万が一の事態に備えて飛行機の客室乗務員が受けるめちゃくちゃ本格的な緊急脱出訓練をJAL(日本航空)施設で体験してみた
緊急着陸などの事態を想定して、航空会社の客室乗務員が受けるトレーニングが「緊急保安訓練」です。今回は巨大プールや実物大の飛行機模型があるJALの施設に潜入して、訓練の詳細を取材することができたのでその内容をレポートしてみることにします。
羽田空港近くにあるJAL(日本航空)の機装ビルに到着。
JAPAN AIRLINESと書かれたプレート。
受付はこんな感じ。
「身についていますか?あいさつ・笑顔・社章」という張り紙。
さらに場所を移動して、羽田某所にある非常救難訓練センターにやってきました。
入り口を入ってすぐの場所にある消火訓練用スペース。
大きめのバーベキューコンロのようなもので実際に火をたいて、消火器を使用する訓練を行います。なお、訓練用のシナリオにある出火原因は「キッチンにある調理器具」や「トイレでのタバコ」といったものだけでなく「ノートPCのバッテリーから火が出ている」というようなケースも想定して、さまざまな状況に対応する訓練を行っているそうです。
消火活動を行う際に煙りから身を守るためのマスク。
両サイドには酸素ボンベが備えられており、短時間であれば煙が充満した状況下でも消火が行えるようになっています。
なお、このマスクを実際に装着してみた所、意外と快適で外の音や人の声もしっかりと聞くことができ周囲の状況もちゃんと見られることがわかりました。煙の侵入を防ぐために首もとは伸縮性のあるゴムのような素材でできており、やや締め付けれる感触がありますが息苦しくなったりすることもなく割と快適です。
通路の脇にあった応急手当用のキットやサバイバル用品などの展示。
食料や水、絆創膏などに加えて置いてあった救難信号用のマーカー。ボートから海中にまく事で水に色を着けて上空の救助隊からの視認性を高めるために使用します。
救命ボートに開いた穴をふさぐための専用パーツ。裂け目にグイグイと押し込んで、ネジを締めることで小さな穴なら簡単にふさぐことが可能です。
修理が終わるとこんな感じ。
◆シューター(滑り台)を使った脱出の訓練
学校の体育館を何倍も大きくしたような建物の中にある実物さながらに作られた飛行機の模型。
機体の中央からは緊急時の脱出に使用する空気で膨らむ滑り台(シューター)が備えられています。なお、客室乗務員全員が新入社員研修の際だけでなく毎年1回必ず、ここで訓練と試験を受けており、もしそれにパスできなければ翌日からは業務に参加できないという厳しいルールになっているとのこと。
シューターを真下から見るとこんな感じ。
裏側。
触ってみるとかなり厚手の素材でできているらしくゴワゴワとした感触で、ちょっとやそっとの事では破れてしまうことはなさそうです。
機内からシューターで脱出する際の姿勢は以下の通り。両手両足を前に伸ばし、つま先は真上に、手は握り拳を作ります。この時にやや前傾姿勢になるのがポイントで、もしこのようになっておらず後ろに倒れているとシューターから出る際に腰から地面に落ちてしまいケガをする危険性が高くなってしまいます。
実際に滑っている様子は以下の通り。
シャーッ。
地面に着くと、待機していた補助役の人が腕を持って転ばないようにしてくれます。この役割は非常口付近に座っていた乗客などが行う場合もあるそうなので、いざという時にはこの写真のようなイメージで脱出する人をサポートしてください。
立ち上がれたら後続の人の邪魔にならないよう速やかに機体から離れます。
訓練用の機体に入るための階段はこんな感じ。
内部は本物の飛行機と同じように作られています。
非常時の状態を再現するための操作を行うパネル。
訓練で想定されている機体の種類に合わせて設定を変更することが可能。
避難誘導のデモンストレーションを見せてくれるのはこの人。
今回のシナリオは離陸滑走中にトラブルが発生して機外に脱出する、というもの。前方のスクリーンには離陸直前の滑走路の様子が映し出されています。
非常事態を想定したシーンでは機内の照明が落とされ赤い非常用ランプが点灯しています。実際に現場に居ると訓練だとわかっていてもドキドキしてしまうような状況ですが、客室乗務員はこのような緊迫した状況下でも適切に乗客の誘導ができるよう、徹底した訓練を受けているとのこと。「大丈夫、落ち着いて。Stay Calm.」と日本語と英語で乗客に呼びかけながら誘導を行います。
脱出用シューターを機体の中から見るとこんな感じ。
滑り降りると、一瞬で地面まで到達。
今回はプレス向けのデモンストレーションだったため、シューターの上に座った状態から滑り出しましたが、実際に避難する際には歩いている状態からそのままシューターの上にジャンプして脱出を行います。
出口に到着したら……
ジャンプ。
お尻からシューターに降りてそのまま滑っていきます。
なお、実際にこの方法での避難を試してみたところ、座った状態から滑り始めるよりかなり勢いが付きより迅速に脱出できることがわかりました。ただし、「飛ぶぞ、飛ぶぞ」と思って力みすぎると必要以上にスピードが出てしまい地面に到達した際に危険なので、スキップをする位の軽いジャンプで「ピョン」と両足を前に投げ出すと素早く、かつ安全な速度で滑り降りることが可能です。
◆海上に避難する場合
何らかの理由で正常に着陸できない場合は、以下の様な対ショック姿勢をとります。
座席が前にある場合は両手を額の前で交差させ頭を下げ、両足を踏ん張ればOK。
前方に座席が無い場合は、頭を下げ両手で足首を握ります。
シューターはガスで膨らむようになっているので、水上に降りた場合は救命ボートとして利用可能。
機体から切り離すとこんな感じ。なお、ボートの下にある約400平方メートルのプールには最大で1.6メートルの深さに水が張られており、訓練の内容によっては客室乗務員たちは実際に水に飛び込むこともあるそうです。
ボートには先端に輪の着いたロープが備えられており、海上に落ちた人に向かって投げて救助をしたりボートとボートを結んで離ればなれにならないようにすることができます。
使用後はプールサイドに揚げて再利用。
なお、今回はライフベストを着用して膨らませてみることもできました。
実際に試してみたところ、ガスを発生させてベストを膨らませると一瞬でパンパンになるので相当の体重があっても沈まない位の十分な浮力が得られそうです。ただし、機外へ出る前に膨らませてしまうとろくに足下すら見えない状況になってしまうので要注意。ライフベストは必ず機体の外に出てから膨らますようにしましょう。
というわけで、そもそも飛行機から急いで脱出するような事態にならないために航空会社は徹底した安全対策を行っているのですが、万が一の際に、例え降りた場所が海やタラップの無い所であっても迅速に避難できるような機材がそろっており、客室乗務員も乗客を安全に誘導するための訓練を徹底的に受けているという様子を今回の取材では垣間見ることができました。
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