災害時の救助拠点となる「究極のプレハブ」、自力で変形も可能な「EDV-01」を実際に見てきました~内部編~
災害時の救助拠点を想定して作られた仮設住宅のプロトタイプ「EDV-01」の外観を見てきましたが、いよいよその内部へと入り、約1ヶ月間大人2名が物資援助なしで自活可能な設備を見ていきます。
空気中の水蒸気から飲料水を作り出す「無給水給水器」やバクテリアを使った「バイオトイレ」、システマチックな格納と設置が可能な家具、そしてバスルームやキッチンなど、生活に必要な設備が一通りそろっているだけでなく、スタイリッシュな雰囲気のデザインなので、災害に飲み込まれた現場にとってはかなり頼もしい存在になりそうです。
内部の様子は以下から。EDV-01 誕生!!〔新商品〕緊急災害地の最前線基地として「EDV-01」スペシャルサイト-by 大和リース株式会社
「EDV-01」の内部はこんな間取りになっています。
まずは入り口正面にある扉を開けてみます。
その中はトイレでした。人が生活するには必須の施設です。
くみ取り式や水洗式ではなく、バイオトイレを採用しています。便器の中にはおがくずが入っていて、バクテリアが排せつ物を分解するためほぼ無臭なのだとか。1日に8~10回使うことを想定した設備なので、被災者に貸し出すという用途には不向きですが、「EDV-01」はあくまで救助隊員などの現場を指揮する人たちが拠点とする施設がコンセプトなので、必要最低限の設備が盛り込まれているとのことです。
スイッチを押すと、内部の機械がおがくずをかき混ぜてくれるので、手を汚さずに中をかき混ぜて排せつ物の分解をしやすくすることができます。
YouTube - EDV-01のバイオトイレ内部のおがくずを自動でかき混ぜる様子
排気ダクトも完備。被災地のような場所でトイレのにおいなどに悩まなくても済むのはストレスがかなり減りそうです。
トイレの右隣にある扉の中がメインのフロア。2階建てになっています。
入るとすぐ目につくキッチンは、コンロが1口とシンクというシンプルな構造です。
屋根と壁面についているソーラーパネルや燃料電池で発電した電気を使って調理ができるよう、IHコンロが採用されています。
キッチンの下には小型の冷蔵庫も。少々の食品ならここで冷蔵しておけます。
キッチン右側の壁面にはいろいろと計器がついていて、室内にいながら発電量をモニターで確認することも可能になっています。
ベージュ色の大きな箱は燃料電池で発電する際に使われる水素ガスの残量をチェックできる監視盤です。水素ガスを使い切ると太陽光以外での発電ができなくなってしまい電力供給が不安定になってしまうため、室内でチェックして電気の使用量を調整する目的があるとのこと。
こちらはガス警報器。水素ガスには引火性があるので、万が一水素ガスがもれてしまったらすぐに警報が鳴るようになっています。
室内の照明は、水素ガスの監視盤の隣にあるタッチパネルで操作します。
試しに「1階天井」の照明をつけてみました。室内照明はすべてLED照明が使われています。LEDを採用したのは省電力であることが主な理由ですが、光が1点に集まる性質があるため、かなり明るく照らします。
お風呂も金属製でスタイリッシュな雰囲気。浴槽は成人男性でも十分つかれそうな大きさですが、貯水タンクの容量的に入浴用途での利用は難しいため、シャワー利用が中心となるようです。
災害を受けた直後の現地ではシャワーのための水や給湯の手段を確保するのはとても難しいため、リフレッシュや清潔な身体の確保という面で大きな役割を果たしそうです。
キッチンやお風呂で使った水はどこへ行くのかというと、1階部分の外部にあるグレーの丸い排水ダクトから流れ出るようになっています。
ここに排水タンクをつなげて、生活排水をためておくことを想定しているそうです。今回は見学中にごくわずかに水を出しただけなので、バケツで受け止めて処理していました。
室内に戻り、はしごを登って2階に移動します。
備蓄庫の裏側にあたる部分にはゴム製の持ち手がついていて、はしごをよじ登る際につかめるようになっています。
登り切ったので下をのぞいてみました。約2メートルほどあり、なかなかの高さなので、高所が苦手な人にはちょっと厳しい眺めかもしれません。
はしごの脇あたりに換気ダクトがありました。いかにも密閉性の高そうな空間ですが、換気するための機構は整えられているようです。
2階のスペースは、備蓄庫になる棚以外は何も置かれていない空間になっていました。
壁面がパンチングメタルになっているので、晴れた日中であれば室内はなかなか明るい。逆に言うと、夜は「EDV-01」内部の明かりが外に漏れ出すことになるので、電気の供給が止まる場合が多く、暗い被災地の夜のともしびにもなるかもしれません。
外から見た時は窓が無いのかと思ったのですが、内側から開けることができる窓があります。先ほどソーラーパネルを見た時に使った足場を上ると、はしごを登ることが難しい見学者でも2階に入ることができます。
反対側の壁に取りつけられた窓を開けると、そこはちょうど外壁の表示の部分でした。
試しにゴムボールを外してみせてもらいました。柔らかい材質でパンチングメタルの穴にぴったりはまるので、今描かれている「非常口」のイラスト以外にもさまざまな表示をすることができそうです。
備蓄庫の中には飲料水を供給するための「無給水給水器」と、物資を入れておくための棚があります。
これが空気中の水蒸気から飲料水を作り出す「無給水給水器」。アメリカ製で、インフラの整っていない地域での導入が進んでいる機械なのだそうです。
お湯と水のどちらも出すことができるようになっていました。
空気中から水を作るには2時間以上稼働させ続けなくてはならないとのこと。1日中稼働させておけば最大20リットルの水を作り出してためておくことができるそうです。
この穴は運搬時にロックピンという鉄の棒を差し込むための部分。
輸送モードに変形する際に邪魔にならないように、家具は2階の床のスペースに収められていました。ここから部品を取りだして壁に設置していきます。
まずははしごがかけられている部分とは逆サイドに、家具と一緒に収納されている柵を設置して落下事故を防ぎます。
パンチングメタルの奥にあるねじ穴に金具を差し込んで、そこに家具の部品を差し込んで固定していきます。
金具に加えてワイヤーでつり下げる部分もあります。こちらはワークスペース。壁と同様、デスクも銀色ですっきりとした雰囲気です。収納の都合上イスはついていないとのことですが、やはりパソコンを使った作業や書類仕事をする上で必須となると思うので、実用化の際はイスを含めた家具の設計を期待したいところです。
続いて、2段ベッドも同様の固定方法で設置されました。はしごは1階の玄関部分に収納されていたもの。
耐荷重量は約100キロです。
案内してくれた大和リースの方に試しに寝転んでもらいました。ベッドは全長170センチ、仮眠を取るには十分な設備と言えそうです。
ベッドとワークスペースの机や棚、安全柵が入っていた部分にはLED照明が設置されていて、すべての家具を設置し終わるとインテリアのアクセントになる仕組み。
床には埋め込み式のコンセントがベッドの近くに2つ、ワークスペース側に2つの計4か所設置されていて、電気機器の電源確保には不自由なさそうです。
衛星通信システムの端末も、「EDV-01」の中に搭載されていました。この端末はトイレの中に格納される想定で、その理由は「一番安全な場所だから」だそう。
南の方角に向けて置くと電波が入りやすいということで、コンパスがはめこまれています。
実地で使う場合には電話線をつないで衛星電話をかけたり、LANケーブルをつないでインターネットを活用することも可能。阪神大震災を経験した大和リースの担当者の方の話によると、震災の時は初動の段階で電話がつながらず苦労したということだったので、連絡手段が確保できるというのはかなり大きいです。
かなり充実した設備を持った「EDV-01」には各方面から注目が集まっていて、やはり一番多く聞かれるのはその値段だそうですが、これはあくまでコンセプトモデル第一号で、展示されているこの機体が唯一の現物。そのため、値段を公表することはしていないのだとか。「おおよその値段だけでも」と聞いてみたところ、「ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグなら余裕でしょう」とはぐらかされそうになりながらも、最終的には「おおよそ『数千万円』ですね。これ以上は言えません。」と、価格を明言しないながらも教えてくれました。
実用化に向けて行政や自治体などと話し合いも持たれているとのことで、今後プロトタイプの「EDV-01」の後継となる機体も、もしかしたら作られるかもしれません。いつ降りかかるともしれない大災害ですが、こんな未来像が提示されていると、何だか頼もしく思えます。
「EDV-01」はこれから約半年間大和ハウス総合技術研究所で展示されるとのこと。見学をする際には事前の問い合わせが必要となっています。
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