンボンじゃなかったですか?

清水:
ボンボンはどちらかというとガンダムとかですね。SDガンダムとかロックマンとか、ゴエモンだとか。

平尾:
ゲームセンターあらし」とかは?

清水:
コロコロの初期ですね。

平尾:
あれはもう終わってた?

清水:
終わってましたね。「ファミコンロッキー」などがあって、その後の「電脳ボーイ」というスーパーファミコンが発売された辺りからが丁度世代にあたりますね。後は、「スーパーマリオくん」が始まりました。

平尾:
コロコロは結構ゲーム系が多かったのかな。

清水:
タイアップが増えて来たのは読んでいた頃の中期からだと思います。まだオリジナル作品もありましたよ、「ダッシュ!四駆郎」とか。……これ、何の話ですか?(笑)

平尾:
これ、俺は黙っていた方がいいかな(笑)

清水:
ボンボンは少し大人が読むヤツというイメージでした。

平尾:
ボンボンは子どものときに読むよー。

清水:
いや、僕の頃はコロコロ派が多かったですよ。ボンボンを読んでいる奴は何か大人というイメージが強かったですね。両方買っている奴は金持ちというイメージですね。

平尾:
それはあったね。うちはコロコロとかボンボンとか買ってくれなかったから友達の家に行ってコロコロとボンボンを読んでいたね。


清水:
父親に今になって聞いてみたら、コロコロは僕に買っていくのが面白かったそうです。

G:
アニメ業界に入ろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

清水:
何だったんでしょうね……。元々絵を描くのは好きだったのと、このままだと何の職に就くか分からなかったですから、「絵を描いてお金を貰えるんだったらいいよな」という漠然とした考えで。イラストレーターとか漫画家の選択肢もありましたけど、漫画家になって何か物語を作りたいと言う程の創作欲もないし、イラストレーターになっても最初から金になるわけではないし。まずは銭が入る仕事だろうということですね。

平尾:
「絵で飯を食うには」みたいな。

清水:
消去法で入った感じですね。

平尾:
確かに、今風の絵とかもいっぱい知っているわりにはアニメ作品には全然詳しくないんですよ。

清水:
勉強はしているんですけれど、申し訳ないことに……。古い作品やOVAを知らないので、見ていたといえば「ドラゴンボール」とか、それくらいですね。アラレちゃん見て、ドラゴンボール見て。それこそ、雑誌で「アニメ化しました!」と出ていた作品とかしか見ていないです。ドラゴンボールとか、回によって描いている人が違って、絵も全然違っているんですが、業界に入るまでは全部一緒に見えていたぐらいです。……入ってからもしばらく分からなかったですが(笑)

近藤光プロデューサー(以下、近藤):
ドラゴンボールは標準的にそろってるよ。

平尾:
いや……どうだろう?(笑)

近藤:
僕らは「マクロス」を見て、作画監督というのは大事なんだなと思ったもの(笑)

平尾:
「マクロス」のときは、まだ僕は見てなかったか。

近藤:
中学のころアレを見て衝撃を受けたんだから。「毎週、なんでこんなに絵が違うんだろう」と。

平尾:
ガンダムは知ってたよね?

清水:
全然ガンダムは視聴対象に入っていなかったんですよ。高校や専門に入ると友達がガンダムの話をしていたけど「どこで見ているんだろう?」という感じでした。夕方に放送だったので、その時間は基本的に遊んでいるか、他のゲームをしているかだったので……。その中の1本に師匠、
大森英敏さんという方がいまして、「ガンダムの劇場版(逆襲のシャア)で100カットやってた」ということを聞いていたので、見なければと思いつつ。

G:
最近は何か見られていますか?

清水:
最近は「アイドルマスター」を見ています。

平尾:
アイマスになると顔の輝きが10%増します。ものすごい好きみたいですよ。

清水:
何だかわかんないけれど、抑えられないものがあります。

平尾:
アイマスを語っているときが一番幸せそうだもんね。

清水:
ある種の癒しですから。

G:
アイマスに関してはゲームからの付き合いですか?

清水:
中期ぐらいからの付き合いですかね。家庭用で発売されてから少し辺りぐらいで、キャラクターやシステムが「面白いことしてるな」という感じで、ずるずると……。

G:
今、ちょうどアイマスのアニメが放送中ですが、やってみたいなという気持ちはありますか?

清水:
是非にやってみたいなと思いますね。

平尾:
やればいいのに(笑)

清水:
拘束とかじゃなかったらあっという間にやっていますよ(笑) ただ、好きな作品というのは、ファンに徹していた方が幸せというのもありますけれど。

平尾:
あの花」は見ていたんだっけ?「とある科学の超電磁砲」とかも見ていたよね。

清水:
あの花の時期は丁度仕事が煮詰まっていたので、録画は溜まったままです。レールガン、何故か見ていましたね。全部まとめて2クールのは中々見ないんですけれど。

G:
2クールものは溜めてしまうと長いですよね。

清水:
溜まってくると諦めて消してしまうので。最近だと月に1本か2本見るくらいです。

G:
かなり少なめですね。

清水:
どうもアニメは構えてしまいまして。

G:
なるほど(笑)

清水:
業界に入ってから余計に「勉強しなくては」的な、何か取り入れなくてはという強迫観念と言えば大袈裟ですかね…。海外ドラマとかは流しながらでも普通に仕事できるんですけど。

平尾:
海外ドラマは癒やしだよね。

清水:
ですね。

G:
平尾さんは前回のインタビューで伺ったように、海外ドラマなど結構見ておられる感じですよね。

平尾:
最近は海外ドラマしか見ていないですね。

清水:
僕もそうです。最近の映画にイマイチ引っかかるモノがなくて。
何か物足りないんですよね。ぐっと来るものが中々ないですね。

G:
海外ドラマで最近のオススメ作品はありますか?

清水:
今見ているタイトルだと「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」という、トニー・スコットリドリー・スコットが監督をやっている作品です。結構前からやっているやつですね。

平尾:
数学者が事件を解決していくという話です。

清水:
数式を使って「このアルゴリズムを使うことで犯人を絞ることが出来るよ」とか。

平尾:
そろそろ「ジェリコ」を推そう、「ジェリコ」を。

清水:
「NUMBERS」見ていたらオマケで「ジェリコ」の1話が入ってまして。お陰でまたジェリコ見ちゃいました。

平尾:
また見たんだ(笑)

清水:
Dr.HOUSEはまだ見ていなかったので、前に勧められていたからどんなものかなと思って。「このドクターおもしろいな」と。

平尾:
あ、見てなかったんだ。

清水:
忘れてたんで、ついでだし「見てみるか」と。

平尾:
あれはいいですよ。ドクター・ハウスというおっさんに萌える話です。

清水:
萌えるんだったら「Fringe(フリンジ)」のウォルター博士が迷子になるエピソード、あれにはもうブヒブヒできますから、僕は。

平尾:
まさか50過ぎのおっさんに萌える日が来るとはという。

清水:
迷子になって泣いちゃうんですよ。そしておばちゃんに保護される、その内容を見たときにもう……。

平尾:
キュンとなるよね。

清水:
なんというか、守ってあげたい。おっさんなのに。

平尾:
全然、インタビューになっていないですね。

清水:
なってないですね、すみません。

G:
アイマスと海外ドラマに熱いぞということが分かったので大丈夫です(笑)

清水:
アニメは好きなものに関してはちゃんとDVDを買うようにはしているんです。「蟲師」が一番大好きかな……あれは何度でも見られます。以前は仕事中延々と流しっぱなしで見ていました。余韻がすごく気持ちいいんですよ。夜中、流しながら作業していると、幸せになれます。

平尾:
全部合わせて一番好きなアニメが蟲師ということ?

清水:
それを時々考えるんですけど、パッと浮かばないんですよ。そうなってくると「やっぱり、蟲師か」という感じで。

平尾:
あれもまた評判がよかったですよね。

清水:
見出したのは放送途中からだったんですけど、ちょうどその時の心境に合っていて。

平尾:
あれ、2コマで動かしているんでしたよね?

清水:
ほぼ2コマで、引きのときだけ3コマという、そういった省略の仕方みたいで。でも原作者の方が女性で独特の世界観にその柔らかい表現が合ってまして。

平尾:
原作は女の人なんだ。知らなかった。

清水:
あのタッチは大体そうじゃないかな、と。そういうところも全部取り込む長濱さんは凄いなと。
原作の雰囲気とかも含めて、あの世界、江戸時代と明治・大正の間にある架空の時代が舞台で、そこに妖怪や幽霊みたいな存在が共存している世界というか。

平尾:
それがわりといいと。

清水:
あの物語全体からある奇妙な感触がたまらない。そういえば母親の時代には、そんなような事を話す語り部が居たそうですよ。50歳ぐらいのおばさんが家にやってきては、よく語ってくれたと。なんだかそういう昔話を見ているような気がして、すごく気持ちが良いです。

G:
最後に目標や今後の作品展開のお話などありますか?

清水:
「一生勉強」だとの教えもあるので、それを心の片隅に楽しくアニメやって行けたらと思います。

G:
なるほど。本日は長い時間、ありがとうございました。

桜の温度」は9月23日~10月10日に徳島で行われる「マチ★アソビ Vol.7」への参加が決定。主題歌を担当する皆谷尚美さんによるライブも決定しているので、マチ★アソビ参加予定の人はスケジュールをチェックしてみて下さい。

アニメージュ×GIGAZINE立体コラボレーションとして、9月10日発売のアニメージュ10月号では平尾監督がなぜ清水さんをキャラクターデザインに選んだのか、そして平尾監督と清水さんがどのようにして本作のキャラクターデザインを作り上げていったのかという話が掲載されています。こちらも作品を楽しむ上で、かなり興味深い内容となっているので、ぜひあわせて読んでみて下さい。

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in インタビュー,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

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