サバンナの水飲み場に潜伏すること270時間、マラリアなどにかかりつつ撮影された渾身の野生動物写真
写真家のGreg du Toit氏はケニアのサバンナでライオンが水を飲む姿を捉えようと、水飲み場近くに身を隠す基地を建てたり塹壕(ざんごう)を掘ったりして1年間ねばったものの成果を得られず、最後の手段として泥水の中に身を潜めて動物が水を飲みに来るのをじっと待つことにしたそうです。
3ヶ月間水に漬かってシャッターチャンスを待ち続けたすえ撮影された写真はすばらしいものばかりですが、ビルハルツ住血吸虫や鉤虫(コウチュウHookworm)、マラリア(2度感染)など多数の寄生虫症に感染するなど、命がけとも言える仕事だったようです。
詳細は以下から。Photographer captures amazing images of lions at watering hole after submerging himself for three months | Mail Online
Greg du Toit氏はケニアのNguruman Hillsにある、広さ約20平方メートルほどのプール状の水飲み場につかり、肩から上だけを水面に出した状態で1日3時間、3ヶ月で270時間もの間カメラを構えてシャッターチャンスを待ち続けました。
至近距離で撮影された2頭のメスのライオン。水飲み場は最寄のマサイ族の村から5kmほど離れた草原の中にあります。
鋭い牙を持つライオンが目の前に迫るシャッターチャンスは、恐怖を感じる瞬間でもあります。「時に、恐怖で体が震え、撮影を中断して呼吸を整え気持ちを静めなければいけないこともありました。長い間待ち続けたシャッターチャンスに、カメラを持つ手が震えてしまうのです」とdu Toit氏。
わずか数メートル、一跳びで届く距離にいたライオンたちは水の中に何か居るということには気づいていたそうですが、du Toit氏は「ライオンはおそらく人が2本の足で立っている状態でしか人間と認識しないので、僕とカメラの存在はほとんど気にならないようだった」と語っています。
しかし、撮影に伴う危険は野生の肉食獣と至近距離で対面することだけではありませんでした。ライオンたちにとっては渇きをいやす「きれいな水」も、人間にとっては飲用することは考えられない、寄生虫だらけの「汚れた水」です。du Toit氏は水飲み場で繁殖する蚊を通じて2度マラリアに感染したほか、住血吸虫症にもかかったそうです。
「血尿が出て、病院へ検査を受けに行ったところ、血液検査の結果ビルハルツ住血吸虫症にかかっているとわかりました。これは扁形動物の一種によって引き起こされる病気で、水中の巻貝の中で暮らしていた寄生虫が、僕の肝臓に引っ越していたのです。おかげで何週間もベッドで過ごすことになりました」とdu Toit氏。
また、ケガをした時に傷口をふさぎ、出血を止める作用を持つ血小板数が医師も驚くほど上昇していて、これは多数の寄生虫の存在を示していたそうです。du Toit氏は「さまざまな内部寄生虫のほか、Hookworm(鉤虫)として知られる特にやっかいな外部寄生虫にも住み着かれました。この虫は僕の足の皮膚のすぐ下にいて目で見ることができ、夜の間に動き回るのです。毎朝自分の足を観察してこの虫を見つけるのが日課になりました」と語っています。
Greg du Toit氏はその後、強力な抗生物質や殺虫剤、液体窒素(目に見える皮下の寄生虫にスプレーする)などの助けを借り、長い治療期間を経て「全快」のお墨付きをもらうことができたそうです。
Greg du Toit氏は第8世代の南アフリカ人で、1977年生まれ。10年以上タンザニアやケニアなどアフリカ各地の森林地帯やサバンナを転々として生活したのち、現在は南アフリカの首都プレトリアを拠点に活動しているとのこと。
ライオンのほかにも、水を飲みに来たシマウマやヒヒ、イボイノシシなど多数の野生動物を写真に収めることができたとのことで、Greg du Toit氏は「やった価値は100%あった。寄生虫にかかるとわかっていても、もう一度やるだろう」と語っています。
水を飲み、泥で体を冷やすイボイノシシの家族。
このほかにもGreg du Toit氏によるアフリカの美しい野生動物写真の数々を以下のサイトから見ることができます。
Greg du Toit I Photographic Safaris I Wildlife Galleries
ゾウの鼻。
Greg du Toit氏は昆虫の写真も多数撮影しています。夜眠っている間に結露したチョウは、朝の光で水滴が蒸発するのを待って飛び立つそうです。
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