失血量はコブシに聞け、もしもの時に役立つかもしれない単純かつ画期的な失血量推定法「MARメソッド」
photo by David Shankbone
外傷により失われた血液の量を現場で推定することは適切な処置のために非常に重要で、時には命を左右する問題です。大規模災害などで多くの負傷者が迅速な救急活動を必要とする場合、失血量の推定は誰を最優先で処置・搬送すべきかという判断基準ともなります。
しかし、高確度な失血量推定法はこれまで確立されておらず、救急救命士などの医療従事者は失血量の推定を「目視」に頼るしかなく、報告される推定失血量は時として非常に不確かだったそうです。そこで、ニュージャージー医科歯科大学Robert Wood Johnsonメディカルスクールの医師らが開発した「MARメソッド」という握りこぶしを使った方法が、失血量推定の確度を大幅に高めるだろうと期待されています。
流れ出た血液を見てその量を推定するという機会には遭遇したくないものですが、非常に単純で誰にでもできる方法なので覚えておいて損はないかもしれません。
詳細は以下から。Physicians Develop Method Using Fist To Estimate Blood Loss At Scene Of Trauma
ニュージャージー医科歯科大学Robert Wood Johnsonメディカルスクールの救急医療と小児科の准教授Mark Merlin博士らは、こぶしを使った失血量推定法「MARメソッド」を開発しその確度を実験により確認しました。論文はAmerican Journal of Emergency Medicine誌に掲載されています。
「MARメソッド」とは、「握りこぶしで隠れる面積の血だまりはおよそ20mlの血液である」ということを覚え、流れ出た血液を隠すには握りこぶしが何個必要かを数えることにより推定失血量を計算するという方法。ヒトの全血のサンプルの表面積と握りこぶしの手のひら側に隠れる面積を、さまざまな量の血液で比較し、「こぶし1個あたりの血液の体積」の平均として導かれたのが20mlという数字です。
失血量を推定する際にはこのように握りこぶしの手のひら側を下にして比較します。
もちろん地面や床の状態・出血の勢い・こぶしの大きさの個人差など、さまざまな要素が絡むため確度には限界がありますが、目視による推定と比べるとはるかに正確に推定できるという実験結果が出ています。
実験では75mlと750mlの2種の血だまりについて、74人の被験者がまず「目視」によりその体積を推定し、次に「MARメソッド」について1分間の説明を受けた後にもう一度推定、「MARメソッド」を教わる前と後の推定血液量の実際の血液量からの誤差を比較しました。
その結果、74人の「目視」による推定血液量は、750mlモデルで実際の値から120%の平均誤差(誤差の絶対値の平均)があり、75mlモデルでは73%の平均誤差があったのですが、「MARメソッド」により平均値からの平均誤差が75mlモデルで76%減少、750mlモデルで40%減少し、誤差の四分位数範囲は75mlモデルで60%、750mlで45%減少したそうです。何だかややこしいことを言っているようですが、「MARメソッド」により推定値が実際の値に近づいた(確度が上がった)だけでなく、74人の推定値同士のばらつきが減った(精度が上がった)と考えてよいようです。
「何年もにわたり複数の研究機関が、素早く、正確に、精密に失血量を推定するシンプルな公式を模索してきました。このメソッドは複数の対象を用い、にぎりこぶしの個人差も評価した初めての成功例です」とMerlin准教授は語っています。
「こぶし1個で20ml」という数字が粘度の異なる液体でどれほど違ってくるのかはわかりませんが、血液の量を推定する機会がないという人は牛乳をこぼした時にその体積を推定したり、忘年会などで誰かがお酒をこぼした際にすかさず豆知識として披露してみるのもよいかもしれません。
・関連記事
秋葉原で通り魔、トラックで次々とはねてナイフで斬りつけ、7人が死亡 - GIGAZINE
女性が刺されて倒れているにもかかわらず、通報しなかった人々 - GIGAZINE
指紋鑑識や血液鑑定などの科学捜査が体験できる「体験王~鑑識捜査編~」 - GIGAZINE
進化し続ける救急車のコンセプトモデル - GIGAZINE
病院の入り口にいる急患を助けるために救急車を要請 - GIGAZINE
・関連コンテンツ