取材

キャスト決めの極意とは?「桜の温度」キャスティング選定会議に潜入取材


これまでアニメは見る側として楽しんできましたが、その立場ではなかなかわからないのが「キャストはどうやって決まっているんだろう?」ということ。小説や漫画などの原作付き作品だと、読者の中にある程度のイメージができていたりしますが、それにぴったりのキャスティングが行われたり、一方で多少不可解に思えるようなキャスティングが行われることもあります。

作品の作り方によってその決め方は異なってきますが、今回、アニメージュ×GIGAZINE立体コラボレーションの一環として、ユーフォーテーブルが制作している映画「桜の温度」のキャスティングについて、その候補者を挙げる会議からオーディション、そして最終的にキャストを決める会議までじっくりと密着して取材する機会をもらったので、視聴者が知らない裏側でどのようにキャストが決まっているのかを見てきました。


◆会議

会議に集まったのは近藤光プロデューサー(写真左)、「桜の温度」の平尾隆之監督(中央)、キャスティングマネージャーの松岡超さん(手前)、音響制作を担当する納谷僚介さん(右)。


今回の作品は「平尾隆之のタイトル」で、平尾監督が自らの中にあるものをさらけ出して作ったものなので、イメージに合わせたキャスティングをすればいいという近藤プロデューサー。人気俳優を起用するなどキャストの名前で宣伝するのではなく、この作品に出たことで演じた人にもプラスになり今後に繋がるようであればいいなという考えを持っています。

松岡さん、納谷さんはこの会議で出た方向性を各事務所に伝えて、オーディションに参加する役者さんを出してもらう役割なので、まずは平尾監督がどのようなイメージを持っているのか、というところから会議はスタートしました……が、いきなり「どう?」といわれても困ってしまうものなので、雑談を交えつつの会議となりました。

近藤:
雑談交えつつ進めていくと、エンディングの歌手は平尾くんから「この人がいい」というのを出されています。びっくりしたよ、エンディングだけ急に決め打ちできて。

平尾:
役者さんについてはすごく悩んでいます。普通に声優さんを呼んできて演技してもらったとき、それが宣伝材料になる作品かというとそうではないし、声の仕事をしていない役者さんだとアフレコだから大変だと思うんです。そうなると、外画の吹替をやっている人になるのかな、とは漠然と思います。

松岡:
「桜の温度」のキャラクターは若いんですが、外画の吹替をやっている人は全体的にわりと年齢が高いんです。有名なドラマの吹替でも、高校生役を演じているのは30代や40代だったりするので。でも、近ごろは声優さんも自然体で演じる人が増えていて、中学生や高校生の役だからとベタベタにカワイイ声を出すのではなく、ナマな感じ、自然な感じを出せる人はいますから。


納谷:
今はひとまず、どんな人がいいとか、こういうイメージがいいというのを出してもらえればと思います。

松岡:
いわゆる声優さんメインなのか、舞台メインなのかは分けず、いろいろな声を聞いてもらえばその中に候補者がいるのではないかと思います。それが有名な人でも無名な人でも、それはそれでOKという形です。

平尾:
うーん……(苦笑)


近藤:
たとえば、今やっているアニメでイメージに近い声はない?「桜の温度」ではおちゃらけた部分はないんでしょ?

納谷:
結構心情の芝居が多いので、演じるのが大変かなとは思いますね。

松岡:
息でごまかせないところがあるから、しっかりお芝居できる人の方がいいような気がします。

平尾:
そうですね、芝居の中での心情の上げ下げがあるので、それができる人であれば、と。

松岡:
キャラクターと同年代で、舞台や映像なども含めて色々な人の声を聞いてもらって、そこから決める……というと終わっちゃうんですけれど(笑)

近藤:
まだ終わらさないで(笑) 難しいんだよね、1回きりの作品だから。

松岡:
音響監督は誰なんですか?

近藤:
(平尾監督に向かって)やったら?

平尾:
声優に詳しい監督さんとか結構いて、よくあのキャストを見つけてくるなぁと感心することがあるんですが、僕は声優さんのことはあまり詳しく知らないので……音響の効果にはすごくこだわるんですけれど。だから、こういう芝居をして欲しいというオーダーは僕から出しますけれど、それを役者さんに伝える指導については、やっぱりその道のプロの人がやるべきだと思うんです。

松岡:
監督さんの中には、舞台を好きで見に行って、そこから連れてくるという人もいますね。

平尾:
僕も芝居に興味がないわけではなくて(笑)、見ると「いい声してるなぁ」と思うこともあるんですが、なかなか名前を覚えられないんですよね。

松岡:
それだったら「あの作品に出ていたあの人がよかった」というような漠然としたイメージでもOKです。よっぽどの大物だと困りますけど(笑)

近藤:
弟(柊吾)と兄ちゃん(海斗)と声の違いがちゃんとわかるようにしたいね。

平尾:
柊吾は、ざらついた声の方がいいのかな……。

松岡:
おっ、そういう意見が聞きたかったです!

納谷:
それです、それが欲しかった。


平尾:
柊吾くんをざらついた声だとすると、兄貴の方は優しい感じの声なんです。蘭澄は……難しいな。何と表現していいかわからないですけど、高校生の声には「キレ」がありますよね?

松岡:
今時の女子高生って、ちょっと言い方は悪いけれど、声はあんまりきれいではないような気がします(笑)

(一同笑)

だから、リアルを求めるのであれば、あまりいい声じゃない方がいいのかもしれない。でもそれだと魅力がなくなってしまって、作品に入っていけないですよね。

近藤:
これは誰々さんが演じてるなってわかる声と、そうじゃないのがあるじゃない。そういうのは避けた方がいい?

平尾:
声に凹凸はあった方がいいですね。あと、いい声だなとは思って欲しいです。ただ、ヒロインといえば柔らかくて透き通った声かなと思うんですけど、たまになぜかおばさんっぽく聞こえる瞬間があって……。

松岡:
コンテは読ませてもらったんですが、もうちょっと監督から細かいキャラクター設定についてうかがって……

近藤:
ちなみに、絵コンテ読んでどうだった?これどう思うのかなと思って……大ヒットすると思う?

松岡:
ここで、すごい質問してくるね(苦笑)

近藤:
これは答えが分かってるからあえて聞いてみた。大ヒットはしないじゃない。でも、平尾がやりたいと言った時に、このタイミングで作っておかないといけないと思った。


松岡:
ヒットするヒットしないではなく、いい作品に仕上げることが最初にあるということね。

近藤:
だから、売れている声優をキャスティングすることもないよと。

平尾:
そうだ、柊吾はキャラクターデザインの清水くんに描いてもらったとき、「BUMP OF CHICKEN」のボーカルの藤原くんっぽくってお願いしたんですよ。結構、声ざらついてますよね?

松岡:
高い音で歌っているけれど、確かに若干ざらついているのかも。あまり低くざらつくとおじさんっぽくなってしまうけれど……だいたい声のイメージはわかってきました。

近藤:
女の子だよね、難しいのは……

松岡:
僕は同年代、17~18ぐらいの人がいいと思います。どうしても年で声は変わってきてしまうので。

平尾:
17~18って、けっこう大人の声ですよね。


松岡:
大人の声にも何段階かあって、10代だと若さがまだ残っていて、20代も後半になってくると「大人のオンナ」という感じが出てきます。

近藤:
実写でもそうだよね、高校生役を20代ぐらいでやったり。

松岡:
20代後半になってしまうとちょっと今回の対象外かなと。同じような年代で集めた方がいいと思います。

近藤:
これぐらいの規模の作品でオーディションをやってしまってもいいの?

松岡:
それはいいんじゃないですか?

平尾:
一つオーダーがあって、この作品はもともとシナリオがなくて僕の言葉のニュアンスで書いてあるんですけれど、演じる人が「このキャラクターならこう言いそうだな」とセリフをアレンジするのは全然OKです。そういうのも含めて演じられる人がいいです。

松岡:
なるほど。役者自身で世界観を感じ取って、そこからセリフが出てくるのであればそれはアリということですね。


平尾:
僕が書くと、ストーリーと絡めた説明的なセリフになっている部分がどうしても出てくるので……

近藤:
本読みはやる?

平尾:
アフレコが決まったら、僕の方でもセリフを変えたりはしますけれど、その上で、自分なりに解釈、対応できる人であればと。

近藤:
僕は自分がやるとき、多くの人を待たせて何テイクも録ることに対してすごくプレッシャーがあるのね。3人だけ延々とやったあとに他の人を録った方がいいのかな。

松岡:
そのあたりのやり方は考えてもいいかもしれない。

近藤:
最近思うのは、抜き録り(役者1人で収録すること)メインの方がいいんじゃないかということ。

松岡:
ディズニーみたいな感じ?

近藤:
あれは極端な例だけれど、絡むところは絡みでやるけれど、それ以外は抜きで、ということ。「空の境界」の第七章のときは、出番終わった人から帰ってもらって、最後は鈴村さん(黒桐幹也役)と坂本さん(両儀式役)だけになって、集中してやれた。

納谷:
とりあえずやる人を決めないとスケジュールの関係も出てくるので……。


近藤:
喋ってるうちにだんだん決まってくるね。もしも何かあるならいま言っておいた方がいいよ。この方(松岡さん)はむちゃくちゃ顔が広いから。しかもカッコイイんだよ、キャスティングマネージャーやって1円も取らないんだよ。なぜか知ってる?「これでお金を取ったら、メーカーに文句が言えないから」って。

松岡:
その話はいいから(笑)
平尾監督の志は伝わってきましたので、いい人を集めるようにします。

平尾:
短い作品ではあるんですけれど、生活が見えるように声が上がってくるといいなと思います。声が入ることで、このキャラクターはこういう人生を送ってきて、普段はこういう生活をしているのだろうなというのが入って欲しいです。

近藤:
そういう人が来るといいね。

平尾:
結局、オモテに出てくるのは声だけですからね。

納谷:
オーディション自体のやり方については、「いつもの」と言っていいのかわからないけど、順番に来てもらって作中のいいシーンを読んでもらう形でいいですか?

近藤:
録るのは任せてしまってテープだけ集めるのか、オーディション自体に立ち会うのか、ってことね。立ち会うか立ち会わないかでスピードも変わるし。

納谷:
今までのやり方だとわからないから、掛け合いでやってもらった方がわかりやすいとかあるかなと思って。ただ、あれはスタジオ側は大変なんですけれど……。

平尾:
それは一人ずつで構わないです。

納谷:
普通通りで大丈夫ということですね。

近藤:
あまりやみくもには呼ばないようにしよう。20人とか40人とか1日にやると、こなすのに精一杯になってしまうから。

松岡:
もちろん厳選はしますが、できるだけいろんな人を聞いてもらった方がいいですよ。

平尾:
オーディションだと声しか聞けないですけど、作品だと多様な芝居が出てくるので、オーディション後に掛け合いも見てみたいという気がします。

近藤:
平尾は平尾のやり方を見つけていくしかないよ。この作品とか映画ではそのやり方でもいいけれど、テレビシリーズだと本当にやっている暇がなくなってしまうから、ある程度やり方を固めて、チームを作って、見なくていい部分と見る部分を決めるしかない。

平尾:
声はやっぱり重要ですからね……。

近藤:
一回その人に決めてしまうと、印象が決まってしまって替えがきかなくなってしまうからね。

………というような形で第一回会議は終了。松岡さんによると、こういった会議でのコツは「具体的な名前を出さないこと」。この段階で具体的に「この人はどう?」と言ってしまうとイメージが固定されてしまうため、そうならないように進めていくのだそうです。もちろん、会議によっては「あの人で」と具体的に決まっていくこともあるようです。

このあと、キャスティングマネージャーの松岡さんは会議で把握したキャラクター像をもとに、各声優事務所へとオーディションを実施することを伝えます。

◆オーディション

都内某所にあるスタジオマウスにて、オーディションが10時30分から18時まで行われました。


「オーディション」という言葉からは、ゲーム「THE IDOLM@STER」のように複数人が並んで同時に演技したりするイメージがあったりするのですが、先ほどの会議でもあったようにあまりオーディションで掛け合いを録ることはないので、一人ずつ来てもらって、録って、次の人が来て、という流れになります。

録音用のマイク。


その演技に対して、音響監督はブースから指導を行う、というわけです。


もちろん平尾監督は最初から最後までフル参戦。


手元のiPadでキャラクター設定をチェック中。


本作の音響監督を担当するのは本山哲さん。


なんとこのオーディションに参加した人数は67名。スケジュールの都合で参加できず、後日テープを提出した人が8名いたそうなので、合計は75名。うち、男性が51名で、女性は24名。この中からキャストを選ぶことになるわけです。オーディション内容については、8月10日発売のアニメージュ9月号に掲載されている「緊急完全密着!キャスティング現場の真実」で詳しく迫られています。

◆キャスティング選考

先日行われたオーディション当日に67名分の声を聞き、さらにテープで8名分の声を聞いた状態で選考がスタート。


すでにオーディションの結果、柊吾は平尾監督の中で「この人だ」というものが決まっていたため、この日は柊吾の声をベースに海斗と蘭澄をどう合わせていくかというのが主題となりました。蘭澄役は監督の中ではほぼ二択に絞り込んだ状態でしたが、声のトーンなどから他数名の名前も挙げられ、改めてこの場でオーディション音声を聞いてみることに。

蘭澄は柊吾よりも1つ年上なので「お姉さん」感が必要なのですが、意外とこれが難しく、何度も聞いているとどうしても幼さを感じてしまう部分があったり、一方でお姉さんというよりはお母さんのような感じに聞こえたり。監督も、いいと思っていた人がちょっと固いので、もう少し自然に年上の雰囲気を出しつつ高校生の幼さを持った人がいいなと苦悩。

全員でオーディション音声に耳を傾ける様子。


悩む平尾監督。


改めて、柊吾に決定した声と何人かを並べて聞き続けた結果、この日はひとまず2人までは絞られました。翌日に事務所に連絡をすることになっていたので、翌朝まで平尾監督が考えて1人に決定するという形になりました。

海斗役も5人ほどの名前が挙がって難航。柊吾の兄で、優しい感じ、かつ素朴な声ということでイメージを詰めていき、こちらは会議の中で1名に絞られました。

キャラクターの設定画を前に、本山音響監督と意見交換をする平尾監督。


会議にかかった時間はおおよそ2時間弱。端で聞いていても、もはやこの段階まで絞られてくると微妙な年齢感や演技の安定度、そして声の持つ個性のぶつかり合いになっていて、どの人がキャスティングされたとしてもそれはそれでアリだと思えるレベルでした。しかし、実際にはここでキャストを決めると、その声で全編の芝居をしてもらうことになるため、わずかな誤差も大きく広がることになります。そのため、何人もの耳を集めてじっくり聞き比べて、ようやく結論を出したという感じでした。


平尾監督が求めた「ざらついた声」の柊吾、優しい感じの海斗、柊吾よりはお姉さんっぽく、かつ高校生の幼さを持つ蘭澄。それぞれ誰がキャスティングされたのか、追ってお伝えできると思うのでお楽しみに。また、アニメージュ誌上ではGIGAZINE視点とは違うアニメ専門誌ならではの記事が掲載されているので、そちらにもぜひ目を通してみて下さい。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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