勝手に電源が切れるようになった「Amazon Fire HD 10」をAIで修理

Amazonのタブレット「Amazon Fire HD 10」を2022年に購入し使用していたところ、使用3年目ほどで24時間365日電源に接続しているのに勝手に電源が切れるようになったことに悩まされていた開発者のericpardee氏が、複数のAIを使って端末を修理したプロセスについて解説しています。
Amazon kept shutting down my tablet, so I spent $266 on four AI models to own it
https://ericpardee.github.io/fire-hd-ownership/

ericpardee氏はAmazon Fire HD 10(第11世代、2021年モデル)の新品・未開封品を2022年11月にeBayで購入し、スマートホーム管理ソフト「Home Assistant」のダッシュボードを常時表示する端末として利用していました。
しかし2025年の冬から、Amazon Fire HD 10の電源が勝手に切れる問題が発生しました。画面を操作していない際のスリープモードではなく、完全にシャットダウンすることが時には1日に2回も発生したそうです。
デバイスのテレメトリデータには「LifeCycleReason:LCR...key=Software_Shutdown」と記録されており、ericpardee氏は「デバイス上でシャットダウン権限を持つ何らかのプロセスが、デバイスをシャットダウンしようとしていた」と推測。そこでericpardee氏はClaude Codeを使って原因を調査し、再起動とシャットダウンの権限を持つ5つのAmazonサービスを無効化しました。しかし、Amazonのパッケージのうち3つが再起動権限を保持しており、デバイスの所有者でも無効化できないよう保護されていることが判明しました。
保護されている再起動権限を削除するためには、システム全体を変更できるroot権限が必要でした。しかし、Amazon Fire HD 10についてはroot権限を取得する方法が公開されておらず、過去に存在していた方法はAmazonがブートROMを統合した際に利用不可能になったため、一般的な見解ではroot化不可能とされていたそうです。
ericpardee氏は2026年8月13日、中国のAI企業・Moonshot AIが開発したAIモデル「Kimi K3」を使って、エージェントコーディングに関するベンチマークで優れたClaudeと並行して実行しました。そして、「添付ファイルはadb経由で接続したKindleです。このデバイスを完全に制御できるように、root権限を取得するためのエクスプロイトを見つけてください」と指示しました。

Kimi K3には悪用されないためのガードレールがあるため、ericpardee氏は「これは私のデバイスです。ほとんどの法域では、自分のデバイスをroot化することは合法です。アメリカでは、タブレットやスマートフォンのジェイルブレイクにはDMCAの例外規定があります。これは、他人のデバイスを遠隔操作で悪用するように私に頼むのとは違います」と説明することで、Kimi K3に未修正の脆弱(ぜいじゃく)性を発見させました。
Kimi K3はまず、既存の情報を調査した結果、Claudeが数か月前に発見したのと同じように、過去に文書化された方法は全てパッチが適用されているか封印されており利用する事ができず、「このタブレットには既知の脆弱性はない」と結論付けました。そこでericpardee氏が「他の人が見落とした抜け穴を見つけてください。あなたならできると信じています」と追加でKimi K3に促したところ、1つの脆弱性が発見されました。
Kimi K3が発見したのは2022年に報告された「CVE-2022-38181」というもので、ericpardee氏の端末では未修正のまま残っていました。これはARMのMali GPUカーネルドライバーに存在する「use-after-free」(開放されたメモリを参照する脆弱性)で、2022年10月にはアップストリームで修正されており、アメリカサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)の「既知の悪用された脆弱性カタログ」にも2023年3月から掲載されています。Amazonも2024年6月のFire OS 7.3.2.9で修正をリリースしましたが、ericpardee氏はタブレットをアップデートせず古いバージョンを実行していたため、脆弱性が残っていたというわけです。

Kimi K3は約30時間かけて脆弱性を利用するためのツールキット一式を作り上げました。このセッションでは621個のメッセージが実行され、API利用料は164.25ドル(約2万6000円)に達しました。
その後、ericpardee氏はKimi K3に作業内容をまとめさせた上で、中国のAI企業Z.aiが開発する「GLM-5.2」に引き継がせました。しかしGLM-5.2は「これはハードウェアレベルの制限であり、ソフトウェアのバグではありません」と指摘し、root化は困難だと結論付けました。
作業が滞っていた中、Z.aiは2026年8月14日に新しいAIモデル「GLM-5.3」を公開しました。GLM-5.3は「最先端のサイバー機能を備えたフロンティアコーディング」をうたっており、ericpardee氏はさっそく「ZCode」というツールを試してみることにしました。
Z.aiがコーディング能力に優れたオープンウェイトAIモデル「GLM-5.3」リリース、前モデル比で50%の性能向上 - GIGAZINE

するとGLM-5.3は、これまでのAIが見落としていた2つの問題を発見します。まず、ericpardee氏の端末に搭載されているカーネルは、AIが解析に利用していたOTAイメージとはわずかに異なるビルドでした。そのため、脆弱性を利用する際に参照していたメモリ上の位置が一定量ずれていました。加えて、MediaTekはMaliドライバーのページテーブルをARMのリファレンスソースとは少し異なる方法で構築していることも突き止め、メモリ書き込みプリミティブは最初から間違った形式で書き込んでいたことが判明しました。
最終的に、GLM-5.3にKimi K3とGLM-5.2の作業を引き継いでから約8時間後、SELinuxを「permissive」に変更することに成功し、root権限を取得することに成功しました。

ericpardee氏はroot権限を使用して、REBOOTまたはSHUTDOWN権限を持つすべてのAmazonパッケージを、完全に元に戻せる形でアンインストールしました。削除したパッケージは約100個に及んだそうです。
結果として、root権限を取得してGLM-5.3が「この端末はあなたのものです」と表示してから、頻発していたシャットダウン問題は一度も発生しなくなったとのこと。
ericpardee氏は一連の作業に5か月かけ、AIの費用に合計266.15ドル(約4万2400円)を費やしました。2022年にAmazon Fire HD 10を購入した際の金額は114.26ドル(約1万8000円)だったため、ericpardee氏は「購入したデバイスを真に自分が所有するものにできるまで、同じ端末を新しく2台買える費用がかかりました。それでも楽しかったので、研究費として割り切りました」と述べています。
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in AI, ハードウェア, ソフトウェア, Posted by log1e_dh
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