スプリンターの足はかかとが短く指が長い

長いつま先と特徴的な構造の足首がスプリンターに特有の爆発的加速を生み、これが短距離走のエリートをほかのランナーと隔てる決め手となっていることがペンシルベニア州立大学などのバイオメカニクス研究により明らかになりました。短距離を走るために生まれてきたような「スプリンター向きの足」なるものが存在するということのようですが、一体どのような足なのでしょうか？

詳細は以下から。Short Heels Make Elite Sprinters Super Speedy: Longer Toes, Unique Ankle Structure Aid Sprinters

「スプリントの始めに走者を加速させるのは、足の筋肉が地面を押す力の反作用だけです」とペンシルベニア州立大学の運動生理学准教授Stephen Piazza氏。「長い足の指はほかのランナーよりほんの少し長い時間地面と接触することを可能にし、スプリンターを有利にします」

Piazza准教授と、ペンシルベニア州立大学卒で現在はバンクーバーのサイモンフレーザー大学にポスドクとして在籍するSabrina S. M. Lee博士は、スプリンターとスプリンターでない人の足と足首の筋肉構造の違いを調査し、その結果をJournal of Experimental Biology誌に発表しました。

研究では12人の大学レベルの短距離選手と、それぞれと同じ身長の運動選手でない12人について、かかとからつま先までの距離を測り、超音波画像診断で足首を動かす際のアキレス腱(けん)の滑りを測定しました。これにより腱のてこ比を計算することができます。

「足首の回転の中心から腱までの距離が、スプリンターでは著しく（約25％も）短いことが判明しました。この違いは、てこの効率と筋肉の力を生成する能力とのトレードオフによって説明できるでしょう」とPiazza准教授。回転の中心から力点までの距離が長いほうが同じ力によるモーメントは大きくなるのですが、そのとき同じ足首の回転角度で筋肉が収縮する距離も長くなり、筋肉は速く収縮する必要があります。回転の中心から力点までの距離が短ければ、てこの効率は悪くなるかわりに筋肉が収縮する長さも短くなり、ゆっくりと収縮することができます。筋肉はゆっくりと収縮した時の方が強い力を生むことができ、これによっててこが非効率になった分を軽くカバーできるそうです。

足の形とスプリントについての文献はまだ少ないですが、動物に関する過去の研究によりダチョウやグレイハウンド、チーターは足の構造が短距離走向きであることがわかっています。これらに似てスプリントに有利な人間の足はどんな形状であるべきなのかを理解するために、研究者らは先に測定した生理学的データを解析するコンピューターモデルを開発しました。

「てこの手(足首の回転軸とアキレス腱との距離)の長さと足指の長さを変えたとき、スプリンターの加速はどう変化するのかをシミュレーションしました」とPiazza准教授。「その結果、てこの手が最も短く足指が最も長いときに最大の加速が得られると判明しました」

また、Piazza准教授は、現代人の短い足指は長距離を走るための進化的適応であるという最近の学説も挙げ、「長い足指を持った我々の祖先はスプリンターとして今の我々より優秀だったかもしれません。樹上で移動することが重要だった時代には長い足指が選定されていましたが、長い距離を走ることの方が生存にとって重要になるにつれ、我々の足指は短くなってきたのかもしれません」と述べています。

この研究結果は、誰が潜在的に良いスプリンターとなり得るかという判断をするためのパズルのピースのひとつとなるかもしれませんが、体形・心臓血管生理や筋繊維のタイプなどのほかの生理的要素も考慮されるべきだと研究者たちは注意しています。

また、スプリント能力が先天的なものなのか、トレーニングによって足の骨の形が影響されるかはまだ明らかになっていません。「トレーニングによってスプリント向きの骨の形状が際立たされるというのはそんなに現実離れした考えではないでしょう。しかし、もしスプリンターの骨格の特徴が不変のものであると判明すれば、『スプリンターは作られるものではなく生まれるものだ』という陸上コーチたちの格言を裏付けることになりそうです」とPiazza准教授は語っています。