ゲームセンターの救世主となれるか、「NESiCAxLive」リリースから4ヶ月の驚くべき普及状況と今後の展望
「NESiCAxLive」とは、2010年12月に稼働を開始したタイトーが運営するアーケードゲーム用のコンテンツ配信システム。ネットワークを通じて各店舗が無料でゲームをダウンロードでき、プレイされた回数によってソフトメーカーの売上が決まるという、従来のアーケードゲームとはまったく異なる収益モデルを提示したことで、「ゲームセンターの救世主」となるのではないかとも言われた本システムですが、本当にゲームセンターを変革するほどの威力を持っているのでしょうか。
リリースから4ヶ月が経過した今、実際にNESiCAxLiveはゲームセンターを変えつつあるのか、それとも思うように普及せず苦しんでいるのか、プロデューサーである藤本貴文氏に、その開発の経緯や具体的な収益モデル、現在の詳しい状況やゲームセンターが直面する課題などをたっぷり語ってもらいました。
ゲームセンターの救世主についてのインタビューは以下から。株式会社タイトー|NESiCAxLive公式ページ
「NESiCAxLive」では、インターネットを通じてゲームセンターの汎用筐体にゲームタイトルを配信することが可能。プレイヤーは配信されているいくつものタイトルの中から、好きなタイトルを選んでプレイすることができます。(筐体の設定によりタイトルが固定されている場合もあります)さらに共通ICカード「NESiCA」を使用すると、オンラインでプレイデータが記録されるほか、プレイする度にポイント(ネシカポイント)が貯まっていく仕組み。
配信タイトルは現時点ではまだ6タイトル。しかしその中にはSNKのビッグタイトル「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズや、アークシステムワークスの最新作「BLAZBLUE CONTINUUM SHIFT II」などが名を連ねており、今後も「星霜鋼機ストラニア」などのタイトルが配信される予定です。
NESiCAxLiveの革新的な点は、これまで売り切りだったゲームタイトルの売買の形を、プレイされた分だけ売上となる形に変えたこと。ゲームセンターはタイトルをダウンロードする際には一切対価を支払う必要が無く、ゲームがプレイされると、そのタイトルに投入された売上の一部がソフトメーカーの売上となっていくモデルです。
また、全ての筐体がオンラインにつながったことにより、今後、ネットワーク対戦や他のシステムと連動した様々な発展形が考えられます。まさしく次世代のアーケードゲームのあり方を示すシステムなのですが、リリースから現在まで、どのような経過をたどっているのか、NESiCAxLiveのプロデューサーに聞いてみました。
◆目次
・最初の構想は「TAITO Type X」基板のタイトルを共通基板に配信すること
・NESiCAxLiveに参加する開発会社
・ネットワーク対戦はできるようになるのか
・ネットワーク対戦の今後の展望
・格闘ゲーム以外のジャンルも充実していく予定
・ビデオゲーム市場の縮小は何が問題なのか
・驚くべき普及状況
・汎用筐体へのニーズはゲームセンターだけのものではない
・配信タイトルが増えると考えなくてはいけないこと
・家庭用ゲーム機との共存
・ユーザーと開発会社、ゲームセンターをつなぐシステム
・ユーザーコミュニティの形成はユーザーの立場を考えて慎重に
・「NESiCAxLiveは高い」は間違った認識
・新たな収益モデルが作り上げる新たなマーケティング
新宿にある株式会社タイトー本社に到着。
今回インタビューに答えていただいたAM 事業本部 AM 開発統括部 副部長 藤本貴文氏。
◆最初の構想は「TAITO Type X」基板のタイトルを共通基板に配信すること
GIGAZINE(以下、G):
まず、藤本さんがこれまでプロデュースされたゲームについて教えてください。
藤本貴文プロデューサー(以下、藤本):
「電車でGo !」のプレイステーション版を作ったり、ドライブゲーム「バトルギア4」のネットワーク部分のプログラミングをしたりしてきました。もともとはプログラマーなんです。
一番初めの作品は「パズルボブル2」の家庭用への移植でして、あれは3人くらいで3ヶ月間休みを返上して作業しました。もともとアーケード用のF3システムという基板を使ったゲームだったんですが、初代プレイステーションへの移植ということで、メモリも足りなくて、キャラクターをぶつ切りにしてつなげてみたり、いろいろやりました。それが予想よりも多く売れてプチヒットになって、それから家庭用への移植を中心に担当させてもらっていました。
「パズルボブル2」の対戦画面
G:
ずっと家庭用を中心にご担当されてきたんですか?
藤本
10年くらい家庭用を担当していたんですが、2004年にAM(アミューズメントマシン)事業部に移りました。もともと家庭用のゲームも作っていたんですが、同時にゲーム用ミドルウェアも作っていたんですね。ミドルウェアというのは、ゲームとOSの間でいろんなことを良きに計らってくれるものなんですが、2004年に「TAITO Type X」という基板が発売されるということで、ソフト的なプロデュースを行いました。
「TAITO Type X」というのは、PCをベースに設計した基板で、PCの開発インフラがそのまま使えるので、開発費をかなり安く抑えることができます。
G:
「NESiCAxLive」について、初めに構想されたのはいつごろだったんでしょうか。
藤本:
本当の構想レベルからで言うと、2005年、私が業務用のほうに移って、右も左も分からないくらいの時に、「汎用ゲーム機はこうあるべきなんじゃないか?」っていうことを考えたのが初めですね。
現在のゲームでは、アーケード筐体が各ゲームタイトルの専用機になってしまっている部分があります。本当はひとつの筐体にタイトルを取り替えて入れることができて、交換も安く済むはずなんですが、最近は見た目は汎用筐体でも専用機化してしまっているものが多くなっています。それはちょっとおかしいだろう、と。
先ほど話に出ました「TAITO Type X」という基板をネットワークに接続して、そこにゲームを配信するのはどうかな、というのを初めて言ったのが2005年ですね。
それに加えて、タイトーのネットワークシステム「NESYS(ネシス)」にはカードがあるんですが、このカードを使って電子アイテムを売り買いできるようにしたいという話が出まして、それを考えている内に、2009年に「資金決済法」という法律ができるという情報が入りました。この法律に対応するために約1年いろいろ調整して、2010年にやっとリリースできることになりました。
G:
最初は共通の筐体にゲームを配信しよう、という構想から始まったんですね。
藤本:
そうですね。ゲームを配信できるようにネットワークにつなげて、せっかくネットワークにつながったんだからカードでポイントが貯まるようにしようということになったという経緯です。
ただ「資金決済法」の関係で、カードにチャージする方法だと問題があるので、NESiCAxLiveではゲームをプレイした後にポイントが貯まるような形をとっています。ユーザーが筐体にお金を入れるのはあくまでゲームをプレイするためで、ポイントをチャージするためにお金を使う必要はないという形ですね。
G:
家電量販店のポイントシステムのような感覚でしょうか。
藤本:
そうです。一緒ですね。
G:
ポイントを貯めていくとどんなことに使えるんでしょうか?
藤本:
今は各社さんと調整をしている段階ですが、今後は電子的なアイテムと交換が出来たり、その他のサービスも予定しています。
◆NESiCAxLiveに参加する開発会社
G:
現在NESiCAxLiveに参加している会社は何社なのでしょうか。
藤本:
はじめは9社だったんですが、今は16社になっています。まだ調整に動いている会社さんもあるので、9月には20社くらいになるんじゃないかな、と思っています。
G:
こちらのカードの絵柄は、SNKさん、アークシステムワークスさんのものですが、参加されている会社さんの名前を見ると、アトラス(現インデックス・ホールディングス)さんなどがありますが。
藤本:
アトラス(現インデックス・ホールディングス)さんは「豪血寺一族」という作品を持っているので、今はNESiCAxLiveに対応していただいている段階です。昔のままの状態でも動くんですが、ネットワークにつないで、課金の情報を取る部分を埋め込んでいる状況ですね。
豪血寺シリーズは人気の高い作品ですし、NESiCAxLiveなら基板を売る必要はないということで、賛同いただいています。
「豪血寺一族 先祖供養」のゲーム画面
G:
なるほど、ユーザーにとっても、ゲームセンターに入荷するゲームのバリエーションが自動的に増えるのはうれしいですね。
藤本:
そうですね。実際のゲームセンターさんにとっても、一度NESiCAxLiveを導入していただければ、別途払うお金はありませんし、お客様がお金を入れた分に対して、従量課金が行われるモデルですので、お得だと思います。
G:
ゲームのタイトルとしては「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズがNESiCAxLiveにラインナップされたのが、1月24日ということで、これらもかなりヒットした作品ですが、なかなか「ザ・キング・オブ・ファイターズ '98」が稼働しているゲームセンターも今は少なくなっていますし、懐かしいなぁと思う人もたくさんいたんじゃないかと思うんですが。
藤本:
「ザ・キング・オブ・ファイターズ '98」はリメイクされた時に、実は「TAITO Type X」で出てるんですね。今回は、NESiCAxLiveでネットワークを使って、戦績やリングネーム、ランキングをつけられる機能が「98」と「2002」の両方に追加されました。また、「98」は、新たにゲームの調整なども施されています。
◆ネットワーク対戦はできるようになるのか
G:
ネットワークにつながることで、ランキングや戦績が記録されるようになったというのも魅力的なんですが、一番気になるところとしては、ネットワーク対戦ができるようになるのか、という点についてはいかがでしょうか。
藤本:
できるかできないか、ということで言えばできるんですが、格闘ゲームというのはレスポンスの早さが重要で、家庭用のほうではラグが発生するのを覚悟の上でやっていますね。家庭用の場合はラグがあっても許していただいているようなのですが、ゲームセンターの場合はお金を入れてプレイされるので、そこが今、ソフトメーカー各社様が迷っている部分ですね。
もともとラグが出るゲームであればまだいいんですが、例えば「ザ・キング・オブ・ファイターズ」は基板直結型の入力方式だったので、遅延がそもそも無かったんですね。NESiCAxLiveで現在プレイできるバージョンは、新しく「高速I/Oボード」を導入したので入力遅延はゼロになっています。
また、汎用筐体というのは昔ブラウン管の画面で、最近は液晶の画面になっていますが、液晶画面というのは残像現象によるブレが問題になっています。この残像感が限りなく少ない液晶もあるのですが、これは高価で、廉価版になるとモデルによっては溶けて見える位にブレが出ます。せっかくNESiCAxLiveで高速I/Oも使って入力遅延を無くしたのに、液晶がこれじゃダメだろうということで、価格を抑えて性能を上げた「ビュウリックス ダイヤ」という筐体をNESiCAxLiveとあわせて作りました。ブラウン管には届きませんが、とても高速な描画を実現しています。
こうしたゲームについては、せっかく遅延ゼロにしたのに、ネットワーク対戦にすると遅延が出ちゃうとなんにもならないという部分があります。遅延は最大で4フレームくらい発生することを想定する必要があって、最大4フレームの遅延を想定すると手元の入力から4フレーム待つような仕様にしなくちゃいけないんですね。(1フレームは60分の1秒)
G:
たしかに、ゲームタイトルによっては4フレームも違うと、昔の感覚では出せたコンボが出せなくなってしまう可能性もありますね。
藤本:
そうですね。出るはずの技が出ない、ということも起こってくるので。アライアンスカンパニー様も迷っているというところですね。初めからネットワーク対戦になっていれば違和感も出ないので、最初は新規タイトルからネットワーク対戦に対応していこうと思っています。
G:
では、ネットワーク対戦の導入については前向きなんですね。
藤本:
タイトーでも「サイバーダイバー」という店舗間対戦の出来るネットワークゲームをやっていまして、それが「NESYS」というネットワークシステムで動いているんですね。
「NESYS」というのは、「NESiCAxLive」の上位のシステムで、図で言う青い線の部分が「NESYS」なんですね。同じ「NESYS」回線を利用しているサイバーダイバーで、既に全国の店舗間通信で対戦していますので、技術的には全然問題ありません。なので、リアルタイム性が少ないゲーム、例えば将棋とか麻雀とかであれば、今すぐにでもネットワーク対戦に対応できます。
「サイバーダイバー」のゲーム画面
G:
なるほど、NESiCAxLiveであれば、配信されるゲームは格闘ゲームばっかりではないので、まずはそちらから対応させていくということもできるんですね。
藤本:
はい。そこもプランとして考えています。
この「認証・配信サーバー」「ランキングサーバー」「課金・ストレージサーバー」というのが、今、NESiCAxLiveで使っているサーバーなんですが、ここにマッチングサーバーが入ったり、ゲームによってはゲームサーバーが入るというイメージですね。
G:
NESiCAxLiveであれば「昔はKOFとかをやっていたけれど、しばらく遠ざかってしまって、今はゲームセンターのレベルでは勝負できない」というユーザーでも、戦績ポイントによって同じくらいの実力の人とマッチングされるのであれば、格闘ゲームを新たに始めようというハードルがだいぶ下がるんじゃないかと思うのですが。
藤本:
今後、ネットワーク対戦に対応するに当たっては、レベルマッチングのようなものを作って、あまりレベルの違う人とはぶつからない、という仕組みを当然作らなきゃいけないと思っています。
G:
ゲームセンターに行くと、人気の格闘ゲームがたくさん置いてあるんですが、あまりそのタイトルをやりこんでいない人が、実際にお金を入れてプレイしようというのはけっこうハードルが高いですよね。
藤本:
そうですね、私もボコボコにされちゃいます(笑)
G:
現在のところ、ラグが問題ということですが、これを解消する手段などは考えられるんでしょうか。
藤本:
恐らく厳しいと思います。バトルギアを開発したときは店内対戦でしたが、相当苦労しました。先ほど話に出ましたNESYS回線ですが、実は今、店舗様には「NESYS光」という光回線を引いてもらっているんです。でもやっぱり地域や回線の状況によって、ラグが発生してしまいます。近ければ早いというわけではなくて、隣の店舗よりも都心と他府県のほうが早かったり、様々な条件で変わってきますので。
G:
近くのエリアだけでマッチングするようにすれば解決できるというような問題じゃない、ということですね。
藤本:
そうですね。サーバーからPINGを飛ばして、どれだけの速度で返ってくるかという情報を取って、PINGが遠い人同士をつなげちゃいけない、というような工夫もあるんですが、完全にラグを解消するとなると、光以上の回線が出てこないと無理だろうと思いますね。
◆ネットワーク対戦の今後の展望
G:
先々の見通しとしては、現状の回線のまま格闘ゲームでもネットワーク対戦に対応する見込みはあるんでしょうか。
藤本:
家庭用のほうではすでに格闘ゲームでもネットワーク対戦をやっていますので、間違いなくやると思います。あとはメーカーさん次第ですね。特に、新しく出るゲームについてはチャンスですね。新しいゲームであれば、昔出せた技が出なくなったということはありませんので。
あとは光の次の回線ですが、これは出たとしても普及させなきゃいけないし、ゲームセンターさんとしても、新しい仕組みを導入しなくちゃいけないので、まだまだ先の話になるのかなと。ただ、「NESYS光」への移行はかなり多くの店舗さんで進んでいて、意外とこれは早かったですね。「ハーフライフ 2 サバイバー」というタイトルが出た当時だったんですが、スムーズに移行ができました。
G:
現在のゲームセンターの状況を見ると、他社さんで言えば「機動戦士ガンダム 戦場の絆」や「クイズマジックアカデミー」などのオンライン対戦が可能なゲームがかなりの成功を収めている状況があって、やはり多少のラグがあっても皆で遊べたほうがいいというニーズは強いかと思うのですが、このあたりのニーズはどう見ていますか?
藤本:
やっぱり皆で集まれるというか、昔は一人で黙々とやるゲームが多かったんですが、コミュニティ化というか、皆で出来るというのがはやりでもあるのかな、と思いますし、やっていかなきゃいけない部分だと考えています。
先ほどのラグの問題は、店舗外対戦だと発生するんですが、店舗内だと多少マシになりますし、そういう仕組みであれば今すぐにでもできます。
◆格闘ゲーム以外のジャンルも充実していく予定
G:
現在は格闘ゲームが中心に出てきていると思うんですが、NESiCAxLiveのタイトルはこれから格闘ゲーム以外のジャンルも充実してくるんでしょうか。
藤本:
アクションで「旋光の輪舞 for NESiCAxLive」とシューティングで「星霜鋼機ストラニア」というタイトルがまもなくリリースされる予定です。
これから新作タイトルも一定の間隔で出しつつ、過去タイトルで、もともと「TAITO Type X」で出していたタイトルや、「エレベーターアクション」「バブルボブル」などのクラッシックタイトルも出していく予定です。自社他社問わず、NEOGEOのタイトルも準備しています。
例えばこうしたクラッシックタイトルであれば、ショッピングセンターに行って、私のような親世代が「あ、昔こんなのあったな」と思って親子でやってもらうという形も考えられるかなと。
実は今、ショッピングセンターさんにはほとんどアーケードゲームの筐体は置かれていなくて、店舗さんの方針で置かないという所が多いんですが、そこを今の大きめの形状じゃなくて、昔の駄菓子屋さんに置かれていたような小さい筐体を作ったり、家庭用のコントローラーが使えるようにしてみたりして、なんとかショッピングセンターに置いてもらって、親子で楽しめる形を作れないかなと思っています。
G:
なるほど、NESiCAxLiveであれば、ショッピングセンターのような対戦格闘ゲームが雰囲気としてそぐわない場所であっても、配信タイトルも選べるし、バリエーションがあるから展開の仕方も増えるわけですね。
藤本:
そもそもやっぱり、格闘ゲームしか置かれていないと時間がつぶせないんですよね。これじゃダメだなと。格闘ゲームしか置かれていないような店舗があったら、そこを直すためにも使っていきたいなと。
よく、ゲームセンターをまわるんですが、中でも格闘ゲームしか置かれていないような店舗があったりして、そこを直すためにも使っていきたいなと。
G:
たしかに、ゲームセンターに行くと、格闘ゲームしか置いていないところもありますよね。例えば人気タイトルを6台ずつ入れたら、それぞれ専用機になっているから、必然的にそればっかりになってしまう、と。
藤本:
それって実際にお客さんが逃げていると思うんですよ。お店側としては、当然お金がどんどん入ってくる格闘ゲームを置きたがるんですが、ユーザーさんとお店の間でギャップが生じているんですね。NESiCAxLiveのシステムには、そこをなんとかしてもらいたいという想いがあります。
◆ビデオゲーム市場の縮小は何が問題なのか
G:
ビデオゲーム市場が縮小傾向にあるという現状がありますが、どのような問題があると考えられますか?
藤本:
もともとはテーブル筐体しか無かったところに、大型の専用筐体が大量に導入されたのですね。その影響で、テーブル型やアップライト型の汎用ビデオゲーム筐体はどんどん減ってきて、10万台以上あったのが、3年前には約半分、去年は4万台を切る台数が報告されました。これはちょっとマズイと。
でも、実は一番安定しているのはこの汎用機なんですよね。本当はゲームセンター運営の基盤になるべき存在なんですが、皆が専用筐体ばかり買ってしまうのですね。そうするとインカムが悪かった時に大ダメージになっちゃうんですよ。基板なんかは比較的安く買えるので、失敗してもダメージはそこまで大きくないと思うのですが、専用筐体はそれなりに高額ですので。昨今、負のスパイラルが生まれていたのですが、汎用機のベースをしっかり守っていくことで、恐らく安定的な売上を得られるだろうという見込みもあって、NESiCAxLiveをやっていこうと。
G:
ゲームセンターを運営していく上で、売上の構成比も考えなくちゃいけないということですね。
藤本:
そうですね。本当は汎用機による売上比率は下げちゃいけないんですけど、どんどん下がっていっているんですね。実際は大型筐体ばっかり入れているところが、お客さんを取られちゃったりしています。半端なことをしていると、やっぱりお客さんはバランスの良い店舗に流れちゃいます。 汎用機もベースとして置いておいて、プリクラとかクレーンとかを入れるのは良いのですが、結局バランスが大事なのだと思います。
G:
藤本さんはそういう調整もされるんですか?
藤本:
プレイ状況の把握だけじゃなく、急にプレイ数が増減したり、別のタイトルと差が出たりすることがあって、そういう異常値が出たときは、不具合の可能性が有りますのでチェックしています。NESiCAxLiveのタイトルは今のところすごく安定していますね。
◆驚くべき普及状況
G:
設置店舗についての普及状況についてはいかがですか?
藤本:
初めはプランとして500店舗以下と予想し、NESiCAサーバーとNESiCA(共通ICカード)を準備しましたが、2010年のアミューズメントマシンショーでの発表以来、予想を上回る受注をいただきまして、大急ぎで対応いたしました。ファーストタイトルが「BLAZBLUE CONTINUUM SHIFT Ⅱ」であることも、受注を後押しした要因だったと思います。多くのお客様にNESiCAxLiveがご理解いただけたのではないかと感じました。
G:
ゲームセンター側からすると期待の表れという部分もあるのでしょうか。
藤本:
やっぱり無料でゲームが配信されるという部分ですかね。今までそこが悩みの種だったので。売上が落ちてくると、次をまた買わなくちゃいけなくて、泣きっ面に蜂になっちゃっていたのですが、NESiCAxLiveなら売上が落ちてきても切り替えればいい訳ですから。初期導入コストをペイしてしまえば、あとは利益が上がるだけなので、そこが理解されるところだと思います。
初めは様子見で1台だけという店舗様も多かったのですが、タイトルが増えてくると1台で回すのが難しくなってきて、台数を増やすというケースが出てきています。また今度「星霜鋼機ストラニア」や新作格闘ゲーム「AQUAPAZZA」が出た時に、さらにクライアント数が増えるのではないかと予想しています。
G:
NESiCA(共通ICカード)は、コレクターアイテムとしても買われているということですか?
藤本:
そうですね。新しく気に入ったカードが出た場合は、前のカードからデータを引き継ぐこともできるので、そういう風に使っていただく場合もありますね。
G:
ちょっと前までは、ゲームカードはタイトルごとに1枚ずつ必要で、格闘ゲームなんかだとキャラクターごとに1枚ずつ必要なんてこともありましたが、NESiCAなら1枚ですべての配信タイトルに対応できるというのも優れている点ですね。
藤本:
そうですね、財布がどんどんパンパンになっていったりしたものですが、NESiCAは1枚で済みますので。
◆汎用筐体へのニーズはゲームセンターだけのものではない
G:
これが最初のお話では2009年のリリースを予定していたというのは、ゲーム業界の中でもかなり先を行っていた感じがするんですが、こういう部分についての問題意識というのはどこから来ていたんでしょうか。
藤本:
2004年から「TAITO Type X」という基板のサポートをしていたんですが、気づけば他社さんから「こういうことできないの?」という意見を多くいただくようになっていて、その中で「汎用筐体を復活させたい」という意見があまりにも多かったんですね。普通に基板で売るとなかなか売れなくて、せっかくソフトを開発したのに赤字になったりということが多かったようです。
G:
開発会社さんからもそういったニーズがあったんですか?
藤本:
そうですね、今までだと、ゲーム基板を販売するには、基板自体の在庫が必要になるなど、大きなリスクが付きものでした。開発会社のリスクを最小限に抑える為に、タイトルをオンラインで配信をすることによって、基板のリスクについてはタイトーが負いましょう、と。サーバーの維持費もリスクの一つですが、それもタイトーが全部持っています。この条件なら、ひとまず開発したゲームを配信できます。
従来と違って、ソフトを売って一気にお金が入ってくるわけでは無いのですが、遊んでもらってだんだんとお金が入ってくる形に賛同してくださった会社さんが今16社存在するというわけですね。
開発機材についても、「TAITO Type X」はPCをベースに設計しているので、既に使っているPCでもゲームが作れるという点も大きいと思います。重要なチェックをする時だけ、開発機材でチェックをすればいいんです。PCベースになっていない場合、チェックだけでなく開発機材で開発を行う必要があって、開発者の数だけ機材が必要になっていたので、昔に比べると開発のハードルはすごく下がっていると思います。
G:
それでは、これまでアーケードゲームの開発をやっていなかった会社さんも参入できるということでしょうか。
藤本:
家庭用しか作っていなかった会社さんからのお問い合わせや、既にPCで動くタイトルを持っている開発会社様からお問い合わせがたくさん入っています。PCで動いていると、比較的楽にNESiCAxLiveに対応できます。
◆配信タイトルが増えると考えなくてはいけないこと
G:
そうすると、今後の配信タイトルはかなりのペースで伸びていくんでしょうか。
藤本:
はい。ただ、数が増えると今度は実際にプレイするユーザーさんが迷うようになるのが予測されます。今も複数のゲームが選択できるのですが、選択時にユーザーさんが迷わない様なシステムを考えています。
G:
実際にプレイした際、格闘ゲームだと途中でコマンドが分からなくなったりしてしまって、現状だとコマンドリストも無いのですが、たくさんタイトルが入るようになった時も考えて、どう対応していく予定でしょうか。
藤本:
従来の筐体だと、手元とかにインストラクションを貼ることができたんですが、NESiCAxLiveでは複数のタイトルが対象になるので対応できません。ゲームの情報を両面にまとめたデータをWebサイトに掲載して、それを店舗がダウンロードして印刷して、束ねて置いてもらっています。タイトルが増えてくるとこの方法だと限界があるので、別の施策も検討しています。
あと、実は現在のシステムに無線LANを使っていまして、携帯機器などで技表やゲーム情報をダウンロードできるようにしようかな、というのも考えています。
G:
まさに進化中という感じですね。
◆家庭用ゲーム機との共存
藤本:
無線LANを使うことで家庭用ゲーム機器とNESiCAxLiveとの連動も今後できるようになると思います。今まで、ゲームセンターさんは家庭用ゲームが発売されることに対してネガティブだったのですが、家庭用が発売されるとそこで練習してまたアーケードに戻って対戦するという傾向が出てきています。
そこをうまく使うためにも、無線LANは活用していただきたいと考えています。 既に、ゲームによっては携帯やPCでキャラのカスタマイズができるようになっているので、アーケード、家庭用、PC、携帯などが共存していくような環境にして行きたいと考えています。
G:
ゲームセンターで遊ぶとキャラクターに特殊なカスタマイズができる、という感じですね。
藤本:
アークシステムワークスさんに、いち早く導入して頂きました。キャラクターのカスタマイズだけじゃなくて、最近で言えば、ゲームセンターで貯めたポイントを電子アイテムと交換するなど、いろんな使い方ができるようになっています。
これまで、アーケードゲームというのは、ソフトを売ったらおしまいという売り方でしたが、今後は運営が重要になってきます。その中でお客さんの信頼を得ることが出来れば、次のタイトルも遊んでもらえるようになります。売った後に運営しないと、畑(店舗)が荒れてしまって、悪循環に陥ってしまいます。
G:
なるほど。そういう意味では、NESiCAxLive、皆で畑を耕していこうというシステムなんですね。
藤本:
そうですね。もう一回アーケードを見直そうと。 1978年にスペースインベーダーが出て、そこの文化を創ったのはタイトーと言っても過言ではないので、そこを守るのもタイトーなんじゃないかと。
◆ユーザーと開発会社、ゲームセンターをつなぐシステム
G:
NESiCAxLiveが登場した当時、「バージョンアップが無償になるなら、ユーザーから意見を吸い上げてすぐに反映できるようになるんじゃないか」というユーザーからの期待の声もあったようですが、実際にそういった吸い上げと反映のサイクルは行われたりしているんでしょうか。
藤本:
実際にユーザーの意見を受けて反映するということはやっています。
従来は基板のマスターアップには労力と費用がかかっていました。これではユーザーの意見を反映することもできないので、基本的には無償でバージョンアップできるようにしました。アップデートしていただいた方が、グロスで見てプラスになりますので。
G:
ユーザー側から「こうして欲しい」という意見をどんどん投げると、ゲームがどんどん改良されていくということですね。
藤本:
そうですね、どんどん投げて欲しいと思います。
G:
格闘ゲームだと、1年くらい経つとパターンが生まれてしまったり、いわゆる強いキャラが固定されてしまって、皆が同じキャラを使うようになったりすることがありますが、そういうことも防げるわけですね。
藤本:
今まではネットワークにつながってなかったので、実際に稼働してからどのキャラが強すぎるとかわかりにくかったのですが、様々なデータが各社さんと共有できるようになっています。「闘劇」タイトルは予選が始まっちゃうとアップデートできないので、開催前にアップデートしたりします。
店舗でイベントや大会を行う際も、NESiCAxLiveの場合は全部のクライアントを一瞬で同じタイトルにできるので、大会のツールとしても便利ですね。
G:
なるほど、闘劇というと格闘ゲームの大会ですが、NESiCAxLiveなら格闘ゲーム以外の大会でも対応できますね。
藤本:
実際はシューティングの大会などがいくつかあって、そういう所と今後は交渉していく予定です。今までシューティングのスコアは自己申告制だったのですが、ネットにつながったので、ランキングが自動的につけられるというメリットもあります。
◆ユーザーコミュニティの形成はユーザーの立場を考えて慎重に
G:
大会の話が出ましたが、強いプレイヤーがここのゲームセンターにいるよ、というような情報や、ユーザーコミュニティのようなものは作られているのでしょうか。
藤本:
今はちょっと慎重になっていまして、導入しようと思っていたのですが、強いユーザーの立場に立つと迷惑になることもあるみたいなんですね。その他、会社をサボってやっている事がバレちゃったりすることもあるみたいなんで(笑)
現在は、同意を得てONにしていただく、というような形で、協議しているところです。
ユーザー検索はともかく、ゲームセンター検索はできます。自分の今いる位置から一番近いNESiCAxLiveが導入されているゲームセンターはどこかな、という検索機能ですね。
G:
NESiCAxLiveを導入することで初めて見えてきた課題もあるということですね。
藤本:
従来のゲームは、開発者だけで作るものなんですが、NESiCAxLiveのプロジェクトでは開発以外の方も入ってもらって、意見を出してもらっています。インストラクションはこうじゃなくちゃいけないとか、配信の何日前に情報をもらわないと対応できないとか、直の意見をもらっています。そこが今までのゲーム作りと違う部分ですね。
G:
店舗と開発陣が共同で開発を行うというのは、タイトーさんならではという感じもしますね。
藤本:
そうですね、そこはやっぱり生かさないといけないなと。
◆「NESiCAxLiveは高い」は間違った認識
G:
ゲームセンターと開発会社の収益モデルがNESiCAxLiveでは大きく変わるということですが、具体的にはどんなモデルになるんでしょうか。
藤本:
もともとゲームセンターさんが基板を買う時、フルキットもしくはハードディスクキットで買われていました。それが大体、ハードディスクキットだけだと20~30万円くらい、フルキットだと30~40万円くらいですね。
これがNESiCAxLiveだとかなり安くて、30万円以下で1セットそろえられるようになっています。これに加えて、ゲームタイトルの人気が落ちて売上が下がってくると、従来の場合は新たに基板を買う必要がありましたが、NESiCAxLiveなら無料でダウンロードできます。
G:
NESiCAxLiveが登場した当時は、ユーザーの間で「NESiCAxLiveは多機能なモデルだし、筐体や基板も高くて、大きなアミューズメントセンターでしか導入できないんじゃないか」という憶測が流れていましたが、むしろ基板自体も安くなっているんですね。
藤本:
そうですね、けっこう憶測で50万とか200万という話もありましたが、そこは根本的に違っていて、かなり安くしています。まず普及させるために、利益は最小でやっています。実際には、先ほどの通り、1セット30万円以下で、一度導入すればずっと使っていけます。
◆新たな収益モデルが作り上げる新たなマーケティング
藤本:
開発会社側の売上としては、今までのモデルだとユーザーさんがお金を入れるとそれは全部店舗のものになっていたのですが、今回はだいたい30円を店舗からいただいています。この30円の中でメーカーさんに20円、タイトーに10円という分配がスタンダードなところです。この金額は、30円、25円、20円という区分けがあり、30円というのは新しいタイトル。20円というのは過去のタイトルでほとんど何も手を加えていないもの。25円のものはクラシックタイトルですね。
開発会社さんは基板で売る場合は販売時に一気に売上げを上げていたのですが、NESiCAxLiveの場合は、ユーザーさんがプレイしてくれた分だけ入ってくる形ですね。
タイトーの場合、ゲームセンターを持っているので、開発会社さんに根拠のある予測を立てて説明をしています。今まで開発会社さんは出荷後のインカムが分からなかったんですね。どのくらいの売上が出ていて、どのくらいのスパンで売上が落ちて、ジャンル毎にどういう下降の仕方をしているのかとか。 こういった情報を全部お知らせして「ここでアップデートしたほうがいいですよ」とかっていうアドバイスもしています。
G:
そうすると、ゲームのマーケティング自体が変わってきているということですね。
藤本:
今まで全然分からなかったところ、例えばイベントを打ったけれども盛り上がっているように見えて実際はどうか解らない状況だったのが、効果を測定できるようになってきました。
モデルとしてはこれが汎用筐体としては究極の形だと思います。皆がやりたいと思っていたことを思い切ってやったので、これ以上のモデルはなかなか考えにくいのですが、これからも知恵を絞って新しい仕組みを導入していく予定です。
G:
すでに多くの店舗で導入されているということを考えると、この先行者利益は大きいですね。
藤本:
流れとしては良い感じですね。タイトルもどんどん新しいものを発表していきますので、ぜひご期待ください。今すぐに発表は出来ません、恐らく次の発表は9月のアミューズメントマシンショーでの発表となります。
G:
ありがとうございました。
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